源氏物語古系図源氏物語古系図(げんじものがたりこけいず)とは、『源氏物語』の登場人物を実在の人物と同様に系図の形式で書き表した源氏物語系図のうち、実隆本源氏物語系図以前のものをいう。 源氏物語系図のうち、古系図に限らない一般の記述については源氏物語系図を参照。 概要源氏物語系図には、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて作成されたと見られるものが現存しているため、院政期にはすでにまとまったものが作成されたと考えられている。 源氏物語古系図には共通して「朧月夜」について他の人物と比べると異例なほどの長文の解説が付されているなど、現存するものは読者それぞれが自分の理解に基づいて作成したとすると考えられないほどに言い回しなどが共通しているため、院政期には成立したと考えられる祖本が存在しており、そこから時には修正を加えられながらも写されていったのであろうと考えられている。また、三条西実隆による古系図の「整理」も、一から全面的に作り直したのではなく、それまでに存在した源氏物語古系図の一本に証本にしようとして自らが整えた青表紙本の(三条西家系統の)本文に合うように手を加えるという形で行われたにすぎないと考えられている。 譜→詳細は「譜 (源氏物語)」を参照
普通、古系図と呼ばれるものより更に前の段階として、「譜」と呼ばれるものがあった可能性がある。 源氏物語の注釈書「光源氏物語本事」には、更級日記の逸文と伝えられるものの中に、更級日記の作者である菅原孝標女が『源氏物語』を読んだ際に、「譜」を手元に置いて読んだ旨の記述がある。この、「譜」が具体的にどのようなものであったのかは明らかではないものの、系図のようなものを含んだものとする見方も存在する[1]。「光源氏物語本事」の著者の了悟自身、譜の中身について有識者を尋ね歩き、系図ではないかという回答も得ている。 内容(源氏物語古系図を含む)源氏物語系図は以下の部分から構成されている。
系譜部分源氏物語に登場する人物をその父系に従って分けて記述した全ての系図に存在する源氏物語系図の本体部分であり、当時の実際の家系を描いた系図がそうであるように人物間を線でつなげる形式のものとそうでない形式のものがある。おおむね以下のように分かれている。
以下六条御息所とその父の大臣だけの系譜など、小規模な系譜がいくつか並べられている。 これらの系譜ではその中に現れるそれぞれの人物について、以下のような点が記されている。
不入「父母明らかならぬ人」などともされる系譜の明かでない人物を個々に列挙してある部分である。写本によっては系譜中の人物と同様に詳細な説明を加えていることもあるが単に名前を並べているだけのこともあり、写本によってはこの部分そのものが無いこともある。 前付及び後付系譜以外のさまざまな記述の部分のことである。これらの部分は写本によっては無いものもあり、存在する場合でもその内容の差は激しく、前付にあるか後付にあるかも一定しないが、おおむね以下のようなものが含まれている。
分類池田亀鑑は古系図について、「九条家本」系統、「為氏本」系統、「正嘉本」系統の3系統に、後には「天文本」系統を加えて4系統に分類しており、 の順で原型をよく保っており、下に行くほど後世の付加・改変が大きいとした。 常磐井和子は「源氏物語古系図は複雑な伝流過程をたどっていると見られ、原型に近いと見られる「九条家本」系統以外は明確な分類が出来ないものがある」として成立時の原型に近い「九条家本」系統とその他の2系統に分類でよいとしている。 その他1巻物と2巻以上に分かれているもの、巻子形態のものと冊子形態のもの等に分けることが出来る。 主な源氏物語古系図
意義登場人物の同一性などについての源氏物語の本文の解釈について、さまざまに解釈が分かれる可能性がある中、系図を作成するためにはどのような解釈をとるのか決める必要があるため、古い時代に作成された源氏物語古系図を見るとその系図を作成した者が源氏物語の本文についてどのような解釈をとったのかが明らかになり、古い時代の源氏物語の解釈がどのようなものであったのかをある程度推測することができる。 また、「雲居の雁」、「落葉の宮」、「朧月夜」、「軒端荻」、「浮舟」、「柏木」、「玉鬘(夕顔尚侍)」、「夕霧」、「秋好中宮」、「髭黒」、「葵の上」といった登場人物の呼称中で本文中に現れず、『源氏物語』が読まれる中で使われるようになってきた名前がいつ頃から使われるようになったのかを知る手がかりにもなる。 巣守物語「鶴見大学蔵本古系図」など、古い時代の源氏物語系図の中には、「蛍兵部卿」(これは光源氏の弟で「蛍兵部卿宮」、「蛍宮」などとも呼ばれる現行の源氏物語の本文にも存在する人物である)の孫として、現在一般に流布している源氏物語の本文の中には見られない「巣守三位」なる人物とその事績が記載されているものがある。それらによると、「巣守三位」とは、匂宮と薫の二人からともに求愛されるという現行流布本での浮舟を思わせるような存在である。(但し巣守三位は薫と結ばれて男子をもうけたあとで隠棲生活に入ったとされており、この点は現行の源氏物語の浮舟と大きく異なっている。)またこれらの「巣守三位」についての記述は現行の源氏物語54帖の中には無い「すもりの巻」なる巻が存在し、その中に描かれているとされている。また、「源氏物語小鏡」などの一部の古注釈にも「すもりの巻」や「巣守三位」にふれているものが存在する。この巣守物語については、宇治十帖を踏まえた後人の補作であるという説と、本編と同じ作者により光源氏死後の物語として「すもりの巻」を含む巣守物語が一度書かれたが、何らかの理由で破棄され、その後改めて浮舟を中心とした現在の宇治十帖が書かれたのではないかとする説が存在する。 翻刻本等
脚注参考文献
|
Portal di Ensiklopedia Dunia