ケプラー138 (英語 : Kepler-138 )または KOI-314 は、地球 から見てこと座 の方向に約219光年 離れたところにある赤色矮星 である[ 3] 。2022年 12月時点で、周囲に3つの太陽系外惑星 が存在していることが知られており、さらに低質量の惑星候補の存在が示されている。
惑星の発見と命名
銀河系 内でのケプラー の観測領域
ケプラー138は、ケプラー宇宙望遠鏡の観測以前は2MASS におけるカタログ名 2MASS J19213157+4317347 で識別されていた[ 3] 。ケプラーの当初の観測対象として Kepler Input Catalog (KIC) では KIC 7603200 というカタログ名となり、惑星 候補の存在を示す信号が検出された後は、ケプラーの優先的な観測目標である Kepler object of interest (KOI) カタログで、KOI-314 という名称を与えられた[ 2] [ 3] [ 8] 。
ケプラー計画ではトランジット法 によって太陽系外惑星の捜索を行っていたが、トランジット の信号を検出しただけでは惑星が恒星の手前を通過したのが原因でない可能性もあるので、この段階では惑星「候補」といわれる[ 9] 。TTV などで質量 が推定され、十分小さいことがわかって漸く真の惑星となる[ 10] 。
ケプラーチームが惑星を発見すると「ケプラー」に検出順の番号を付けた別名が付けられ、この星系ならケプラー138となるが、この惑星系で最初に惑星を確定させたのはケプラーチームとは別の科学者が率いる研究グループであった。慣例では発見者が使用した名称が使われることになっており、この惑星系で惑星を発見したグループでは引き続き KOI-314 を使用していた[ 1] [ 11] 。
ケプラーが観測している惑星候補は、KOIカタログ名の後に".01"、".02"といった番号を発見順に付ける。同時に発見された場合には公転周期 の短いものから順に番号を振る。この規則に従い、この惑星系で最初に発見された2つの惑星候補は公転周期の短い方が KOI-314.01 、周期の長い方が KOI-314.02 とされた[ 12] 。その後、3番目の惑星候補がみつかり、KOI-314.03と名付けられたが、周期は先にみつかった2つの候補より短い[ 13] 。
確定した惑星は恒星名の後に"b"、"c"、といった英小文字を付与するのが慣例で、使用する文字は発見順にbから始める[ 14] 。最初に KOI-314.01 と KOI-314.02 の存在が同時に確定したので、発見者はこれらに公転周期の短い方から KOI-314 b、KOI-314 c という名前を付けた。この時点では KOI-314.03 は惑星と確定されておらず、名前はそのままであった[ 1] 。
一方、ケプラーチームはこれと独立に、KOI-314.03 の信号が惑星に起因しない偽陽性である可能性が1%以下であることから、KOI-314.03 も惑星であると確定させ、数週間遅れで報告した[ 15] 。この時、3つ同時の発見であったので、公転周期の短い方から KOI-314.03 に「ケプラー138b」、KOI-314.01 に「ケプラー138c」、KOI-314.02 に「ケプラー138d」と、先に2つが発見されたものと異なる名前が付けられた[ 15] [ 1] 。KOI-314 b とKOI-314 c は確定報告が先だったので、発見者の同意なしに名称は変更されないのが慣例だが、KOI-314.03 を発見したのはケプラーチームだけで、こちらはケプラー138bが優先される[ 11] 。この結果、ケプラー138系は"b"という記号が付与された異なる2つの惑星があるという特殊な状態になった。これ以降の他の研究やNASA Exoplanet Archive といった太陽系外惑星データベースではこの命名法に沿った名称が使用されている[ 2] [ 注 2] 。
恒星
大きさの比較
太陽
ケプラー138
ケプラー138は太陽 の約54%の質量 と半径 を持つスペクトル分類 がM1Vの比較的大きな赤色矮星 であり[ 3] [ 4] 、有効温度 は 3,726 K と太陽 (5,778 K[ 16] )と比べると低温である[ 7] 。金属量 は、太陽より約34%少ない[ 4] 。形成されてからは少なくとも10億年が経過しているとされている[ 1] 。見かけの等級 は約13等級 とかなり暗く、肉眼では観望できない[ 2] [ 1] 。
惑星系
先述の通り、ケプラー138には3つの太陽系外惑星が発見されている。
2014年 にケプラー138b 、ケプラー138c 、ケプラー138d の3つの惑星が発見されたが、最も外側を公転しているケプラー138dは特に注目された。ケプラー138dは発見当初、地球の1.61倍の半径を持ち、質量に至っては地球とほぼ同じであると推定された。大きさだけをみると、ケプラー138dは地球サイズの岩石惑星 ではないかと思われたが、密度 を計算すると 1.31 g/cm3 と木星 とほぼ同じ値となった。このことからすると、ケプラー138dは地球のような固い地殻 を持つ岩石惑星ではなく、木星や土星 のようなガス惑星 であると考えられた。大きさがこれほど小さいと重力 が弱いため、惑星系形成時の原始惑星系円盤 内に存在するガスがほとんど集められないはずで、このようなガス惑星が存在すれば惑星形成のシナリオを大きく覆すことになるため、ケプラー138dの発見が注目された[ 1] [ 17] 。しかし後に、惑星のパラメーターは大きく見直され、ケプラー138dの質量は地球の0.64倍、半径は1.212倍になっており、密度も 1.31 g/cm3 から 2.1 g/cm3 と上方修正された[ 17] 。この場合、水 を大量に含む岩石惑星でも説明できる可能性があり、それまで考えられていた異常な天体である可能性は低くなった。
2022年 12月、ケプラー宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡 、そしてスピッツァー宇宙望遠鏡 によるケプラー138系の詳細なトランジット観測の分析、および、W・M・ケック天文台 に搭載されている分光器HIRES による主星ケプラー138の視線速度 観測から、ケプラー138cとケプラー138dは共に従来よりもやや大きい地球の約1.5倍の半径と約2倍の質量、約3倍の体積 を持っていたとする研究結果がネイチャーアストロノミー (英語版 ) に掲載された[ 4] 。以前の研究で計算されていたケプラー138cとケプラー138dの密度には差があり、両者は異なる組成で構成されていると考えられていたが[ 1] 、どちらも太陽系 に存在する地球型惑星 よりも低い密度(3.6 g/cm3 程度)を持つ惑星であると判明したことから、両者は質量の大部分が水素 やヘリウム より重く、岩石よりも軽い揮発性 に富んだ物質で構成されていると予想された。このような条件を満たす最も一般的な物質 が水 であり、仮にケプラー138dが大量の水を含む惑星である場合、質量の約11%、体積 の約51%を水が占め、大気 の下に 2,000 km もの深さに達する液体 もしくは超臨界流体 の状態にある水から成る海洋 マントル を持つ海洋惑星 となり、ケプラー138cも同様の組成となっている可能性がある[ 4] [ 18] 。このような組成は岩石や金属で構成された地球型惑星やスーパーアース とは異なり、木星 や土星 を公転しているような氷衛星 に近い[ 18] 。
また、この研究でケプラー138dのさらに外側を公転する新たな惑星ケプラー138e が存在する可能性が示された。ケプラー138eの質量は火星 と金星 の中間程度しかない。ケプラー138系のハビタブルゾーン の内縁付近を公転していることから、アルベド (反射率)を地球と同程度の0.3と仮定したときの表面の平衡温度 は 292 K(19 ℃)となる。ケプラー138eは他の3つの惑星とは異なりトランジットを起こさない可能性が高い[ 注 3] ことからその大きさは推定できないが、ケプラー138bより大きく、ケプラー138cとケプラー138dよりも小さい可能性が高く、地球と同様の組成を持っていると仮定されている[ 4] 。
ケプラー138の惑星[ 4]
名称(恒星に近い順)
質量
軌道長半径 (天文単位 )
公転周期 (日 )
軌道離心率
軌道傾斜角
半径
b
0.07 ± 0.02 M ⊕
0.0753 ± 0.0006
10.3134 ± 0.0003
0.020 ± 0.009
88.67 ± 0.07°
0.64 ± 0.02 R ⊕
c
2.3+0.6 −0.5 M ⊕
0.0913 ± 0.0007
13.78150+0.00007 −0.00009
0.017+0.008 −0.007
89.02 ± 0.07°
1.51 ± 0.04 R ⊕
d
2.1+0.6 −0.7 M ⊕
0.1288 ± 0.0010
23.0923 ± 0.0006
0.010 ± 0.005
89.04 ± 0.04°
1.51 ± 0.04 R ⊕
e (候補)
0.43+0.21 −0.10 M ⊕
0.1803 ± 0.0014
38.230 ± 0.006
0.112+0.018 −0.024
88.53 ± 1.0°
—
脚注
注釈
^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
^ この他に、さいだん座μ星 系でも同じような惑星の名称の混乱が生じたことがある。
^ 地球と同様の組成(岩石が90%、金属が10%)を持っていると仮定すると、トランジットを起こす確率は約25%と見積もられている[ 4] 。
出典
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関連項目
外部リンク
探査機 主な恒星 主な惑星 K2ミッションで発見された主な惑星 一覧 公式サイト
座標 : 19h 21m 31.5681629849s , +43° 17′ 34.680374646″