嘴口竜亜目
嘴口竜亜目(しこうりゅうあもく、Rhamphorhynchoidea)は、かつて使われていた翼竜目の分類群の一つ。 概要グループの名称は、この群を代表する属ランフォリンクス(Rhamphorhynchus:ράμφος=嘴・ρύγχος=口先)から取られ、日本語はそれを訳したものである。そのためランフォリンクス亜目とも呼ばれる。 脊椎動物として初めて空を飛んだグループである。最古の化石は三畳紀後期から発見されており、その後白亜紀になってからの記録はなく、ジュラ紀末期に絶滅したと考えられている(最近、このグループに属すると思われるジェホロプテルスの化石が白亜紀前期の中国の地層から発見されているため、一部の系統は白亜紀前期までは命脈を保っていた可能性が出てきた。)最古の翼竜でも翼竜としての特徴を全て備えており、祖先的主竜類のどのような生物から進化してきたのかはまだよくわかっていない。嘴口竜亜目発祥の地は最古の化石の発見地であるヨーロッパではないかと目されており、そこから全世界に拡散したと考えられている。主な化石の産出地は北米・ヨーロッパなど北方の元ローラシア大陸を中心としているが、ランフォリンクスの一種がタンザニアで、カンピログナトイデスの一種がインドで見つかっており、今後の発掘により他のゴンドワナ大陸からの報告も期待できる。 翼竜目のもう一つの亜目である翼指竜亜目はこの嘴口竜亜目から進化したことがほぼ確実であり、そのため嘴口竜亜目は側系統群となる。最近になって台頭してきた分岐分類学では側系統の分類群を認めていないため、分岐分類学的立場では嘴口竜亜目という分類群は認められないことになる。現にデヴィッド・アンウィン (David Unwin) が2003年に発表した翼竜の分類体系では嘴口竜亜目は既に消失している。しかし進化分類学の立場では側系統群は分類群として有効であり、ペーター・ヴェルンホファー (Peter Wellnhofer) は嘴口竜亜目を認めた分類を行っている。分岐分類学のみが正当な分類方法であるという意見には生物学者の中でも異論があり、分岐分類学で全ての分類を構成し直すかどうかについては今しばらく静観が必要である。 形態翼指竜亜目に対して以下のような身体的特徴を持つ。
生態食性は魚食性と虫食性が基本であると考えられている。エウディモルフォドンの化石では胃の内容物として硬鱗魚の鱗が発見されており、ランフォリンクス腹腔内で半分消化された魚類胴体が化石化している例がある。ただし、完全に魚食性に特化していたというわけではなく、ランフォリンクスの胃内容物には未消化の魚類の他に判別不明の別の食事の跡が残存していた。また、アヌログナトゥスやバトラコグナトゥスのような幅広の口を持っていた者は、現生で同様に幅広の口吻をもっているツバメ・ヨタカ・小型コウモリ類と同じように虫食性であったと考えられている。 魚食性が明らかになっている者については、現生の鳥類をモデルにした様々な生態復元が行われている。ランフォリンクスの全て前方を向いている歯から、デヴィッド・アンウィンは空中から水中に飛び込んで魚を突き刺して捕まえていたというアジサシをモデルとした復元を行い、同じくランフォリンクスの下顎が縦に薄く下に突き出し気味になっている事から、ペーター・ヴェルンホファーはハサミアジサシのように下顎のみを水面下に入れながら水面をスキミングして魚を捕まえていたという説を出している。また他の翼竜では、口吻の形状の類似からディモルフォドンはツノメドリ型の復元が行われた事もある。 翼竜の地上姿勢が四足歩行だったか二足歩行だったかについては多くの議論が交わされたが、長い尾を持つ嘴口竜亜目の仲間は特に、その尾でバランスをとる事により二足歩行が可能だったのではないかと目されて、二足歩行説の拠り所となっていた。最も有名なのは、ケヴィン・パディアン (Kevin Padian) によって二足歩行に復元されたディモルフォドンの復元図である。鳥類のように翼を脇に折りたたみ、長い尾によって前半身の釣り合いをとりつつ後脚のみで走る図は様々なメディアで紹介された。しかしながらその後、化石化の過程で押しつぶされず立体的構造をそのまま保持した翼竜の骨盤と大腿骨が発見されたとき、大腿骨の長軸と骨頭の成す角度や寛骨臼の深さと方向などから、翼竜の大腿骨は鳥類のように体の直下に伸びるようにはなっていない事が明らかとなり、少なくとも鳥類のような二足歩行の復元は最近は行われないようになった。 現在では翼指竜亜目・嘴口竜亜目ともに、折り畳んだ前肢の翼指近位部を他の前指と共に地面に付け、四肢を側方に踏ん張りながらも身体を地面から持ち上げて四足歩行していたという復元が一般的である。翼竜の足跡と推定される生痕化石はスペインやメキシコで発見されていたが、それらについてはワニの物ではないかという説もあり、また時代も白亜紀の物なので、少なくとも嘴口竜亜目の足跡ではありえなかった。しかし、最近になってフランス南西部のクレイサックの海岸で発見された後期ジュラ紀の足跡は、翼竜、しかも嘴口竜亜目の物である可能性がかなり高いことが明らかとなった。その足跡は明らかに蹠行性の四足歩行を示している。 分類
関連項目参考文献
|
Portal di Ensiklopedia Dunia