この項目では、シーメンス製の路面電車車両(Avanto)について説明しています。スペイン のレンフェ が運行する短距離高速列車サービス(Avant)については「アバント (列車) 」をご覧ください。
ヒューストン に最初に導入されたS70(2004年 撮影)
S70 は、ドイツ の鉄道車両メーカーであるシーメンス が路面電車 やライトレール 用に開発した、車内の70 - 80%が低床構造となっている部分超低床 電車 。アメリカ合衆国 を始めとした北アメリカ 向けに設計がなされている[ 1] [ 2] [ 3] [ 4] 。
この項目では、S70を基にヨーロッパ のトラムトレイン 向けに開発されたアヴァント (Avanto)についても解説する[ 3] [ 4] 。
概要
都心と郊外を結び長距離の専用軌道 を有するライトレール 向けに、2004年 から展開が開始された形式。耐候性抗張力鋼(LATH)で製造された車体は総重量を削減するため軽量化が重視されているのと同時に、アメリカにおける厳しい強度や安全基準を満たした設計がなされている。編成は3車体連接式 で、運転台側に動力台車を有する先頭車体が、屋根上に集電装置 を搭載し付随台車が設置された車体長が短い中間車体を挟み込む構造となっている。編成長は最短24.7 m、最長29.4 mから選択出来、自動連結器 を設置する場合は最大5両まで総括制御 による連結運転が可能である。設計最高速度は105 km/h(65 mph)を想定している[ 1] [ 5] [ 6] 。
車内全体のうち、動力台車がある車端部を除いた70%が床面高さを350 mmに抑えた低床構造になっており、乗降扉もその部分に設置されているため、乗客は都心や郊外に設置された低床式プラットホーム から段差なく乗降が可能である。屋根上には冷暖房双方に対応した空調装置 が搭載されている[ 1] [ 2] [ 5] [ 6] 。
また、都心の併用軌道 を中心に走行する路面電車 (ストリートカー)やプラットホーム の長さに制限がある路線向けとして、S70US (S70 Ultra Short)、もしくはストリートカー・S70 (Streetcar S70)とも呼ばれる小型仕様の製造も行われている。3車体連接式の編成や低床率70%の車内構造はS70と同様だが、全長を24.7 - 24.8 m級に縮める事で交差点 が多い都心の道路上でも自動車や歩行者の通行に支障をきたす事なく運用する事が可能である。また導入都市によっては最高速度が56 km/h(35 mph)に抑えられている[ 1] 。
2019年 以降はこれらの車両の設計を基に、IoT への対応による運用・保守の効率化や車内レイアウトの改良が施されたS700 の製造が進められている[ 7] [ 8] 。
導入都市
ヒューストン
メトロレール H1形 (2006年 撮影)
テキサス州 ヒューストン のライトレールであるメトロレール (英語版 ) は、S70が最初に導入された路線である。2004年 1月 の開通に併せて導入された最初の18両はH1形 、2012年 12月 以降増備車として導入された19両はH2形 と呼ばれており、前面形状や高床部分の床面高さなどに差異が存在する。このうちH2形は後述するユタ交通公社 (ソルトレイクシティ )向けの車両と共に発注が実施された[ 5] [ 6] [ 9] [ 10] 。
これらに加え、2019年 にはさらに14両のS70の発注が実施されており、これらの車両は車内レイアウトを見直すことで通路を広げ、車椅子 やベビーカーの往来が容易になるよう改良がなされる予定である[ 11] 。
製造年
総数
軌間
架線電圧
編成
運転台
台車数
備考・参考
2003 -(H1形)2012 -(H2形)
18両(H1形) 19両(H2形)
1,435mm
直流 750V
3車体連接車
両運転台
2台(動力台車) 1台(付随台車)
[ 5] [ 6] [ 9]
営業最高速度
全長
全幅
全高
床面高さ
低床率
軸距
重量
106km/h(H1形) 105km/h(H2形)
29,370mm
2,650mm
3,870mm (集電装置 含)
699mm(高床部分,H1形) 670mm(高床部分,H2形) 396mm(低床部分) 356mm(扉部分)
70%
1,900mm(動力台車) 1,800mm(付随台車)
44.7t(H1形) 44.1t(H2形)
設計最高速度
加速度
常用減速度
非常減速度
着席定員
車椅子スペース
最大定員
主電動機出力
120km/h(H1形) 111km/h(H2形)
1.34m/s2
1.34m/s2
2.20m/s2
72人(H1形)
4箇所
241人(H1形)
130kw×4基
サンディエゴ
サンディエゴ・トロリー 3000形
カリフォルニア州 サンディエゴ のライトレール であるサンディエゴ・トロリー では、2005年 以降S70やそれを基にした部分超低床電車の導入が続いている。最初に導入された車両は全長27.6 mの3000形 、2009年 から増備された車両は全長を24.8 mに縮めたS70US規格の4000形 、2019年 以降製造されている車両はS70USを基にメンテナンスの簡素化や車内レイアウトの改良が図られたS700規格の5000形 である[ 7] [ 12] [ 13] [ 14] 。
シャーロット
リンクス・ブルーライン
ノースカロライナ州 シャーロット で公共交通機関を運営するシャーロット地区交通局 (英語版 ) (CATS)はリンクス (Lynx)と言う愛称の路面電車 路線網を有するが、そのうち最初にS70が導入されたのは、2007年 の開業に併せて発注が行われたブルーライン であった。当初は16両が使用されたが、利用客の増加に伴い2010年 に4両が増備された他、2014年 にも路線延長用として22両の追加発注が実施され、同年10月 以降導入が行われている[ 15] [ 16] [ 17] 。
一方、CATSが運営する市街地のストリートカーであるゴールドライン (英語版 ) は2015年 の開通以降旧型路面電車を模したレプリカが使用されていたが、延伸計画に併せてこれらの車両を置き換える事となり、2016年 11月 に6両のS70がシーメンスに発注された。全長は25,908 mm(85 ft)、定員は255人(着席56人)で、延伸区間の一部は非電化の架線レス区間で建設されるため、車両には充電池 が搭載される。延伸区間の開通は2020年 を予定している[ 18] [ 19] 。
製造年
総数
軌間
架線電圧
編成
運転台
台車数
備考・参考
2007 -
42両(101-)
1,435mm
直流 750V
3車体連接車
両運転台
2台(動力台車) 1台(付随台車)
諸元はブルーライン向け車両に基づく[ 15] [ 16]
営業最高速度
全長
全幅
全高
床面高さ
低床率
軸距
重量
106km/h
28,528mm
2,650mm
3,870mm (集電装置 含)
699mm(高床部分) 396mm(低床部分) 356mm(扉部分)
70%
1,900mm(動力台車) 1,800mm(付随台車)
43.9t
設計最高速度
加速度
常用減速度
非常減速度
着席定員
車椅子スペース 自転車ラック
最大定員
主電動機出力
120km/h
1.34m/s2
1.34m/s2
2.20m/s2
68人
4箇所(車椅子スペース) 2箇所(自転車ラック)
230人
130kw×4基
ポートランド都市圏
トライメット タイプ4
トライメット (英語版 ) がポートランド都市圏 で運営するMAXライトレール (英語版 ) には、2009年 以降路線延伸や旧型車両の置き換え用としてS70およびS700の導入が実施されている。最初に登場した車両はタイプ4 (Type 4)であったが、空調 やシートピッチが利用客の不評を買った事から、2015年 以降導入されたタイプ5 (Type 5)ではそれらを含めた改良が実施された。2021年 からは高床車の置き換え用として、電子機器の改良を伴うS700規格のタイプ6 (Type 6)が導入される[ 20] [ 21] [ 22] [ 23] 。
ノーフォーク
タイド
バージニア州 ノーフォーク のライトレール路線であるタイド では、2011年 8月28日 の開業時から9両のS70が使用されている。定員は150人(着席70人)、営業最高速度は89 km/h(55 mph)で、通常営業には6両を使用し3両は予備車として車庫に待機する[ 24] [ 25] [ 26] 。
ソルトレイクシティ
TRAX (2011年 撮影)
2008年 、ユタ交通公社 はライトレール のTRAX の延伸計画に向けた車両としてS70を77両導入する契約がシーメンスとの間に交わされ、2011年 7月7日 から営業運転を開始した。プラットホーム の長さの関係上、全長が24.8 mに短縮された「S70US」として製造され、2013年 に開通したストリートカー路線であるSライン (英語版 ) にも塗装や前面の形状が変更された同型車両が使用されている[ 27] [ 28] [ 29] [ 30] 。
製造年
総数
軌間
架線電圧
編成
運転台
台車数
備考・参考
2010 -
77両
1,435mm
直流 600V
3車体連接車
両運転台
2台(動力台車) 1台(付随台車)
[ 27] [ 28]
全長
全幅
全高
床面高さ
低床率
軸距
重量
24,810mm
2,650mm
3,749mm (集電装置 含)
855mm(高床部分) 396mm(低床部分) 356mm(扉部分)
70%
1,900mm(動力台車) 1,800mm(付随台車)
43.8t
営業最高速度
加速度
常用減速度
非常減速度
着席定員
フリースペース
最大定員
主電動機出力
88km/h
1.34m/s2
1.34m/s2
2.18m/s2
60人
2箇所
225人
130kw×4基
ミネアポリス・セントポール都市圏
メトロ 200形
ツインシティーズとも呼ばれるミネアポリス とセントポール 両都市に跨る都市圏 には、メトロ (英語版 ) と呼ばれるライトレール が存在する。2011年 、この路線を運営するメトロ・トランジット (英語版 ) は路線延伸に備えてシーメンスとの間にS70を導入する契約を交わした。車椅子 利用客を始めとした様々な利用客に配慮した設計となっており、油圧サスペンションにより床面高さを調節する機能が搭載されている。最初の発注分は2013年 に営業運転を開始し、2014年 までに59両が投入された。さらに2015年 に5両、2016年 に27両の追加発注が実施されており、そのうち2016年発注分は車内レイアウトの改良が行われている[ 31] [ 32] [ 33] 。
製造年
総数
軌間
架線電圧
編成
運転台
台車数
備考・参考
2012 -
91両(201-)
1,435mm
直流 750V
3車体連接車
両運転台
2台(動力台車) 1台(付随台車)
[ 31] [ 32]
全長
全幅
全高
床面高さ
低床率
軸距
重量
28,742mm
2,650mm
3,870mm (集電装置 含)
670mm(高床部分) 396mm(低床部分) 356mm(扉部分)
70%
1,900mm(動力台車) 1,800mm(付随台車)
48.8t
最高速度
加速度
常用減速度
非常減速度
着席定員
車椅子スペース 自転車ラック
最大定員
主電動機出力
88km/h
1.34m/s2
1.34m/s2
2.2m/s2
63人
4箇所(車椅子スペース) 2箇所(自転車ラック)
231人
130kw×4基
アトランタ
アトランタ・ストリートカー
ジョージア州 アトランタ の公共交通ネットワークであるアトランタ・マルタ がアトランタ市内に運営するストリートカー であるアトランタ・ストリートカー では、2014年 の開通以降4両のS70(S70US)が使用されている。都心の併用軌道 を走行する事から最高速度が56 km/h(35 mph)と遅めに設定されている一方、車内の座席配置を見直す事で収容客数の増加を図っている。また車内には4箇所の車椅子スペースが存在する他、床面高さが調節可能な油圧式サスペンションが搭載されており、停留所から段差なしでの乗降が可能となるなどバリアフリー対策も多数講じられている[ 34] [ 35] [ 36] 。
製造年
総数
軌間
架線電圧
編成
運転台
台車数
備考・参考
2014
4両(1001-1004)
1,435mm
直流 750V
3車体連接車
両運転台
2台(動力台車) 1台(付随台車)
[ 35] [ 37]
全長
全幅
全高
床面高さ
低床率
軸距
重量
24,110mm
2,654mm
3,840mm (集電装置 含)
985mm(高床部分) 356mm(低床部分)
70%
1,900mm(動力台車) 1,800mm(付随台車)
43.7t
最高速度
加速度
常用減速度
非常減速度
着席定員
車椅子スペース
最大定員
主電動機出力
56km/h
1.34m/s2
1.34m/s2
2.25m/s2
60人
4箇所
195人
130kw×4基
シアトル
リンク・ライトレール
ワシントン州 シアトル を中心とした路線網であるリンク・ライトレール (英語版 ) を運営するサウンド・トランジット (英語版 ) は、2021年 以降に実施予定の大規模な延伸計画や列車本数・編成両数の増加に合わせ、2016年 にシーメンスとの間で122両分のS70の発注契約を交わした。さらに翌2017年 には30両のオプション分の追加発注が実施され、合計金額は6億4,250万ドルとなった。2019年 に最初の車両が完成し、翌2020年 から2024年 にかけて納入が行われる予定である[ 38] [ 39] 。
フェニックス
アリゾナ州 フェニックス を中心に公共交通機関を運営するバレーメトロ (英語版 ) のライトレールであるバレーメトロレール は、路線延伸や利用客増加への対応から2017年 に11両分のS70の発注を実施し、後に4両の追加発注も行われた。2022年 から営業運転を開始しており、他に53両分の追加発注が可能なオプション契約が結ばれている[ 40] [ 41] [ 42] [ 43] 。
製造年
総数
軌間
架線電圧
編成
運転台
台車数
備考・参考
2022 -
78両(予定)
1,435mm
直流 750V
3車体連接車
両運転台
2台(動力台車) 1台(付随台車)
[ 42] [ 43] [ 44]
全長
全幅
全高
床面高さ
低床率
軸距
重量
27,900mm
2,650mm
3,870mm (集電装置 含)
881mm(高床部分) 356mm(低床部分)
70%
1,900mm(動力台車) 1,800mm(付随台車)
47.55t
営業最高速度
加速度
常用減速度
非常減速度
着席定員
車椅子スペース
最大定員
主電動機出力
88km/h
1.34m/s2
1.34m/s2
2.00m/s2
62人
4箇所
210人
130kw×4基
オレンジ郡
カリフォルニア州 オレンジ郡 に2020年 以降開通予定のOCストリートカー (英語版 ) には、8両のS70が導入される事になっている。2018年 にオレンジ郡運輸公社(Orange County Transportation Authority, OCTA)によって発注が行われており、10両の追加発注も可能なオプションも契約に含まれている[ 45] 。
サクラメント
カリフォルニア州 サクラメント (カリフォルニア州) で公共交通機関を運営するサクラメント地域交通局 (英語版 ) は、2020年 にライトレール路線(サクラメントRTライトレール (英語版 ) )向けの新型車両・S700の契約をシーメンスとの間に結んだ。これは開業時から使用されていたU2A形 の置き換えやライトレールの近代化を目的としたもので、2020年 に締結した当初の契約分では20両の導入が計画されていたが、その後2022年 にオプション権を行使する形で8両の追加発注が実施されている。2023年 に最初の車両がサクラメントに納入されており、プラットホーム の嵩上げを始めとした施設の改良を経て2024年 夏季から順次営業運転に投入される予定となっている[ 46] [ 47] [ 48] 。
未導入都市
オタワ
カナダ のオンタリオ州 オタワ の都市鉄道であるO-トレイン の一環として市内を南北に結ぶライトレール路線が計画され、その建設にシーメンス が携わった事により、開通に併せてS70の導入が予定されていた。だが、オタワ市議会での採択により計画自体が中止されたため、これらの車両が製造される事は無かった[ 49] 。
アヴァント
上記の北アメリカ向け車両を基に開発されたヨーロッパ向け車両はアヴァント (Avanto)と呼ばれており、2019年 の時点で鉄道 規格で建設された路線を走行するトラムトレイン 用としてフランス国鉄 (SNCF)が導入している。編成は5車体連接式 で、中央部の車体は台車がないフローティング構造である。路面電車 と普通鉄道という線路条件や安全基準が異なる路線を直通するため、直流 750 V(路面電車 、ライトレール 区間)と交流 25 kV(普通鉄道区間)双方の電圧に対応可能な構造になっている他、事故の際の安全対策のため車体の強度が増している。車体や内装のデザインについては、ドイツ ・ミュンヘン のインダストリアルデザイン 企業であるデジタルフォーム(Digitalform)が手掛けている[ 3] [ 4] [ 51] [ 53] 。
フランス国鉄ではアヴァントにU 22500形 という形式名を付けており、フランス 初のトラムトレインとして2006年 に開通したパリ のT4線 向けに15両[ 注釈 1] 、ミュルーズ 中心部 - タン 間を結ぶトラムトレイン(2010年 開通)向けに12両が製造されている。また、パリで使用されている車両のうち1両については、2017年 以降に省エネ、低騒音、メンテナンスコスト削減などの効果を持つ、三菱電機 製の走行風自冷式の屋根上設置型変圧器への換装を実施している。ただし、このパリ向け車両については2022年 現在、アルストム 製のシタディス・デュアリス (フランス語版 ) による置き換えが進んでいる[ 50] [ 54] [ 55] [ 56] [ 57] 。
関連項目
脚注
注釈
^ 開業時は普通鉄道に用いられた交流電化区間のみを走行しており、併用軌道 上の直流電化区間への乗り入れは2019年 に行われた延伸開業以降実施されている。
出典
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