歯歯(は、英: tooth)は、口腔内にある咀嚼するための一番目の器官。 多くの脊椎動物が持つ。ヒトは乳歯と永久歯の二組を持つが(二生歯性)、ネズミ目のように一組の歯が伸び続ける動物もいれば(一生歯性)、サメのように、二週間に一組ずつ新しい歯が作られていく動物もいる(多生歯性)。化石化した哺乳類においてもっとも特徴的な部位であり、古生物学者達は化石の種類や関係を鑑別するのにしばしば歯を使う。 歯は摂食の際の重要な構造であり、その形は餌のタイプと強く結びついている。 動物の歯動物一般動物一般における歯は、口周辺、あるいは内部にある構造で、小さくて硬く、その表面に突き出ていて、その動物の摂食の際に役立つと考えられるものである。細長いものは棘などと言われ、歯として扱わない。脊椎動物以外で歯と言われる部位を持つ例としては、多毛類、ヤムシ類などがある。 また、節足動物の口器では、その硬化部分にギザギザした突起がある場合、これを歯という例もある。クモの鋏角や昆虫の大顎などに例がある。 その他、軟体動物では舌状の構造の上に歯が並ぶ歯舌を持っている。 脊椎動物→「牙」も参照
脊椎動物では、歯を持つものは数多い。人間の歯は顎の骨に強く固定されているが、両者の結びつきはそれほど古いことではない。このように強く結びついているのは、ほぼほ乳類の特徴である。 サメ類においては歯は何列にも並んでおり、欠けるとすぐさま次の列から補充される。これはほぼそのままに皮膚に繋がっており、鱗から歯が進化したことが窺える。このような歯は皮膚に軽く埋もれているだけで、たやすく剥がれる。また、そのためにこのような歯は噛む動作だけでは噛みつぶしたり切り裂いたりという用途には使いがたい。この歯を持って餌に引っかかり、全身の運動で食いちぎるようにする、あるいは丸飲みにするのが普通である。一部の動物(鳥・亀など)では口の縁が硬化して嘴を形成し、歯を失っている。 は虫類の一部で歯根を持ち、よりしっかりと固定された歯を見ることが出来るが、は虫類の歯は単一の形態しか持たない。歯に多形を生じるのもほ乳類の特徴である。しかし、このような強固な歯を持つ代償に、ほ乳類の大部分のものは、一旦永久歯を失うと再度歯が生えることは無い。例外としてネズミ目やウサギ目は一組の歯が生涯伸び続ける。 象牙は食物を掘り出し、戦うために使われる切歯である。 キツネザル科、ロリス科などの種には、前歯がくし状となった櫛歯(くし歯)をもつ[1]。 家畜などの歯のケア人間と同様に様々な病気のリスクがあり、デンタルケアが行われる[2]。 また、生まれたばかりの豚などが乳を吸うときに母ブタの乳頭や乳房に怪我を負わせないよう切歯が行われる[3]。 噛み合わせや欠けなどの問題、噛み癖などがある犬猫などに対して、生活歯髄切断術、犬歯切断などを行い鋭さをなくす場合がある[4]。 齧歯目は、歯が伸び続けるため飼育下で自然に摩耗しない場合は、ダイヤモンドカッターなどで切除する場合がある[5]。 魚は、摩耗はするが糖類を摂取しないため虫歯にはならない[6]。 ギャラリー魚類→「魚類用語 § 歯・消化器官」を参照
哺乳類ヒトの歯
→詳細は「ヒトの歯」を参照
人体でもっとも硬く、遺体ではその治療状況によって人物の特定の重要な手掛かりとなる。人工歯と区別する意味で天然歯と言うこともある。歯学では歯牙(しが)と言ったが使わない傾向にある。 歯の形態
歯の形成歯の発生→詳細は「歯の発生」を参照
歯根の形成エナメル器の辺縁部(内エナメル上皮・外エナメル上皮の移行部)の上皮からヘルトウィッヒ上皮鞘が形成される。ヘルトウィッヒ上皮鞘は根尖方向へと進み象牙質形成を促し、歯根を形成する[11]。 セメント質の形成ある程度歯根の象牙質が作られた頃、ヘルトウィッヒ上皮鞘が分断される。その隙間から歯小嚢の細胞が移動しセメント芽細胞となりセメント質を形成していく。分断されたヘルトウィッヒ上皮鞘は歯小嚢から分化した歯周靱帯の中に残りマラッセの上皮遺残(残存上皮)となる。 萌出時にはまだ歯根は未完成であり、これが完成するのは萌出後しばらく経過してからである。また、萌出時にはこのときにはすでにエナメル芽細胞は存在しないが、象牙芽細胞はかつて歯乳頭であった歯髄の中に存在し、象牙質を作り続けている。 成長線成長線とは、肉眼または顕微鏡学的に歯の表面に見える線状痕である。主に、歯の形成の良し悪し(例えば石灰化)で線状になることが多い。また、歯の種類や年齢によりできる成長線も違う。
歯の構成ヒトの口腔内にある全歯を歯列という[14]。上顎側に並ぶ歯を上顎歯列弓、下顎側に並ぶ歯を下顎歯列弓という[14]。人は一生のうちに乳歯列と永久歯列という2つの歯列をもつ[14]。 歯の部位を示すために、歯の内側を舌側、口蓋側、外側を唇側、頬側、正中に近い方を近心、反対側を遠心、上端[註 1]を切縁、咬合面という。 乳歯乳歯(第一生歯)は乳児期にみられる歯である。乳歯は生後6~8ヶ月ごろより多くの場合は下顎の前歯から生えてくる[15]。 乳歯列は2歳から6歳頃にかけて生えそろい、歯の数は上顎側に並ぶ上顎歯列弓の10歯、下顎側に並ぶ下顎歯列弓の10歯の総20歯である[14]。人間の乳歯は大きく乳切歯、乳犬歯、乳臼歯の3歯種に分けることができる[14]。前方から乳中切歯、乳側切歯、乳犬歯、第一乳臼歯、第二乳臼歯の順に並ぶ[14]。乳歯は永久歯と比べてエナメル質と象牙質の厚みが薄く柔らかい。全体的に歯は小さく、青白や乳白色を示す。石灰化度が低いため、う蝕になりやすい。また、乳歯には骨髄や臍帯血に比べて高密度で幹細胞が含まれており、近親者へ移植できる可能性もあることから、骨などの再生の実用化に向けた研究が進められている。 乳歯は最終的に12歳から13歳頃までにはすべて抜け落ち永久歯へと転換するため脱落歯ともいう[14]。
永久歯永久歯は乳歯に代わって生えてくる歯である。永久歯が生え始めるのは6歳頃である。 永久歯列(第二次歯列)の歯の数は上顎側に並ぶ上顎歯列弓の16歯、下顎側に並ぶ下顎歯列弓の16歯の総32歯である[14](親知らずを除くと28本である)。 人間の永久歯は大きく切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯の4歯種に分けることができる[14]。切歯は正中(中央)に隣接して存在し、その側方にそれぞれ側切歯がある[14]。切歯は中切歯、側切歯の2種類上下計8本ある。側切歯の奥には犬歯が上下計4本ある[14]。臼歯は計20本存在し、小臼歯(第1小臼歯、第2小臼歯)と大臼歯(第1大臼歯、第2大臼歯、第3大臼歯)に分けられる[14]。乳歯の脱落後に生えてくる、中切歯~第二小臼歯までを代生歯、第二生歯とよび、乳歯の存在しない大臼歯を加生歯と呼ぶ。まず、第1大臼歯(6歳臼歯とも呼ばれる)から生え始め、その後徐々に生え替わっていく。大体13歳頃には前歯から第2大臼歯までの28本が生えそろっている。第3大臼歯は生えてくるのが遅く、また、生えてこない事もあり「親知らず」(知歯/智歯)ともよばれる。 永久歯はきちんとケアをすれば死ぬまで使うことができる。また、高齢者への調査で、歯が多く存続しているほど活動的である事がわかっている。
歯の異常歯の異常としては以下の物が知られている。
歯の文化
義歯人工歯が一般的だが天然歯も入れ歯の材料としても使われた[37]。ジョージ・ワシントンは生涯4つの入れ歯を使ったが、1つ目の入れ歯の下の歯は抜けた自分の歯を使ったという[38]。 人間による動物の歯の利用かつての人類は、狩りで捕らえたマンモスなど大型動物の歯を槍や鏃、斧などに加工して利用していた。また、鋭い歯は加工しなくてもそのままナイフとして用いられる場合もあったようである。 現在では、象牙などが工芸品に利用されているが、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)により取引が現在中止されている。 鹿、セイウチ等の歯は入れ歯としても使われる。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目
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