フレドホルム作用素は、二つのバナッハ空間の間の有界線形作用素であって、その核および余核が有限次元であり、その値域が閉であるようなもののことを言う(最後の条件は実際には必要ない[1])。またそれと同値な定義として、ある作用素 T : X → Y がフレドホルム作用素であるとは、それがコンパクト作用素を法として可逆な作用素である(適当なコンパクト作用素の違いを除いて可逆である)こと、というものがある。すなわち
がそれぞれ空間 X および Y 上のコンパクト作用素となるような有界線形作用素 S : Y → X が存在するならば、T はフレドホルム作用素である。
空間 X から空間 Y への全てのフレドホルム作用素から成る集合は、全ての有界線型作用素が作用素ノルムをノルムとして成すバナッハ空間 L(X, Y) において開集合となる。より正確に述べれば、作用素 T0 が X から Y へのフレドホルム作用素であるならば、
‖T − T0‖ < ε をみたすすべての L(X, Y) の元 T が T0 と同じ指数を持つフレドホルム作用素となるような正の数 ε > 0 が存在する。
T が X から Y へのフレドホルム作用素であり、U が Y から Z へのフレドホルム作用素であるとき、その合成U ∘ T は X から Z へのフレドホルム作用素となり
が成立する。
T が X から Y へのフレドホルム作用素であるとき、その転置または随伴作用素T ′ は Y ′ から X ′ へのフレドホルム作用素となり、ind(T ′) = −ind(T) が成立する。X と Y がヒルベルト空間であるとき、同じ結論がエルミート共役 T∗ に対して成立する。
T がフレドホルム作用素で K がコンパクト作用素なら、T + K はフレドホルム作用素となる。T についてのコンパクトな摂動の下でも T の指数は一定である。このことは T + sK の指数 i(s) が [0, 1] に含まれるすべての s に対して整数で、かつ i(s) が局所定数函数となることから i(1) = i(0) が成立するという事実により従う。
そのような摂動に関する不変性は、コンパクト作用素以外の作用素に対しても成立する。たとえば T がフレドホルム作用素で S が厳密特異作用素であるとき、T + S は T と指数の等しいフレドホルム作用素となる[2]。ここで、X から Y への有界線形作用素 S が厳密特異であるとは、X の任意の無限次元部分空間 X0 への作用素 S の制限が同型とならないこと、すなわち
が成立することを意味する。
例
空間 H を、非負の整数により番号付けられる正規直交基底 {en} を持つヒルベルト空間とする。H 上の(右への)シフト作用素 S は
で定義される。この作用素 S は単射(実際には等長)であり、その値域は閉でその余次元は 1 となる。このことから S は、指数 ind(S) = −1 のフレドホルム作用素となる。その冪Sk (k ≥ 0)は、指数が −k のフレドホルム作用素となる。その随伴作用素 S∗ は左へのシフト作用素
で与えられる。S∗ は指数 1 のフレドホルム作用素となる。
H が複素平面の単位円周 T 上の古典的ハーディ空間H2(T) であるなら、複素指数函数からなる正規直交基底