フライベルク工科大学のキャンパス。2007年4月。左のプレートには"Glück auf " (グリュック アウフ)という坑道で作業する人が入坑する際に無事を祈る挨拶[ 2] [ 注 1] [ 3] が記されている。
アカデミー通りに面した本館
フライベルク工科大学 (フライベルクこうかだいがく、ドイツ語 : Technische Universität Bergakademie Freiberg )[ 注 2] は、ドイツ 、ザクセン州 のフライベルク にある、およそ4,000名の学生を擁する規模の工科大学 である。
1765年の設立以来長く、単に"Bergakademie Freiberg" (ベルクアカデミー・フライベルク)を称し[ 注 3] 、日本語では、フライベルク鉱山学校 [ 5] あるいは、フライベルク鉱山専門学校 と表現された。1990年のドイツ再統一 後の1993年3月11日に"Technische Universität Bergakademie Freiberg" [ 注 2] と名称が変更された[ 7] 。フライベルク鉱山大学 、フライベルク鉱業大学 、あるいはフライベルク鉱山工科大学 とも。
概要
鉱物学研究所ウェルナー棟の正面玄関。上部にロックハンマー とともに"GLÜCK AUF! " と刻まれているのが分かる。
1866年当時のフライベルク鉱山学校の本館[ 8]
フリードリッヒ・ヴィルヘルム (ドイツ語版 ) とフリードリヒ・アントン (ドイツ語版 ) による構想に基づきザクセン選帝侯 家公子フランツ・クサーヴァー によって1765年に、鉱業 (英語版 ) と冶金 に関しての世界最古の大学として設立された
[ 注 4] [ 注 5] [ 注 6] [ 注 7] 。
設立初期には、鉱山技術・冶金のための科学的な研究と教育として、「数学、力学、気流学、水力学、流体力学、断面図法、地質製図、機械製図、鉱物学実習及び鉱物収集、冶金化学及び冶金術、鉱山測量、試金術、鉱山学、測量器具・試金装置・模型の制作」が教授される学科目とされた[ 注 8] 。
設立間もない時期に本学で学び後に教授を務めたウェルナー [ 注 9] は、こんにち火成岩 や変成岩 の一種とされる玄武岩 や花崗岩 は水中で沈積してできた水成岩 [ 27] と考え水成論 を主唱したため、火成論 (英語版 ) を唱える学者との間で論争になった。ともあれ、ウェルナーの研究手法は、近代地質学の萌芽期であった当時では実地に根差した精緻なものであったため、ブーフ 、ドウビソン (フランス語版 ) 、アンドラダ [ 注 10] といった門下や賛同者が本学に集まった。門下には1791年から1792年にかけて本学で鉱業を学び自然地理学 、植物地理学 に大きな足跡を残し地質学 にも貢献を果たしたフンボルト がいる。
本学の科学者による顕著な業績として、リヒター とライヒ による化学元素のインジウム の発見(1863年)、ヴィンクラー による同じくゲルマニウム の発見(1886年)があげられる。
こんにち、フライベルク工科大学は、数学・情報科学、化学・生物学・物理学、地球科学・地球工学・採鉱、機械工学、材料科学、および経済学の6つの学部から構成される高度に専門化された工科大学である。
課程
課程はドイツ語で提供されるほか、国際課程では英語で全ての課程が提供される。学士課程から博士課程まで全ての課程への入学条件については、成績に基づくだけで、ドイツの公立大学での一貫した就学の条件と同様に授業料は掛からず、学生は、学期毎に登録料の84ユーロのみを支払う。
修士課程を含み英語で提供される課程としては次の課程がある。
持続可能で革新的な天然資源管理(SINReM)
先端鉱物資源開発
地下水管理
持続可能な採鉱と修復管理
計算材料科学
計算科学・計算工学
機械プロセス工学
金属材料工学
発展途上・新興市場における国際商取引(IBDEM)
フライベルク工科大学は、鉱山工学 分野で世界最高水準の大学と位置づけられてきた[ 32] 。
公立大学であるものの比較的大きな私的寄付があり、本学にはドイツで最大規模の大学基金 が運営されている[ 33] 。
留学生とダブル・ディグリー
フライベルク工科大学は、非常に国際性に富んだ大学で、2018年時点では全学生4,061名のうちの24%がドイツ外からの留学生である。中国、フランス、イタリア、ポーランド、ロシア、タイなどの大学との間に複数学位(ダブル・ディグリー )の協定が結ばれている。授けられる博士号の約30%が外国人学生に対してのものである[ 1] 。
鉱物コレクション
本学の歴代の科学者により蒐集された鉱物コレクションや地質学・鉱床学・古生物学に関わるコレクションを展示・公開する施設[ 34] [ 35] が本学に附属する。さらにドイツ の資産家で生物学の博士号をもち蒐集家 であったエリカ・ポール=ストローア (ドイツ語版 、英語版 ) から寄贈された鉱物コレクションを展示・公開する施設テラ・ミネラリア (ドイツ語版 ) [ 36] [ 37] [ 38] も本学に附属し、これらの鉱物コレクションは世界でも最大規模を誇る[ 注 11] 。
日本との関わり
明治時代 にお雇い外国人 として来日した学者や技術者にライマン 、パンペリー 、アレキシス・ジェニン (ドイツ語版 ) [ 41] [ 44] 、ネットー 、ミルン [ 注 12] 、アドルフ・レーデブア (ドイツ語版 ) [ 46] といった本学で学んだ関係者がいる。
明治時代を中心に昭和 前半までに日本からも多くの留学生が本学に学んだ。岩佐巌 (今井巌)[ 注 13] [ 50] [ 53] を嚆矢として、原田豊吉 、栗本廉 、野呂景義 、渡辺渡 、今泉嘉一郎 など多くの地質学者 、冶金学者 、鉱山技術者 を輩出した。彼らは例えば、リヒター 、ヴィンクラー あるいはレーデブアから教えを受けた。第2次世界大戦 後の長い期間東ドイツ に位置していたこともあり本学に留学した日本人は少ない。
また、秋田大学 (理工学部・国際資源学部)の前身となった旧制秋田鉱山専門学校 はフライブルク工科大学をモデルとして設立されたとされる[ 56] 。
大学間協定
関係者
ギャラリー
ゲルマニウム
"Reiche Zeche" (ライシャ・ツェヒャー)と呼ばれる研究と教育用で見学もできる鉱山施設
[ 注 15]
脚注
注釈
出典
参考文献
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関連項目
外部リンク