健康保険組合健康保険組合(けんこうほけんくみあい、Society-Managed Health Insurance[1])は、健康保険法に基づき国が行う被用者医療保険事業を代行する公法人である。略称:健保(けんぽ)。 監督官庁は厚生労働省の地方支部局である地方厚生(支)局。上部組織として健康保険組合連合会がある。連合会に加盟する健保組合の数は、2018年(平成30年)4月現在、1,389組合にのぼる[2]。
目的
「健康保険の保険者は、全国健康保険協会及び健康保険組合とする」と定められ(第4条)、これに基づき、健康保険組合は、その組合員たる適用事業所の事業主、その適用事業所に使用される被保険者、及び任意継続被保険者で構成される(第8条)。特定健康保険組合の場合は、さらに特例退職被保険者が含まれる。 健康保険組合で行っている被用者保険制度を、組合管掌健康保険(通称:組合健保)という。主に大手企業やそのグループ企業[5]の社員が加入している。生活習慣病など疾病予防の活動を積極的に行い、従業員等の健康増進とともに医療費や保険料を抑えることができるという、スケール・メリットを生かした活動が期待されている。
これに対し、現在、全国健康保険協会で行っている被用者保険制度は、全国健康保険協会管掌健康保険(通称:協会けんぽ)といい、2008年(平成20年)9月30日までは国(社会保険庁)が政府管掌健康保険(通称:政管健保)として運営していた。 設立
適用事業所の事業主が健康保険組合を設立しようとするときは、適用事業所に使用される被保険者の2分の1以上の同意を得て規約を作り、厚生労働大臣の認可[7]を受けなければならない(第12条1項)。共同設立の場合は全事業主の同意を得たうえで2分の1以上の同意を各事業所について得なければならない(第12条2項)。また、厚生労働大臣は、1又は2以上の強制適用事業所について常時政令で定める数以上の被保険者を使用する事業主に対し健康保険組合の設立を命ずることができる(第14条1項。なお「常時政令で定める数」の当該政令は未制定)。事業主がこの命令に従わなかった場合は、その手続の遅延した期間、その負担すべき保険料額の2倍位相当額以下の過料に処する。健康保険組合は、設立の認可を受けたときに成立する(第15条)。健康保険組合が事業所を増加・減少させるときも同様の手続きが必要である(第25条)。 健康保険組合が設立された適用事業所の事業主及びその事業所に使用される被保険者は、たとえ設立に同意しなかった被保険者であっても当該健康保険組合の組合員になる(第17条1項)。事業所に使用されなくなったときでも、任意継続被保険者であるときは、なお当該健康保険組合の組合員となる(第17条2項)。なお、日雇特例被保険者は、健康保険組合のある事業所に使用される場合であっても、組合員となることはできない。 健康保険組合の設立には厚生労働省が定める設立認可基準に適合し、将来にわたって安定した事業運営が見込まれることが必要であり、その審査は厳格である。基準を満たさずに申請して国が認可しなかった場合、上場企業においては市場における当該企業の株価の暴落といった副作用を招く恐れがあるため、実際には設立申請前に入念な事前チェックが行われ、最終的に認可基準に適合すると認められる者のみが認可申請に進む手法が慣例となっている。このため、セレモニーたる申請が却下された事例は一度もない。 健康保険組合が組織されている事業所に日雇特例被保険者が就労する場合、その組合は日雇拠出金を厚生労働大臣に納付しなければならない。その額は1年度の日雇特例被保険者に係る支出総額から収入総額を除いたものを、同年度のその組合ごとの就労日数で按分して算出する。つまり日雇特例被保険者に係る費用は使用実績に応じた負担となるのである。納期限は毎年9月30日と3月31日である。 組織健康保険組合には、役員として理事長1名、及び理事、監事が置かれ(第21条、第22条)、理事会が健康保険組合の執行機関となる(第7条の9)。 議決機関として組合会が置かれ(第20条)、理事長は、毎年度1回通常組合会を招集しなければならない。また理事長は組合会議員の定数の3分の1以上の者が付議事項及びその理由を記した書面により組合会の招集を請求されたときは、その請求のあった時から20日以内に組合会を招集しなければならない。なお組合員議員の定数は偶数とし、その選定については、半数は設立事業所に使用される者から、もう半数は組合員の互選により選出する(第18条3項)。組合員議員の任期は3年を超えない範囲内で規約で定める(施行令第6条)。以下の事項については組合会の議決を経なければならない。
健康保険組合は、毎年度、収入支出の予算を作成し、当該年度の開始前に厚生労働大臣に届出なければならない。また、毎年度終了後6月以内に、事業及び決算に関する報告書を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない(施行令第16条、第24条)。報告書作成については協会けんぽのような大臣認可・承認は必要とされていない。健康保険組合が重要な財産を処分しようとするときは、厚生労働大臣の認可を受けなければならない(施行令第23条)。健康保険組合は毎月の事業状況を翌月20日までに管轄地方厚生局長等に報告しなければならない。 健康保険事業の収支が均衡しない健康保険組合(財政窮迫組合)であって、厚生労働大臣の指定を受けたものは、その財政の健全化に関する計画(指定日の属する年度の翌年度を初年度とする3年間の計画)を定め、厚生労働大臣の承認を受けなければならない。当該承認を受けた健康保険組合は、当該承認に係る健全化計画に従い、その事業を行わなければならない(指定健康保険組合、第28条)。健全化計画を変更する場合も同様である。厚生労働大臣は、指定年度の前3ヶ年度の経常収支決算が赤字であり、かつ以下のいずれかを満たした場合にその組合を指定するものとされる。
健康保険事業における事務費は、予算の範囲内において全額が国庫負担とされるので(第151条)、健康保険組合に対して国庫負担金が交付される(第152条)。この国庫負担金は、各健康保険組合における被保険者数を基準として、厚生労働大臣が算定する。いっぽう、協会けんぽに対して行われる、保険給付や後期高齢者支援金などの国庫補助は、健康保険組合に対しては行われない。 健康保険組合は、毎事業年度末において、以下の合計額を剰余金のうちから準備金として積み立てなければならない。そして、この準備金は、保険給付に要する費用の不足を補う場合を除いては取り崩すことができない。支払上現金に不足が生じて準備金を使用・一時借入をした場合は、当該会計年度内に返還しなければならない。
解散健康保険組合は、以下のいずれかの理由により解散する(第26条1項)。
健康保険組合が解散する場合において、その財産をもって債務を完済することができないときは、当該健康保険組合は、設立事業所の事業主に対し、当該債務を完済するために要する費用の全部に相当する額の負担を求めることができる(第26条3項)。この場合、当該事業主が破産決定手続きの開始その他特別の理由により、当該事業主が当該費用を負担することができないときは、健康保険組合は厚生労働大臣の承認を得て、これを減額し、又は免除することができる。 解散により消滅した健康保険組合の権利義務は、全国健康保険協会が承継するので(第26条4項)、解散後の組合員たる被保険者は、協会けんぽの被保険者となる。 健康保険組合連合会健康保険組合は、共同してその目的を達するため、健康保険組合連合会(健保連)を設立することができる(第184条)。また、厚生労働大臣は、健康保険組合に対し、組合員である被保険者の共同の福祉を増進するため必要があると認めるときは、健保連に加入することを命ずることができる(第185条)。 健保連は、組合間の財源の不均衡を調整するため、会員たる組合に対し交付金の交付の事業を行う。なお、組合は健保連に対し拠出金を供出し、事業主・被保険者は拠出に要する費用に充てるために調整保険料を負担する。 組合の特則規定健康保険組合は、従業員やその家族である被保険者や被扶養者の利益・福利厚生の充実を図ることを目的に設立するものである。そのため、協会けんぽでは認められていない組合独自のサービス等が認められている。
なお、健康保険組合の場合は、被保険者本人が介護保険第2号被保険者でない場合であっても、当該被保険者に介護保険第2号被保険者である被扶養者がある場合には、規約で定めることにより、当該被保険者に介護保険料額の負担を求めることができる(特定被保険者、附則第7条)。 直営医療機関課題財政問題→「日本の医療 § 保険者側の課題」、および「後期高齢者医療制度 § 財政」も参照
健康保険組合連合会によると、平成30年度は赤字組合は866組合で、全組合の6割を超える。組合合計の赤字額は▲1,381億円の見込みとされる。義務的経費(法定保険給付および支援金・納付金等)について、保険料収入で賄えていない組合は351組合あり、連合会の調査に回答した組合の25.6%を占めた。 2018年(平成30年)3月1日時点での平均保険料率は9.215%(調整保険料率含む)で、平均保険料率の増加は11年連続である。料率を引き上げた組合は172組合(回答組合の12.5%)で、平均引き上げ料率は0.622%(8.792%→9.414%)である。協会けんぽの平均保険料率(10.00%)以上の組合は、313 組合(回答組合の22.8%)にのぼる[2]。 これらの要因として、被保険者数の増加が保険料収入増加の最も大きな要因となったものの、被保険者1人当たり額は486,042円で、前年度比3,084円、0.64%増加し、後期高齢者医療制度施行前の平成19年度と比べると102,430 円、26.70%増加し、「拠出金負担が組合財政を圧迫している状況に変わりはない」「今後、団塊世代の高齢化(75歳への到達)が進めば、より重い負担となることは確実である」としている[2]。 健保組合の解散後期高齢者医療制度への負担金で、保険料率が10%を超えると、保険金負担の重さから解散する組合が出て、多数の加入者が、中小企業の社員らが加入する協会けんぽに移れば、国費負担増加に拍車がかかる[10]。全国健康保険協会理事長の安藤伸樹も2018年に「高齢者医療費の負担が大きく、現役世代の負担が限界であることを改めて示している」と指摘している[11]。
2009年のOECD報告では、小規模の健保組合が多数存在する状況であるため、保険者の効率性を高めるために保険者を統合し総数を減らすよう勧告している[1]。 2015年5月27日の参議院本会議で成立した「医療保険制度改革関連法」による医療保険制度改革等の一環として、被用者保険者の後期高齢者支援金について、より負担能力に応じた負担とする観点から、総報酬割部分を2015年(平成27年)度に1⁄2、2016年(平成28年)度に2⁄3に引き上げ、2017年(平成29年)度から全面総報酬割を実施することとなった。 併せて全面総報酬割の実施時に、前期財政調整における前期高齢者に係る後期高齢者支援金について、前期高齢者加入率を加味した調整方法に見直すこととされ、前期高齢者負担金の負担軽減を図ることとなった。もっともこれは、被保険者の標準報酬平均の低い協会けんぽにとって、保険料を現状維持できる見込みが立つことになるが、大企業中心の健康保険組合にとっては、実質的な負担が増すことになる。 脚注
参考文献関連項目外部リンク |