死後変化
死後変化(しごへんか、英: postmortem changes)は、動物が死んだ後に示す現象の総称。死体現象とも呼ばれる。 用語代表的な死後変化を死徴といい、死冷、死斑、死後硬直(死強)、死臭がある[2]。その他、自己融解、死後凝血、腐敗、乾燥などもみられる。 この変化は生前の状態、死因、死後の経過時間、死体周囲の環境により異なる。病理解剖においては死後変化と病変の区別が必要である。
死後に見られる現象まず、心拍が停止した時点を死亡時間とし、その後見られる現象は以下の通りである。死亡後に見られる明らかな変化の多くは、血流の停止によってもたらされる。 まず、体表温度が速やかに室温に近づいていく。死後、体芯温度は体表温度と異なり、緩やかに気温に近づく。多くの場合、気温は体温より低いため、低下する(死冷)。体温の低下速度は、死亡時の体温や死体の大きさ、環境や着衣など、いくつかの要因によって変化する。 周囲の湿度が低い場合、指尖、鼻尖等の突出部位から速やかに乾燥し皮膚の収縮がみられ、ミイラ化が始まる。生理学的には、血流停止後、酸素の供給が途絶えた全身の細胞の内、神経細胞などの脆弱な細胞から、数分以内に不可逆的な変化が始まり、最後に筋繊維などの一番疎血に強い細胞が死滅する。末梢の、上皮など血液以外から酸素を得られる細胞では血流の停止による水分の不足(乾燥)、電解質の異常などを原因に細胞死が始まる。乾燥から免れ、周囲の空気から何とか酸素が供給されている場合、毛根などの細胞はしばらく生存する可能性もあるが、死体の髭や髪が伸びると言われる場合、多くは表皮の乾燥による収縮のため、毛髪がより露出して見えることによる錯覚であるとも言われている。また、まばたきが行われないため、角膜の乾燥、角膜の細胞死による蛋白の変性による白濁が速やかに進行する。 また、哺乳類では、死体が腐敗するより前に死後硬直が始まる。死体硬直の発現までの時間とその持続期間は、死亡時の筋肉の温度と気温に影響を受ける。死体硬直は通常、死の2-4時間後に始まり、筋肉はこの過程で、筋原繊維内にあるATPの減少と乳酸アシドーシスのため、徐々にこわばっていく。死後9-12時間経過すると、筋原繊維の機能が失われるため死体硬直は解除される。死後硬直中に他動的に関節を屈伸させると死後硬直は解除される。また気温が十分に高ければ、死体硬直は起こらない。 もう一つの死後の反応に死斑がある。死後、溶解酵素が漿膜から放出され、フィブリノゲンの溶解性分解を引き起こす。血管内の血液の内、血漿はこの過程で死後30-60分以内は永久に非凝固性(血清に近い状態)になる。重力による血の貯留(沈下)により局所の皮膚色の特徴のある変化をもたらす。死斑は死体の体重を支えている位置には形成されず、その周囲からでき始める。死斑は死後2時間以内に発現、最初は圧迫により消退するが、次第に固定され、強い圧迫によっても消退しないようになる。また、途中で姿勢(体位)を変えると、死斑の位置も移動する。その後、周囲の温度によるが、概ね8-12時間で固定、以後体位による移動は見られない。死斑の色は死因と環境で異なる。寒冷死の場合、死斑は鮮紅色を呈する。また、練炭による自殺などで見られる一酸化炭素中毒死の死斑も、特徴的な鮮紅色を呈する。死斑の広がりは、死体の表面にかかる圧力によって異なる。死斑は、皮下の血液によるため、大量出血、または、重症の貧血があった場合は、ほとんど見られないことがある。 次に、周囲の温度によるが、概ね半日後に胆嚢から胆汁が腹腔内に漏出、腹部に緑色斑が出現すると、次第に拡大する。また、特に夏季など温暖な季節では、山林、またはハエが多い場所では、死亡後直ちにハエが体表に産卵すると、産卵後わずか数時間で孵化、ハエの幼虫による食害が始まる。 死体の分解死体の分解は、実際には周辺の環境しだいで多種多様な経過を辿るが、概念的には以下の段階を経て推移する。
腐敗分解過程腐敗分解過程(decomposition stages)は5段階に分類される[6]。死から3日目辺りを医学的には、「新鮮期(fresh)」と呼び[7]、体内にガスが発生し、「膨張期(bloat)」に入る[7]。死後10日以上を過ぎると、体内に充満したガスや水分などが体外に噴出し、その後、本格的な腐乱=「腐乱期(腐朽期とも。decay stage)」が始まる[7]。この段階はさらに二つに分けられ、腐朽促進期(腐乱期とも。active decay)と高度腐朽期(後腐乱期とも。advanced decay)と呼ぶ。腐乱期は本来の体重から2割ぐらい減少し、後腐乱期ではさらに腐乱が進み、総量1割に減少した状態になる。数ヵ月から数年経つと白骨化し[7]、これを「乾燥期」ないし「白骨期」(dry/skeletonized)」と呼ぶ。 脚注
参考文献
関連項目
外部リンク |