数学 の特に圏論 における随伴 (ずいはん、英 : adjunction )とは、二つの関手 の間の(ある種の双対 的な)関係のことである(随伴関係にある関手を持つ関手もあれば、持たない関手もある)。直感的に言えば、二つの相互に関連する圏の間に認められる、弱い同値 的な関係のことである。この関係を表す関手のペアを随伴関手と呼び、片方を左随伴、もう片方を右随伴と呼ぶ。随伴の概念・随伴関手のペアは数学に遍在し、最適化や効率に関する直観的概念を明らかにし、また、ある種の数学的問題の"解決法の最適化"を行う過程で見出される(代数における集合上の自由群 の構成や、位相空間におけるStone–Čech compactification(英語版 )の構成などがその例である。
圏
C
{\textstyle {\mathcal {C}}}
と
D
{\textstyle {\mathcal {D}}}
の間の随伴とは、二つの関手
F
:
D
→
C
,
G
:
C
→
D
{\displaystyle F\colon {\mathcal {D}}\to {\mathcal {C}},\quad G\colon {\mathcal {C}}\to {\mathcal {D}}}
の対であって、圏
C
{\textstyle {\mathcal {C}}}
の任意の対象 X 、圏
D
{\textstyle {\mathcal {D}}}
の任意の対象 Y に対して、集合の全単射
hom
C
(
F
Y
,
X
)
≅
hom
D
(
Y
,
G
X
)
{\displaystyle \operatorname {hom} _{\mathcal {C}}(FY,X)\cong \operatorname {hom} _{\mathcal {D}}(Y,GX)}
が存在して、これが X と Y について自然 となるものを言う。このとき、関手 F を左随伴函手 と呼び、他方 G を右随伴函手 と呼ぶ。また、「F は G の左随伴である」 (同じことだが、「G は F の右随伴である」)という関係を
F
⊣
G
{\displaystyle F\dashv G}
と書く。
導入
The slogan is “Adjoint functors arise everywhere.”
この記事のたくさんの例 ではよい数学的構造の多くが随伴関手であることを少しだけ紹介する。
このことは、左(右)随伴関手に関する一般的な定理、たとえば色々な定義のしかたの同値性や余極限(極限) を保存するという定理(このことは数学の全ての分野で見つかる)から、多くの役に立つ・非自明な結果を導くことが出来る。
綴り
"adjunct"と"adjunction"と"adjoint"というように、二つの異なる語根 が使われる(例えば、この記事の英語版)。Oxford shorter English dictionaryによると、"adjunct"はラテン語由来であり、"adjoint"はフランス語由来である。
Mac Lane 著 Categories for the working mathematician 第4章 "Adjoints" においては、次のように使われているのが確認できる。
動機
最適化問題の解として
随伴関手は各種の問題に決まりきった 方法を使ってもっとも効率的な 解を与える方法といえる。たとえば、環論 の初等的な問題として、非単位的環 を環に変える問題がある。
もっとも効率的に 行うには、'1'を追加し、環の公理で要求されている元(環の各元r に対するr +1等)を全て(そして最小限を)追加し、公理が要求する以上の関係は持たない新しい環を構成すればよい。さらに、この構成方法は本質的にはどの非単位的環についても同じやりかたになる。
曖昧にして示唆的であるが、圏論の言語によって次のように簡潔に表現できる。
「構成がもっとも効率的 であるとは普遍的であること、決まりきった とは関手を定めることとする。」
ここで、普遍的であるということには「始」普遍的と「終」普遍的の2つの種類があり、これらは双対であるので、片方のみについて考えるだけで十分である。
「始」の場合の普遍性とは、問題を記述できる圏E を準備して、構成したいものがE の始対象 になるようにすることである。この方法の利点は、上限 を求めることと同様に、最適化 (ここでは、もっとも効率的な 解を見つけること)が正確な結果を与え、認識しやすいことにある。正しいE を選ぶには少しこつがいる。たとえば、単位的でない環R があった場合に、圏E の対象は非単位的環の準同型 R → S であって、S が乗法的単位元をもつものであるする。対象 R → S1 と 対象R → S2 の間の射は三角可換図式 (R → S1 ,R → S2 , S1 → S2 )のうち、S1 → S2 が単位元を保存する環の準同型になっているとする。対象 R → S1 と 対象R → S2 の間に射が存在するということは、S1 は少なくとも S2 よりもより効率的な 解であることを示している。すなわち、S2 は S1 よりも多くの元を持っていたり、公理にない関係を満たすことが可能である。よって、R → R* が E の始対象であるということは、始対象からはE の他のどの対象へも射が存在するということから、R* はもっとも効率的な 解であることがいえる。
非単位的環を環に変えるこの方法がもっとも効率的 で決まりきった 方法であるということを、この方法が随伴関手 を定めていると一言で表現することができる。
最適化問題の逆
次に、関手F から始めた 場合では「F がもっとも効率的な解となる問題は存在するのか?」という(曖昧な)質問が可能である。
F がG 問題のもっとも効率的な解 であるということは、ある意味では正確に、G がF が解となるもっとも難しい問題 であることと同値となる。[要出典 ]
これが随伴関手が対となって現れることの直観的な解釈であり、実際これは正しいが、普遍射を使った定義では自明ではない。随伴関手を用いた対称形の随伴の定義(F はG の左随伴であると言ってもよいし、G はF の右随伴であると言ってもよい)を使うことで、このことが明示的になるという利点がある。
形式的な定義
随伴関手の定義はさまざまな方法がある。これらの同値性は基本的な事実であるが自明ではないため非常に有用である。この記事ではいくつかの定義を与える。
普遍射を用いた定義は書くのが簡単で、随伴関手を構成したり、随伴であることを証明する場合に必要な検証項目が少ない。最適化に対する直観にもっとも近い方法である。
余単位-単位随伴を用いた定義は随伴関手であることが分かっている関手に関係する証明を書くのに便利である、なぜなら、直接操作できる公式を持つからである。
hom集合を用いた定義はもっとも対称性がわかりやすい、これが随伴 という単語を使う理由である。
随伴関手は数学の全ての分野に現れる。これらの定義が持つ構造を他の定義が持つ構造に持ち上げるためには長いが明らかな証明が必要であり、このことが随伴を完全に有用なものにしている。随伴の各定義を行き交うことは、各分野で繰り返し行われてきた退屈な部分を暗黙に使っていることになる。例えばcounitが終対象であり自然であることから全ての右随伴関手が極限を保存することを証明できる。
記法の約束
随伴の理論は基礎付けに「左」と「右」という言葉を用い、また考えるべき二つの圏 𝒞 と 𝒟 の中にはたくさんの構成要素が存在している。そこで、「左」の圏 𝒞 からとったのか「右」の圏 𝒟 から取ったのかを、この左、右の順で付ける文字がアルファベット順となるようにし、またできうる限りこの順で書き下すようにすると非常に便利である。
この記事では例えば、X 、F 、f 、ε は圏C から、Y 、G 、g 、η は圏D から取ってくるものとする。そして、可能な場合は、この順で左から右に使うもとのする(例えば、関手 F :C ←D はC から取ってきたものと考える)
普遍射による定義
関手 F : C ← D が左随伴関手 であるとは、C の各対象X に対して、F からX への普遍射 が存在することである。C の各対象X に関してD の対象G 0 X とF からX への普遍射εX : F (G 0 X ) → X を決めると、関手G : C → D で、GX = G 0 X と、任意のC の射f : X → Xʹ についてεXʹ
∘
{\displaystyle \circ }
FG (f ) = f
∘
{\displaystyle \circ }
εX が成り立つものが一意的に存在する。このとき、F はG の左随伴 であるという。
関手 G : C → D が右随伴関手 であるとは、D の各対象Y に対して、Y からG への普遍射が存在することである。D の各対象Y に関してC の対象F 0 Y とY からG への普遍射ηY : Y → G (F 0 Y )を決めると、関手F : C ← D で、FY = F 0 Y と、任意のD の射g : Y → Yʹ についてGF (g )
∘
{\displaystyle \circ }
ηY = ηYʹ
∘
{\displaystyle \circ }
g が成り立つものが一意的に存在する。このとき、G はF の右随伴 であるという。
注意
用語から分かるように、F がGの左随伴 であることとG がFの右随伴 であることが同値であることは正しい。これは下記の対称的な定義では明らかである。普遍射を用いた定義は、与えられた関手が左または右随伴関手であることだけを確かめたいときに、必要な証明が最小限となるため、しばしば有用である。また、普遍射を求めることは最適化問題を解くことと似ているため、直観的でもある。
余単位-単位随伴による定義
圏C とD の余単位-単位随伴 は2つの関手 F : C ← D と G : C → D および2つの自然変換(それぞれ、この随伴の余単位射および単位射と呼ばれる)
ε
:
F
G
→
1
C
η
:
1
D
→
G
F
{\displaystyle {\begin{aligned}\varepsilon \colon &FG\to 1_{\mathcal {C}}\\\eta \colon &1_{\mathcal {D}}\to GF\end{aligned}}}
であって、これらの合成
F
→
F
η
F
G
F
→
ε
F
F
{\displaystyle F{\xrightarrow {\;F\eta \;}}FGF{\xrightarrow {\;\varepsilon F\,}}F}
G
→
η
G
G
F
G
→
G
ε
G
{\displaystyle G{\xrightarrow {\;\eta G\;}}GFG{\xrightarrow {\;G\varepsilon \,}}G}
がそれぞれ、F とG 上の恒等変換1F and 1G となることをいい、これらの自然変換をそれぞれcounit とunit と呼ぶ。
このとき、 F はG の左随伴 であり G はF の右随伴 であるという。この関係を
(
ε
,
η
)
:
F
⊣
G
{\displaystyle (\varepsilon ,\eta ):F\dashv G}
、または単に
F
⊣
G
{\displaystyle F\dashv G}
と書く。
(ε,η)に関する上の条件を等式で書くと、counit-unit恒等式 と呼ばれる
1
F
=
ε
F
∘
F
η
1
G
=
G
ε
∘
η
G
{\displaystyle {\begin{aligned}1_{F}&=\varepsilon F\circ F\eta \\1_{G}&=G\varepsilon \circ \eta G\end{aligned}}}
となり、これはC の各対象X とD の各対象Y について
1
F
Y
=
ε
F
Y
∘
F
(
η
Y
)
1
G
X
=
G
(
ε
X
)
∘
η
G
X
{\displaystyle {\begin{aligned}1_{FY}&=\varepsilon _{FY}\circ F(\eta _{Y})\\1_{GX}&=G(\varepsilon _{X})\circ \eta _{GX}\end{aligned}}}
.
が成り立つことを意味する。
これらの等式は随伴関手を代数的に操作する証明を短くするのに有用である。対応するstring diaglam での見た目から、これはときにジグザグ恒等式 と呼ばれる。この等式を覚えるには、まず、無意味な等式
1
=
ε
∘
η
{\displaystyle 1=\varepsilon \circ \eta }
を書き下し、簡単なやり方で合成が正しく定義されるようにF とG を追加すればよい。
注: ここでのcounitの"co"という接頭辞は極限(limit)や余極限(colimit)での用法とは一貫していない。なぜなら、余極限は「始」普遍性を満たすのに対し、counitの定める射は「終」普遍性を満たすからである。これらの双対についても同様である。ここでのunit という用語はモナド からの借用であり、恒等射1をモノイドに埋め込むところから来ている。
hom集合随伴
圏C とD の間のhom集合の随伴 は2つの関手 F : C ← D と G : C → D および、自然同型
Φ
:
h
o
m
C
(
F
−
,
−
)
→
h
o
m
D
(
−
,
G
−
)
{\displaystyle \Phi :\mathrm {hom} _{C}(F-,-)\to \mathrm {hom} _{D}(-,G-)}
のことをいう。これはC の各対象X とD の各対象Y で添え字付けられた全単射の族
Φ
Y
,
X
:
h
o
m
C
(
F
Y
,
X
)
→
h
o
m
D
(
Y
,
G
X
)
{\displaystyle \Phi _{Y,X}:\mathrm {hom} _{C}(FY,X)\to \mathrm {hom} _{D}(Y,GX)}
.
を定める。
このとき、 F はG の左随伴 であり G はF の右随伴 であるという。この関係を
Φ
:
F
⊣
G
{\displaystyle \Phi :F\dashv G}
、または単に
F
⊣
G
{\displaystyle F\dashv G}
と書く。
この定義は普遍射を使ったものより少し確認することが多くて、すぐに得られる結果は余単位-単位随伴より少なくなるという論理的な折衷になっている。明らかな対称性や他の定義の間の架け橋にることは有用である。
Φが自然同型であるというときは、homC (F –, –) と homD (–, G –) が関手であると考える必要がある。実際、これらはD op × C からSet (集合の圏 )への双関手である。詳しくはHom関手 の項目を参照せよ。明示的に書くと、Φの自然性というのは、全てのC の射 f : X → X′ と全てのD の射g : Y′ → Y について、以下の図式が可換になることをいう。
Naturality of Φ
この図式の縦方向の射はf やg を合成することで誘導される射である。
随伴の全容
以上のことから、随伴にはたくさんの関手や自然変換を持っているが、その一部を決めるだけで他のものは決定される。
圏C とD の間の随伴は以下のものから構成される。
左随伴 と呼ばれる関手F : C ← D
右随伴 と呼ばれる関手G : C → D
自然同型Φ : homC (F –,–) → homD (–,G –)
余単位 と呼ばれる自然変換 ε : FG → 1C
単位 と呼ばれる自然変換 η : 1D → GF
等価な定式化として、X をC の任意の対象としY をD の任意の対象としたとき、
全ての Cの射
f
:
F
Y
→
X
{\displaystyle f:FY\to X}
に対して、 Dの射
Φ
Y
,
X
(
f
)
=
g
:
Y
→
G
X
{\displaystyle \Phi _{Y,X}(f)=g:Y\to GX}
で、以下の図式を可換にするものが唯一つ存在し、全ての Dの射
g
:
Y
→
G
X
{\displaystyle g:Y\to GX}
に対して、 Cの射
Φ
Y
,
X
−
1
(
g
)
=
f
:
F
Y
→
X
{\displaystyle \Phi _{Y,X}^{-1}(g)=f:FY\to X}
で、以下の図式を可換にするものが唯一つ存在する
このことを使うと、以下に挙げる復元が可能である
f
=
Φ
Y
,
X
−
1
(
g
)
=
ε
X
∘
F
(
g
)
∈
h
o
m
C
(
F
(
Y
)
,
X
)
g
=
Φ
Y
,
X
(
f
)
=
G
(
f
)
∘
η
Y
∈
h
o
m
D
(
Y
,
G
(
X
)
)
Φ
G
X
,
X
−
1
(
1
G
X
)
=
ε
X
∈
h
o
m
C
(
F
G
(
X
)
,
X
)
Φ
Y
,
F
Y
(
1
F
Y
)
=
η
Y
∈
h
o
m
D
(
Y
,
G
F
(
Y
)
)
{\displaystyle {\begin{aligned}f=\Phi _{Y,X}^{-1}(g)&=\varepsilon _{X}\circ F(g)&\in &\,\,\mathrm {hom} _{C}(F(Y),X)\\g=\Phi _{Y,X}(f)&=G(f)\circ \eta _{Y}&\in &\,\,\mathrm {hom} _{D}(Y,G(X))\\\Phi _{GX,X}^{-1}(1_{GX})&=\varepsilon _{X}&\in &\,\,\mathrm {hom} _{C}(FG(X),X)\\\Phi _{Y,FY}(1_{FY})&=\eta _{Y}&\in &\,\,\mathrm {hom} _{D}(Y,GF(Y))\\\end{aligned}}}
1
F
=
ε
F
∘
F
η
1
G
=
G
ε
∘
η
G
{\displaystyle {\begin{aligned}1_{F}&=\varepsilon F\circ F\eta \\1_{G}&=G\varepsilon \circ \eta G\end{aligned}}}
C において、各対
(
G
X
,
ε
X
)
{\displaystyle (GX,\varepsilon _{X})}
はF からX への普遍射である
D において、各対
(
F
Y
,
η
Y
)
{\displaystyle (FY,\eta _{Y})}
はY からG への普遍射である
とくに、上記の等式によりΦ、ε、ηはこれらのうち1つを使って定めることができる。しかし、随伴関手F とG だけでは随伴を定めるには一般には十分ではない。以下では定義の同値性を解説する。
普遍射がhom集合随伴を導くこと
普遍射の意味での右随伴関手
G
:
C
→
D
{\displaystyle G:C\to D}
が与えられたとして、以下の手順を行う。
関手
F
:
C
←
D
{\displaystyle F:C\gets D}
と自然変換
η
{\displaystyle \eta }
を構成する
D の各対象Y に対して、Y からG への普遍射
(
F
(
Y
)
,
η
Y
)
{\displaystyle (F(Y),\eta _{Y})}
を選ぶ。すなわち、
η
Y
:
Y
→
G
(
F
(
Y
)
)
{\displaystyle \eta _{Y}:Y\to G(F(Y))}
が得られ、対象関数F と射の族
η
{\displaystyle \eta }
を得る
各射
f
:
Y
0
→
Y
1
{\displaystyle f:Y_{0}\to Y_{1}}
について、
(
F
(
Y
0
)
,
η
Y
0
)
{\displaystyle (F(Y_{0}),\eta _{Y_{0}})}
は普遍射であることから、
η
Y
0
{\displaystyle \eta _{Y_{0}}}
を通して
η
Y
1
∘
f
{\displaystyle \eta _{Y_{1}}\circ f}
を分解し、
F
(
f
)
:
F
(
Y
0
)
→
F
(
Y
1
)
{\displaystyle F(f):F(Y_{0})\to F(Y_{1})}
を得る。これがF の射関数である
分解についての可換図式から自然変換としての可換図式が得られる。よって、
η
:
1
D
→
G
∘
F
{\displaystyle \eta :1_{D}\to G\circ F}
は自然変換となる
分解の一意性とG が関手であることから、F の射関数が射の合成と恒等射を保存することがわかる
自然同型
Φ
:
h
o
m
C
(
F
−
,
−
)
→
h
o
m
D
(
−
,
G
−
)
{\displaystyle \Phi :\mathrm {hom} _{C}(F-,-)\to \mathrm {hom} _{D}(-,G-)}
を構成する
C の各対象X とD の各対象Y に対して、
(
F
(
Y
)
,
η
Y
)
{\displaystyle (F(Y),\eta _{Y})}
は普遍射であることから、
Φ
Y
,
X
{\displaystyle \Phi _{Y,X}}
は全単射となる。ここで、
Φ
Y
,
X
(
f
:
F
(
Y
)
→
X
)
=
G
(
f
)
∘
η
Y
{\displaystyle \Phi _{Y,X}(f:F(Y)\to X)=G(f)\circ \eta _{Y}}
とする
η
{\displaystyle \eta }
が自然変換で、G が関手であることから、全てのC の対象
X
0
{\displaystyle X_{0}}
、
X
1
{\displaystyle X_{1}}
とD の対象
Y
0
{\displaystyle Y_{0}}
、
Y
1
{\displaystyle Y_{1}}
と全ての射
x
:
X
0
→
X
1
{\displaystyle x:X_{0}\to X_{1}}
と
y
:
Y
1
→
Y
0
{\displaystyle y:Y_{1}\to Y_{0}}
に対して、
Φ
Y
1
,
X
1
(
x
∘
f
∘
F
(
y
)
)
=
G
(
x
)
∘
G
(
f
)
∘
G
(
F
(
y
)
)
∘
η
Y
1
=
G
(
x
)
∘
G
(
f
)
∘
η
Y
0
∘
y
=
G
(
x
)
∘
Φ
Y
0
,
X
0
(
f
)
∘
y
{\displaystyle \Phi _{Y_{1},X_{1}}(x\circ f\circ F(y))=G(x)\circ G(f)\circ G(F(y))\circ \eta _{Y_{1}}=G(x)\circ G(f)\circ \eta _{Y_{0}}\circ y=G(x)\circ \Phi _{Y_{0},X_{0}}(f)\circ y}
であり、Φは両方の引数に関して自然である。
同様の議論により普遍射による左随伴関手の定義からhom集合の随伴を構成することができる。(右随伴を元に構成するほうが普通である。なぜなら、随伴対の右随伴を包含関手や忘却関手により自明なやり方で定めることが多くあるからである。)
余単位-単位随伴がhom集合随伴を導くこと
関手
F
:
C
←
D
{\displaystyle F\colon C\leftarrow D}
と
G
:
C
→
D
{\displaystyle G\colon C\to D}
およびcounit-unit随伴
(
ε
,
η
)
:
F
⊣
G
{\displaystyle (\varepsilon ,\eta )\colon F\dashv G}
が与えられたとして、hom集合の随伴
Φ
:
h
o
m
C
(
F
−
,
−
)
→
h
o
m
D
(
−
,
G
−
)
{\displaystyle \Phi \colon \mathrm {hom} _{C}(F-,-)\to \mathrm {hom} _{D}(-,G-)}
を以下の手順で構成する。
射
f
:
F
Y
→
X
{\displaystyle f\colon FY\to X}
と
g
:
Y
→
G
X
{\displaystyle g\colon Y\to GX}
に対して、
Φ
Y
,
X
(
f
)
=
G
(
f
)
∘
η
Y
Ψ
Y
,
X
(
g
)
=
ε
X
∘
F
(
g
)
{\displaystyle {\begin{aligned}\Phi _{Y,X}(f)=G(f)\circ \eta _{Y}\\\Psi _{Y,X}(g)=\varepsilon _{X}\circ F(g)\end{aligned}}}
と定めると、ηとεが自然であるため、ΦとΨも自然である。
F が関手であることと、εが自然であることcounit-unit恒等式
1
F
Y
=
ε
F
Y
∘
F
(
η
Y
)
{\displaystyle 1_{FY}=\varepsilon _{FY}\circ F(\eta _{Y})}
を順番に使って、
Ψ
Φ
f
=
ε
X
∘
F
G
(
f
)
∘
F
(
η
Y
)
=
f
∘
ε
F
Y
∘
F
(
η
Y
)
=
f
∘
1
F
Y
=
f
{\displaystyle {\begin{aligned}\Psi \Phi f&=\varepsilon _{X}\circ FG(f)\circ F(\eta _{Y})\\&=f\circ \varepsilon _{FY}\circ F(\eta _{Y})\\&=f\circ 1_{FY}=f\end{aligned}}}
を得る。よって、ΨΦは恒等変換である
双対的に、G が関手であること、ηが自然であることcounit-unit恒等式
1
G
X
=
G
(
ε
X
)
∘
η
G
X
{\displaystyle 1_{GX}=G(\varepsilon _{X})\circ \eta _{GX}}
を順番に使って、
Φ
Ψ
g
=
G
(
ε
X
)
∘
G
F
(
g
)
∘
η
Y
=
G
(
ε
X
)
∘
η
G
X
∘
g
=
1
G
X
∘
g
=
g
{\displaystyle {\begin{aligned}\Phi \Psi g&=G(\varepsilon _{X})\circ GF(g)\circ \eta _{Y}\\&=G(\varepsilon _{X})\circ \eta _{GX}\circ g\\&=1_{GX}\circ g=g\end{aligned}}}
を得る。よって、ΦΨは恒等変換であり、Φ−1 = Ψを逆写像としてΦは自然同型となる。
hom集合随伴が上の全てを導くこと
関手
F
:
C
←
D
{\displaystyle F\colon C\leftarrow D}
と
G
:
C
→
D
{\displaystyle G\colon C\to D}
および、hom集合の随伴
Φ
:
h
o
m
C
(
F
−
,
−
)
→
h
o
m
D
(
−
,
G
−
)
{\displaystyle \Phi \colon \mathrm {hom} _{C}(F-,-)\to \mathrm {hom} _{D}(-,G-)}
が与えられたとして、普遍射の族を導くcounit-unit随伴
(
ε
,
η
)
:
F
⊣
G
{\displaystyle (\varepsilon ,\eta )\colon F\dashv G}
,
を以下の手順で構成する。
C の各対象X に対して、
ε
X
=
Φ
G
X
,
X
−
1
(
1
G
X
)
∈
h
o
m
C
(
F
G
X
,
X
)
{\displaystyle \varepsilon _{X}=\Phi _{GX,X}^{-1}(1_{GX})\in \mathrm {hom} _{C}(FGX,X)}
とする。ここで、
1
G
X
∈
h
o
m
D
(
G
X
,
G
X
)
{\displaystyle 1_{GX}\in \mathrm {hom} _{D}(GX,GX)}
は恒等射である。
D の各対象Y に対して、
η
Y
=
Φ
Y
,
F
Y
(
1
F
Y
)
∈
h
o
m
D
(
Y
,
G
F
Y
)
{\displaystyle \eta _{Y}=\Phi _{Y,FY}(1_{FY})\in \mathrm {hom} _{D}(Y,GFY)}
とする。ここで、
1
F
Y
∈
h
o
m
C
(
F
Y
,
F
Y
)
{\displaystyle 1_{FY}\in \mathrm {hom} _{C}(FY,FY)}
は恒等射である。
Φが全単射で自然であることから、各
(
G
X
,
ε
X
)
{\displaystyle (GX,\varepsilon _{X})}
はF からX への普遍射であり、各
(
F
Y
,
η
Y
)
{\displaystyle (FY,\eta _{Y})}
はY からG への普遍射である。
Φが自然であることから、εとηの普遍性が導かれ、各射 f : FY → X と g : Y → GX に対して、2つの公式
Φ
Y
,
X
(
f
)
=
G
(
f
)
∘
η
Y
Φ
Y
,
X
−
1
(
g
)
=
ε
X
∘
F
(
g
)
{\displaystyle {\begin{aligned}\Phi _{Y,X}(f)=G(f)\circ \eta _{Y}\\\Phi _{Y,X}^{-1}(g)=\varepsilon _{X}\circ F(g)\end{aligned}}}
が成立する(これはΦを完全に決定する)
二番目の公式のX にFY を代入し、g に
η
Y
=
Φ
Y
,
F
Y
(
1
F
Y
)
{\displaystyle \eta _{Y}=\Phi _{Y,FY}(1_{FY})}
を代入することで、1つ目のcounit-unit恒等式
1
F
Y
=
ε
F
Y
∘
F
(
η
Y
)
{\displaystyle 1_{FY}=\varepsilon _{FY}\circ F(\eta _{Y})}
,
を得る。一番目の公式のY にGX を代入し、f に
ε
X
=
Φ
G
X
,
X
−
1
(
1
G
X
)
{\displaystyle \varepsilon _{X}=\Phi _{GX,X}^{-1}(1_{GX})}
を代入することで、2つ目のcounit-unit恒等式
1
G
X
=
G
(
ε
Y
)
∘
η
G
X
{\displaystyle 1_{GX}=G(\varepsilon _{Y})\circ \eta _{GX}}
を得る
歴史
随伴の遍在性
随伴関手の考えはダニエル・カン によって1958年に定式化された。多くの圏論の概念と同様に、ホモロジー代数 において計算を行おうとした際に必要になったために導入された。この問題のきれいで系統的な表現を与えようと向き合った人々はアーベル群 の圏において
hom(F (X ), Y ) = hom(X , G (Y ))
のような関係があることに気づいていた。ここで、F は関手
−
⊗
A
{\displaystyle -\otimes A}
(つまり、A とテンソル積 を取る)であり、G は関手hom(A ,–)である。ここで等号 を使うのは記号の乱用 である。これらの群は実際には等しくないが、等しく見せるような自然な 方法がある。自然に感じられる理由として、一番に、元々はこれらがX × A からY への双線形写像 の2つの異なった表現であるからである。しかし、これはテンソル積に関するいくぶん固有な話である。圏論においての全単射の自然性は自然同型の概念が元になっている。
この用語はヒルベルト空間 において、上記のhom集合の間の関係と似た関係
⟨
T
x
,
y
⟩
=
⟨
x
,
U
y
⟩
{\displaystyle \langle Tx,y\rangle =\langle x,Uy\rangle }
を満たす、随伴作用素 T とU から来ている。F はG の左随伴 といい、G はF の右随伴 という。ただし、G 自身もF とはかなり異なった右随伴を持ちうる(以下の例を見よ)。ある種の文脈においては、詳細なヒルベルト空間の随伴写像のアナロジーが可能である[ 1] 。
これらの随伴関手の対を探し始めると、実は抽象代数 では非常にありふれたことであり、他の分野でも同様であることが分かる。以下の例の節ではこの証拠を与える。さらに、普遍的構成はもっと普通にたくさんの随伴関手の対に持ち上げることができる。
様々な問題の定式化
数学者は一般的には完全な随伴関手の概念を必要としているわけではない。彼らの解こうとしている問題にあっているかや証明に必要かどうかで必要な概念かどうかを判定している。圏論の初期段階である1950年代にはこれらの動機に大きく引っ張られていた。アレクサンドル・グロタンディーク の時代になって、圏論は他の仕事における指針として使われるようになった。はじめは関数解析 とホモロジー代数 であり最終的には代数幾何 で使用された。
彼が随伴関手の概念を分離したというのはおそらく誤っているといえるが、随伴の特別な役割についてグロタンディーク固有の認識はあった。例えば、彼の著名な業績のひとつに、相対型のセール双対性 、くだいていうと、代数多様体の連続な族に関するセール双対性がある。この証明の全体は結局のところある関手の右随伴が存在するかということになる。これは完全に抽象的で非構成的であるが、それなりに強力でもある。
半順序集合
すべての半順序集合 は圏とみなすことができる(x ≤ y であるときに、またそのときのみ、 x とy の間には1つだけ射があるとする)。2つの半順序集合の間の随伴関手対はガロア接続 と呼ばれる(そして、反変の場合は、antitone ガロア接続である)。ガロア接続の記事に多くの例がある。とくにガロア理論 が一番の例である。任意のガロア接続は閉包作用素 や対応する閉じた要素間の逆順序を保存する全単射に持ち上げることが出来る。
ガロア群の場合と同様に、実際の興味はしばしば双対との対応(例えば、antitone 順序の同型)を詳細化していくことにある。Kaplansky よるこのガロア理論の捕らえ方は、ここに一般的な構造があることへの認識に影響を与えた。
半順序の場合の随伴の定義は著しくつぶれているが、いくつかのテーマを与えてくれる。
随伴は双対や同型でなくてもよいが、これらに昇格する際の候補とすることが出来る
閉包作用素は対応するモナドによる随伴の存在を示すことがある(Kuratowski closure axioms を参照)
William Lawvere による非常に一般的な解説[ 2] によると「構文と意味」は随伴である。つまり、C を全ての論理(公理化)からなる集合とし、D を全ての数学的構造からなる集合の冪集合とする。C の各理論T に対して、F (T )を公理T を満たす構造全てからなる集合とし、各数学的構造の族S に対して、G (S )はS の最小の公理化とする。このとき、F (T )がS の部分集合であることと、G (S )がT の論理的帰結であることは同値であり、「意味関手」F は「構文関手」G の左随伴である。
乗算の逆としての(一般の)演算としての除算は、多くの例があるが例えば、述語論理における含意の導入規則や、環のイデアル によるイデアル商 は、随伴を与えるものと見ることができる。
このような観察は全ての数学で価値のあるものである。
例
自由群
自由群 の構成は極めて普通の随伴による構成であり、上記の詳細の分かりやすくて便利な例である。
関手F : Grp ← Set は各集合Y にY の要素の生成する自由群を対応させるものとし、関手G : Grp → Set は群X にその台集合を対応させる忘却関手 とする。以下に示すようにF はG の左随伴となる。
「終」普遍射 。各群X について、群FGX はGX の生成する、すなわちX の元たちが生成する自由群である。群の準同型
ε
X
:
F
G
X
→
X
{\displaystyle \varepsilon _{X}:FGX\to X}
をFGX の生成元を対応するX の元に写すものとする。これは自由群の普遍性から常に存在する。このとき
(
G
X
,
ε
X
)
{\displaystyle (GX,\varepsilon _{X})}
はF からX への普遍射である。なぜなら、自由群FZ からX への群の準同型は
ε
X
:
F
G
X
→
X
{\displaystyle \varepsilon _{X}:FGX\to X}
を通して、一意的なZ からGX への写像経由で分解されるからである。これは(F , G )が随伴の対であることを意味する。
「始」普遍射 。各集合Y に対して、GFY は単にY の生成する自由群FY の台集合である。写像
η
Y
:
Y
→
G
F
Y
{\displaystyle \eta _{Y}:Y\to GFY}
は生成元の包含により与えられる。各
(
F
Y
,
η
Y
)
{\displaystyle (FY,\eta _{Y})}
はY からG への普遍射である。なぜなら、Y からGW の台集合への写像は
η
Y
:
Y
→
G
F
Y
{\displaystyle \eta _{Y}:Y\to GFY}
を通して、FY からW への一意的な群の準同型経由で分解されるからである。これも(F , G )が随伴の対であることを意味する。
hom集合随伴 。自由群FY から群X への群準同型は正確に集合Y から集合GX への写像に対応する。すなわち、FY からX への射は生成元への作用により完全に決定される。この対応が自然同型であることも直接確認できる。よって(F ,G )に対応するhom集合の随伴が得られた。
余単位-単位随伴 。εとηが自然であることは直接確かめられる。そして、余単位-単位随伴
(
ε
,
η
)
:
F
⊣
G
{\displaystyle (\varepsilon ,\eta ):F\dashv G}
であることは以下のようにして示す。
1つ目の余単位-単位恒等式
1
F
=
ε
F
∘
F
η
{\displaystyle 1_{F}=\varepsilon F\circ F\eta }
というのは各集合Y に対して、合成
F
Y
→
F
(
η
Y
)
F
G
F
Y
→
ε
F
Y
F
Y
{\displaystyle FY{\xrightarrow {\;F(\eta _{Y})\;}}FGFY{\xrightarrow {\;\varepsilon _{FY}\,}}FY}
が恒等射であるということである。途中の群FGFY は自由群FY の語たちから生成される自由群である。(以降、括弧でくくられた語は独立した生成元を表すことにする)。射
F
(
η
Y
)
{\displaystyle F(\eta _{Y})}
はFY からFGFY への群の単射準同型であり、FY の生成元y を対応するFGFY の生成元である長さ1の語 (y ) に写す。射
ε
F
Y
{\displaystyle \varepsilon _{FY}}
はFGFY からFY への群の準同型であり、生成元を対応するFY の語に写す(つまり「括弧を外す」)。これらの合成はもちろんFY の恒等射である。
2つ目の余単位-単位恒等式
1
G
=
G
ε
∘
η
G
{\displaystyle 1_{G}=G\varepsilon \circ \eta G}
というのは各群X に対して、合成
G
X
→
η
G
X
G
F
G
X
→
G
(
ε
X
)
G
X
{\displaystyle GX{\xrightarrow {\;\eta _{GX}\;}}GFGX{\xrightarrow {\;G(\varepsilon _{X})\,}}GX}
が恒等射であるということである。途中の集合GFGX は単にFGX の台集合である。射
η
G
X
{\displaystyle \eta _{GX}}
は集合GX から集合GFGX への「生成元たちの包含」写像である。射
G
(
ε
X
)
{\displaystyle G(\varepsilon _{X})}
は集合GFGX から集合GX への写像で、FGX の生成元をX の元に写す(「括弧を外す」)という群の準同型の台である。これらの合成はもちろんGX の恒等射である。
自由構成と忘却関手
自由対象 は全て忘却関手 の左随伴の例となる。ここで忘却関手は代数的対象をその台集合に写す。これらの代数的な自由関手 に対しても、上記の自由群に詳細に記述したものと同様のことが一般に成り立つ。
対角関手と極限
積 、引き戻し 、等化子 、核 はどれも圏論的な極限の例である。全ての極限関手は対応する対角関手(考えている極限の種類から決まる)の右随伴である。随伴の余単位は極限対象からの(つまり、関手圏における、考えている極限に対応する対角関手からの)定義射を与える。以下に個々の例を示す。
積 関手Π : Grp2 → Grp を各対(X 1 , X2 )に直積群X 1 ×X 2 を対応させるものとし、関手Δ : Grp2 ← Grp を各群X に積圏Grp2 の対象(X , X )を対応させる対対角関手とする。直積群の普遍性からΠはΔの右随伴であることが分かる。この随伴のcounitは極限を定めるX 1 ×X 2 からX 1 と X 2 への2つの射影の対である射である。unitは群X からX 1 ×X 2 の中への対角包含射 (x を(x , x )に写す)である。
集合のデカルト積 や環の直積や位相空間の直積なども同じである。さらに2つ以上の場合も素直な方法で拡張できる。もっと一般には、どの種類の極限も対角関手の右随伴である。
核 アーベル群の準同型の圏D を考える。D の2つの対象f 1 : A 1 → B 1 とf 2 : A 2 → B 2 に対して、f 1 から f 2 への射は、対(g A , g B )であって、gB f 1 = f 2 gA を満たすもののことをいう。関手G : D → Ab を各準同型をその核に対応させるものとし、関手F : D ← Ab を各群A を群準同型A → 0に対応させるものとする。G はF の右随伴であり、これは核の普遍性を示している。この随伴の余単位射は準同型の核をその始域に埋め込む射であり、単位射は群A を準同型A → 0の核と同一視する射である。
この例の適切な変種として、線形空間や加群の核関手も右随伴である。同様に、アーベル群や線形空間や加群の余核関手が左随伴であることも分かる。
余極限と対角関手
余積 、押し出し 、余等化子 、余核 はいずれも圏論における余極限の例えである。
全ての余極限関手は対応する対角関手(考えている余極限の種類から決まる)の左随伴である。随伴のunitは余極限対象への定義射を与える。以下に個々の例を示す。
余積 関手F : Ab ← Ab2 を各アーベル群の対(X 1 , X 2 )に直和を対応させるものとし、関手G : Ab → Ab2 を各アーベル群Y に対(Y , Y )を対応させるものとする。このときF はG の左随伴である。こちらも直和の普遍性から導かれる。この随伴のunitはX 1 と X 2 から直和への包含写像の対からなる射であり、counitは(X ,X )の直和からX への加算による射である(直和の元 (a , b )にX の元 a +b を対応させる)
同様の例として加群や線形空間の直和や、群の自由積や集合の非交和がある。
さらなる例
代数
非単位的環への単位元添加 。これは動機の節で議論した例である。非単位的環 R が与えられたとして、R ×Z を選び、Z 双線形な積を(r,0)(0,1) = (0,1)(r,0) = (r,0)、 (r,0)(s,0) = (rs,0)、 (0,1)(0,1) = (0,1)で定めることにより、乗法単位元を追加することが出来る。この構成は環の台となる非単位的環を取る関手の左随伴である。
環の拡大 。R とS を環とし、ρ : R → S を環の準同型とする。このときS は「左」R -加群とみなすことができ、S とのテンソル積 は関手F : R -Mod → S -Mod を引き起こす。そして、F は忘却関手G : S -Mod → R -Mod の左随伴である。
テンソル積構成 。R を環、M を右R -加群とし、M とのテンソル積は関手F : R -Mod → Ab を引き起こす。関手G : Ab → R -Mod を、各アーベル群A に対して、G (A ) = homZ (M ,A )で定めると、F の右随伴となる。
群環構成 。整係数モノイド環 構成はモノイド から環への関手を与える。この関手は各環をその台となる乗法モノイドに写す関手の左随伴である。同様に整係数群環 構成は群から環への関手を与え、各環をその単元群 に写す関手の左随伴である。(整係数ではなく)係数体 K を与える場合、環の圏のかわりに K -代数の圏を使えば K 上のモノイド環や群環が得られる。
商体構成 。整域の圏で射を単射に限ったものをDom m と書くことにする。忘却関手Field → Dom m は左随伴を持つ。これは全ての整域に商の体 を割り当てる。
多項式環 。Ring * を基点付き可換環の圏とする(環A とその元a の対 (A , a )を対象として、射はこの区別された元を保存する準同型とする)。忘却関手G:Ring * → Ring は左随伴を持ち、各環R に対して(R [x ], x )を割り当てる。ここでR [x ]はR を係数とする多項式環 である。
アーベル化 : アーベル群から群への包含関手G : Ab → Grp を考えると、アーベル化 と呼ばれる左随伴を持つ。これは各群G に商群G ab =G /[G ,G ]を割り当てる。
グロタンディーク構成 : 発端は、K-理論 において位相空間 上のベクトル束 の圏が直和 の下で可換モノイド構造を持つことである。各ベクトル束(の同値類)に加法逆元を形式的に追加することにより、このモノイドをグロタンディーク群 と呼ばれるアーベル群 にすることができる。同じことだが、各群を(逆元の存在を忘れることにより)その台となるモノイドへ写す函手は左随伴を持つ。このようなグロタンディーク構成は、自然数からの負 の整数の構成をなぞるようにすることもできるし、存在定理 として使うこともある。有限項演算の代数構造の場合に対しては、そのような構成の存在性は普遍代数学 やモデル理論 に言及することもできるし、圏論的に適当な形での証明としても自然に述べられる。
群の表現論におけるフロベニウス相互律 によれば、表現の誘導 は表現の制限の左随伴である。
位相
左随伴と右随伴を持つ関手 。G を位相空間 から集合への関手で、各位相空間にその台集合を割り当てるものとする (位相を忘れる)。G は左随伴 F を持ち、集合 Y 上に離散位相 を定める。G は右随伴 H も持ち、Y に密着位相 を定める。
懸垂とループ空間 。位相空間X とY に対して、X の懸垂 SX からY への連続写像のホモトピー類 がなす空間 [SX , Y ] はX からY のループ空間 ΩY への連続写像のホモトピー類がなす空間と自然同型である。これはホモトピー論 で重要である。
ストーン–チェックコンパクト化 。KHaus をコンパクト [要曖昧さ回避 ] ハウスドルフ 空間の圏とし、G : KHaus → Top を位相空間の圏への包含関手とする。このとき、G は左随伴F : Top → KHaus を持ち、ストーン–チェックコンパクト化 となる。この随伴のcounitは各位相空間X からそのストーン–チェックコンパクト化の中への連続写像である。X がチコノフ空間 であるとき、またそのときのみ、この写像は埋め込み (つまり、単射な連続開写像)である。
層の順像と逆像 。全ての連続写像f : X → Y はX 上の層 (集合の層、アーベル群の層、環の層など)からY の対応する層への関手f ∗ を誘導し、順像関手 と呼ばれる。さらに、Y 上のアーベル群の層からX 上のアーベル群の層への関手 f −1 も誘導され、逆像関手 と呼ばれる。f −1 は f ∗ の左随伴である。ここで微妙な点は連接層 での左随伴は(集合の)層のそれとは異なっていることである。
sober化 。ストーン双対性 の記事にあるように、位相空間の圏とsober空間 の圏は随伴である。特に、この記事はpointless topology で見つかった、sober空間とspatial localeの間の有名な双対性のための別の随伴も詳細に記述している。
圏論
随伴の列 。関手π0 を各圏にその連結成分を与える関手とすると、これは各集合に離散圏を割り当てる関手D の左随伴である。さらに、D は圏に対象集合を割り当てる対象関手U の左随伴である。最後に、U は各集合にindiscrete圏を割り当てる関手の左随伴である。
指数対象 。デカルト閉圏 において–×A で定まる自己関手C → C は右随伴–A を持つ。
Categorical logic
この節の
加筆 が望まれています。
(2009年11月 )
quantification Any morphism f : X → Y in a category with pullbacks induces a monotonous map
f
∗
:
Sub
(
Y
)
→
Sub
(
X
)
{\displaystyle f^{*}:{\text{Sub}}(Y)\to {\text{Sub}}(X)}
acting by pullbacks (A monotonous map is a functor if we consider the preorders as categories). If this functor has a left/right adjoint, the adjoint is called
∃
f
{\displaystyle \exists _{f}}
and
∀
f
{\displaystyle \forall _{f}}
, respectively.[ 3]
In the category of sets, if we choose subsets as the canonical subobjects, then these functions are given by:
(
T
⊆
Y
)
↦
f
∗
(
T
)
=
f
−
1
[
T
]
{\displaystyle (T\subseteq Y)\;\mapsto \;f^{*}(T)=f^{-1}\lbrack T\rbrack }
(
S
⊆
X
)
↦
∃
f
S
=
{
y
∈
Y
∣
∃
x
∈
f
−
1
[
{
y
}
]
,
x
∈
S
}
=
f
[
S
]
{\displaystyle (S\subseteq X)\;\mapsto \;\exists _{f}S=\{\;y\in Y\;\mid \;\exists x\in f^{-1}\lbrack \{y\}\rbrack ,x\in S\;\}=f\lbrack S\rbrack }
(
S
⊆
X
)
↦
∀
f
S
=
{
y
∈
Y
∣
∀
x
∈
f
−
1
[
{
y
}
]
,
x
∈
S
}
{\displaystyle (S\subseteq X)\;\mapsto \;\forall _{f}S=\{\;y\in Y\;\mid \;\forall x\in f^{-1}\lbrack \{y\}\rbrack ,x\in S\;\}}
See also powerset for a slightly simplified presentation.
性質
存在性
全ての関手 G : 𝒞 → 𝒟 が左随伴を持つわけではない。𝒞 が完備圏 であるときは、左随伴を持つ関手はPeter J. Freyd の随伴関手定理 「G が左随伴を持つための必要十分条件は、それが連続(極限を保つ)かつ、ある種の「集合性(小ささ)」条件をみたすことである」で特徴付けられる。具体的には、𝒟 の各対象 Y に対して、集合 (つまり真クラス でない集合という意味で「小さい」) I の元で添字付けられた射の族 f i : Y → G (Xi ) が存在して、任意の射 h : Y → G (X ) が適当な元 i ∈ I と射 t : X i → X ∈ C を用いて h = G (t ) ∘ f i と書けることが条件である。
同様のことが右随伴に関しても成り立つ。
一意性
関手F : C ← D が2つの右随伴G とG′ を持つとすると、G とG′ は自然同型である。左随伴についても同様である。
逆に、F がG の左随伴であり、G とG′ が自然同型であるとすると、F はG′ の左随伴でもある。より一般には、〈F , G , ε, η〉が(ε,η)をcounit-unitとする随伴であり、
σ : F → F ′
τ : G → G ′
がともに自然同型であるとすると、〈F ′, G ′, ε′, η′〉も随伴である。ここで、
η
′
=
(
τ
∗
σ
)
∘
η
ε
′
=
ε
∘
(
σ
−
1
∗
τ
−
1
)
.
{\displaystyle {\begin{aligned}\eta '&=(\tau \ast \sigma )\circ \eta \\\varepsilon '&=\varepsilon \circ (\sigma ^{-1}\ast \tau ^{-1}).\end{aligned}}}
であり、
∘
{\displaystyle \circ }
は自然変換の垂直合成を表し、
∗
{\displaystyle \ast }
は水平合成を表すとする。
合成
随伴は自然なやり方で合成できる。明示的に書くと、C とD との間の随伴〈F , G , ε, η〉とD とE との間の随伴〈F ′, G ′, ε′, η′〉が与えられたとき、関手
F
′
∘
F
:
C
←
E
{\displaystyle F'\circ F:{\mathcal {C}}\leftarrow {\mathcal {E}}}
は関手
G
∘
G
′
:
C
→
E
.
{\displaystyle G\circ G':{\mathcal {C}}\to {\mathcal {E}}.}
の左随伴である。さらに詳しく書くと、F ′ F とG G ′の間の随伴のunitとcounitは以下の合成で与えられる。
1
E
→
η
G
F
→
G
η
′
F
G
G
′
F
′
F
F
′
F
G
G
′
→
F
′
ε
G
′
F
′
G
′
→
ε
′
1
C
.
{\displaystyle {\begin{aligned}&1_{\mathcal {E}}{\xrightarrow {\eta }}GF{\xrightarrow {G\eta 'F}}GG'F'F\\&F'FGG'{\xrightarrow {F'\varepsilon G'}}F'G'{\xrightarrow {\varepsilon '}}1_{\mathcal {C}}.\end{aligned}}}
この新しい随伴は与えられた2つの随伴の合成と呼ばれる。
これにより、小さな圏 を対象とし、随伴を射とする圏を作ることが出来る。
極限の保存
随伴のもっとも重要な性質は連続性である。左随伴を持つ全ての関手(つまり右随伴である 関手)は連続 である(つまり圏論での極限と可換である)。右随伴を持つ全ての関手(つまり左随伴である 関手)は余連続 である(つまり余極限と可換である)。
数学における多くの共通の構成は極限か余極限であるので、このことはたくさんの情報をもたらす。例えば。
対象の積に右随伴関手を適用した結果は像の積である
対象の余積に左随伴関手を適用した結果は像の余積である
全ての右随伴関手は左完全 である
全ての左随伴関手は右完全 である
加法性
C とD を前加法圏 とし、F : C ← D を加法的関手 とし、G : C → D がF の右随伴であるとすると、G も加法的関手であり、hom集合の全単射
Φ
Y
,
X
:
h
o
m
C
(
F
Y
,
X
)
≅
h
o
m
D
(
Y
,
G
X
)
{\displaystyle \Phi _{Y,X}:\mathrm {hom} _{\mathcal {C}}(FY,X)\cong \mathrm {hom} _{\mathcal {D}}(Y,GX)}
は、実は、アーベル群の同型である。双対的に、G が加法的で、F がG の左随伴であるとすると、F もまた加法的である。
さらに、C とD を加法圏 (つまり、前加法圏であり有限双積 をもつ)とすると、任意の随伴関手の対は自動的に加法的となる。
関連
普遍的構成
初めに書いたように、圏C とD の随伴は2つの普遍射の族に持ち上げることができる。片方はC の対象について、もう片方はD の対象についての普遍射である。逆に、D の各対象から関手G : C → D への普遍射が存在するとき、G は左随伴である。
しかし、普遍的構成は随伴関手よりもっと一般的である。普遍的構成は最適化問題に似ていて、随伴の対に持ち上げられるのは、この問題が全てのD の対象について解を持つときであり、またそのときに限る(C の対象についても同様)。
圏同値
関手F : C →D が圏同値 の片方であるとすると、同値のもう片方の左随伴である。つまり、unitとcounitがともに同型である随伴である。
全ての随伴〈F , G , ε, η〉はある部分圏の同値性を拡張する。C の対象X でεX が同型射であるものからなるC の充満部分圏 をC 1 とする。D の対象Y でηY が同型射であるものかならるD の充満部分圏をD 1 とする。このとき、F とG をそれぞれD 1 と C 1 に制限した関手はこれらの部分圏の同値の反転となっている。
この意味で、随伴は一般化された 逆元である。しかし、F の右逆(つまり、関手G であってFG が1D に自然同型なもの)は必ずしもF の右または左随伴になるとは限らない。随伴は2方向に 一般化された逆である。
モナド
全ての随伴〈F , G , ε, η〉はD における関連するモナド 〈T , η, μ〉に持ち上げることができる。関手
T
:
D
→
D
{\displaystyle T:{\mathcal {D}}\to {\mathcal {D}}}
はT = GF で与えられる。モナドのunit
η
:
1
D
→
T
{\displaystyle \eta :1_{\mathcal {D}}\to T}
は随伴のunit ηそのものである。乗法の変換
μ
:
T
2
→
T
{\displaystyle \mu :T^{2}\to T\,}
はμ = G εF で与えられる。双対的に、〈FG , ε, F ηG 〉はC におけるコモナド を定める。
全てのモナドが随伴から作ることができる。実際、典型的なモナドは多くの随伴から上の方法を用いて構成されている。2つの構成Eilenberg–Moore algebra とクライスリ圏 はモナドから随伴を構成する問題に対する、2つの両極端の解である。
脚注
参考文献
外部リンク
主要項目 関手 具体的圏 圏の類 一般化 人物 関連分野 関連項目
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