作曲を依頼したのは、裕福な鉱山技師で木管楽器とチェロの愛好家であったジルヴェスター・パウムガルトナー(Silvester Paumgartner)である。シューベルトが依頼を受けたのは1819年7月、29歳年上の友人で歌手のヨハン・ミヒャエル・フォーグルとともに北オーストリアのシュタイアー地方を旅行で訪れた際のことであった(フォーグルは、後に歌曲集『冬の旅』(作品89, D 911)を初演した名歌手として知られる)。また、コントラバスを加えた編成にすることと、歌曲『鱒』の旋律に基づく変奏曲を加えることは、このパウムガルトナーからの依頼であったという[1]。現在では自筆譜は紛失しており、上記の作曲の過程については友人のアルベルト・シュタートラー(Albert Stadler)の回想録と筆写譜などによる推測が主である。
全5楽章、演奏時間は約40分。全曲を通して、ピアノパートは高音域での両手のオクターヴによるユニゾンが多く、特に第4楽章の第3変奏などは現代のピアノでは弾きにくい。そのため、シューベルトがピアノの書法を高度に精通していなかった例として歌曲『魔王』(作品1, D 328)の伴奏などと共に引き合いに出されることがある[3]が、当時のピアノは現代のピアノとは異なり、ウィーン式のシングルアクションであったため鍵盤は軽く浅く、オクターヴのグリッサンドもより容易であった。また、音量は現代のピアノよりも小さいものの、相対的な強弱の幅は十二分にあった(弱音の幅が非常に広い)。シューベルトは同時期に作曲された可能性がある『ピアノソナタ第13番 イ長調』(作品120, D 664)に於いても、オクターヴの音形を効果的に用いている他、シューベルトと同時代を生きたクレメンティやツェルニーが作曲した作品にも同程度の難しさを要求するものもあるため、決してシューベルトの作品だけが奇抜な難易度を誇っているわけではない。
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Chusid, Martin (April 1997). “Schubert's chamber music: before and after Beethoven”. In Cristopher H. Gibbs (英語). The Cambridge Companion to Schubert. Cambridge Companions to Music. United KIngdom: Cambridge University Press. pp. 174-192. ISBN9780521484244
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Gibbs, Cristopher H. (April 1997). “German reception: Schubert's 'journey to immortality'”. In Cristopher H. Gibbs (英語). The Cambridge Companion to Schubert. Cambridge Companions to Music. United KIngdom: Cambridge University Press. pp. 241-253. ISBN9780521484244