脳腫瘍
脳腫瘍(のうしゅよう、英語: Brain Tumor)とは、脳の疾病のひとつで、頭蓋内組織に発生する新生物(腫瘍)のことを意味する。すなわち、脳腫瘍は脳細胞だけでなく、硬膜、クモ膜、頭蓋内の血管や末梢神経、その他の頭蓋内に存在するあらゆる組織から発生する。発生頻度は毎年約10万人に12人の割合であるとされている。具体的な発生要因は明らかではない。 症状脳腫瘍は通常何らかの症状が出現したときには、すでに腫瘍はある程度の大きさに成長しているため、脳浮腫を引き起こしている場合がほとんどであり、頭蓋内圧亢進症状すなわち、頭痛、吐き気、嘔吐などを起こすとともに、発生部位によっては局所症状として視野欠損や難聴、運動麻痺、言語障害などを伴うことがある。また皮質に病巣がある場合は痙攣発作を起こす場合が少なくない。なお、頭痛は朝起きてすぐが最も痛みが強く、morning headache と呼ばれる。 女性の場合は(時には男性も)初期徴候として、妊娠していないにもかかわらず、母乳が出る(乳汁漏出)というものがある。これは乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の過剰産生によるもので視床下部、脳下垂体の機能障害によるものとされ、トルコ鞍近傍の腫瘍に特徴的にみられる(参考)。 分類脳腫瘍は、前述のように多種多様な組織から発生するため、分類には発生母地を基準にした、世界保健機構 (WHO) による脳腫瘍組織分類 (histological typing of tumours of the central nervous system) が世界的に用いられており、2006年度版では
に大別された、約130種類の脳腫瘍の組織型が定義されている。 悪性度一般に、脳腫瘍における病理組織学的な悪性度も、組織型の分類と同じくWHOによる分類法が利用されており、悪性度が最も低いGrade Iから悪性度が最も高いGrade IVまでの4段階に分類して個々の腫瘍と対比している。この悪性度と発生部位には関連性があり、一般に脳外 (Extra-axial) の場合は比較的良性の場合が多く、逆に脳内 (Intra-axial) の場合は悪性である可能性が高い傾向にある。WHOのGrade Iとは限局性で良性、Grade IIとは浸潤性であるが低悪性(細胞異型のみ)、Grade IIIとは退形成性(細胞異型と核分裂像)、Grade IVは悪性(細胞異型、核分裂像に加え、微小血管増生、壊死)である。このGradeは予後に相関すると考えられており、治療法の選択に影響する。 ただし、脳腫瘍はその発生場所が、脳という人間の思考・人格や各臓器のコントロールを司る器官であり、かつ丈夫な頭蓋骨に囲まれた狭い場所であるという特殊条件ゆえに、前述の病理学的なものだけで判断するのは好ましくなく、臨床的な立場で悪性度を考える必要がある(例えば、病理学的にはGrade I=良性腫瘍であっても、頭蓋内圧亢進から脳ヘルニアを起こして致命的となりうる)。すなわち、腫瘍の発生部位、大きさ、浸潤性(後述)であるかどうか、放射線もしくは薬剤に対する反応性などを考慮する必要性がある。なお、脳腫瘍には基本的には病期 (Stage) という概念は存在しない。
発症年齢による分類
つまり、子供が両耳側半盲を訴えたら、頭蓋咽頭腫や胚細胞腫を疑い、成人が同じように両耳側半盲を訴えたら、下垂体腺腫を疑うのが通常である。頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、下垂体腺腫はいずれもトルコ鞍部に好発するため、両耳側半盲で気づくことが多い。これはこの部位の腫瘍は重篤な脳ヘルニアを起こしにくく、慢性進行性の頭痛などを主訴にしにくいからである。 発症部位による分類
こういった部位は脳ヘルニアの起こし方などにも関わってくる。 放射線感受性による分類
特徴的な画像所見頭蓋咽頭腫は高頻度に石灰化がみられる。髄膜腫もしばしば石灰化を伴い、造影剤使用CTまたはMRI(Gd造影T1強調画像)で、均一な増強効果を認める("dural tail sign" - 硬膜と腫瘍の付着 - が特徴)。神経膠腫は脳実質との境界が不鮮明で、造影すると不均一な濃染像、またはリングエンハンスメントが認められる(膠芽腫)。他にリングエンハンスメントがある疾患には脳膿瘍や転移性脳腫瘍があげられる。悪性度の低い神経膠腫(星状細胞腫など)は、一般的に造影効果が低い。 代表的な治療法脳腫瘍の治療において使用される治療法は基本的に外科手術であるが、他に放射線療法や化学療法といったものがあり、それぞれの特徴や現状などについて簡単に述べる。 外科手術脳腫瘍治療の原則は手術による可及的な摘出である。良性腫瘍であれば腫瘍と正常脳組織との境界が明瞭であることが多く、全摘出できれば完治が期待できる。一方悪性脳腫瘍は周囲の正常脳組織に浸潤性に発育するため、全摘出は困難か不可能なことがほとんどである。摘出の際に隣接した正常組織まで摘出してしまうと、摘出部位によっては術後に片麻痺や言語障害などの重篤な後遺症を残してしまうことになる。したがって手術中に、motor evoked potential (MEP) やsensory evoked potential (SEP) などの電気生理学的モニタリング、あるいは現在の手術操作位置をリアルタイムに知ることができるニューロナビゲータ、術中CTやMRI等を駆使して、腫瘍をできるだけ多く摘出することが試みられる。また、言語野に存在する神経膠腫などに対しては、覚醒下手術も行われている。 放射線療法放射線治療は放射線を使って腫瘍細胞を破壊するもので50~60Gy(グレイ)を十数回に分けて照射するのが一般的である。放射線感受性の高い(効果の現れやすい)腫瘍には胚細胞腫、リンパ腫、髄芽腫などがあり、これらの中で胚芽腫は特に感受性が高く放射線照射のみで治癒する場合もある。また、一部の腫瘍ではガンマナイフ (γ-knife) やサイバーナイフ (Cyber Knife) と呼ばれる患部に集中的に放射線を浴びせる機械を使用した治療が行われる。 化学療法化学療法は薬剤を使用して腫瘍を縮小させる方法であるが、脳には血液脳関門 (BBB; blood-brain barrier) と呼ばれる異物の進入を阻害する機構があるため、薬剤が目標箇所に到達しにくいという問題を抱えている。最近では神経膠腫に対してはテモゾロミドを用いるのが一般的である。また、頭蓋内悪性リンパ腫に対しては、high-dose MTX療法が行われる。 抗浮腫療法転移性脳腫瘍に対しては抗浮腫療法としてグリセオール200mlを1日2回やデキサメサゾン6.6mgまたはプレドニン20mg一日二回の抗浮腫療法にて一過性の症状改善が得られることがある。30Gyの全脳照射など放射線療法が併用されることがある。 その他その他の治療法としては、生体の免疫作用を高めて、腫瘍の成長を阻害する免疫療法(BRM; biological response modifiers 生体応答調節剤)や遺伝子療法、さらには重粒子線、陽子線を用いるものや温熱療法などが考案されているが、現段階ではこれらはあまり期待できるものではない。 基本的な治療方針脳腫瘍はこれまで述べてきたように、多種多様の腫瘍から成り立っているため、当然ながらその治療法も個々の腫瘍によって差異がある。そのため、ここでは具体的な腫瘍に対する記述を避け、良性の場合と悪性の場合における基本的な治療方針といったレベルの記述にとどめる。 良性腫瘍Grade I および II の腫瘍を指す。腫瘍を完全に摘出できれば根治が可能である。一方で脳幹部や頭蓋底などに発生した腫瘍では、完全摘出ができない場合や後遺症が残る場合がある。腫瘍によっては術後放射線療法を加える場合もある。 悪性腫瘍Grade III および IV の腫瘍を指す。手術可能な部位であれば可及的に腫瘍を摘出し、放射線治療、化学療法、支持療法などを併用し、再発・転移した場合は化学療法、場合によっては複数回の手術が行われる。しかし悪性脳腫瘍、特に最も予後の悪い膠芽腫の生命予後は依然として不良である[1]。 脳腫瘍を扱った作品
脳腫瘍に罹患した人物日本
海外
関連項目
脚注外部リンク
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