ジョルジュ・デュビー 、または デュビィ (Georges Duby、1919年 10月7日 - 1996年 12月3日 )は、フランス の歴史学者 。
アナール学派 を代表する歴史家であり、西欧中世 史を専門とし、人類学 、社会学 、地理学 の研究 方法を取り入れた史学史 、特に中世経済史 ・社会史 の研究を行った。『女のイマージュ』、『十二世紀の女性たち』、ミシェル・ペロー との共同監修『女の歴史』全5巻など女性史 の研究でも知られる。1970年から91年までコレージュ・ド・フランス の中世社会史の教授 を務め、1974年にフランス学士院 の碑文・文芸アカデミー の会員、1987年にアカデミー・フランセーズ の会員に選出された。
生涯
背景
ジョルジュ・デュビーは1919年10月7日、ジョルジュ・ミシェル・クロード・デュビー(Georges Michel Claude Duby)としてパリ に生まれた[ 1] [ 2] 。母方の家系は代々アルザス からフランシュ=コンテ かけての地域、父方はブレス 地方に住んでいた[ 3] 。いずれもフランス東部である。彼の父は家業の馬具 商を継ぎ、やがて車大工 になり、パリに出てからはドレス や帽子 の飾りに使う羽根 の染色 をしていた[ 3] 。父の退職 に伴って一家は故郷フランシュ=コンテに越し、ソーヌ=エ=ロワール県 マコン に居を構えた[ 3] 。デュビーは後にマコンを含むマコネー 地域における封建制 について調査し、博士 論文を執筆することになる。
教育
1937年に地元の高等学校リセ・ラマルティーヌ (Lycée Lamartine )を卒業し、リヨン大学 に入学。当初は地理学者アンドレ・アリックス (フランス語版 ) に師事したが、1939年にストラスブール大学 の中世史の教授であったマルク・ブロック の同僚ジャン・デニオー(Jean Déniau)がリヨン大学に赴任し、彼の影響で中世史に転向した[ 4] [ 5] 。これ以後、デュビーはブロックとリュシアン・フェーヴル によって1929年に創刊されたアナール学派の歴史雑誌『経済社会史年報(Annales d’histoire économique et sociale )』を読み耽った[ 4] 。
研究
1942年に高等研究学位 (フランス語版 ) および歴史学と地理学の教員一級免許 を取得[ 4] [ 6] [ 7] 。1944年から1950年までリヨン大学で中世史の助手を務めながら[ 1] 、ソルボンヌ大学 で農村史を研究していたシャルル・エドモン=ペラン (フランス語版 ) に師事し(同じアナール学派のジャック・ル・ゴフ も師事)[ 8] [ 5] [ 7] 、1952年に博士論文「マコネー地域における11・12世紀の社会」をソルボンヌ大学に提出。翌1953年に文学博士 号を取得した[ 1] 。故郷マコネー地域の封建制に関するこの論文は[ 4] 、同年に刊行され、1954年に碑文・文芸アカデミーのゴベール賞 (フランス語版 ) を受賞した[ 9] 。ルイ14世 治下の1663年 に設立された碑文・文芸アカデミーは、フランス学士院 を構成する5つのアカデミーの一つであり[ 10] 、ゴベール賞はフランス史 、西欧中世史・近代史に関する優れた研究に対して与えられ、特に歴史学・考古学 の博士論文で受賞することが多い[ 11] 。さらに、この論文のテーマを発展させ、より広く中世社会における階級 構造について分析し、1962年に浩瀚な研究書『中世の西洋における農村経済と田舎の生活』(2巻、822ページ)として発表し[ 7] [ 12] 、再び、ゴベール賞を受賞した[ 9] 。
1950年からフランシュ=コンテ大学 (フランス語版 ) で歴史学の講座を担当した後、1952年にエクス=マルセイユ大学 文学部の中世史の講師として赴任し、1953年に助教授、1954年に教授に昇任。1970年にコレージュ・ド・フランスに中世社会史の教授として就任し、地中海社会研究所(Centre d'Études des Sociétés Méditerranéennes)を設立。所長に就任した[ 13] [ 1] [ 6] 。
また、1974年6月28日にシャルル・エドモン=ペランの後任として碑文・文芸アカデミーの会員に選出され[ 1] 、1987年6月18日にアカデミー・フランセーズの会員に選出された(1988年1月28日就任)[ 6] 。
デュビーは西欧中世の経済史・社会史を芸術との関連で研究するほか(アカデミー・フランセーズにより、歴史書に与えられるゴベール大賞 (フランス語版 ) を受賞した『大聖堂の時代』[ 14] 、『中世のヨーロッパ、ロマネスク芸術、ゴシック 芸術』など)、図像学 研究に基づく『女のイマージュ』、『十二世紀の女性たち』など女性史の研究書も多く発表し、1990年から92年にかけてフランス女性史の第一人者ミシェル・ペロー[ 15] とともに『女の歴史』全5巻を共同監修した。これは女性の歴史に留まらず、「表象、知、権力、日常的実践などあらゆるレベルでの」男性・女性の関係の歴史でもある[ 16] 。
さらに、同じアナール学派の歴史家リュシアン・フェーヴル 、ジャック・ル・ゴフ、アラン・コルバン 、フィリップ・アリエス らとの性 の歴史や心性史 に関する共著『愛とセクシュアリテの歴史』、『感性の歴史』なども邦訳されている。
同じ欧州中世史を専門とし、貧困 、社会的排除 を中心とする社会史研究で知られるブロニスワフ・ゲレメク [ 17] と1990年に在ポーランド・フランス大使館で再会し、歴史研究の方法や課題、歴史家の使命などについて話し合った。この対談は『共通の情熱』としてフランス(1992年、著書参照)およびポーランド(1995年)[ 18] で出版された[ 19] 。
晩年
1996年12月3日、南仏ブーシュ=デュ=ローヌ県 ル・トロネ (フランス語版 ) (プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏 )で死去、享年77歳[ 7] 。ル・トロネ墓地に埋葬された[ 20] [ 21] 。
デュビーの著作物、手書き原稿、タイプ原稿などは同じ歴史学者の妻アンドレ・デュビー(Andrée Duby)によって2003年に現代出版資料研究所 (フランス語版 ) (IMEC) に寄託された[ 22] 。
学会・審議会
国内外の学会会員、政府の審議会等[ 1] [ 6] [ 23] [ 24]
学会会員(国内)
外国人会員
その他
栄誉
名誉博士[ 23]
受賞(著書参照)
ゴベール賞(碑文・文芸アカデミー)
ゴベール大賞(アカデミー・フランセーズ)
受章[ 1] [ 6] [ 23] [ 24]
著書
単著
La Société aux xie et xiie siècles dans la région mâconnaise (マコネー地域における11・12世紀の社会), Armand Colin, 1953(博士論文)- 碑文・文芸アカデミーのゴベール賞受賞(1954)
Recueil des Pancartes de l’abbaye de La Ferté-sur-Grosne 1113-1178 (ラ・フェルテ=シュル=グローヌ修道院 の掲示板集), 1953
Le Moyen Âge. L’expansion de l’Orient et la naissance de la civilisation occidentale (中世 - 東洋の拡大と西洋文明の誕生), Presses universitaires de France, 1955
L’Économie rurale et la vie des campagnes dans l’Occident médiéval. (中世の西洋における農村経済と田舎の生活)(全2巻)Aubier, 1962 - 碑文・文芸アカデミー のゴベール賞受賞(1962)
Fondements d’un nouvel humanisme 1280-1440 (新しい人文主義 の基盤), Éditions d'Art Albert Skira, 1966
L’Europe des cathédrales (大聖堂 の欧州), Éditions d'Art Albert Skira, 1966
L’an mil , Éditions René Julliard, 1967
『紀元千年 』若杉泰子訳、公論社(公論選書)1975年
Adolescence de la chrétienté occidentale (西洋キリスト教世界の青年期), Éditions d'Art Albert Skira, 1967
Guerriers et paysans. Le premier essor de l’économie européenne, VIIe -XIIe siècles (戦士と農民 - 欧州最初の経済発展), Gallimard, 1973
Hommes et Structures du Moyen Âge (中世の人間と構造), Mouton, 1973
Le dimanche de Bouvines , Gallimard, 1973
Le temps des cathédrales, l’Art et la Société 980-1420 (大聖堂の時代 - 芸術と社会 980-1420), Gallimard, 1976
Saint Bernard. L’Art cistercien (聖ベルナール - シトー会 の芸術), Éditions Art et Métiers Graphiques, 1976
Le temps des cathédrales (大聖堂の時代), 1977 - アカデミー・フランセーズのゴベール大賞受賞(1977年)
Les Trois Ordres ou l’Imaginaire du féodalisme (三つの身分、または封建制の想像界), Gallimard, 1978
『中世ヨーロッパの社会秩序 』金尾健美訳、知泉書館 、2023年
L’Europe au Moyen Âge, Art roman, Art gothique (中世のヨーロッパ、ロマネスク芸術、ゴシック 芸術), Flammarion, 1979
Le Chevalier, la Femme et le Prêtre. Le mariage dans la société féodale (騎士 ・女性・司祭 - 封建社会における結婚), Hachette, 1981
『中世の結婚 - 騎士・女性・司祭』篠田勝英 訳、新評論 、1984年、新装版1994年
Guillaume le Maréchal ou le meilleur chevalier du monde (ギヨーム・ル・マレシャル - 世界最高の騎士), Fayard, 1984
Histoire de France : le Moyen Âge 987-1460 (フランス史 - 中世 987-1460), Hachette, 1987
Mâle Moyen Âge : De l’amour et autres essais (中世の男性 - 愛について、他の随筆), Flammarion, 1988
La sculpture, du Ve et XVe siècle (彫刻 - 5世紀から15世紀まで), Éditions d'Art Albert Skira, 1989
L’Histoire continue , Odile Jacob, 1991
Images de femmes , Plon, 1992
『女のイマージュ - 図像が語る女の歴史』(『女の歴史』別巻1)杉村和子・志賀亮一訳、藤原書店、1994年
La Chevalerie (騎士道 ), Perrin, 1993
An 1000, an 2000, sur les traces de nos peurs (紀元千年、二千年紀 - 我々の恐怖の足跡), 1995
Dames du xiie siècle - I. Héloïse, Aliénor, Iseut et quelques autres / II. Le souvenir des aïeules / III. Ève et les prêtres (全3巻)Gallimard, 1995-1996, (合本) Gallimard, 2020
『十二世紀の女性たち 』新倉俊一 ・松村剛訳、白水社、2003年
(I. エロイーズ 、アリエノール 、イズー とその他の女たち / II. 先祖の女性の記憶 / III. イヴ と司祭たち)
共著・監修
Le procès de Jeanne d’Arc (ジャンヌ・ダルク裁判 ), Gallimard, 1973 - 妻アンドレ・デュビー(Andrée Duby)共著
Atlas historique (歴史図解), Larousse, 1978 - 監修
Histoire de la civilisation française , Armand Colin, 1958(全2巻)- ロベール・マンドルー (フランス語版 ) 共著
『フランス文化史 』前川貞次郎 ・島田尚一・鳴岩宗三訳(I. 中世、II. 近代、III. 現代、全3巻) 人文書院 、1969-1970年(人文選書)、新版1988年(「I. 中世」- デュビー執筆、「II. 近代」、「III. 現代」- マンドルー執筆)
Histoire de la France, Des origines à nos jours (フランス史 - 起源から今日まで), Larousse, 1970-1971(全3巻)- 監修
Histoire de la France rurale (フランス農村史), Le Seuil, 1976(全4巻)- アルマン・ワロン(Armand Wallon)共同監修
La Méditerranée. Les hommes et l'héritage, Arts et Métiers Graphiques , 1978
Dialogues (対談), Flammarion, 1980
Histoire de la France urbaine (フランス都市史), Le Seuil, 1980-1985(全5巻)
Histoire de la vie privée (私生活の歴史), Le Seuil, 1985-1987(全5巻)- フィリップ・アリエス 共同監修
L’Histoire de Paris par la peinture (絵画 に見るパリの歴史), Belfond, 1988 - ギィ・ロブリション (フランス語版 ) 共著
Histoire des femmes en Occident (西欧女性史 ), Plon, 1990-1992(全5巻)- ミシェル・ペロー 共同監修
『女の歴史 』全5巻(10分冊)、杉村和子・志賀亮一監訳、藤原書店、1994-2001年 別巻1『女のイマージュ - 図像 が語る女の歴史』、別巻2『「女の歴史」を批判する』
Passions communes (共通の情熱), Seuil, 1992 - ブロニスワフ・ゲレメク 共著(対談)
雑誌特集号・刊行
« L'amour et la sexualité » in L'Histoire , 1984(歴史雑誌『リストワール (フランス語版 ) 』特集号「愛とセクシュアリテ」)
Amour et sexualité en Occident (西欧における愛とセクシュアリテ), Seuil, 1991
日本版での編訳
森本芳樹 編『西欧中世における都市と農村 』九州大学出版会 、1987年
リュシアン・フェーヴル 、アラン・コルバン 共著『感性の歴史 』大久保康明・坂口哲啓・小倉孝誠 訳、藤原書店、1997年 I. 感性の歴史の方法(フェーヴル「歴史学と心理学」、「感性と歴史」/ デュビィ「社会史と心性史」/ コルバン「感性の歴史の系譜」)II. 感性の歴史の諸相(フェーヴル「魔術」、「「おおよそ」と「正確さ」という感性」、「恐怖」、「死」、「安心ということ」/ コルバン「電気と文化」、「涙」、「恋愛と文学」、「音と共同体」、「音の風景」)
その他
脚注
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^ 著書の邦訳に『憐れみと縛り首 ― ヨーロッパ史のなかの貧民』(早坂真理訳、平凡社、1993年)がある。
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関連項目
外部リンク
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