合併 (企業)合併(がっぺい、amalgamation/merger[1])とは、法定の手続に従って、複数の法人その他の事業体が一つの法人その他の事業体になること。ただし、一般的な意味での「合併」は平等な条件や規模での結合を示し、両者に差が大きくある場合は合併とは呼ばずに、吸収や買収などと表現される。 合併の理論合併は、企業組織再編の手法の一つで、会社と会社とが結合する手法として、企業の再編や統合に比較的古くから用いられてきた。M&Aの一大手法であり、買収との違いは法人格の消滅を伴うことである。 法理論において合併と比較されてきたのが事業譲渡であり、ドイツでは古くから合併と事業譲渡(または大規模な売買契約)との違いは何かという議論があった[2]。 ドイツにおける1860年代から1880年代半ば頃の理論では、合併(吸収合併)とは、合併当事者のうち一社が解散し、消滅会社は解散しても清算手続は開始されず、解散した会社の債権債務が存続会社に包括承継されることと考えられた[2]。のちにドイツでは合併対価に株式を含むことが要件かどうかも議論となった[2]。 人格合一説と現物出資説人格合一説は、合併とは2社以上の会社が契約(合併契約)を締結し合同して一つの会社とする行為をいうとする学説である[3]。現物出資説は、合併を現物出資をもってする資本増加の一種であるとする学説である[3]。 人格合一説が法律上の通説である[3]。ただし人格合一説と現物出資説の対立は1960年代には飽和状態となり実益の大きい議論ではなくなった[3]。 合併の対価に関する学説1880年代半ばまでドイツでは合併対価は株式に限定されるものではないと考えられていた[2]。しかし、印紙税法の解釈をめぐる判決をきっかけに、1890年代になると合併の特徴には存続会社が消滅会社の株主に対して株式を交付し存続会社の株主に交付することも要件と考えられるようになった[2]。 このように合併対価については合併対価株式限定説と合併対価非限定説があった[4]。 しかし、1882年にイタリアの商法は会社の合併について合併対価非限定説を採用した[5]。アメリカ合衆国でも100年間にわたって判例を通して合併対価非限定説の結論にたどりついている[5]。 日本でも2006年5月に会社法が施行され、合併対価の柔軟化から、合併対価は存続会社の株式に限定しないこと(存続会社の社債や新株予約権さらに金銭等も可能)となった[6]。 合併の会計理論
合併の性質の捉え方として、企業会計上、二つの相反する考え方がある。
国際的な会計は「時価主義」を基本原則としており「パーチェス法」を用いることが優先される傾向である。日本でも企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」により、持分プーリング法が廃止され、2010年4月1日以降に実施される企業結合(合併)にはパーチェス法が適用されることとなった。この背景には、会計基準のコンバージェンス(収斂)を推進するねらいがある。 合併の種類吸収合併・新設合併
社会的慣用表現としては、特に事業規模や知名度の大小関係に大きな差がある場合でも「吸収合併」と呼ぶことがある。この場合では、対等合併に対応する言葉として用いられているが、これはあくまで、社会的慣用表現である。 なお、吸収合併のうち、事業規模が小さい会社を存続会社とする合併を「逆さ合併」と呼ぶことがある。逆さ合併をあえて行う背景には、合併差損の回避や、繰越欠損金の控除ができるといった利点があることが挙げられる。 交付金合併交付金合併とは、吸収合併のうち、消滅会社の株主に対する合併対価として存続会社から金銭のみが交付されるものをいう[8]。 三角合併三角合併とは、消滅会社の株主に交付する合併対価として、存続会社の株式ではなく、その親会社や関係会社の株式が交付されるものをいう[8] 無対価合併無対価合併とは、消滅会社の株主に対する合併対価が何も交付されないものをいう[9]。 対等合併対等合併とは、税務上または経営上用いられる概念で、消滅会社の株式1株に対し存続会社や設立会社の株式1株を交付する合併をいう[9]。 合併比率は、両社の資産負債の状況、収益力、ブランド力あるいは経営者の資質などあらゆる観点を比較することにより決定される。なお、合併比率で折り合いがつかない場合などには、実務的には、金銭(合併交付金)などを調整のため交付する場合もある。 国際合併国際合併とは、吸収合併のうち、異なる国の法律を設立の準拠法とする会社間で行われる合併をいう[9]。 日本における合併会社が合併する場合、会社法に基づいて行うが、他の法律により規制が設けられている場合がある(「合併の規制」を参照)。 合併を行う場合の方式としては、吸収合併と新設合併がある。 吸収合併とは、合併の当事者となる会社のうちの一つの会社を存続会社として残し、その余の会社の権利義務を存続会社に承継させて消滅させるものをいう(会社法2条27号)。例えば、A社とB社が合併するケースで、A社がB社の権利義務を承継し、B社は消滅することになる。ここでいう存続とは法人格の存続をいう。但し、特例有限会社は会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)第37条の規定により吸収合併存続会社となることはできない(この為、特例有限会社同士の吸収合併もできない。)。 新設合併とは、合併の当事者となる各会社を解散して、新たに設立する会社に全て承継させる方式をいう(会社法2条28号)。例えば、新たに設立されたC社に、A社およびB社の権利義務を承継させることになる。 実際の合併では、吸収合併によることがほとんどである。新設合併は、株式上場企業の場合には改めて上場申請を要することや、銀行など許認可や事業免許を要する業種では許認可や免許の再取得が必要となるなど事務手続きの処理が非常に煩雑となるためである。特に銀行や航空会社の新設合併は免許取得が既存法人に対して行われかつその手続きに日数を要するため困難である。過去の銀行や航空会社で新設合併は、政府の政策が主導となって合併したものである(一県一行主義や、特定合併で設立されたなみはや銀行など)。 新設合併の例には、2003年の三越、名古屋三越、千葉三越、鹿児島三越及び福岡三越が合併し、新たに三越が設立された例がある。また、戦時統制下による近畿日本鉄道発足時においても新設合併が行われている。 なお、会社以外についても合併の手続きが定められている(後述)。 この節で、会社法は条数のみ記載する。 吸収合併の手続存続会社は、合併後消滅する会社から自己株式を承継する場合、取得することができる(155条)。 契約
合併をする会社は、合併契約を締結しなければならない(749条)。 承認
原則として、吸収合併消滅株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(783条1項)。その株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(309条2項12号)。
消滅株式会社等は、吸収合併契約等備置開始日から吸収合併等が効力発生日後6箇月を経過する日までの間、吸収合併契約等の内容等を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
原則として、吸収合併存続株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(795条1項)。その株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(309条2項12号)。
一定の条件を満たす合併ならば、簡易合併も認められている。 株式買取請求債権者保護手続消滅株式会社等に対する吸収合併等についての債権者の異議(789条) 存続株式会社等に対する債権者の異議(799条) 吸収合併の登記(921条) 新設合併の手続契約
合併をする会社は、合併契約を締結しなければならない(749条)。 株式会社を設立する新設合併契約(753条) 承認
新設合併消滅株式会社は、株主総会の決議によって、新設合併契約の承認を受けなければならない。その株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(309条2項12号)。 株式買取請求債権者保護手続消滅株式会社等に対する新設合併等についての債権者の異議(810条) 新設合併の登記(922条) 三角合併日本の商法・旧会社編は、消滅会社の株主には、存続会社の株式を旧株式に代えて交付する方式の合併を想定していたが、2006年5月1日から施行された会社法においては、施行後1年後に、対価を存続会社の株式に限らないいわゆる柔軟な対価による合併を認めることとした。これにより、存続会社自身の株式ではなく、存続会社の親会社の株式を交付する方式も可能となった。 合併の規制
合併後の商号合併後の商号は自由に変更することができるため、存続会社の商号が使用されるとは限らない。合併後の商号については、合併前のいずれかの商号を使用する場合(主に事業規模や知名度の大小関係に大きな差がある場合)、旧商号の一部や全部を合体させる場合、全く新しい商号を採用する場合に分けられる。 また、商号の変更が可能であるから、商号の存続(その本質としては事業規模や知名度の大小関係)と、法人格の存続とは必ずしもリンクしない。存続法人が消滅法人の使用していた商号を継承する場合もある。その場合は、形式上は存続会社の法人格が存続しているが、外観上や実質上は消滅会社が存続していることになる(「逆さ合併」も参照)。パワードコムや西武鉄道などのケースでは、商号は、消滅した被合併側のものを継続して使用している。 対等合併やそれほど差のない合併で両者の社名を合体する場合、対等にするために日本表記と英表記で両者の社名があべこべになることがある。(代表例:三井住友銀行(英表記:Sumitomo Mitsui Banking Corporation)など) 一例として、かつて、株式分割に制限が設けられていた時代には、急成長した企業が、株式の額面変更を目的として、休眠会社(あるいは休眠状態に近い会社)を存続会社としつつ商号は消滅会社(以下、旧法人と記す)と同じ商号を用いるパターンの吸収合併が行われる例が少なからずあった。合併比率を活用することで、株式分割とほぼ同等の効果が得られる。ただし、たとえば合併比率が1:100の場合、101分の1は存続法人の合併前からの株主であるため、効果だけを見ても必ずしも株式分割と同じではない。加えて、旧法人は合併により消滅するため、会社設立日が、事業で見た場合の会社の歴史とは何ら関係のない日(形式上の存続法人の設立日)になる(企業の中には、時に、IR情報等においても旧法人の設立日を明示したり、吸収合併でありながら新設合併のように合併日を設立日としたりする例を散見するが、これは誤りである。)ほか、旧法人が上場企業の場合には旧法人が消滅するために証券コードが変更になる(存続法人が別途新規に上場することになるため)。 (下記の「合併後の名称例」も参照) 合併の税務税務上も企業会計上の考え方を反映し、適格合併とそれ以外の合併(通称、非適格合併と呼ばれる。)に区分し、それぞれ異なる取り扱いを行っている。 通常の合併は、被合併法人の資産が、時価により合併法人に譲渡されるものと構成される。したがって、被合併法人の最後事業年度において、その有する資産の譲渡益又は譲渡損を計上し、精算されて課税を受けた後、いわば時価評価された後の資産負債を合併法人に移転することとなる。被合併法人の欠損金は引き継がれることはない。また、被合併法人の株主においても旧株を譲渡し新株を取得する際に、旧株のキャピタル・ゲインに課税されるほか、みなし配当課税も生じうる。 これに対し適格合併は、被合併法人の資産が、簿価のまま合併法人に引き継がれることとなる。これにより、たとえ被合併法人の資産に多額の含み益があったとしても、その課税を受けずに合併法人に引継ぎすることができる。また、繰越欠損金の引継ぎも原則として認められている。なお、被合併法人の株主は、旧株の簿価と同額で新株を取得したものとされるため課税関係は生じない。但し、適格合併であってもみなし共同事業要件を満たさない特定適格合併に該当すると、繰越欠損金の引継ぎ制限及び使用制限や特定資産譲渡等損失額の損金算入制限のしばりを受ける。 非適格合併になると、会社及び株主に合併時に税負担が生じるので、合併を円滑にするためには適格合併であることが必須要件とされている。そして、現実に行われている合併はほぼ全てが適格合併の要件を満たすように行われる。これらの適格要件は、合併を利用した課税逃れを防止する観点から規定されている。 適格合併の要件(法人税法2条12号の8)被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式または出資以外の資産(剰余金の配当等及び反対株主への買取請求に基づく対価として交付される資産を除く)が交付されないこと(柱書)
以上の要件を満たした場合で適格合併とされる要件は複雑であるが、大別すれば、次の3つのパターンに分類できる。 1.合併法人が完全親子関係にあるパターン(同号イ)
2.合併法人が被合併法人の株式の50%以上を保有しているパターン(同号ロ)
3.合併法人と被合併法人が共同して事業を営もうとしているパターン(同号ハ)
会社以外の合併日本法では、会社以外にも、一般社団法人、一般財団法人、中小企業等協同組合、信用金庫、労働金庫、生活協同組合、農業協同組合、水産業協同組合、農業共済組合、漁業共済組合、酒類業組合、森林組合、相互会社、船主相互保険組合、漁船保険組合、監査法人、税理士法人、弁護士法人、外国法事務弁護士法人、特許業務法人、司法書士法人、行政書士法人、社会保険労務士法人、土地家屋調査士法人、投資法人、医療法人、社会福祉法人、農住組合、商工会、商工会議所、会員金融商品取引所、会員商品取引所、信用保証協会、農業信用基金協会、漁業信用基金協会、勤労者財産形成基金、学校法人、特定非営利活動法人、更生保護法人、地方独立行政法人、防災街区計画整備組合などのさまざまな法人形態について合併の手続が法定されているほか、一定限度で異なる形態の間の合併(保険業を営む株式会社と相互会社の間、銀行または長期信用銀行である株式会社、信用協同組合、信用金庫および労働金庫のいずれかの間)と)も認められている。また、信託についても「信託の併合」という合併類似の制度が法定されている。法域によっては法人格のない団体についても合併の手続が法定されている。 米国における合併米国の法制度では包括承継という概念が定立されているわけではない[10]。しかし、19世紀以降の判決の積み重ねによって合併時には包括承継を生じることが確立されている[10]。 米国では1890年代まで合併では消滅会社の株主に対して存続会社の株式を交付して存続会社の株主となることが要件と考えられていた[10]。しかし、1893年にニュージャージー州で合併対価として社債を交付できるよう緩和された[10]。1925年3月にはネバダ州が合併対価として現金を交付できる法律を制定した[10]。1929年に世界恐慌が起きると、ニューヨーク州では公共事業会社の親子会社関係を速やかに解消することが必要となったため合併対価に証券や現金等を認める略式合併の制度が設けられた[10]。 合併対価の柔軟化については憲法違反が争われたが、1949年にニューヨーク州最高裁は憲法違反ではないとしたほか、1959年にはデラウェア州最高裁が合併時の現金交付を認める判決を出している[10]。その後は合併対価に現金を認める州が多くなった[10]。 合併後の名称例双方の名前を継いだもの主に対等合併企業に多い。
片方しか継いでいないもの主に吸収合併企業に多い。
一部のみ継いだもの主に地元企業同士の合併に多い。
全体または一部を継ぎ、+αのもの
完全に名前が変わったもの
統計
関連項目脚注
参考文献
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