アフタヌーンティー

リバティ百貨店のアフタヌーンティー(イギリス・ロンドン

アフタヌーンティー: afternoon tea)はイギリス発祥の喫茶習慣で、16 - 17時頃に紅茶と共に軽食菓子を喫食する茶会である。

歴史

1840年頃に第7代ベッドフォード公爵フランシス・ラッセルの夫人、アンナ・マリア・ラッセルによって始められたと伝えられる[1][2]。当時はランプの普及や夜の社交により夕食の時間が遅くなる風潮にあり、昼下がりの空腹に苦しめられたベッドフォード公爵夫人が友人を招いてこれを供したものが、貴婦人の間で社交文化として広まった。やがて19世紀後半には中産階級の間にも広まった。

伝統的には上流階級における社交行事であり、紅茶と食事との取り合わせ、給仕のそれを含めた礼儀作法室内装飾家具調度、使用されている食器や飾られている、美しい庭園など、広範な分野の教養社会的地位を表したもてなしの場として催された[2][3]。またアフタヌーンティー用のティーカップやティーガウン[注釈 1]といった物も作られた。もっとも、現代においてはこうした形で催されることは稀であり、ホテルカフェでも提供されるようになり、伝統的な作法を求めない形のアフタヌーンティーは珍しくない。

客間のローテーブルで提供されたことから、ローティー: low tea)とも呼ばれる[5][6]。類似の習慣であるハイティー: high tea)と混同されることもあるが、これは仕事終わりの時間に紅茶と共に比較的栄養のあるものを飲食する、労働者階級に発祥した習慣であり、食事用のハイテーブルで喫食されたことに由来する。

飲食の内容

リッテンハウスホテルのアフタヌーンティー(アメリカフィラデルフィア

アフタヌーンティーでは紅茶と共に、軽食や菓子が供される。伝統的には軽食はキュウリサンドイッチエッグサラダスモークサーモンチーズローストビーフを用いた小さな耳なしサンドイッチが用いられる[3][7]。また軽食を省いた様式もある。菓子は当初からケーキが用いられるが、やがてスコーンを用いる習慣も広まり、クロテッドクリームジャムを添えたスコーンを用いる様式はクリームティーとも呼ばれる[7]

伝統的なテーブルセッティングでは3段重ねのケーキスタンド英語版[注釈 2]トレイの一種)を用い、下段にサンドイッチ、中段にケーキ、上段にクロッシュで保温されたスコーンなどが載せられる[3]。飲食の順序にも作法があり、始めは紅茶を口にし、ミルクはその後に入れる[3]。サンドイッチは軽い具材から重い具材の順に食べ、菓子などはその後にスタンドの順に従って食べる。

現代的な様式ではカナッペシャンパンマカロンなど様々な飲食物が取り入れられる例がある[7][2]

地域別の習慣

シンガポール
イギリスの元植民地であり、広東華人の多いシンガポールでは、ホテルで供されるハイ・ティーは、イギリス式に紅茶、スコーン、サンドイッチが供されるほか、シュウマイ餃子など中華料理点心も供されることが多い。このためイギリス式にアレンジされた飲茶(ヤムチャ)とも、中華風にアレンジされたハイ・ティーかアフタヌーンティーともいえる。グッドウッド・パーク・ホテルなど伝統的なホテルで提供されることが多い。
アメリカ
同じくイギリスの植民地であったアメリカでは、ハイティーという言葉が非常に儀式化された(気取った)ティーパーティーを指す。これは、「high」の意味を「formal」の意味と誤解したことに由来する。内容も上述した「ハイティー」よりも軽めの食事とデザートが供される。
オセアニア
オーストラリアニュージーランドにおいても「ハイティー」の呼称が用いられるが、これはスコットランドから入ってきた人々の影響による。なお、ラテンアメリカ等におけるメリエンダ(午後の軽食)もしばしばアフタヌーンティーと同種のものとみなされる。
日本
日本でアフタヌーンティーが楽しまれるようになったのは1970年代とされる[10]。2020年代、気軽に非日常を味わえたり写真がSNS映えすることから、カフェやホテルでアフタヌーンティーを楽しむ活動が若い女性を中心に流行し、「ヌン活」と呼ばれる[11]
その背景にはコロナウイルスの流行に伴う酒類の提供および夜間の外出自粛などがあり、許された時間の中で距離を取ったうえでの贅沢として人気を集めた[12]
「ヌン活」が流行語大賞にノミネートされたのは2022年だが、それから2年以上の間に流行は勢いを見せている[11]推し活と併用したサービスを展開する店もあった[13]。一方、低予算で「おうちヌン活」を楽しむ者もいた[14]

脚注

注釈

  1. ^ ティーガウン(ティードレス)はコルセットを省略してよい、ゆったりとしたドレス[4]。元来は部屋着であったが優美さが加えられた。
  2. ^ 文献により呼称に関する見解が様々ある。例えば下記のような見解がある。
    • 「ティースタンド」と紹介し、「ケーキスタンド」とは区別するもの(Elle Lauによるミシュランガイド[3])。
    • 「ケーキスタンド」と紹介し、その形式に2段(Two-tier:トゥーティヤー)や3段(Three-tier:スリーティヤー)のスタンドなどがあると紹介するもの(荒木安正・松田昌夫『紅茶の事典』[8])。
    • 「スリーティアーズ」を3段スタンドの別名と紹介するもの(英国情報誌『RSVP』[9])。
    • 正式には3段のものを「スリーティアスタンド」2段のものを「ツーティアスタンド」と呼ぶとするもの(アフタヌーンティー研究家・藤枝理子[8])。

出典

  1. ^ 中村久司『観光コースでないロンドン イギリス2000年の歴史を歩く』高文研、2014年、174頁。ISBN 978-4-87498-548-9 
  2. ^ a b c 土井茂桂子「「アフタヌーンティー」という外来社交文化商品の現状と展望」『神戸山手短期大学紀要』第61号、神戸山手短期大学、2018年、55-78頁、NII:1084/00000758 
  3. ^ a b c d e Ask The Expert: 7 Things You Didn’t Know About Afternoon Tea”. Michelin Guide. Michelin (2017年11月1日). 2022年6月22日閲覧。
  4. ^ 佐々井啓「19世紀末イギリスのティー・ガウン」『日本家政学会研究発表要旨集』第55巻、日本家政学会、2003年、190頁、doi:10.11428/kasei.55.0.190.1 
  5. ^ Afternoon and High Tea History”. What's Cooking America. 2022年6月22日閲覧。
  6. ^ The Difference Between High Tea & Low Tea”. Plymouth Tea (2015年7月21日). 2022年6月23日閲覧。
  7. ^ a b c History of Afternoon Tea”. Arabella Reeve Catering. 2022年6月22日閲覧。
  8. ^ a b アフタヌーンティーの別名と、アフタヌーンティーの時に使う3段の食器のケーキスタンド以外の呼び名が知りたい。”. レファレンス協同データベース. 国立国会図書館 (2023年7月26日). 2025年5月21日閲覧。
  9. ^ 紅茶にまつわるアンティーク ~アフタヌーンティーの「3段スタンド」~”. RSVP. グローバル研修企画 (2014年3月5日). 2025年5月17日閲覧。
  10. ^ 流行語としても話題の「ヌン活」って何のこと?”. @DIME. 小学館 (2022年12月4日). 2024年3月16日閲覧。
  11. ^ a b “ヌン活”ブームはどこまで続く? 単価6000円でも予約殺到の理由 (1ページ目)”. ITmedia ビジネスオンライン (2025年3月23日). 2025年4月27日閲覧。
  12. ^ 女性が殺到「ヌン活」なぜこんなにも人気なのか”. 東洋経済オンライン (2021年10月2日). 2025年4月27日閲覧。
  13. ^ “ヌン活”ブームはどこまで続く? 単価6000円でも予約殺到の理由 (4ページ目)”. ITmedia ビジネスオンライン (2025年3月23日). 2025年4月27日閲覧。
  14. ^ なぜ?ブーム続く「ヌン活」…“1人8000円超”でも予約殺到【THE TIME,】 | TBS NEWS DIG (2ページ)”. TBS NEWS DIG (2025年4月18日). 2025年4月27日閲覧。

関連項目

 

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