1986年の野球 において、メジャーリーグベースボール(MLB) 優勝決定戦の第83回ワールドシリーズ (英語 : 83rd World Series )は、10月18日から27日にかけて計7試合が開催された。その結果、ニューヨーク・メッツ (ナショナルリーグ )がボストン・レッドソックス (アメリカンリーグ )を4勝3敗で下し、17年ぶり2回目の優勝を果たした。
メッツは2勝3敗で迎えた第6戦の延長10回表に2点を勝ち越され、その裏あとストライク 1球で敗退という状況に2度も追い込まれたものの、そこから同点に追いつき、最後は相手一塁手ビル・バックナー のトンネル でサヨナラ勝利 を収めた。そして雨天順延を挟んで2日後の第7戦でも3点差を逆転し優勝を決めた。あと1球からの逆転優勝はシリーズ史上初である[ 3] 。一方のレッドソックスは、1918年 以来68年ぶりの優勝を逃した。1946年 ・1967年 ・1975年 に続き、今回もまた最終第7戦までもつれた末に敗れている[ 4] 。このときの『ニューヨーク・タイムズ 』掲載記事がきっかけで、1990年に『ボストン・グローブ 』記者ダン・ショーネシー が著書The Curse of the Bambino を出版、それ以降 "バンビーノの呪い " という都市伝説 がファンの間で広まっていく[ 5] 。シリーズMVP には、第6戦でサヨナラのホームを踏み第7戦で勝ち越し本塁打 を放つなど、6試合で打率 .391・1本塁打・5打点 ・OPS 1.005という成績を残したメッツのレイ・ナイト が選出された。
ワールドシリーズでは1976年 から指名打者(DH)制度 が導入され、1985年 までの10年間は、偶数 年は全試合で採用、奇数 年は全試合で不採用とされていた。今シリーズから規則が変更され、年度にかかわらずアメリカンリーグ球団の本拠地では採用、ナショナルリーグ球団の本拠地では不採用となった[ 6] 。DHありの試合となしの試合が混在するのは、ワールドシリーズでは今シリーズが初めてである。
試合結果
1986年のワールドシリーズは10月18日に開幕し、途中に移動日と雨天順延を挟んで10日間で7試合が行われた。日程・結果は以下の通り。
日付
試合
ビジター球団(先攻)
スコア
ホーム球団(後攻)
開催球場
10月18日(土)
第1戦
ボストン・レッドソックス
1 -0
ニューヨーク・メッツ
シェイ・スタジアム
10月19日(日)
第2戦
ボストン・レッドソックス
9 -3
ニューヨーク・メッツ
10月20日(月)
移動日
10月21日(火)
第3戦
ニューヨーク・メッツ
7 -1
ボストン・レッドソックス
フェンウェイ・パーク
10月22日(水)
第4戦
ニューヨーク・メッツ
6 -2
ボストン・レッドソックス
10月23日(木)
第5戦
ニューヨーク・メッツ
2-4
ボストン・レッドソックス
10月24日(金)
移動日
10月25日(土)
第6戦
ボストン・レッドソックス
5-6x
ニューヨーク・メッツ
シェイ・スタジアム
10月26日(日)
第7戦
雨天順延
10月27日(月)
第7戦
ボストン・レッドソックス
5-8
ニューヨーク・メッツ
優勝:ニューヨーク・メッツ(4勝3敗 / 17年ぶり2度目)
第1戦 10月18日
第2戦 10月19日
第3戦 10月21日
第4戦 10月22日
第5戦 10月23日
第6戦 10月25日
サヨナラの場面で使用された実際のボール 。セス・スワースキー がチャーリー・シーン から購入して2010年にメッツへ貸し出し、当時の本拠地球場シティ・フィールド 内にある球団博物館で展示された[ 7] 。このボールは2012年に競売 に出品され、匿名の人物によって41万8250ドルで落札された[ 8]
先発投手 は、メッツがボブ・オヘーダ 、レッドソックスがロジャー・クレメンス 。試合は、初回表にレッドソックスがドワイト・エバンス の適時二塁打 で1点を先制し、3回表にはマーティー・バレット の適時打でもう1点を追加する。しかし5回裏、メッツは1点を返しなおも無死一・三塁という場面で、ダニー・ヒープ が二ゴロ併殺 に打ち取られたものの、その間に三塁走者が生還し同点に追いつく。7回にレッドソックスがエバンスのニゴロで1点を勝ち越すが、メッツも8回裏にゲイリー・カーター の犠牲フライ で再度同点とし、試合は3-3のまま延長戦 に突入した。
10回表、メッツは4番手リック・アギレラ をマウンドへ送る。レッドソックスは先頭打者デーブ・ヘンダーソン が本塁打 を放ち再び勝ち越す。さらにバレットの適時打でもう1点を追加し、1918年 以来68年ぶりの優勝まで2点リードであとアウト3つとした。その裏、レッドソックスはクローザーのカルビン・シラルディ が登板し、あっさり2アウトを奪う。しかしメッツはここから粘りを見せ、2アウトからカーターと代打ケビン・ミッチェル の連打で一・二塁とする。6番レイ・ナイト は2球で2ストライクに追い込まれたが、3球目を中前へ運び、3連打で1点差に詰め寄った。
ここでレッドソックスはシラルディを諦め、ボブ・スタンリー へ継投する。スタンリーは7番ムーキー・ウィルソン を2ストライクに追い込み、優勝まであとストライク1球とするが、ウィルソンはそこからファウル で粘る。すると7球目が暴投 となり、三塁走者ミッチェルが生還して5-5の同点となった。ウィルソンは8球目と9球目もファウルとしたあとの10球目をフェアゾーン へ打ち返す。打球は一ゴロだったが、一塁手ビル・バックナー が捕り損ねたため股の間を抜けて外野へ転がった。バックナーは途中まで追ったがやがて諦め、その間に二塁走者ナイトが生還してメッツがサヨナラ勝ち を収めた。
第7戦 10月27日
この試合は当初10月26日の開催を予定していたが、雨天順延により27日へずれ込んだ。先発投手 は、メッツがロン・ダーリング 、レッドソックスがブルース・ハースト 。ダーリングは第4戦から中4日、ハーストは第5戦から中3日での登板だった。
2回表、レッドソックスがドワイト・エバンス とリッチ・ゲドマン の連続本塁打 などで3点を先制する。レッドソックスは4回表にも二死二塁と走者を得点圏 へ進め、ダーリングを降板させる。しかし2番手シド・フェルナンデス の前にマーティー・バレット が右飛に倒れ、4点目を奪えなかった。6回裏、メッツ打線がハーストを攻めたて、キース・ヘルナンデス の2点適時打とゲイリー・カーター の右ゴロで3-3の同点とした。
7回裏、レッドソックスはクローザーのカルビン・シラルディ を登板させるが、メッツの先頭打者レイ・ナイト が勝ち越しのソロ本塁打を放つ。最終第7戦で7回以降の勝ち越し本塁打は、1960年シリーズ でピッツバーグ・パイレーツ のハル・スミス が8回裏に逆転本塁打、ビル・マゼロスキー が9回裏にサヨナラ本塁打 を打って以来、これがシリーズ史上26年ぶり4本目である[ 9] 。さらにラファエル・サンタナ の適時打で1点が加わり、シラルディは1アウトしか奪えない間に2点を失ってマウンドを降ろされた。メッツは3番手ジョー・サンビート からもヘルナンデスが適時打を放ち、リードを3点に広げた。
レッドソックスは8回表、3番手ロジャー・マクダウェル に対し先頭打者ビル・バックナー からの3連打で2点を奪い、1点差に追い上げる。しかしその後、ジェシー・オロスコ の前に後続が3者連続アウトに打ち取られ、同点とできず。その裏にはダリル・ストロベリー の本塁打とオロスコの適時打でメッツが2点を取り返して8-5とした。9回表、オロスコが三者凡退でレッドソックスの反撃を断ち、メッツが17年ぶり2度目の優勝を果たした。
評価
WCBS-TV(CBSニューヨーク) のスティーブ・シルバーマンは2017年のワールドシリーズ 期間中に、自身が観てきた1964年 以降のシリーズ全52回を順位づけし、今シリーズを3位とした[ 10] 。MLB.comのジョー・ポズナンスキー は2019年3月、シリーズの総得失点差や1点差試合および延長戦の多さなどを基準に最終第7戦までもつれたシリーズ全39回を順位づけし、今シリーズを10位とした[ 11] 。ESPN のサム・ミラーは2020年5月、出場2チームの実力がどれほど伯仲していたかやどれほど記憶に残るシリーズとなったかなどを基準に全115回のシリーズを順位づけし、今シリーズを4位とした[ 12] 。
『ハードボール・タイムズ 』のクリス・ジャフは2011年10月、歴代のポストシーズン 各シリーズについて、面白さの数値化を試みた。「1点差試合は3ポイント、1-0の試合ならさらに1ポイント」「サヨナラゲーム は10ポイント、サヨナラが本塁打 によるものならさらに5ポイント」「7試合制のシリーズが最終戦までもつれれば15ポイント」などというように、試合経過やシリーズの展開が一定の条件を満たすのに応じてポイントを付与することで、主観的ではなく定量的な評価を行った。その結果、今シリーズは69.8ポイントとなった。2011年の両リーグ優勝決定戦 終了時点での全262シリーズ中47位で、全シリーズ平均の45ポイントは上回る一方、同じ年のナショナルリーグ優勝決定戦 (132ポイント)やアメリカンリーグ優勝決定戦 (103ポイント)は下回った[ 13] 。
脚注
^ "World Series Television Ratings ," Baseball Almanac . 2019年8月24日閲覧。
^ Tom Verducci , "Hail to the champs! Comeback Cards gave us a Series to treasure ," SI.com , October 29, 2011. 2019年8月24日閲覧。
^ George Vecsey , "SPORTS OF THE TIMES; Babe Ruth Curse Strikes Again ," The New York Times , October 28, 1986. 2019年8月24日閲覧。
^ Michael Silverman / Boston Herald 「連載企画 レッドソックスファン養成講座 "バンビーノの呪い" の真実」 『月刊スラッガー 』2007年6月号、日本スポーツ企画出版社 、2007年、雑誌 15509-6、64-65頁。
^ John Cronin, "The Historical Evolution of the Designated Hitter Rule ," Society for American Baseball Research , 2016. 2019年8月24日閲覧。
^ Arthur Staple, "'Buckner ball' a special part of Mets' Hall of Fame ," Newsday , April 4, 2010. 2020年5月10日閲覧。
^ Associated Press , "Bill Buckner ball sells for $418,250 ," ESPN.com , May 5, 2012. 2020年5月10日閲覧。
^ Matt Bonesteel, "The 12 crazy stats that define the Nationals’ World Series title ," The Washington Post , October 31, 2019. 2020年8月16日閲覧。
^ Steve Silverman, "Silverman: Astros-Dodgers Not Yet An All-Time Great World Series ," CBS New York , October 31, 2017. 2020年5月10日閲覧。
^ Joe Posnanski , "Ranking every 7-game World Series ," MLB.com , March 12, 2019. 2020年5月10日閲覧。
^ Sam Miller, "Ranking every World Series in MLB history ," ESPN.com , May 4, 2020. 2020年5月10日閲覧。
^ Chris Jaffe, "The top ten postseason series of all-time ," The Hardball Times , October 24, 2011. 2020年5月10日閲覧。
外部リンク
球団 歴代本拠地 文化 永久欠番 メッツ球団殿堂 ワールドシリーズ優勝(2回) ワールドシリーズ敗退(3回) リーグ優勝(5回) 傘下マイナーチーム
球団 歴代本拠地 文化 永久欠番 レッドソックス球団殿堂 ワールドシリーズ優勝(0 9回) ワールドシリーズ敗退(0 4回) リーグ優勝(14回) できごと 傘下マイナーチーム