『波の塔』(なみのとう)は、松本清張の長編小説。『女性自身』に連載され(1959年5月29日号 - 1960年6月15日号、連載中の挿絵は森田元子)、1960年6月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行された。人妻と青年検事の恋愛とその行方を描く、著者の代表的長編恋愛ロマン。
1960年に松竹で映画化、また8度テレビドラマ化されている。
あらすじ
司法修習生の小野木喬夫は、観劇中に隣席の女性が気分を悪くしているのに気づき、医務室へ連れて行く。周囲にその女性の同伴者と思われているうちに、小野木は彼女をタクシーで送ることになり、そのまま縁が切れるのを惜しむ気持ちになる。一週間ほど経ち、小野木のもとに、名刺を渡した彼女-結城頼子から電話が来て、夕食の誘いを受ける。検事になった小野木は、その後も自分を誘ってくれた結城頼子を愛するようになるが、彼女は自分の住所もはっきり答えず、秘密めいたところがあった。気持ちを確かめようとする二人の運命は…。
主な登場人物
原作における設定を記述。
- 結城頼子
- 夫と愛の感じられない関係になって久しい中、演舞場で気分の悪くなったところを小野木に助けられ、以後彼と会うようになる。しかし、自分のことも周りのことも、なかなか小野木に話さずにいる。
- 小野木喬夫
- 東京地方検察庁の新米検事。古代遺跡の探索が趣味。演舞場で芝居を観覧中に頼子と出会う。地検特捜部で重大事件の捜査に関わっていたが…。
- 結城庸雄
- 頼子の夫。あちこちに愛人を持ち外泊を重ねながら、平然とした態度を通している。その仕事の実態は…。
- 田沢輪香子
- 女子大を卒業し、一人旅の最中、諏訪湖近くの古代遺跡で小野木に会い、以後小野木のことが気になってゆく。
- 佐々木和子
- 輪香子の親友。京橋の呉服屋の娘。人見知りせず、思いつくとすぐに行動する。
- 田沢隆義
- 輪香子の父親。R省の局長で、次官になるとも噂されている。
- 辺見博
- F新聞政治部の記者。R省詰めで、輪香子の父も高く評価する。
エピソード
- 小説中に東京都調布市の古刹・深大寺が舞台となるシーンがあり、「深大寺そば」も登場するが、本作の一部は実際に深大寺前のそば処で執筆され、2025年現在、清張ゆかりの品目を販売するそば処も存在している[1]。本作を担当した光文社の編集者(当時)・櫻井秀勲は、本作の取材のため、著者と櫻井と(挿絵の)森田の3人で、初夏に深大寺を訪れたが、ブヨの大群に見舞われ、刺された森田の両足が大根のように膨れたと回想している[2]。
- 本作の連載中、『女性自身』の部数は急上昇し[3][4]、深大寺は休日に加えて平日の行楽客、それも若いカップルが増加、門前のそば屋は「まるで小野木と頼子になった気分でデートしている」と苦笑していたという[5]。
- 本作の一部は山梨県の湯村温泉で執筆された。滞在ホテルは常磐ホテル[6]。宿泊した部屋が現存し、2025年現在も、同部屋に宿泊可能となっている。
- 本作の結末に関して、「頼子の自己満足ではないか」「小野木は社会的な指弾も受け職も投げうったのに、生きながらのムクロではないか」と問われた著者は、「非情に描かなければだめなんだ」と答え、連載は構想通りに終了されたとされている[7]。
- 担当編集者の櫻井によれば、カッパ・ノベルスとして刊行後、バッグに入れたまま山梨県の青木ヶ原樹海に入って自殺する女性が増加し、そのたびに編集部と清張宅に警察から連絡が入った[3]。1974年に樹海内にて、本作を枕にした女性の白骨死体が発見された[8]。同樹海内での自殺者はその後も相次いだが、1985年には再び本作と関連付けた報道がなされた[9]。なお、一部のメディアにおいて、青木ヶ原が自殺の名所になったきっかけは『黒い樹海』だと誤解されたこともある[10]。
映画
1960年10月30日公開。製作は松竹大船、配給は松竹。現在はDVD化されている。
- キャスト
- スタッフ
テレビドラマ
1961年版
フジテレビ系列の「スリラー劇場」にて、1月9日から4月24日まで全16回の連続ドラマとして放送(月曜13:00-13:30)。
- キャスト
- スタッフ
フジテレビ 月曜13時台前半枠 |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
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波の塔 (1961年版)
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1964年版
NETテレビ(後にテレビ朝日)系列の「ポーラ名作劇場」枠(22:00-23:00)にて、8月24日から11月2日まで全13回の連続ドラマとして放送。
- キャスト
- スタッフ
1970年版
TBS系列の「花王 愛の劇場」枠(13:00-13:30)にて、8月31日から10月30日まで全45回の連続ドラマとして放送。
- キャスト
- スタッフ
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花王 愛の劇場 (1969年2月 - 1999年9月) |
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愛の劇場 (1999年10月 - 2009年3月) |
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関連項目 | |
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カテゴリ |
1973年版
NHK総合テレビの「銀河テレビ小説」(22:00-22:15)にて、4月2日から5月11日まで全30回の連続ドラマとして放送。劇中音楽にシンセサイザーが使用されている。
- キャスト
- スタッフ
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銀河ドラマ (1969年4月 - 1972年3月) |
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銀河テレビ小説 (1972年4月 - 1989年3月) |
1972年 | |
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1973年 | |
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1983年 | |
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1988年 | |
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1989年 | |
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関連作品 | |
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カテゴリ |
1983年版
「松本清張シリーズ・波の塔」。NHK総合テレビの「土曜ドラマ」(20:00-21:14)にて、10月15日から10月29日まで全3話の連続ドラマ化。平均視聴率14.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
- キャスト
- スタッフ
NHK総合 土曜ドラマ |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
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松本清張シリーズ 波の塔 (1983.10.15 - 29)
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第1次(1975年 - 1984年) |
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1975年 - 1979年 | |
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1980年 - 1984年 | |
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第2次(1988年 - 1998年) |
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1988年 - 1989年 | |
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1990年 - 1994年 | |
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1995年 - 1998年 | |
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第3次(2005年 - 2011年) |
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2005年 - 2009年 | |
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2010年 - 2011年 | |
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第4次(2013年 - ) |
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2025年 | |
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土曜ドラマスペシャル(2011年 - 2013年、2017年 - 2019年) |
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2011年 | |
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2013年 | |
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2017年 | |
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2018年 | |
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※特記がない限りは21時放送。 「*」…20時放送。 「★」…22時放送。 カテゴリ |
1991年版
「松本清張作家活動40年記念・波の塔」。1991年5月24日、フジテレビ系列の「金曜ドラマシアター」枠(21:03-23:07)にて放映。視聴率16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
- キャスト
- スタッフ
フジテレビ系列 金曜ドラマシアター |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
海流II (1991.5.17)
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松本清張作家活動40年記念 波の塔 (1991.5.24)
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2006年版
「松本清張ドラマスペシャル 波の塔」。TBS系列で2006年12月27日21:00~22:54(JST)に放送されたスペシャルドラマ。
- キャスト
- スタッフ
2012年版
「松本清張没後20年特別企画 ドラマスペシャル 波の塔」。2012年6月23日(21:00 - 23:06)、テレビ朝日系列にて放映。踊り子の殺人事件を発端に設定している。視聴率12.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
- キャスト
- 独身。東京地方検察庁刑事部検事。
- 黒田 頼子 / 結城 頼子 (30) - 羽田美智子
- 結城庸夫の妻。
- 東京地方検察庁刑事部副部長。
- 田沢隆義の娘。
- 田沢隆義の妻。
- 芸者。結城庸夫の愛人。
- 蝶丸の芸者仲間。
- 元代議士秘書。公共事業ブローカー。
- 東京地方検察庁刑事部部長。
- 東京地方検察庁刑事部検事。
- 新聞社政治部記者。
- 小野木の大学同窓生。建設省官僚。
- 田沢隆義の部下。建設省外渉部主任。
- 小野木喬夫の同僚。東京地方検察庁刑事部検事。
- 東京地方検察庁・小野木付き検察事務官。
- 建設大臣。
- シゲ子の仕事仲間。赤坂のダンスホールの踊り子。
- 田沢輪香子の友人。
- 建設省外渉部係長。
- 赤坂のダンスホールの踊り子。
- 沢地建設専務。
- 家政婦。
- 下部温泉の仲居。
- 運転手。
- 調査会社社員。
- 元検事正。弁護士。
- 元高等検察庁検事。弁護士。
- 元総理大臣の愛人の子供。公共事業ブローカー。
- 建設省外渉局長。
- 権力者・結城鉄之介の息子。公共事業ブローカーリーダー。
- スタッフ
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脚注・出典
外部リンク