フッ化スルフリル (フッかスルフリル、英 : Sulfuryl fluoride )は、化学式SO2 F2 で表される無機化合物 。
構造と性質
分子構造はC2v 対称性 を持つ左右対称の四面体形 で、分子間の距離は硫黄 -酸素 間が140.5 pm 、硫黄-フッ素 間は150.3 pm。結合角度は酸素-硫黄-酸素が124°、フッ素-硫黄-フッ素が96°[ 1] 。
二酸化硫黄 とフッ素 との直接反応により生成する。
SO
2
+
F
2
⟶
SO
2
F
2
{\displaystyle {\ce {SO2\ + F2 -> SO2F2}}}
実験室レベルでは、下記のように塩化フッ化スルフリル を経た多段階の合成により作られる[ 2] 。
SO
2
+
KF
⟶
KSO
2
F
{\displaystyle {\ce {SO2\ + KF -> KSO2F}}}
KSO
2
F
+
Cl
2
⟶
SO
2
ClF
+
KCl
{\displaystyle {\ce {KSO2F\ + Cl2 -> SO2ClF\ + KCl}}}
SO
2
ClF
+
KSO
2
F
⟶
SO
2
F
2
+
KCl
+
SO
2
{\displaystyle {\ce {SO2ClF\ + KSO2F -> SO2F2\ + KCl\ + SO2}}}
フルオロスルホン酸 の金属塩の加熱によっても得ることができる。
Ba
(
OSO
2
F
)
2
⟶
BaSO
4
+
SO
2
F
2
{\displaystyle {\ce {Ba(OSO2F)2 -> BaSO4\ + SO2F2}}}
用途
ロサンゼルスでの住宅燻蒸の様子
ダウ・ケミカル により開発され、オゾン層を破壊する 懸念のある臭化メチル に代わる燻蒸 剤として、シロアリ やキクイムシ 、トコジラミ などの駆除に用いられる。
住宅の燻蒸には、建物全体を丈夫なテント で覆って密閉し、短い場合で16~18時間、最長で72時間、テント内部をフッ化スルフリルで充満させたのち、6時間換気する。燻蒸開始から換気が済むまでは人が立ち入ることはできないが、フッ化スルフリルは無色・無臭であるため、燻蒸開始時には確実に人が退去したか確認するため、刺激性のあるクロルピクリン をテント内に放出する。
安全性
日本の毒物及び劇物取締法 では毒物に分類されている。ラットに経口投与した場合の半数致死量 (LD50)は100 mg/kg、ラットに吸入させた場合の半数致死濃度(LC50、4時間)は雄で1865ppm、雌では1510ppm[ 3] 。
摂取すると代謝性アシドーシス 、低カルシウム血症 、不整脈 、肺浮腫 や、中枢神経・腎臓・歯などに症状を生じる[ 4] [ 5] [ 6] 。
救急処置としてカルシウム の補給、炭酸水素ナトリウム の投与、血液透析 が行われる[ 4] 。2006年には、埼玉県の博物館で害虫駆除に使われたフッ化スルフリルを吸入して、作業員が死亡する事故が起きている[ 7] 。皮膚に対する腐食性・刺激性は確認されていない[ 3] が、圧縮液化されたものに触れると凍傷 のおそれがある。
不燃性だが、加熱により分解し、フッ化水素 や硫黄酸化物 など有害ガスを生じる[ 8] 。
環境への影響
マサチューセッツ工科大学 の研究チームは、フッ化スルフリルが大気中に約36年にわたり残留し、二酸化炭素 の4,800倍の温室効果 を有すると報告した[ 9] 。
脚注
^ Holleman, A. F.; Wiberg, E. "Inorganic Chemistry" Academic Press: San Diego, 2001. ISBN 0-12-352651-5 .
^ Seel, F. "Potassium Fluorosulfite" Inorganic Syntheses 1967, IX, pages 113-115. doi :10.1002/9780470132401.ch29 .
^ a b 製品安全データシート(安全衛生情報センター)
^ a b Schneir A, Clark RF, Kene M, Betten D (November 2008). “Systemic fluoride poisoning and death from inhalational exposure to sulfuryl fluoride”. Clin Toxicol (Phila) 46 (9): 850-4. PMID 18608259 .
^ Centers for Disease Control (CDC) (Sep 18 1987). “Fatalities resulting from sulfuryl fluoride exposure after home fumigation--Virginia”. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 36 (36): 602-4, 609-11. PMID 3114607 .
^ Scheuerman EH (1986). “Suicide by exposure to sulfuryl fluoride”. J Forensic Sci 31 (3): 1154-8. PMID 3734735 .
^ 埼玉県立歴史と民俗の博物館
^ 国際化学物質安全性カード
^ 2009年3月25日付日刊温暖化新聞