フランツ・シューベルト
ミサ曲第5番 変イ長調 D 678 は、フランツ・シューベルト が1822年に作曲したミサ曲 。シューベルトの生前に本作が演奏されたという記録は残っていない。ミサ・ソレムニス に分類される。
概要
シューベルトは1819年11月に本作の作曲に着手し、3年後の1822年に完成させている。この間、作曲者は他の様々な仕事にも注意を払わねばならなかった。そのうちのひとつには兄のフェルディナント に依頼されたミサ曲(D755)があった。シューベルトは1822年11月にオルガン・パートを脱稿し、1823年には演奏の計画も立てられたものの、彼の存命中に演奏が行われたという記録は存在しない。
本作と続く第6番 はシューベルトの「後期ミサ曲」と看做されている。この2作は「語句を音楽的に解釈しようとする姿勢」において、それまでの4作とは一線を画している。シューベルトは技術力と和声 に関する知識の総体的な円熟の利点を活用し始めており、宗教音楽と世俗音楽の両方を作曲してきた経験と合わせ、標準的な典礼文にそれ以上の意味合いを付加している。これまでの楽曲でもテクストから一部の節を省略することが知られていたが、シューベルトは後期ミサ曲においてさらに進んだ自由さを見せており、「意味するもののある特定の側面に関する表現を深める、もしくは強化する」目的でテクストを足したり引いたりしている。
シューベルトは1826年に改訂を行い、グローリア のCum Sancto Spiritu の部分でフーガ を簡素化し、Osannaを変更した。1827年にはこの版を用いてホーフブルク宮殿 の礼拝所の副カペルマイスター 登用オーディションに臨んだが、挑戦は成功しなかった。シューベルトはこのミサ曲を宮廷で演奏して欲しいと要望したが、宮廷楽長 のヨーゼフ・アイブラー は皇帝フランツ1世 が好む様式でないという理由でこれを却下している。彼が宮廷作曲家であったヨーゼフ・ヴァイグル を贔屓しており、演奏によって生じることになる謝金をシューベルトに支払いたくなかったため、こうした口実を用いたという可能性もある。
シューベルト学者のブライアン・ニューボールド は後期ミサ曲を「2つの最良かつ最も堅固な歌唱作品」と看做しており、シューベルト自身も変イ長調の作品を非常に高く評価していたに違いない。それは「長期にわたり携わった」こと、そして何度も本作を見直していることから窺える。1822年12月に友人のヨーゼフ・フォン・シュパウン に宛てた手紙では、このミサ曲が「上手くできたので」皇帝フランツ1世もしくは皇后カロリーネ へ献呈することを考慮したと記されている。
このミサ曲と未完のオラトリオ 『ラザロ 』(D689)は、シューベルトの生死観を反映した作品であると考えられている。
後期ミサ曲はアントン・ブルックナー のミサ曲第3番 に影響を与えた可能性がある。
編成
ソプラノ 、アルト 、テノール 、バス 独唱 、混声合唱 (divisiあり)、ヴァイオリン 2部、ヴィオラ 、フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ホルン 2、トランペット 2、トロンボーン 3、ティンパニ 、通奏低音 (チェロ 、コントラバス 、オルガン )
楽曲構成
全6曲から成る。演奏時間は約46分。注釈は1822年版に基づく。
キリエ アンダンテ ・コン・モート 変イ長調 2/2拍子
グローリア アレグロ ・マエストーソ ・エ・ヴィヴァーチェ ホ長調 3/4拍子
Gratias agimus tibi アンダンティーノ イ長調 2/4拍子
Domine Deus, Rex coelestis イ長調
Gratias agimus tibi アンダンティーノ イ長調 2/4拍子
Domine Deus, Agnus Dei アレグロ・モデラート ホ長調 2/2拍子
クレド アレグロ・マエストーソ・エ・ヴィヴァーチェ ハ長調 2/2拍子
Et incarnatus est グラーヴェ 変イ長調 3/2拍子
Et resurrexit アレグロ・マエストーソ・エ・ヴィヴァーチェ ハ長調 2/2拍子
サンクトゥス アンダンテ ヘ長調 12/8拍子
オーケストラが短い前奏曲をヘ長調で開始したところへ、合唱が嬰ヘ短調 で入ってきて「見事な」効果をもたらす。
Osanna in excelsis アレグロ ヘ長調 6/8拍子
ベネディクトゥス アンダンテ・コン・モート 変イ長調 4/4拍子
Osanna in excelsis アレグロ ヘ長調 6/8拍子
アニュス・デイ アダージョ 変イ長調 3/4拍子
Dona nobis pacem アレグレット 変イ長調 2/2拍子
出典
参考文献
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外部リンク