『駅路』(えきろ)は、松本清張の短編小説。『サンデー毎日』1960年8月7日号に掲載され、1961年11月に短編集『駅路』収録の表題作として、文藝春秋新社から刊行された。
過去4度テレビドラマ化されている。1977年には向田邦子の脚本で制作され、2009年にそのリメイク版が作られた。
あらすじ
銀行の営業部長を定年で退職した小塚貞一は、その年の秋の末、簡単な旅行用具を持って家を出たまま、行方不明となった。家出人捜索願を受けて、呼野刑事と北尾刑事は捜査を始める。家庭は平和と見えたし、子供も成長し、一人は結婚もした。人生の行路を大方歩いて、やれやれという境涯に身を置いていたように思える。自殺する原因もない。自分から失踪したとすれば、何のためにそのような行動を取ったのか……。
登場人物
- 呼野
- 行方不明となった小塚貞一を捜索する古い刑事。48歳。
- 北尾
- 呼野とコンビを組む若い刑事。独身。
- 小塚貞一
- 某銀行本店の営業部長を定年退職。性格は地味なほう。ゴーギャンの絵を好きで蒐めていた。
- 百合子
- 小塚貞一の妻。
- 福村慶子
- 某銀行広島支店の女子行員だったが、一年ほど前に退職。可部に住んでいた。
- 福村よし子
- 福村慶子の従妹。東京に住む。
- 山崎
- 福村よし子の情夫。
エピソード
- 著者は本作について「『駅路』は、人生も終わりに近づいた初老の憧憬といったものをテーマにした」と記している[1]。
- 日本近代文学研究者の花田俊典は、作中で呼野刑事が語る「ぼくはあの絵からゴーガンという人の伝記を調べてみたがね、ゴーガンはこんなことを言っている。人間というものは、自分の子供の犠牲になるものだ。そして、その子供たちはまた自分の子供の犠牲になる。このばかげたことは永遠につづくらしい。もしも、すべての人間が子供の犠牲になるとしたら、いったい、誰が芸術や美しい人生を創造するだろうか、とね。言葉はよく憶えてないが、こういう意味だった」[2]の箇所について、そのような意味合いのゴーギャンの発言・書簡等が実在するかどうかは疑わしく『ノア・ノア』(1897年)や『ゴーガン 私記 アヴァン・エ・アプレ』(1923年)に、それらしい記述は見当たらないと述べている[3]。
- 北九州市立松本清張記念館学芸員の栁原暁子は、サマセット・モームの短編小説『ロータス・イーター』の冒頭部分が、「人生を線路に例えるところ、そこにある諦観、しかし大きく行路を変更した人への注視。その男が銀行の支店長だった」点で本作と符号し、また『作家の手帖』の一文「おおかたの男の生涯は、子孫に食物や家を用意するための勤労に終始する。そして子孫はまた父祖とまったく同じつとめをやるべき世界へはいってゆく」も、本作中で語られる内容と近似していると述べている。また「(家出には)あとの家庭が困らないような財産」[4]が必要と考えるのは、家族の生活に大変な責任を感じていた清張の強い思い込みの表出であると推測している[5]。
テレビドラマ
1962年版
1962年4月5日と4月6日、NHKの「松本清張シリーズ・黒の組曲」(22:15-22:45)の第1作として2回にわたり放映。
- キャスト
- スタッフ
1977年版
本ドラマ冒頭のタイトルバックに使用されているゴーギャン「黄色いキリストと自画像」
「松本清張シリーズ・最後の自画像」[6]。1977年10月22日、NHKの「土曜ドラマ」(20:00-21:10)にて放映[7]。視聴率16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)[8]。
向田邦子の脚本による作品。ドラマ化の経緯は参考文献を参照。原作ではモチーフの一つとして画家のゴーギャンに言及されているが、本ドラマは向田の視点からこれをクローズアップした構成となっている。登場人物では、福村慶子の役割が原作から変更され最後では物語の中心に置かれている。また、原作者も恍惚老人役で出演している。
- キャスト
- スタッフ
参考文献
- 松本清張・向田邦子『駅路/最後の自画像』(2009年、新潮社)…清張の原作と向田の構想メモ、関係者の証言と解題を付した共著版。
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第1次(1975年 - 1984年) |
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1975年 - 1979年 | |
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1980年 - 1984年 | |
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第2次(1988年 - 1998年) |
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1988年 - 1989年 | |
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1990年 - 1994年 | |
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1995年 - 1998年 | |
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第3次(2005年 - 2011年) |
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2005年 - 2009年 | |
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2010年 - 2011年 | |
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第4次(2013年 - ) |
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土曜ドラマスペシャル(2011年 - 2013年、2017年 - 2019年) |
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※特記がない限りは21時放送。 「*」…20時放送。 「★」…22時放送。
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1982年版
「松本清張の駅路 謎の伊勢路殺人旅行 死んだ父から絵ハガキが…」。1982年10月2日、東映の制作によりテレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場」枠(21:02-)にて放映された。視聴率21.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)[8]。小塚貞一の娘(古手川祐子)と婚約者(広岡瞬)が失踪した父の謎を追うストーリー。
- キャスト
- スタッフ
2009年版
「松本清張生誕100年記念作品・駅路」。2009年4月11日21:00-23:10、フジテレビ系列の「土曜プレミアム」枠にて放映。松本清張生誕100年と向田邦子生誕80年を記念し、向田の脚本に脚色・演出を加え制作された作品。時代設定は昭和63年年末から昭和64年の昭和天皇崩御までの期間に置かれている。視聴率は15.6%(関東地区)。
- キャスト
- スタッフ
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関連項目 | |
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カテゴリ / 一覧(作品・映画) |
出典
NHK 土曜ドラマ |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
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松本清張シリーズ 最後の自画像 (1977.10.22)
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テレビ朝日系列 土曜ワイド劇場 |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
未婚の母・遺産相続殺人事件 (1982.9.25)
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松本清張の駅路 (1982.10.2)
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