2018 AG37
2018 AG37 は、太陽から132.2 ± 1.5 au(約197.8 ± 2.2 億km)[8]という現在知られている太陽系内のどの天体よりも遠く離れた観測史上最遠の位置で発見された天体として知られる太陽系外縁天体である[1][3]。2018年1月、仮説上で存在が示されているプラネット・ナインの探索中に初めて観測され、これまで多くの太陽系外縁天体を発見してきたスコット・S・シェパード、チャドウィック・トルヒージョ、David J. Tholenによって2021年2月に発表されたプレスリリースにてその存在が確認された。2018 AG37が太陽からとても離れたところに位置していることから、それを強調して「ファーファーアウト(FarFarOut)」という愛称が用いられている[1][2][3]。推定される直径は400 kmで、準惑星候補とみなせる天体の下限に近い大きさを持つとされる[1][3][9]。 見かけの等級は約25等級で、世界最大級の望遠鏡でしか観測することが出来ないほど非常に暗い[4]。太陽からあまりに遠く離れているため、2018 AG37は地球から見ると背景の恒星の間を非常にゆっくりと移動しており、発見されてから最初の2年間では9回しか観測されていない[5]。2018 AG37の軌道要素には非常に大きな不確実性があり、より詳細な軌道要素が判明するにはさらに数年の観測弧(英語: Observation arc)[注 2]が必要となる。2021年10月時点では、 JPL Horizons On-Line Ephemeris System は2005年頃に2018 AG37は太陽から約133 au離れた遠日点を通過したと予測しているが[8]、その一方で Project Pluto は1960年頃に太陽から約135 au離れた遠日点を通過していると予測している[10]。 発見2018 AG37は、2018年1月15日にハワイ島のマウナケア天文台にある口径8.2 mのすばる望遠鏡を用いて観測を行った天文学者のスコット・S・シェパード、チャドウィック・トルヒージョ、David J. Tholenによって最初に観測された[4][7]。 しかし、2019年1月にシェパードが行う予定だった講演が悪天候により延期になったことで、代わりに2018年にすばる望遠鏡が撮影した画像の確認作業を行うことにした時まで2018 AG37の存在は認知されなかった[11]。シェパードは2018年1月に1日間隔で撮影された2枚の画像の中で、見かけの等級が25.3等級と非常に暗い天体が背景の恒星の間を非常にゆっくりと移動していることに気づいた[4]。2枚の画像中における位置に基づいて、シェパードはこの天体がその約1ヶ月前に彼自身のチームが発見を発表したばかりの 2018 VG18(ファーアウト、Farout) よりも遠い、太陽から約140 au離れた位置にあると推定した[2][11]。シェパードは、同年2月21日に延期されていた講演を行い、2018 AG37の発見について言及し、以前に太陽から観測史上最遠の位置で発見された2018 VG18に使用されていた愛称「Farout」を踏まえて、「FarFarOut」という愛称をこの天体に冗談めかして使用した[11]。 2018 AG37の発見に続いて、2019年3月にシェパードがチリのラスカンパナス天文台にある口径6.5 mのマゼラン望遠鏡を使って観測を行ったところ、その存在は再確認された。その後、同年5月と2020年1月に、再びマウナケア天文台のすばる望遠鏡による追加の観測が行われた。2年間に渡るこれらの観測により、2018 AG37の暫定的な軌道解が確立され、小惑星センター(MPC)による正式な発見の確認と発表が可能になった[12]。2018 AG37の確認は2021年2月10日にカーネギー研究所が公開したプレスリリースにて正式に発表された[3]。 名称2018 AG37は、その発見以前に観測史上最遠の位置にあることで知られていたことから「ファーアウト(Farout)」という愛称で呼ばれていた太陽系外縁天体 2018 VG18 よりもさらに遠い位置に存在していたことからファーファーアウト[1](FarFarOut)[2][3]という愛称が付けられている。正式な名前である「2018 AG37」は、発見が正式に発表された際に小惑星センターから付与される仮符号での名称である[4]。仮符号は天体の発見日を示すもので、「2018 AG37」という名称はこの天体が2018年1月の前半の間に発見された932番目の天体であることを意味している[注 3][13]。 2018 AG37は観測弧が短く、軌道の不確実性が大きいため、小惑星センターから公式な小惑星番号は割り当てられていない[5][7]。小惑星番号は、通常は4回以上に渡って衝を観測した小惑星に割り当てられる。今後の観測で明確に軌道要素が判明し、小惑星番号が割り当てられてられると発見者による固有名の命名が可能となる[12][14]。 軌道2021年時点では2018 AG37は過去2年間の間にわずか9回の観測しかされていない[7]。太陽からはとても離れた位置にあるが故に天球上では非常にゆっくりと移動して見えるため、2年間の観測だけでは正確な軌道を決定することができず、2018 AG37の軌道は非常に不確実なものになっている[3]。軌道の不確実さを表す「Uncertainty parameter」は最高ランクの「9」となっており[7]、軌道の不確実性を改善するには、これから数年間に渡って追加の観測が必要となる[3][9][14]。2018 AG37は毎年1月に衝を起こす[8]。 2年間の観測弧により2018 AG37までの距離および、その位置を決定づける軌道要素である軌道傾斜角と昇交点黄経は比較的よく求められている。一方で軌道の形状と天体の動き方を決定づける軌道離心率や平均近点角などは、2018 AG37の動きが非常にゆっくりなので、2年間だけではその軌道の大部分をカバーできず、十分な精度で求めることができていない[5]。小惑星センターおよびジェット推進研究所の JPL Small-Body Database が提供している名目上の最適軌道解(Nominal best-fit orbit solutions)によると、軌道長半径は約80.2 ± 4.5 au、軌道離心率は0.655 ± 0.021、近日点距離と遠日点距離はそれぞれ27.6 ± 0.2 au、132.7 ± 7.4 auとなっている[5]。未だに軌道の不確実性は大きいが、700年程度の公転周期で太陽の周りを公転しているとみられる[3]。 名目上の最適軌道解における近日点距離の不確実性を考えると、2018 AG37は近日点通過前後の期間では海王星軌道(30.1 au)を横断するとみられ、海王星軌道との最小交差距離(MOID)は約4 au(約6億 km)とされている[7][3]。2018 AG37の近日点距離が比較的短く、かつ軌道が細長い楕円形になっていることは過去に海王星と接近した際に強い重力相互作用を受けたことを意味している[3][9]。このように海王星との接近で、太陽から遠いところで細長い軌道を描くようになった太陽系外縁天体は他にも知られており、これらはまとめて散乱円盤天体(SDO)と呼ばれている[6]。現在でも海王星と軌道が交差しているため、今後も2018 AG37は海王星に接近する可能性がある[1][3]。 太陽からの距離2021年時点で、2018 AG37は現在知られている太陽系内の天体の中で最も太陽から離れた位置にある。2018 AG37は当初は太陽から約140 au(約210億 km)離れていると推定されたが、初期の観測弧が非常に短かったため、この推定は不確かなものだった。2年間の観測弧に基づくと、初観測された2018年1月15日時点の2018 AG37の太陽からの距離は132.2 ± 1.5 au(約197.8 ± 2.2 億km)となる[8]。これは太陽から冥王星までの距離の約4倍に相当する[9]。 発見された時点で観測史上最遠の距離にあったのは現時点では2018 AG37だが、放物線(軌道離心率が1)に近い軌道を持つ長周期彗星もしくは非周期彗星には現在これよりも遠いところに位置しているものもある。現在、紀元前44年に出現したカエサル彗星(C/-43 K1)は800 au(1200億 km)以上[15]、1858年に出現したドナティ彗星(C/1858 L1)は145 au(220億 km)[16]離れたところに位置していると計算されている。しかしこれらの天体は、現在ではどれほど高性能の望遠鏡を用いたとしても観測することができない。 遠日点距離が2018 AG37より遠い太陽系外縁天体も存在しており、すでに100個以上が知られている[17]。
物理的特性見かけの明るさと距離に基づいて、小惑星センターは2018 AG37の絶対等級を4.2等級と算出しており[7]、既知の散乱円盤天体の中では12番目に絶対等級が明るいとしている[6]。 2018 AG37の大きさは直接測定されていないが、幾何アルベドが0.10~0.25の範囲だとするとその直径は400~600 kmになるとみられる[22]。発見者のシェパードはアルベド(反射率)が高く、表面には氷が豊富に含まれていると仮定して、2018 AG37の直径はこの範囲の下限に近い400 km程度と推定している[3]。これは準惑星に分類できる下限に近い大きさで、2018 AG37は静水圧平衡によって回転楕円体のような形状になる可能性がある[3][14]。 脚注注釈
出典
関連項目外部リンク
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