闇に囁くもの
『闇に囁くもの』(やみにささやくもの、The Whisperer in Darkness)は、アメリカ合衆国の小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説である。1930年2月から9月に執筆され、1931年8月にパルプ雑誌『ウィアード・テイルズ』に発表された。 概要それまでの『クトゥルフの呼び声』や『ダンウィッチの怪』においては簡単な説明程度しかなかった謎の怪生命体が、本作においてはその宇宙からの来歴など詳しく書かれるものとなっており、従来の作品よりSF作品的傾向が強まっている。この地球外生命体の来歴、実態を詳らかに描く傾向は、続く『狂気の山脈にて』や、『時間からの影』にて、さらに顕著になっており、そのような意味で、ラヴクラフトの作品世界のひとつ転換期に当たる作品だとも評されている[1]。 1928年にラヴクラフトは、アーサー・グッドイナフ (Arthur Goodenough) とバーモント州を訪れた。この時、バート・G・エイクリー (Bert G. Akley) という農家と出会ったと言われている。ロバート・M・プライスは[要出典]、エイクリーに変装した人物がニャルラトホテプではないかと推察し、その根拠に「ユゴスよりのもの」たちの会話内容を指摘した。 作中時は1928年。1927年のヴァーモントの大洪水や、1930年3月13日の冥王星発見の出来事からインスピレーションを得て執筆された。 他のクトゥルフ神話作品においてもエイクリーと同姓の人物が登場することがある。 雑誌掲載時はカーティス・C・センフが挿絵を担当し、あろうことかクライマックスのネタバレを挿絵に描いてしまっている。センフはろくに読まずに挿絵を量産し、作家たちからは暗殺王の仕事と嘆かれたという。[2] 作品内容あらすじミスカトニック大学のウィルマース教授は、バーモント州の山奥に怪物の伝説があることに興味を持ち、その伝説を収集していたが、バーモント州の洪水時、川に浮かんでいた奇妙な物体に関して当地の住民が伝説の怪物と結びつけていることについては批判的であった。そんな持論を新聞上に発表していた彼のもとに、ヘンリー・エイクリーなるバーモント州の山に住む在野の研究者から手紙が届く。 エイクリーは「私の先祖代々住んでいる土地は、太古、宇宙からやってきた怪物の拠点である。それを研究している私は物的証拠も得ているが、同時に何者かに付けねらわれてもいる」と述べる。ウィルマースとエイクリーは意見交換の文通を始めるが、そのうち手紙や電報、郵送した証拠品などがウィルマースの元に届かなかったり、偽の電報が届くことが再三起こる。更にエイクリーの家や車が銃撃されたり、自衛のために買った犬たちが夜間に殺されたりと、いよいよ危険なことが起こりはじめ、エイクリーは、ウィルマースにこの研究から身を引いたほうがよいという忠告をしはじめるようになる。 だが、ある日突然エイクリーから、怪物たちと和解したので、ウィルマースを家に招待したいという旨の手紙が送られてくる。手紙には「今まで送った証拠品も持参するよう」指示を出されていたことに加え、手紙が突然「肉筆ではなくタイプ打ちに」変わっていたことから、ウィルマースは疑念を抱きつつも、バーモント州の山奥深いエイクリー宅に赴いてみる。当地の駅ではノイスなる、妙になれなれしい男が出迎え、ウィルマースをエイクリー宅まで車で運ぶ。 そこで初めて会ったエイクリーは、病気と称し、暗い部屋の中に毛布をまとって手首だけをだした姿で、ソファーに身じろぎもせずに座りながら囁くような声で「異星生物のあみだした手術法で、脳を摘出し、宇宙旅行に行くことができる」などと言い、ウィルマースをもそれに誘う。 その日、エイクリーの家に泊まることとなったウィルマースだが、深夜に逃亡する。夜、エイクリーの座っていたソファーの上に、毛布とエイクリーそっくりの生首、そして両手首を見たからであった。 登場人物
クトゥルフ神話との関連惑星ユゴスと、異星生物「ユゴスよりのもの(ミ=ゴ)」が登場した。1930年3月13日の冥王星発見のニュースから影響を受けて執筆されている。 →詳細は「ユゴス」を参照
ストーリーに直接絡むのはユゴスとミ=ゴの2つだが、他にも複数の固有名詞をほのめかすような形でクトゥルフ神話大系と接続している。特に他作者が創造した神格であるツァトゥグァとハスターを取り込んだ意味は大きい。ラヴクラフト神話はこの2邪神を含む。 クラーク・アシュトン・スミスが創造したツァトゥグァを、ラヴクラフトは自作品に取り込んだ。スミスが正式に作品を発表するよりも前に、ラヴクラフトはスミスの原稿を読んでいたために、創造者よりも先にデビューさせるという珍事が発生した。また『墳丘の怪』もほぼ同時期に執筆されており、ツァトゥグァの情報を補完する。 →詳細は「ツァトゥグァ」を参照
先行作家が創造した「ハスター」が取り込まれ、同時に「ハリ湖 (the Lake of Hali)」「黄の印 (the Yellow Sign)」などの関連語も輸入された[注釈 1]。 →詳細は「ハスター」を参照
次の以下は、解説を含めて挙げる。
収録関連作品
脚注注釈出典 |