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式典の模様(2023年8月6日)
広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式(ひろしましげんばくしぼつしゃいれいしきならびにへいわきねんしき)は、毎年、広島県広島市に原爆が投下された8月6日の原爆忌・平和記念日に平和記念公園で行われる、原爆死没者の霊を慰め、世界の恒久平和を祈念するための式典である[1]。
一般的には略して広島平和記念式典と呼ばれている。
概要
黙禱する参議院議長江田五月(左)、衆議院議長河野洋平(中央)、内閣総理大臣福田康夫(右)ら三権の長(写真には写っていないが江田の手前に最高裁判所長官島田仁郎が並んでいる、2008年8月6日)。
式典は会場である平和記念公園の原爆死没者慰霊碑(広島平和都市記念碑)前において、原爆死没者の遺族をはじめとして、市民多数の参加のもとで挙行されるものである。1950年(昭和25年)を除き毎年歴代広島市長によって行われる平和宣言は核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を訴え続けているものであり、世界各国に送られている[2]。また、2003年(平成15年)からは、英語を含めた7言語、2014年(平成26年)からは8言語にて平和宣言を発表している。
毎年、NHK・在広民放のテレビ、ラジオ放送の生中継及びインターネット生配信されるなか午前8時から始まる。原爆が投下された午前8時15分に平和の鐘やサイレンを鳴らし、式典会場のみならず、家庭、職場で原爆死没者の冥福と恒久平和の実現を祈り(市内を走行中のバスや広島電鉄の車両もこの時間には停車し、乗客も黙祷を行う)、1分間の黙祷を行ったあと、広島市長が平和宣言、子供による平和への誓いを行うのが通例である。また当日の広島市の各所では、原爆死没者に対する慰霊と核兵器廃絶を訴える式典や、原爆の被害を直接受けた被爆電車の運行が行われている。
この式典の性格は原爆を投下したアメリカ合衆国及びアメリカ軍に対する反米感情よりも、むしろ恩讐を超えた世界の恒久平和への希求であるとしている。冷戦時代には人類を滅亡へと導く手段として、現在では核拡散によって過激な集団によって大量殺戮しかねない方法として、破壊のための核兵器使用の危険性がある以上、核兵器の存在を認めず廃絶を求めることは世界最初の被爆地として責務であると、歴代の広島市長は平和宣言の中で訴えている[2]。
式次第
式典の流れは次のとおり[3]。
- 開式
- 原爆死没者名簿奉納(開式から原爆死没者名簿奉納の間、吹奏楽団が大築邦雄作曲「前奏曲(慰霊の曲)」を演奏。)
- 式辞
- 献花(吹奏楽団が川崎優作曲「祈りの曲第1『哀悼歌』を演奏。)
- 黙とう・平和の鐘
- 平和宣言
- 放鳩
- 平和への誓い
- あいさつ
- ひろしま平和の歌(合唱、重園贇雄作詞、山本秀作曲、吹奏楽団が伴奏。)
- 閉式
中継
NHKでの全国ネットのほか広島県域では民放で生中継されている(民放での全国ネットの扱いは局や年度により異なる。80年代までは基本的に全国ネット)。2015年からはライブストリーミング配信も開始。
日本放送協会(NHK)
- NHK総合テレビでは1958年[4]から毎年生中継を8時 - 8時57分(通常時、年によって変動あり)に行う。視聴率は他局に比べて最も高い。ビデオリサーチ・関東地区調べでの歴代最高視聴率は、1971年(第26回。この回は7時57分 - 8時30分)の44.0%である(2014年現在)。また、海外向けのNHKワールドTV(国内放送と同じ映像だが、テロップはすべて英語)、NHKワールド・プレミアム(ノンスクランブル放送。総合テレビと同じ映像・テロップ)でも同時放送される。いずれの放送波もモノラル二重音声の2か国語放送を実施(総合テレビではリアルタイム字幕放送も実施)。2010年まではBS2でも同時放送されていた。NHKではラジオの放送でもラジオ第1放送とNHKワールド・ラジオ日本の同時放送でテレビの放送より少し長い8時 - 9時に毎年生中継を行なっており、NHKワールド・ラジオ日本では13時台と17時台にも通常番組を差し替える形で同日録音による再放送を行う(ただし、ラジオ第1放送の音源ではなく総合テレビの放送音源の二次使用)。2010年は東京発のテレビ放送を例年通り8時35分までの放送(実際は8時38分まで延長)としたところ、史上初列席の潘基文・国際連合事務総長のスピーチ部分は中継されなかったため批判を呼んだ(非難の電話が100件に及んだという。鳥取局を除く中国地方とラジオ放送では中継された)。
中国放送(テレビ・ラジオとも)
- 『千の証言 広島・平和記念式典中継〜記憶RFRの継承』を放送。
- TBSテレビでは、2015年に8時より全国放送による単独番組として生中継放送が行われ、8時15分の「黙祷・平和の鐘」を中心に中国放送(RCCテレビ)とともにつないだ[5]。
- テレビ放送開始初期の1959年には、RCCテレビ(当時:ラジオ中国テレビ)制作の中継がラジオ東京テレビ(現:TBSテレビ)・朝日放送(現:朝日放送テレビ。当時はラジオ東京系列)・山陽放送(現:RSK山陽放送)などにもネットされたが、RKB毎日放送など放送開始時刻の遅かった局では未放送だった。また当時日本教育テレビ(現:テレビ朝日)系列だった毎日放送は、自社で乗り込み関西ローカルで放送した(日本教育テレビでは放送なし)[注 1]。
- RCCラジオでは平日の場合『本名正憲のおはようラジオ』内で中継を実施し、『話題のアンテナ 日本全国8時です』(TBSラジオ制作でJRN全国ネット)はその日に限りネット返上。また、2023年は日曜日であったため、『地方創生プログラム ONE-J』(TBSラジオ制作でJRN全国ネット)を8時台のみネット返上、ローカル枠(8:55 - 9:00)で放送のニュースを挟んで9:00からの短縮放送で対応している。
- 尚、RCCラジオでの同式典の中継放送は、1953年から行っている[6]。
広島テレビ
- 『つなぐヒロシマ』を放送。
- 日本テレビ系列では『ズームイン!!朝!』を放送していた時代、8月6日が月曜日 - 金曜日になる年は、広島テレビの協力を得て放送していた。自身も被爆者である脇田義信が長く司会を務めていたほか、年によっては当時の司会者だった徳光和夫や福留功男も現場へ赴いて中継に参加した。番組は8時以降はNNN報道特別番組としての放送となっていたため、『ズームイン』としての放送時間は厳密には60分である。なお北日本放送は普段から最後の30分間をローカル差し替えとしており、当日も例外ではなかったため、富山県では式典中継は放送されなかった。またそれ以前もNNN報道特別番組として個別に放送した年がある[7]。
- 2016年は読売テレビ制作『ウェークアップ』の中で、広島テレビの協力のもと全国ネットによる式典の生中継を実施。広島テレビでは同番組に続けて『つなぐヒロシマ』も別途放送された。2022年も同様に『ウェークアップ』にて広島からの中継を挿入したが、この年の同番組は戦争関連以外の国内諸問題も多く取り扱わなければならなかったため、黙祷前後ならびに被爆者関連企画のみ相互生放送とし、広島テレビは『つなぐヒロシマ』の中に全国ネットパートを挿入する体裁を採った。
- 2017年は日本テレビ制作『シューイチ』の中で、広島テレビの協力のもと全国ネットによる式典の生中継を実施したが、番組構成の都合上平和宣言以降は中継されなかった。そのため、広島テレビは8時20分で『シューイチ』から飛び降りて『つなぐヒロシマ』を開始した(『シューイチ』本編もこれ以降は式典以外の話題を放送)。『シューイチ』レギュラーの一人である中丸雄一が同番組の広島からの中継ならびに『つなぐヒロシマ』に出演した。2023年もほぼ同様の編成ではあるが両番組での出演者の乗り入れは無く、『シューイチ』にてMCの中山秀征の広島ロケによる特集企画を放送し、その中で広島からの中継を挿入。広島テレビは編成上『シューイチ×つなぐヒロシマ』というコンプレックス枠として放送していた。
- 平日の場合は2021年までは基本的に『スッキリ』のネットを全編返上して『つなぐヒロシマ』を広島ローカルで放送しており、2021年は、日テレNEWS24でも同時放送された。2024年は『スッキリ』が終了し『ZIP!』が9時までに拡大されたため、『ZIP!』の7時55分の飛び降りポイント[注 2]を行使したうえで『つなぐヒロシマ』を放送し、後続の『DayDay.』のネットも返上する。
広島ホームテレビ
- 『平和記念式典中継』を放送。2017年まで8月6日が日曜日の場合は、テレビ朝日制作の「仮面ライダーシリーズ」が時差放送となった(『仮面ライダークウガ』・『仮面ライダーカブト』・『仮面ライダーエグゼイド』が該当)。2023年は1時間番組として放送のため、テレビ朝日・朝日放送テレビ・メ〜テレ共同制作の『サンデーLIVE!!』は8時で飛び降り、朝日放送テレビ制作の『ひろがるスカイ!プリキュア』は同日10時からの時差放送となった。
- 2012年 - 2014年はそれぞれテレビ朝日制作による『モーニングバード』(テレビ朝日制作)の中で、2018年は『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日制作)にて、それぞれ広島ホームテレビの協力のもと全国ネットによる式典の生中継を実施。全国ネット中継を行わない年については『モーニングショー』のネットを全編返上または途中飛び乗り(途中飛び乗りの場合、番組表では内包扱いとする場合あり)とした上でのローカル中継を行う。
- 2020年は各種新聞やウェブサイトの番組表上では、『グッド!モーニング』『モーニングショー』とも通常通りの編成となっていたが(『モーニングショー』の番組説明には式典中継の記述あり)、実際には『グッド!モーニング』終盤の7時56分頃から番組を独自に差し替えて8時59分までローカルでの番組内容をテレビ朝日傘下であるAbemaTVのAbemaNewsでも同時配信を実施。
- 2021年についてはANN系列にて『2020年東京オリンピック 陸上男子50km競歩 決勝』(メインチャンネル・HD画質・051ch)の全国ネット編成に伴い、サブチャンネル(SD画質・052ch)で放送された他[8]、同局報道用のYouTubeチャンネルでも同時に生配信された。
- 1977年には、テレビ朝日系列全国ネットで8時 - 8時30分に放送した。当時エリア統合前の岡山県・香川県では岡山県(岡山放送)がフジテレビ系番組を編成したため、香川県(瀬戸内海放送)のみで放送された[7]。
テレビ新広島
- 『広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式』を放送。同局YouTubeチャンネル及びニュース系列のFNNのWebサイトであるFNNプライムオンラインのYouTubeチャンネルにて同時配信。平日の場合、通常編成の『めざまし8』については、8時30分から飛び乗り。
広島エフエム放送
- 『平和記念式典中継特別番組』を放送。8月6日が平日にあたる場合は、朝ワイド番組(2021年現在は『GOOD JOG』)内で放送される。なお、8時 - 8時20分のTOKYO FM発の全国ネット枠はその日に限ってネット返上される。
FMちゅーピー
- 独自の『平和記念式典中継特別番組』を放送[注 3]。
インターネット放送局
- ニコニコ生放送では、2015年より広島ホームテレビの協力を得て、同社放送素材のライブストリーミング配信を実施。
歴史
広島県知事楠瀬常猪(1948年)。ノーモア・ヒロシマズ運動の看板が掲げられている。
1952年。この年は原爆死没者慰霊碑の除幕式が行われた。
2021年。式典会場に飾られた千羽鶴
1947年に「広島平和祭」として第一回が催され、当時の広島市長である浜井信三が平和宣言を行った。この平和祭では式典のほか市内各所で盆踊りや仮装行列なども催され、アメリカの雑誌『ライフ』が「アメリカ南部の未開地におけるカーニバル」と形容したほど市民に希望を与えるものであった[9]。
1950年6月から始まった朝鮮戦争において、米国は核兵器の使用を検討していた。原爆使用禁止のストックホルムアピールへの世界的署名運動が高揚するなか、GHQによってこの年の平和式典は禁止・中止された。原爆詩人・峠三吉らはこれを弾劾して原爆詩集などを発表した。
平和記念公園が開設された1954年以降は現在の形式で行われている。
2022年にはロシアのウクライナ侵攻、2023年にはパレスチナ・イスラエル戦争が始まった。広島市は2022年以後当式典にロシアを招待していないが、2024年にイスラエルを招待した[10]。なお、長崎市は2024年の長崎平和祈念式典にロシアもイスラエルも招待していない[11]。広島市は日本政府の国家承認がないパレスチナ自治政府を招待せず、長崎市は同自治政府を招待している。8月6日の夜、パレスチナ自治政府ワリード・アリ・シアム駐日常駐総代表は市民団体「広島パレスチナともしび連帯共同体」の集会にオンライン参加した[12]。
年表
広島市長秋葉忠利の平和宣言(2006年8月6日)
内閣総理大臣福田康夫の挨拶(2008年8月6日)
黙禱する参議院議長尾辻秀久、衆議院副議長海江田万里、内閣総理大臣岸田文雄ら三権の長(2023年8月6日)
騒音問題
当日は中核派(革命的共産主義者同盟全国委員会)などの極左団体がデモを行い、2010年(平成22年)頃から式典中の騒音問題が顕在している[43][44]。
デモは、当日の午前6時頃から原爆ドーム前を占有し拡声器でシュプレヒコールを繰り返すもので、市長や首相のスピーチ中にも大音量でデモを行うことも問題となっている[44][45]。過去には、「安倍倒せ」「菅帰れ」「岸田帰れ」などといったシュプレヒコールも行われてきた他、「天皇制打破」「死刑廃止」といった式典に直接関係ない幟も見られた[43]。
広島市が2018年(平成30年)度に式典中の騒音に関する市民アンケートを実施したところ、多くの参列者がデモに否定的であった。広島市議会では対策として翌年6月、「平和記念式典が厳粛な中で挙行されるよう協力を求める決議案」が全会一致で可決した。さらに、2021年(令和3年)議会提案による「広島市平和推進基本条例」が成立した。条例では、
本市は、平和記念日に、広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式を、市民の理解と協力の下に、厳粛の中で行うものとする — 広島市平和推進基本条例 6条第2項
と定めているものの、デモを規制する法的性質は無いため式典中の騒音問題に大きな改善はみられていない[43][44]。
脚注
注釈
- ^ 読売新聞(岡山版)・朝日新聞(首都圏版)・中国新聞、1959年8月6日、各テレビ欄。当時、ラジオ東京テレビは「JOKR」のコールサインや「KRT」の略称から「KRテレビ」と通称されていた一方、日本教育テレビはまだ「NETテレビ」の略称が定まっていなかった。
- ^ 通常編成では福井放送とテレビ大分がクロスネットの都合により行使する飛び降りポイントである。
- ^ FMちゅーピーではサイマルラジオを通じて全世界にて聴取可能。
出典
関連項目
外部リンク