第19代総選挙は、韓国の立法府である国会を構成する議員を改選するため2012年4月11日に投票が行われた選挙で、1948年5月の初代総選挙から数えて19回目となる。韓国では、選挙回数について「第○回」ではなく「第○代」と数え、名称も「総選挙」(총선거)ではなく「総選」(총선)と表記するのが一般的である。なお、この総選挙は、韓国の公職選挙法が改正されて以降に国外に居住する韓国国民にとって在外投票が可能となった初の国政選挙である[1]。
概要
国会議員の任期4年が満了したことに伴い行われた選挙である。今回の総選挙は任期4年目を過ぎた李明博大統領の政権運営に対する評価のみならず、12月に行われる大統領選挙の行方を占う前哨戦としての性格も併せ持っていた[2]。なお世宗特別自治市長選挙と同自治市の教育監選挙 基礎自治団体長(5地域)と広域議会議員(37選挙区37名)及び基礎議会(18選挙区19名)の再補選も同時に行われた。
ハンナラ党から党名改称し党刷新を図る与党のセヌリ党に対し、野党は「李明博政権と与党セヌリ党に対する審判」を最大争点に掲げて対決する構図となった。同時に民主統合党(以下、民主党)や統合進歩党(以下、進歩党)など進歩系野党は地域区候補者の一本化を通じた野圏連帯による与野逆転を狙った。また総選挙の結果が大統領選挙の結果を左右するとされているため、有力候補者と目される朴槿恵非常対策委員長(セヌリ党)や文在寅常任顧問(民主党)等にとっても浮沈を懸けた争いとなった[3]。
2009年の公職選挙法改正で導入された在外選挙制度が初めて実施された他、TwitterやFacebookなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した選挙運動が法定選挙運動期間外でも可能となった[4]。
- 注:本稿における政党の略称については、原則として中央選挙管理委員会に登録された略称を使用する[5]。
日程
- 2011年12月13日:予備候補[6]登録開始
- 2012年3月22日-23日:立候補者登録。午前6時~午後6時
- 2012年3月28日-4月2日:在外投票所投票。午前8時~午後5時
- 2012年3月29日:選挙期間開始日
- 2012年4月4日-5日:不在者投票
- 2012年4月11日:投票日。午前6時~午後6時
基礎データ
- 選挙事由:任期満了
- 有権者:満19歳以上の大韓民国国民
- 被選挙権:満25歳以上の大韓民国国民
- 確定選挙人数:40,186,172名(国外不在者を含む)[7]
- 議員定数:300議席。今回の総選挙に限り前回より1名増員[8]
- 地域区:246議席(前回比1増)
- 比例代表:54議席
- 投票:2票制。候補者(地域区)と政党(比例代表)へ票を投じる(記号式投票)
- 選挙制度:小選挙区比例代表並立制。重複立候補は禁止[9]。
- 地域区:小選挙区制、最多得票を得た候補が当選
- 比例代表制:政党に投じられた得票に比例して議席配分。阻止条項あり(得票率3%未満もしくは地域区5議席未満の政党)。
- 比例代表の配分方法:阻止条項をクリアした政党(議席割当政党)の得票を議席割当制党の合計得票で割り、算出された商の整数部分を各議席割当政党に配分。残る議席は小数点以下の商が大きい議席割当政党の順に配分[10]。
主要政党
第19代総選挙に予備候補登録[11]、候補を擁立した主要政党を紹介する。なお民主党と進歩党は選挙協力(野圏連帯)で合意、世論調査方式による予備選(3月17日~18日)を通じて全羅道を除く各地域に統一候補を擁立した[12][13]。
与党
- セヌリ党
- 李明博政権与党であるハンナラ党(金泳三政権与党である新韓国党と民主党が統合して1997年11月発足)が2012年2月13日に党名改称して発足した政党[14]。軍事政権時代の与党勢力を受け継ぐ政党で政治的立場は中道保守。党名改称直前の2012年2月2日、未来希望連帯(親朴系政治家を主体とする政党)と統合[15]。
野党
- 民主統合党
- 民主党(軍事政権時代の野党と金大中・盧武鉉政権における与党勢力の流れを汲む政党)と市民統合党(盧武鉉大統領に近い所謂「親盧派」の政治家と市民団体で結成した院外政党)及び韓国労働組合総連盟が合同して2011年12月16日に結成された政党[16]。政治的立場は中道進歩。
- 自由先進党
- 2008年2月、李会昌(元ハンナラ党総裁で前年12月の大統領選挙に立候補)が結成した政党。政治的立場は新保守主義。
- 統合進歩党
- 左派政党である民主労働党と国民参与党(盧武鉉大統領の側近であった柳時敏が2010年1月に結成)及び新しい進歩統合連帯(進歩新党を離党した魯会燦や沈相奵が結成した政治グループ)が統合して2011年12月5日に結成された左派政党[17]。政治的立場は左派。
候補者
立候補者登録は3月22日と23日の二日間行われた[18]。立候補者登録が締め切られた23日午後6時現在の平均競争率は3.7倍で、前回の第18代総選挙の4.6倍には届かなかった。この理由について中央選挙管理委員会では、民主党と進歩党の候補者一本化、前回総選挙で207名を擁立した平和統一家庭党からの立候補が無かったためであるとしている[19]。候補登録の際に割り振られる記号(番号)は、国会に議席を有する政党には議席数順、議席を有さない政党はハングルのカナタ(가나다・・・)順で、無所属候補については選挙管理委員会の抽選で決定する。ただし、国会に5議席以上有する政党、直近の大統領選挙や国会議員選挙で有効投票3%以上を得た政党でかつ国会議席を有する政党の場合は統一した記号が付与される[20]。本選挙ではセヌリ党と民主統合党、自由先進党、統合進歩党、創造韓国党の五党が該当した。
党派別候補者数
党派
|
地域区
|
比例代表
|
備考
|
3月23日
|
4月11日
|
セヌリ党
|
230
|
230
|
44
|
|
民主統合党
|
210
|
209
|
38
|
地域区候補1名辞退
|
自由先進党
|
52
|
50
|
16
|
地域区候補2名辞退
|
統合進歩党
|
55
|
51
|
20
|
地域区候補4名辞退
|
創造韓国党
|
3
|
3
|
4
|
|
国民の考え
|
20
|
20
|
7
|
|
進歩新党
|
23
|
23
|
7
|
|
その他の政党
|
77
|
75
|
52
|
地域区候補登録無効1名・辞退1名
|
無所属
|
258
|
241
|
-
|
辞退16名、登録無効1名
|
|
928
|
902
|
188
|
|
- 出典:정당별 후보자수(政党別候補者数).中央選挙管理委員会歴代選挙情報データベース(2012年3月24日閲覧)。国会に議席を有していない政党の候補者数については、民主党や進歩党と選挙協力をしている進歩新党を除き「その他の政党」として合算して掲載する。地域区候補の辞退や登録無効などについては사퇴/사망/등록무효 현황(辞退/死亡/登録無効現況)を参照。
選挙結果
選挙の結果、与党セヌリ党(選挙時162議席)は152議席で選挙前より議席を減らしたものの単独で過半数を確保し、事実上の勝利を収めた。「李明博政権審判」をかかげた民主党(80議席)は127議席で選挙前を上回ったものの目標とする第1党奪取をすることはできず、事実上敗北した[21]。民主党と選挙協力を行った進歩党(7議席)は13議席で選挙前を大きく上回り、保守系の自由先進党(14議席)は5議席で選挙前を半分以上も下回った[22]。無所属は3議席で25名が当選した前回選挙より激減した。選挙前に議席を有していた創造韓国党(2議席)と国民の考え(1議席)は議席を失った。なお投票率は54.3%で過去最低だった前回総選挙を8.2%上回った[23]。年代別では60歳以上が68.6%で最も高く、次いで50代が62.4%、40代の52.6%と続いた。一方、20代後半の投票率は37.9%で、全世代の中で最も低くなった[24]。今回の選挙で当選した候補者の内で23人が政治資金問題などを理由に第20代総選挙時までに失職している[25]。
- 投票率:54.3%(投票者数21,815,420名/選挙人数40,205,055名)
- 全国平均投票率54.3%を上回った地域については太字で強調した。
党派別議席数と得票
党派
|
地域区
|
比例代表
|
合計議席
|
議席増減
|
得票数
|
得票率
|
議席
|
得票数
|
得票率
|
議席
|
セヌリ党
|
9,324,911
|
43.3%
|
127
|
9,126,226
|
42.80%
|
25
|
152
|
▼10
|
民主統合党
|
8,156,045
|
37.9%
|
106
|
7,775,737
|
36.45%
|
21
|
127
|
△47
|
統合進歩党
|
1,291,306
|
6.0%
|
7
|
2,198,082
|
10.30%
|
6
|
13
|
△6
|
自由先進党
|
474,001
|
2.2%
|
3
|
689,843
|
3.23%
|
2
|
5
|
▼9
|
進歩新党
|
101,614
|
0.5%
|
0
|
242,995
|
1.13%
|
0
|
0
|
±0
|
国民の考え
|
44,379
|
0.2%
|
0
|
156,222
|
0.73%
|
0
|
0
|
▼1
|
創造韓国党
|
3,624
|
0.0%
|
0
|
91,875
|
0.43%
|
0
|
0
|
▼2
|
その他の政党
|
135,339
|
0.5%
|
0
|
1,043,620
|
4.93%
|
0
|
0
|
±0
|
無所属
|
2,014,777
|
9.4%
|
3
|
-
|
3
|
▼24
|
合計
|
21,545,996
|
|
246
|
21,327,600
|
|
54
|
300
|
|
第19代総選挙 党派別議席数 ■=セヌリ党/■=民主統合党/■=自由先進党/■=統合進歩党/■=無所属
|
- 出典:선거통계 시스템(選挙統計システム)。「시・도별 정당별 득표수(지역구)」、「시・도별 정당별 득표수(비례대표)」、『제19대 국회의원선거 총람(第19代国会議員選挙総覧)』377―380頁。本表では當選者を出した政党および選挙前議席を有していた政党、進歩新党以外の党派得票については合算し「その他の政党」として掲載する。
議席数でみた場合、保守系158議席(セヌリ152+先進5+保守系無所属1)、進歩系142議席(民主127+進歩13+民主系無所属2)で、保守系が過半数議席を占めた。しかし政党別得票率では進歩系が46.75%(民主+進歩)で、46.03%(セヌリ+先進)を得た保守系を僅差で上回る結果となった[26]。新人当選者は148名、女性当選者は47名(うち比例代表28名)で過去最高だった前回選挙の42名を上回った[27]。
地域別で選挙結果を見た場合、首都圏では民主党がセヌリ党を圧倒し、進歩党も4名を当選させた。一方、慶尚道では同地域を強固な地盤としているセヌリ党が大邱市と慶尚北道で全勝した他、釜山及び慶尚南道でも圧勝、民主党は3名を当選させるに留まった。全羅道では同地域を排他的支持基盤とする民主党が優勢となったものの、進歩党も3名(2名は民主党候補に勝利、1名は民主党との統一候補)が当選した。中部の忠清道ではセヌリ党が民主党を抑え優勢となり、同地域を地盤としてきた先進党は惨敗した。江原道ではセヌリ党が全勝、済州特別自治道は民主党が全勝した[28]。なお首都圏で民主党や進歩党がセヌリ党を抑え優位になった背景として、同地域で利用者が多いSNSの存在を指摘する声もある[29]。
地域別当選者数(地域区)
地域
|
合計
|
党派
|
セヌリ
|
民主
|
進歩
|
先進
|
無所属
|
合計
|
246
|
127
|
106
|
7
|
3
|
3
|
ソウル特別市
|
48
|
16
|
30
|
2
|
0
|
0
|
仁川広域市
|
12
|
6
|
6
|
0
|
0
|
0
|
京畿道
|
52
|
21
|
29
|
2
|
0
|
0
|
大田広域市
|
6
|
3
|
3
|
0
|
0
|
0
|
世宗特別自治市
|
1
|
0
|
1
|
0
|
0
|
0
|
忠清北道
|
8
|
5
|
3
|
0
|
0
|
0
|
忠清南道
|
10
|
4
|
3
|
0
|
3
|
0
|
光州広域市
|
8
|
0
|
6
|
1
|
0
|
1
|
全羅北道
|
11
|
0
|
9
|
1
|
0
|
1
|
全羅南道
|
11
|
0
|
10
|
1
|
0
|
0
|
釜山広域市
|
18
|
16
|
2
|
0
|
0
|
0
|
大邱広域市
|
12
|
12
|
0
|
0
|
0
|
0
|
蔚山広域市
|
6
|
6
|
0
|
0
|
0
|
0
|
慶尚北道
|
15
|
15
|
0
|
0
|
0
|
0
|
慶尚南道
|
16
|
14
|
1
|
0
|
0
|
1
|
江原道
|
9
|
9
|
0
|
0
|
0
|
0
|
済州特別自治道
|
3
|
0
|
3
|
0
|
0
|
0
|
地域区選挙結果地図
■=セヌリ党/■=民主統合党/■=自由先進党/■=統合進歩党/■=無所属
|
地域別政党得票率(比例代表)
地域
|
党派
|
セヌリ
|
民主
|
進歩
|
先進
|
全国平均
|
42.80
|
36.45
|
10.30
|
3.23
|
ソウル特別市
|
42.28
|
38.16
|
10.56
|
2.11
|
仁川広域市
|
42.90
|
37.68
|
9.71
|
2.64
|
京畿道
|
42.35
|
37.74
|
11.01
|
2.16
|
大田広域市
|
34.31
|
33.70
|
9.04
|
17.90
|
世宗特別自治市
|
27.79
|
38.73
|
5.37
|
22.61
|
忠清北道
|
43.81
|
36.02
|
7.70
|
5.31
|
忠清南道
|
36.57
|
30.40
|
6.83
|
20.39
|
光州広域市
|
5.54
|
68.91
|
18.60
|
1.02
|
全羅北道
|
9.64
|
65.57
|
14.15
|
1.41
|
全羅南道
|
6.33
|
69.57
|
14.77
|
1.15
|
釜山広域市
|
51.31
|
31.78
|
8.42
|
1.88
|
大邱広域市
|
66.48
|
16.37
|
7.04
|
2.01
|
蔚山広域市
|
49.46
|
25.22
|
16.30
|
1.58
|
慶尚北道
|
69.02
|
13.42
|
6.22
|
1.43
|
慶尚南道
|
53.80
|
25.61
|
10.53
|
1.55
|
江原道
|
51.34
|
33.47
|
6.59
|
1.82
|
済州特別自治道
|
38.45
|
39.53
|
12.40
|
2.03
|
- 出典:選挙統計システム。各市・道で最多當選及び得票率を得た党派については各党(セヌリ党・民主党)のシンボルカラーで強調した。
|
|
セヌリ党(左)と民主統合党(右)の広域市・道別の比例代表選挙結果。
色が濃いほど支持が強く、セヌリ党は東部で、民主統合党は南西部で50%以上の支持を得たことを示している。
|
在外投票
今回の総選挙から韓国国外に居住する在外国民でも投票することが可能となった。対象となる選挙は比例代表選挙のみであるが、住民登録または国内居所申告をした在外国民の場合は地域区選挙においても投票ができる[30]。選挙人登録は2011年11月13日から2012年2月11日までの期間に107カ国158箇所の在外公館で行われ、在外国民と国外不在者の投票は3月28日から4月2日まで居住国の公館に設置される在外投票所で行われる予定である[31]。当初、国外不在者と在外選挙人の登録は低調で1月30日現在、対象者223万3193人のうち6万9205人(3.1%)が登録、このうち在日韓国人など在外不在者の登録は対象者91万8890人に対し1万1444人(1.25%)に留まっていた[32]。登録締切後、3月15日に確定した在外有権者数は対象となる選挙人223万人(推定)の5.5%にあたる123,571名となった[33]。
- 国外不在者
- 対象者:住民登録者と国内居所申告をした韓国国民
- 申告期間:選挙日150日前から60日前まで。市・郡・区で申請を行う(国外にいる場合は在外公館経由)。
- 選挙:地域区選挙および比例代表
- 在外選挙人
- 対象者:住民登録または国内居所申告をしていない韓国国民
- 申告期間:選挙日150日前から60日前まで。在外公館で申請を行う。
- 選挙:比例代表のみ
在外有権者の内訳
区分
|
男性
|
女性
|
合計
|
国外不在者
|
57,728
|
45,907
|
103,635
|
在外選挙人
|
10,160
|
9,776
|
19,936
|
合計
|
67,888
|
55,683
|
123,571
|
- 出典:제19대 국회의원선거의 재외 유권자 123,571명 확정(第19代国会議員選挙の在外有権者123,571名確定).在外選挙(中央選挙管理委員会)2012年3月25日閲覧
投票は前述したとおり、3月28日から4月2日まで107カ国158箇所にある在外公館に設置された在外投票所で実施されたが、投票率は2008年総選挙の投票率(46.1%)を下回る45%程度に留まった。結果、今回の在外選挙では在外有権者(223万人)の2.48%のみが投票したことになった。地域別では欧州の57.04%が最高で、続いてアフリカ(56.79%)と中東(50.85%)、米地域(46.03%)、アジア地域(41.07%)の順となった[34]。
(予想)在外選挙人数
|
2,233,193
|
登録在外選挙人数
|
123,571
|
投票者数
|
56,456
|
投票率(登録選挙人数比)
|
45.7%
|
投票率(在外選挙人数比)
|
2.53%
|
- 出典:제19대 국회의원선거 재외투표 마감 보도자료(第19代国会議員選挙 在外投票締め切り報道資料)。在外選挙(中央選挙管理委員会)2012年4月6日閲覧
当選議員
小選挙区
セヌリ党 民主統合党 統合進歩党 自由先進党 無所属
補欠選挙
比例区
繰上当選
脚注
参考文献
関連項目
|
---|
大統領選挙 |
| |
---|
国会議員総選挙 |
第一共和国 | |
---|
第二共和国 | |
---|
第三共和国 | |
---|
第四共和国 | |
---|
第五共和国 | |
---|
第六共和国 | |
---|
|
---|
|
|
---|
国民投票 |
|
---|
地方選挙 |
|
---|
カテゴリ |