『ポートレイト・イン・ジャズ』は、村上春樹文、和田誠画のエッセイ集および画集。
概要
1992年、和田が20人のジャズ・ミュージシャンの絵を描き、「JAZZ」という個展に出品したのがことの始まりである。そのときの絵が村上の目にとまり、それぞれの作品(人物)に合わせたエッセイを付けることになった[1][注 1]。『芸術新潮』に2人のエッセイと絵が連載される(1996年6月号~1997年5月号)。1997年、和田は「SING」という展覧会で再度ジャズ・ミュージシャンたちの絵を描き、描き下ろしも加え、同年12月18日、本書が新潮社より刊行された[3]。
2004年2月1日、本書と続編の『ポートレイト・イン・ジャズ2』を合わせて1冊にし、書き下ろし3編(アート・ペッパー、フランク・シナトラ、ギル・エヴァンズ)を加えたものが、同じタイトルで新潮文庫として刊行された[4]。
1998年、『ポートレイト・イン・ジャズ 和田誠・村上春樹セレクション』と題したCDがポリドールとソニーの2社からそれぞれ発売される。村上はポリドールから発売されたCDにライナーノーツ「煙が目にしみたりして」を寄稿。「煙が目にしみたりして」はのちに『村上春樹 雑文集』(新潮社、2011年1月)に収録された。
収録アーティスト
- チェット・ベイカー
- 『CHET BAKER QUARTET』
- ベニー・グッドマン
- 『BENNY GOODMAN PRESENTS EDDIE SAUTER ARRANGEMENTS』
- チャーリー・パーカー
- 『BIRD AND DIZ』
- ファッツ・ウォーラー
- 『FIRE IN THE WEST』(Herb Geller)
- アート・ブレイキー
- 『LES LIAISONS DANGEREUSES』
- スタン・ゲッツ[注 2]
- 『AT STORYVILLE VOL.1』[注 3]
- ビリー・ホリデイ[注 4]
- 『THE GOLDEN YEARS』
- キャブ・キャロウェイ
- 『CHU』(Chu Berry and His Stompy Stevedores with the Cab Calloway Orchestra)
- チャールズ・ミンガス
- 『PITHECANTHROPUS ERECTUS』
- ジャック・ティーガーデン
- 『COAST CONCERT』(Bobby Hackett and His Jazz Band)
- ビル・エヴァンズ
- 『WALTZ FOR DEBBY』
- ビックス・バイダーベック
- 『BIX BEIDERBECKE 1927-1929』
- ジュリアン・キャノンボール・アダレイ
- 『CANNONBALL ADDERLEY LIVE!』
- デューク・エリントン
- 『IN A MELLOTONE』
- エラ・フィッツジェラルド
- 『ELLA AND LOUIS AGAIN VOL.2』
- マイルズ・デイヴィス
- 『'FOUR' & MORE』
- チャーリー・クリスチャン
- 『CHARLIE CHRISTIAN MEMORIAL ALBUM』
- エリック・ドルフィー
- 『OUT THERE』
- カウント・ベイシー
- 『BASIE IN LONDON』
- ジェリー・マリガン
- 『WHAT IS THERE TO SAY?』
- ナット・キング・コール[注 5]
- 『AFTER MIDNIGHT』
- ディジー・ガレスピー
- 『AT NEWPORT』
- デクスター・ゴードン
- 『HOMECOMING』
- ルイ・アームストロング
- 『A PORTRAIT OF LOUIS ARMSTRONG 1928』
- セロニアス・モンク[注 6]
- 『5 BY MONK BY 5』
- レスター・ヤング
- 『PRES AND TEDDY』
脚注
注釈
- ^ ミュージシャンの人選は和田誠。村上春樹はのちに「あの本はまず和田誠さんが絵を描かれて、それに僕が文章をつけました。まず絵があったわけです。ということは、人選をしたのは和田さんなのです。僕ではありません」と述べている[2]。
- ^ 音楽評論集『意味がなければスイングはない』(文藝春秋、2005年11月)において、村上はスタン・ゲッツにまるまる一章を割いている。
- ^ 「アル・ヘイグ、ジミー・レイニー、テディー・コティック、タイニー・カーンのリズム・セクションは息を呑むほど完璧である」と村上は本書で述べているが、このスタン・ゲッツのバンドは長編小説『1973年のピンボール』の中で2回言及されている。
「カセット・テープで古いスタン・ゲッツを聴きながら昼まで働いた。スタン・ゲッツ、アル・ヘイグ、ジミー・レイニー、テディ・コティック、タイニー・カーン、最高のバンドだ。『ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド』のゲッツのソロをテープにあわせて全部口笛で吹いてしまうと気分はずっと良くなった」[5]
「僕は腰を下ろしたまま『ジャンピング・ウィズ・シンフォニイ・シッド』のはじめの四小節を口笛で吹いてみた。スタン・ゲッツとヘッド・シェイキング・アンド・フット・タッピング・リズム・セクション……。遮るものひとつないガランとした冷凍倉庫に、口笛は素晴しく綺麗に鳴り響いた」[6]
- ^ 村上はビリー・ホリデイをテーマにしたエッセイをほかにも多く書いている。『村上朝日堂はいほー!』(文化出版局)に収められた「LEFT ALONE (ビリー・ホリデイに捧げる)」、『村上春樹 雑文集』(新潮社)に収められた「ビリー・ホリデイの話」、『村上ソングズ』(中央公論新社)に収められた「自活する子供を神は祝福する」("God Bless the Child" の訳詞とエッセイ)など。また、「言い出しかねて」というエッセイ(『アルネ』3号、2003年3月)では、ビリー・ホリデイがカウント・ベイシー楽団とともに吹き込んだ "I Can't Get Started" についてその魅力を詳細に語っている。
- ^ 「『国境の南(South of the Border)』も彼の歌で聴いた覚えがあって、その記憶をもとに『国境の南、太陽の西』という小説を書いたのだけれど、あとになってナット・キング・コールは『国境の南』を歌っていない(少なくともレコード録音はしていない)という指摘を受けた。」と村上は書いている。
なお、『羊をめぐる冒険』にもナット・キング・コールが歌う「国境の南」は登場する。「僕は真空管のアンプのパワー・スイッチを入れ、でたらめにレコードを選んで針を置いてみた。ナット・キング・コールが『国境の南』を唄っていた」[7]
- ^ アンソロジー『セロニアス・モンクのいた風景』(新潮社、2014年9月)に再録される際、大幅に加筆された。
出典
関連項目