アマランサス (学名 : Amaranthus )はヒユ科 ヒユ属(アマランサス属)の植物の総称。一年草 の擬似穀類 である[ 1] 。アマランス とも。
ギリシャ語 の Αμάρανθος (アマラントス、(花が)しおれることがない)が語源である。
名前
その学名(古代ギリシア語 : ἀμαράντινος )は、古代ギリシャ語の ἀ- 「無」、μαραίνω 「萎れる」及び ἄνθος 「花」から由来するもので、文字通り「萎れることのない花」を意味する。乾燥したアマランサスは3から4か月間そのままの形を保つので、冬の時に眺めるようにこの花を乾燥させることもよくある[ 2] 。これを理由に、アマランサスを「人々の冬の友」と呼ぶことがある。
形態・生態
一年草。非耐寒性。葉 は互生 し、晩夏から初秋にかけて色づく。
栽培
アマランサスは紀元前6世紀から栽培されている[ 3] 。アステカ人 には「 huauhtli 」と呼ばれ、彼らの主食であり、儀式の食事と飲み物にも加工されるためアステカ宗教 (英語版 ) に欠かせない穀物であった。スペイン人 に侵略されて栽培が禁止される以前では、エネルギー消費量の80%を占めていたと考えられている。
アマランサスは、pH 、塩分 、環境 、温度 の変化、干ばつ に強い丈夫な植物である[ 4] 。遺伝的多様性と環境適応能力に優れている[ 5] 。
人間との関わり
南米の祝祭「死者の日 」には、ドクロ の形をした菓子のアレグリア が作られる。
アマランサスの中でも、ヒモゲイトウ (Amaranthus caudatus ) が最も大規模に栽培されている。
食用
『成形図説 』より(左)
古代 南米 のインカ文明 などでは、種子を穀物 として食用 にしてきた。これはトウモロコシ や豆類 に匹敵する重要作物 であった。19世紀 に入るとインド などでも大規模に栽培されるようになった。日本 へは江戸時代 に、主に観賞 用として伝来した。東北地方 では小規模ながら、アカアワなどの名前で食用にも栽培されていた。
中国 では、中国語 (北京語 )で 莧菜 (xiàncài 、シエンツァイ)、広東語 で 莧菜 (yin6 choi3 、インチョイ)、上海語 で 米莧 (ミーシ)と呼び、緑色の葉と茎 を食用にしている。英語 では、一般に chinese spinach (中国のホウレンソウ )などと呼ぶが、オーストラリア では、広東語を英語風に書いた een choy (イーンチョイ)を野菜としての標準名としている。独特のえぐ味 と濃い風味がある。炒めると葉に含まれる色素 が油 に溶出して、紅色に染まる品種 (ハゲイトウ )が多いが、赤くならない品種もある。
アフリカの一部では、ホナガイヌビユ の葉が食用とされている[ 6] [ 7] 。ジャマイカでは、カラルー (英語版 ) と呼ばれ、モルディブ でもディベヒ語 で massaagu と呼ばれ料理に使われる[ 8] 。ほか、インドでも野菜として食され、サンスクリット語 で Tanduliya と呼ばれる伝統的なアーユルヴェーダ 医学のハーブ として利用されている[ 9] 。葉以外の種子も水で茹でたり、ビスケットにしたり、スナックとしても食用可能である[ 10] 。
栄養
種子
種子は生の状態では、栄養の吸収が阻害されるため消化できない[ 11] 。したがって、ほかの穀物のように調理しなければならない。
リン 、マンガン 、鉄 などのミネラルを豊富に含む。アミノ酸 のリシン やタンパク質 にも優れる[ 12] 。しかし、必須アミノ酸 のロイシン とトレオニン は不足している[ 13] [ 14] 。
Educational Concerns For Hunger Organization (ECHO)によれば、シュウ酸塩 、硝酸塩 、サポニン 、ポリフェノール 化合物などの反栄養素 (英語版 ) を含む[ 3] 。これらは水で茹でた後、水を捨てる等の調理法で毒性を減らせる。
グルテン を含まないため、グルテン関連障害 の人々、グルテンフリー・ダイエット に最適である[ 15] [ 16] [ 17] 。
葉
調理した葉には、ビタミンA 、ビタミンC 、カルシウム 、マンガン、葉酸 が豊富である[ 18] 。
観賞用・工業用
観葉植物 としても栽培 される。花からは赤 系の染料 (ベタレイン )が採れ、その色はアマランス色 (英語版 ) (● )と呼ばれる。ただし、合成着色料 の赤色2号 もアマランスと名づけられているが、色が似ているだけで無関係な物質である。
分布と生態
アマランサスは、その種類、亜種や形がもっとも多く見られる南アメリカから分布してきた[ 19] 。そこからアマランサスは北アメリカ、インドその他の国々へ波及し、インド北部及び中国は現在アマランサスの多くの種類が植える第二の波及中心地となった。
スペイン人はアマランサスの種子をヨーロッパへ持ち込んで先ず観賞用植物として植えるようになり、18世紀から穀物及び飼料作物として栽培された。そのあと、アマランサスの様々な種類がしばしば互いに交雑して観賞用の希少性を失い、肥沃な土地に雑草となった。
化学
アマランサスの種子には栄養阻害となりうるポリフェノール 、サポニン、タンニン類及びシュウ酸塩類などの有害物質が含まれている。これらはアク抜き処理など調理で減少する[ 20] 。
油
アマランサスの総脂肪酸の5%を占めるスクアレン (スクワラン)は主にサメ肝油から抽出され栄養補助食品や化粧品において使用される成分だが、代替または市場的付加価値(植物由来)を目的としてアマランサスからの抽出物が使われる場合がある[ 21] 。
分類
ヒユ (莧、A. tricolor )の仲間であるが、形態は多様である。和名 に「ケイトウ(鶏頭)」を含む種も多いが、ケイトウ (Celosia argentea ) は同科別属である。
ヒユ属の種分化は非常に多様で、雑種 も多く、分類は難しい。種 の数は分類により約20種 - 約300種と大きな幅がある[ 22] 。近年の研究によると、ヒユ属は3亜属 [ 23] 70種[ 24] に分類できる。
ITIS による42種を挙げる。和名・英名との対応は、別の分類では異なることもある。
Amaranthus acanthochiton greenstripe
Amaranthus acutilobus sharplobe amaranth
Amaranthus albus シロビユ (白莧)・ヒメシロビユ white pigweed, prostrate pigweed, pigweed amaranth
Amaranthus arenicola ヒメアオゲイトウ sandhill amaranth, torrey amaranth
Amaranthus australis southern amaranth
Amaranthus bigelovii Bigelow's amaranth
Amaranthus blitoides アメリカビユ ・イヌヒメシロビユ mat amaranth, prostrate amaranth, prostrate pigweed
Amaranthus blitum イヌビユ (犬莧) purple amaranth (= A. lividus )
Amaranthus brownii Brown's amaranth
Amaranthus californicus California amaranth, California pigweed
Amaranthus cannabinus tidalmarsh amaranth
Amaranthus caudatus ヒモゲイトウ (紐鶏頭)・センニンコク(仙人穀)・アカアワ(赤粟) love-lies-bleeding, quilete
Amaranthus chihuahuensis Chihuahuan amaranth
Amaranthus crassipes サジビユ spreading amaranth
Amaranthus crispus crispleaf amaranth
Amaranthus cruentus スギモリケイトウ ・フジゲイトウ red amaranth
Amaranthus deflexus ハイビユ largefruit amaranth
Amaranthus dubius spleen amaranth
Amaranthus fimbriatus fringed amaranth, fringed pigweed
Amaranthus floridanus Florida amaranth
Amaranthus greggii Gregg's amaranth
Amaranthus hybridus ホナガアオゲイトウ smooth amaranth, smooth pigweed (= A. chlorostachys = A. patulus ホソアオゲイトウ)
Amaranthus hypochondriacus Prince-of-Wales-feather
Amaranthus lineatus Australian amaranth
Amaranthus muricatus African amaranth
Amaranthus obcordatus Trans-Pecos amaranth
Amaranthus palmeri オオホナガアオゲイトウ ・タリノホアオゲイトウ carelessweed, Palmer's amaranth
Amaranthus polygonoides tropical amaranth
Amaranthus powellii ホナガアオゲイトウ ・イガホビユ Powell amaranth, Powell pigweed
Amaranthus pringlei Pringle's amaranth
Amaranthus pumilus seaside amaranth
Amaranthus retroflexus アオゲイトウ red-root amaranth, redroot pigweed
Amaranthus rudis tall amaranth, common waterhemp
Amaranthus scleropoides bonebract amaranth
Amaranthus spinosus ハリビユ (針莧) spiny amaranth
Amaranthus thunbergii Thunberg's amaranth
Amaranthus torreyi Torrey's amaranth
Amaranthus tricolor ハゲイトウ (葉鶏頭)・ヒユ(莧)・ヒユナ(莧菜)・ガンライコウ Joseph's-coat (= A. gangeticus )
Amaranthus tuberculatus ヒユモドキ rough-fruit amaranth, tall waterhemp
Amaranthus viridis ホナガイヌビユ (穂長犬莧)・アオビユ(青莧)・ slender amaranth
Amaranthus watsonii Watson's amaranth
Amaranthus wrightii Wright's amaranth
脚注
^ “第3章 資料 ”. 文部科学省. 2020年5月20日 閲覧。
^ “Modeling Thin Layer Drying of Amaranth Seeds under Open Sun and Natural Convection Solar Tent Dryer ”. academia.edu . 2022年12月25日 閲覧。
^ a b “Amaranth: Grain & Vegetable Types ” (PDF). ECHO Technical Note (1983年). 2018年3月18日 閲覧。
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^ “Squalene Market Size to Exceed USD 240 Million by 2022: Global Market Insights Inc. ”. prnewswire.com . 2023年6月20日 閲覧。
^ NBCI Taxonomy Browser は(雑種・未記載除き)23種、ITIS は42種
^ Mosyakin, S.L.; Robertson, K.R. (1996), “New infrageneric taxa and combinations in Amaranthus (Amaranthaceae)”, Ann. Bot. Fennici 33 : 275-281
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関連項目
ウィキスピーシーズに
ヒユ属 に関する情報があります。
ウィキメディア・コモンズには、
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外部リンク