区間外乗車(くかんがいじょうしゃ)とは、JR線で特例とされるものの一つである。本特例に基づき、旅客は別運賃を要さずに当該区間を乗車することができるが、区間外乗車中は途中下車することはできない。
旅客営業規則に規定されている[注 1]。
特定の分岐区間に対する区間外乗車
旅客営業規則第160条の2[注 2]により、当該区間の区間外乗車をすることができる。
本特例に基づき、区間外乗車ができる区間は次の区間である[1][2]。
特定都区市内等における折返し乗車等の特例
- 旅客営業規則第160条の3[注 3]では、特定都区市内発着又は東京山手線内発着となる普通乗車券を所持する旅客が列車に乗り継ぐため、同区間内の一部が復乗となる場合は、当該区間の区間外乗車をすることができる。
- 例:「岡山駅から東京都区内まで(新幹線経由)」の普通乗車券で、岡山駅から東京駅まで新幹線に乗車し、東京駅から有楽町駅まで普通列車に乗車する場合、本特例が適用される(東京駅・有楽町駅間は東海道本線を折返し乗車することになるが、同区間を区間外乗車することが可能)。
- 同条2項では、横浜市内発着の乗車券で、鶴見駅・武蔵小杉駅間を区間外乗車できること[3]、また、大阪市内発着の乗車券で、塚本駅・加島駅間(尼崎駅経由)および加美駅・新加美駅間(久宝寺駅経由)を区間外乗車できることが定められている。
分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例
いわゆる「分岐駅通過の特例」である。
旅客営業規則第160条の4[注 4]は、列車が次の左側の駅を通過するため左側の駅と右側の駅との間を折り返し乗車する場合は、当該区間内において途中下車をしない限り、旅客は別運賃を要さずに、当該区間の区間外乗車をすることができることを定めている。なお、定期券の場合は本特例は適用されない。
- 例:「旭川駅から新札幌駅まで(函館本線[白石駅]千歳線経由)」の普通乗車券で、旭川駅・札幌駅間を特急「カムイ」に乗り、札幌駅で普通列車に乗り換える場合は、本特例に基づき、白石駅と札幌駅の間を区間外乗車することができる (改札を出ない限り折り返し乗車をしてもよい)。なお、先乗列車または後乗列車のいずれか、もしくは両方が白石駅を通過する場合でなければ本特例は適用されない。
2024年(令和6年)現在、区間外乗車ができる区間は次の区間である[4]。
海田市駅・広島駅間の取扱い
旅客営業規則第160条の5[注 6]は、「矢野駅以遠(坂駅方面)の各駅と三原駅以遠(糸崎駅方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線に乗車(広島駅・東広島駅間を除く) する場合は、規則第16条の2第2項の規定にかかわらず、三原駅・広島駅間を同一の線路とみなして、広島駅・海田市駅間において、途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。」と定めている。これにより、この区間の分岐駅通過を行う場合、通常は本特例が適用される。
- 例:「岡山駅から呉駅まで(新幹線[海田市駅]呉線経由)[注 7]」の普通乗車券では、海田市駅から広島駅までの区間で、本特例が適用される。この場合、広島駅で途中下車できない(運賃計算距離:174.9km)。
一方、旅客営業規則第16条の2第2項では三原駅・広島駅間は新幹線と在来線を別線扱いすると定めている[注 8]。このため、分岐駅通過の特例を使わずに乗車券を購入することが可能である。
- 例:「岡山駅から[呉駅まで(新幹線[広島駅]山陽本線[海田市駅]呉線経由)」の普通乗車券では、分岐駅通過の特例が適用されない。このため、広島駅で途中下車することができる(運賃計算距離:187.7km)。
小倉駅・博多駅間の取扱い
この区間は、旅客営業規則第16条の2第3項に基づき、新幹線と在来線は別線扱いである。しかしながら、旅客営業取扱基準規程第43条の2により、以下に掲げる各駅相互間を乗車する旅客が新幹線(小倉駅・博多駅間)に乗車する場合、西小倉駅・小倉駅間又は吉塚駅・博多駅間において途中下車ができないものの、当該区間の営業キロを除いた乗車券を購入することができる。この場合、旅客営業取扱基準規程第151条の3に基づき、分岐駅通過の特例が適用される(旅客営業取扱基準規程第43条の2および第151条の3第2項)。
- 南小倉駅以遠(城野駅方面)の各駅と博多南駅又は博多駅以遠(竹下駅又は新鳥栖駅方面)の各駅相互間
- 柚須駅以遠(原町駅方面)の各駅と小倉駅以遠(門司駅又は新下関駅方面)の各駅相互間
- 南小倉駅以遠(城野駅方面)の各駅と柚須駅以遠(原町駅方面)の各駅相互間
特定列車による折返し区間外乗車の取扱いの特例
これは、旅客営業規則第160条の6[注 9]、第172条の2[注 10]および第175条の2[注 11]に基づくものである。当該区間を折り返して運転する直通列車に乗車する場合、旅客は同区間の運賃・料金を要さずに乗車することができる。
- 例:「大分駅から博多駅まで(日豊本線[西小倉駅]鹿児島本線経由)」の普通乗車券および特急券で、大分駅から博多駅まで特急「ソニック」、「にちりんシーガイア」に乗車する場合。本特例に基づき、西小倉駅と小倉駅の間を区間外乗車することができる(当該区間を同じ列車で通過する場合に限る)。
当該区間は、次に掲げる区間である。なお、右に●が記された区間は、分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例も適用される区間である。また、☆が記された区間は、特定の分岐区間に対する区間外乗車の取扱いの特例も適用される区間である。
- 2024年3月現在主な列車が運行されている区間(括弧内は主な列車)
- その他の区間
- 白石駅・札幌駅間 ●
- 北山形駅・山形駅間 ●[注 13]
- 宮内駅・長岡駅間 ●
- 日暮里駅・上野駅間 ☆
- 金山駅・名古屋駅間 ●
- 倉敷駅・岡山駅間 ●
- 備中神代駅・新見駅間 ●
上記のように多数設定されているが、2024年(令和6年)現在定期列車があるのは、西小倉駅・小倉駅間のみである。
特定の列車による運賃・料金計算の特例
これは、旅客営業規則第70条の2および同条第2項[注 14]に基づくものである。一般には、列車特定区間と呼ばれる。当該区間を直通する列車(一部は急行列車[注 15])に乗車する場合には、途中下車しない限り、より短い経路の距離で運賃・料金を計算する。また、旅客営業規則第160条の7[注 16]では、列車特定区間を含む乗車券で当該列車に乗車することができることを規定している。
- 例:特急「はまかぜ」を大阪駅から鳥取駅まで利用する場合、実際の乗車経路(東海道本線[神戸駅]山陽本線[姫路駅]播但線[和田山駅]山陰本線)の営業キロで運賃・料金を計算せず、本特例に基づく経路(東海道本線[尼崎駅]福知山線[福知山駅]山陰本線)の営業キロで運賃・料金を計算する。なお、尼崎・和田山間を同一急行列車で途中下車しない場合に限り、本特例は適用される(姫路駅など途中駅で下車する場合は、本特例は適用されない)。
当該区間は、次に掲げる区間である[5]。
- 赤羽駅以遠(川口駅方面)の各駅と池袋駅以遠(目白駅方面)の各駅との相互間を、東北本線および山手線経由で直通運転する列車に乗車するときは、赤羽線経由で運賃・料金を計算する。
- 例えば、大宮駅から新宿駅まで特急「きぬがわ」に乗車する場合、本特例が適用される。なお、湘南新宿ライン系統の列車で電車大環状線を通過する(浦和駅以遠(大宮駅方面)の各駅と西大井駅以遠(武蔵小杉駅方面)の各駅相互間を乗車する)場合は、旅客営業規則第70条(東京付近の特定区間を通過する場合の特例)が適用される。
- 代々木駅以遠(新宿駅方面)の各駅と錦糸町駅以遠(亀戸駅方面)の各駅との相互間を、山手線、東海道本線および総武本線経由で直通運転する急行列車に乗車するとき (特急「成田エクスプレス」など)は、中央本線および総武本線御茶ノ水駅・錦糸町駅間で運賃・料金を計算する。
- 例えば、成田空港駅から新宿駅まで特急「成田エクスプレス」を利用する場合、本特例が適用される。
- 岡谷駅以遠(下諏訪駅方面)の各駅と塩尻駅以遠(洗馬駅又は広丘駅方面)の各駅との相互間を中央本線(辰野駅経由)で直通運転する急行列車に乗車するときは、中央本線のみどり湖駅経由で運賃・料金を計算する。
- 2024年(令和6年)現在、当該区間を通過する定期急行列車は存在しないが、2017年(平成29年)夏および2018年(平成30年)夏に運転の特急「木曽あずさ号」では、本特例が適用される[注 17]。
- 尼崎駅以遠(塚本駅方面)の各駅と和田山駅以遠(養父駅方面)の各駅との相互間を、山陽本線、播但線および山陰本線経由で直通運転する急行列車に乗車するとき (特急「はまかぜ」など)は、 東海道本線、福知山線および山陰本線経由で運賃・料金を計算する。
- この特例により、播但線経由の特急「はまかぜ」を利用しても、福知山線経由の特急「こうのとり」を利用した場合と運賃・料金に差は生じない。
- 赤羽駅以遠(川口駅または北赤羽駅方面)の各駅と品川駅との相互間および、品川駅以遠(大井町駅または西大井駅方面)の各駅と赤羽駅との相互間を、東北本線および山手線経由で直通運転する列車に乗車するときは、東北本線および東海道本線経由で運賃・料金を計算する。
窓口や指定席券売機で当該列車の特急券と同時に乗車券を購入する場合、旅客からの申し出がなくても本特例が適用されるようになっている。
特定の駅による運賃計算の特例
偕楽園駅は上り列車が全て通過する[注 18]関係で、以下の区間を区間外乗車することができる[6]。2023年2月11日より。
- 偕楽園駅発赤塚駅以遠(内原駅方面)各駅着の乗車券で、偕楽園駅・水戸駅間の区間外乗車
- 水戸駅以遠(勝田駅または常陸青柳駅方面)各駅発偕楽園駅着の乗車券で、赤塚駅・偕楽園駅間の区間外乗車
旅客が区間外乗車中に下車を希望する場合
旅客が区間外の駅で下車を希望する場合、当該区間の運賃は別途必要になる(原券が下車前途無効の場合は区間変更の取扱いとなる)。このため、旅客は当該区間の往復の旅客運賃(料金)を支払わなければならない[4]。
復路専用乗車券
上記の理由により、一部駅では復路専用乗車券を常備している。これは、旅客が往路の出場時に復路の運賃も支払うために一部駅で発売されているものである。
大都市近郊区間内相互発着の区間外乗車
旅客営業規則第160条の2および第160条の4第2項より、第156条第2号に定められた大都市近郊区間を、第157条第2項に基づく選択乗車をする場合(いわゆる大回り乗車など)、これらの特例が適用されることがある。このため、大都市近郊区間内相互発着でありながら、同じ駅を2度以上経由することがある。詳細は、大都市近郊区間 (JR)#大都市近郊区間と他の運賃制度の特例を参照されたい。
JR以外の区間外乗車
JR以外の鉄道事業者でも類似した制度を定め、旅客の利便性を図っている場合がある。
東武鉄道
小田急電鉄
名古屋鉄道
近畿日本鉄道
阪神電気鉄道
- 杭瀬駅以東の阪神本線と阪神なんば線を乗り継ぐ場合で、大物駅を通過する列車を利用する場合、定期乗車券以外は大物駅 - 尼崎駅間の運賃は不要である。大阪梅田駅 - 杭瀬駅を発着駅とする定期乗車券を購入する場合、尼崎駅経由もしくは大物駅経由かを選ぶことができ、大物駅経由の定期乗車券の場合、当該区間を折り返す場合は大物駅 - 尼崎駅間の往復運賃が必要である[11]。
南海電気鉄道
福井鉄道
脚注
注釈
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程(東海旅客鉄道は旅客営業取扱細則。以下同)に記載。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第149条。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第150条。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第151条。
- ^ 2022年9月23日から。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程151条の2。
- ^ 三原駅以遠から広島駅間を新幹線利用する場合も含むため、幹在別線でありながら海田市駅を分岐駅として計算することができる。
- ^ 分岐駅通過の特例が設定された後に、山陽新幹線に東広島駅が開業したため。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第152条。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第166条。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第170条。
- ^ a b c 2024年4月1日追加。
- ^ 2024年4月1日追加。2024年3月31日までは、羽前千歳駅・山形駅間の設定であった。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第110条。
- ^ 特急列車を含む。
- ^ 2024年3月31日までは旅客営業取扱基準規程第154条。
- ^ 指定席券売機で「木曽あずさ号」の特急券購入と同時に、乗車券を購入した場合、みどり湖経由の乗車券が発売される。
- ^ 偕楽園駅は下りホームのみ設置されている。
- ^ 同分岐点は1949年までは枇杷島橋駅という駅であり、廃駅後も運賃計算上の分岐点としての扱いが続いている。
- ^ 名古屋鉄道ウェブサイト(ダイヤ・運賃検索)に基づく。
- ^ 南海電鉄ウェブサイト(ダイヤ検索)に基づく(天下茶屋に優等列車が停車する以前は新今宮での乗り換え扱いだった)。
- ^ 南海電鉄ウェブサイト(ダイヤ検索)に基づく。
出典
関連項目