世界から猫が消えたなら
『世界から猫が消えたなら』(せかいからねこがきえたなら)は、川村元気の小説[1]。 概要1匹の猫と共に暮らす男性郵便配達員が主人公。著者の川村が、幼い頃に飼っていた猫が突然姿を消した体験と大人になってから携帯電話をなくした体験、それぞれの時に感じたことから着想を得て、構想に約1年、執筆に約半年が費やされた末に完成した[2]。基本的にはファンタジーであるが、家族のかたちを描いたドキュメンタリーの要素もあり、読者の誰もが自分に置き換えて入りこめるようにと[2]あえて登場人物は“僕”や“彼女”にして個人名を付けず[3]、川村は自分を主人公に置き換えてひたすらシミュレーションしながら執筆したという[2]。 LINE公式アカウントで初の連載小説として発表され[3]、2012年10月25日にマガジンハウスから単行本が刊行された。2013年本屋大賞にノミネートされ[4]、8位(145.5点)となった[5]。 2013年7月20日にはラジオドラマとして放送された。2014年9月18日に小学館から文庫版が刊行され、同時に実写映画化されることが発表される[6]。映画は2016年5月14日に全国東宝系で公開[7]。 『花とゆめ』(白泉社)では2015年2号から、雪野下ろせによるコミカライズ版の新連載が始まった。それ以前に『花とゆめ 文系少女』で発表、単行本も刊行された[8]。 2016年3月時点で単行本・文庫本の累計部数が101万5000部を記録[9]。また、中国・台湾・韓国でも翻訳されて販売されている[9]。 あらすじ月曜日。体調不良に悩まされていたが、ただの風邪だと思っていた「僕」は医者の診察を受けた。そして進行した脳腫瘍であると告知された。家に戻ると、自分そっくりの容姿の「悪魔」を名乗る者が現れる。悪魔は、「世界からひとつなにかを消すと、1日寿命が伸びる」と告げ、僕の周囲にある「物」を消し去ることを提案してくる。そして、最初にその時たまたま使っていた「電話」をこの世界から消すことにする。悪魔は電話を消す前に最後に1度だけ電話を使ってもいいということになり、3年前まで付き合っていた元「彼女」に電話をかけた。 火曜日。僕は彼女との待ち合わせの場所に向かう。彼女と再会し、かつての思い出話や僕の両親たちのことを語りあって、彼女からいくつかの質問をされる。その質問の答えのひとつ「好きな場所」が映画館にあることを思い出し、それを彼女に伝えようとするも電話は消してしまったことに気づく。そして、付き合い始めの頃に携帯電話を持っていなかった彼女とうまく連絡できなかったことを思い出し、当時の彼女の心境を感じることとなる。そして家に帰ると悪魔は、次は「映画」を世界から消してしまおうと提案してきた。 水曜日。最後に見る映画を選ぶため僕は友人(タツヤ)の勤めるレンタルビデオ屋に向かう。友人とのやり取りから『ライムライト』のDVDをレンタルしてきたはずだったがディスクは入れ忘れられていて、作品を見ることができなくなった。そして僕は映画館に勤める彼女の元を訪れ、2時間空白のスクリーンを鑑賞する。真っ白なスクリーンを見つめる僕の心の中には、かつて家族で鑑賞した『E.T』のストーリーと、当時の仲の良かった家族のことが思い浮かんでいて、癌で死んだ母、疎遠になっている父について思いをめぐらせる。 木曜日。悪魔の次の提案は、世界から「時計(時間)」を消すことになった。そのことにより時計屋を営む父のことが気になっていたが、その日から僕の飼い猫の「キャベツ」が人間の言葉でしゃべるようになっていたことに気を取られる。キャベツにせがまれ散歩に出かけると、時間という物に捕らわれず日々の日課をこなして行くキャベツの姿から人間がいかに時間に追われ縛られる生活を送っているかに気づかされつつも、キャベツが自分(猫)を拾って来た死んだ母のことをまったく覚えていないことに驚く。そして僕はキャベツに母のことを語るため、僕と父と母とキャベツの3人と1匹で行った最後の家族旅行の写真を見つめ、母の最後の時の出来事を振り返る。 金曜日。悪魔は、世界から「猫」を消すことを提案する。僕はキャベツの前に飼っていたが癌で死んだ猫「レタス」のことを回想し、レタスと同じように母も癌によって死を迎えたことを振り返る。そして世界から猫を消すことは自分の家族とその記憶を消し去ってしまうことだと思い、僕は世界から猫を消すことに迷いを覚える。決断の前にキャベツの姿を見ようとするも家にキャベツはおらず、街中を駆け回り彼女の勤める映画館にその姿を見つける。映画館で再会した彼女は、僕の母親より生前に預かったという手紙を取り出し僕に渡す。そしてその手紙を読んだ僕は母の思いを知る。夢か現か、キャベツが再び喋り出した。「お代官様には、生き続けて欲しい。拙者は、お代官様のいない世界でこれから生きていくのは辛いのでござる」嫌がる僕にキャベツは昔、母が僕にかけた「ちょっとした魔法」を僕にかけてみせた。 土曜日。僕は世界から「猫」を消さないと選択した。そして僕は最後の日に備えるため身支度を始める。片付けの最中見つけた思い出の詰まった箱を見つめ、こどもの頃のことや両親のことをあらためて振り返る。そして父に宛てて手紙を書くことを決める。 日曜日。父宛ての手紙を書き終え、その手紙をポストに投函する。そしてキャベツを預けるため隣町の父の元へ向かう。 登場人物
書籍小説
コミックス
ラジオドラマNHK-FM「FMシアター」で2013年7月20日に放送された(全1回)[10][11]。妻夫木聡は本作がラジオドラマ初挑戦である[12]。 キャスト(ラジオドラマ)スタッフ(ラジオドラマ)
オーディオブック2015年にオーディオブック配信サービスの「FeBe」でオーディオブック版が販売された。主演およびナレーションは、原作者の指名で小野大輔が務める[13]。第6回オーディオブックアワードにおいて、2015年で最も輝いた作品に贈られるオーディオブック・オブ・ザ・イヤーを受賞した[14]。 キャスト(オーディオブック)スタッフ(オーディオブック)
映画
2016年5月14日に[7]東宝の配給で全国290スクリーンで公開された[17]。原作者の川村がキャスティングにも携わっており[18]、監督も川村が好きな満島ひかり出演で中島みゆきの「ファイト!」を歌って話題になったカロリーメイトのCMを制作した永井聡ならこの世界観を成立させてくれるだろうと自らオファーした[19]。 2014年10月8日に函館でクランクイン[20]。小樽や室蘭、東京都内での撮影を経てアルゼンチンのブエノスアイレスで海外ロケを敢行し、2014年11月22日に世界三大瀑布の1つであるイグアスの滝でクランクアップした[20]。原作にある“猫が話す”という設定は無くなり、川村が好きなティム・バートン監督の映画『ビッグ・フィッシュ』をはじめとした名作映画のセリフが随所に盛り込まれている[3]。ちなみに劇中で濱田岳が演じるタツヤが勧める『太陽を盗んだ男』や『ブエノスアイレス』などの映画も川村の好みが反映されているという[19]。 主題歌「ひずみ」のミュージックビデオは同じく永井が監督を務めた映画のスピンオフとなっており、佐藤演じる“僕”とその飼い猫・キャベツも出演している[21]。 公開初日2日間で動員14万1691人、興収1億8470万9900円記録し、映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第3位となった[17]。 キャスト(映画)
スタッフ(映画)
音楽(映画)
関連商品書籍
その他
タイアップ音楽朗読劇2021年10月7日から10日まで東京・六行会ホールにて音楽朗読劇が公演された。 キャスト(音楽朗読劇)スタッフ(音楽朗読劇)
朗読劇2022年6月18日から30日までシアター1010にて朗読劇が上演され、各回Vimeoで配信も行われた[34]。 2023年12月13日から17日までこくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて再演され、各回Vimeoで配信も行われた[35]。(各回20日後までアーカイブ配信[36]) キャスト(2022年朗読劇)
スタッフ(2022年朗読劇)
キャスト(2023年朗読劇)
スタッフ(2023年朗読劇)
脚注注釈出典
外部リンク
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