コスギラン属
コスギラン属[3][4] Huperzia(こすぎらんぞく、小杉蘭属)は、ヒカゲノカズラ科コスギラン亜科に属する小葉植物の属[1][5]。温帯を中心に世界に50種以上が認められ、日本では4種が分布する[3]。PPG I (2016) では25種のみであったが、Hassler (2022) のリストでは61種8雑種が認められている。 名称和名のコスギラン属は、タイプ種であるコスギラン Huperzia selagoに基づく。トウゲシバ属とする文献もある[6]。 学名(属名)の Huperzia はドイツの医師で植物学者であった Johann Peter Huperz に献名されたものである[7]。Huperz は"Specimen inaugurale medico-botanicum de Filicum propagatione" (1798) の著者でシダ植物研究者であった[7]。 系統関係ヒカゲノカズラ科は大きく2つのクレード、urostachyan clade (huperzioids[8]) と rhopalostachyan clade (strobilate taxa[8]) に大別される[9]。前者はコスギラン亜科 Huperzioideae からなり、後者にはヒカゲノカズラ亜科 Lycopodioideae とヤチスギラン亜科 Lycopodielloideae が含まれる[9]。本属はヨウラクヒバ属 Phlegmariurus、フィログロッスム属 Phylloglossum とともにコスギラン亜科に含まれる[1]。なお、コスギラン亜科をコスギラン科 Huperziaceae Rothmaler (1962)として独立させる説もある[10][11]。 ヨウラクヒバ属は茎に無性芽を付けないことが多く、着生して垂れ下がるのに対し、本属は無性芽を付けることが多く、地上生で直立することで区別される[10][8][注釈 1]。またヨウラクヒバ属では茎の基部から不定シュートを出すことができるが、コスギラン属は不定シュートを持たない[8]。 Field et al. (2016) による分子系統解析に基づくヒカゲノカズラ科現生種の内部系統関係を示す[12]。単系統性が支持されている[1]。
分類史現在コスギラン属に含まれる種は、かつては他のヒカゲノカズラ科の植物と同様にヒカゲノカズラ属 Lycopodium L. (1753) s.l. に含まれていたが、他の植物の分類群の属に比べ非常に多様なものを含んでしまうため、細分化する試みがなされることとなった[4][11][注釈 2]。中でもコスギラン属は最も早く、Bernhardt によって1800年[1](1801年[11])に設立された[11]。 Bernhardt (1800, p. 126)は次のように記した:
広義のコスギラン属 Huperzia s.l. (現在のコスギラン属とヨウラクヒバ属を合わせたもの)に属する種は同等二又分枝、孔のある胞子、独特な配偶体などの特徴がヒカゲノカズラ科の他の分類群と本質的に異なっており、1962年に Werner Rothmaler によって単型の科としてコスギラン科 Huperziaceae が設立された[11]。そして1964年、Josef Holub は広義のコスギラン属の中から着生する種をヨウラクヒバ属 Phlegmariurus に分離した[11]。しかし Holub は1985年、コスギラン属とヨウラクヒバ属の属の境界を決めることに苦戦し、どの形質も判別基準とすることはできないとしてヨウラクヒバ属を破棄してコスギラン属のみを認め、ヒカゲノカズラ属の多くの種は1985年に Holub によってコスギラン属に移された[11]。 しかし、Richard L. Hauke (1969) などでは、配偶体や生活史、染色体数などの多面的な有用な情報が多く集まるまでは単一のヒカゲノカズラ属 Lycopodiumのみを認め、細分化は保留すべきだと考えていた[13]。コスギラン属をヒカゲノカズラ属から分離しない場合、亜属の階級(コスギラン亜属 subg. Huperzia)に置くこともあった[13]。 ヒカゲノカズラ科にヒカゲノカズラ属 Lycopodium、ヤチスギラン属 Lycopodiella s.l.、およびコスギラン属 Huperzia s.l. の3属を認める分類体系もあったが、特異な形態を持つフィログロッスム属 Phylloglossum をコスギラン属内に含むことになり、コスギラン属の均一性が失われてしまうという欠点があった[10]。Field et al. (2016) では分子系統解析に基づき、コスギラン属(コスギラン亜科)をコスギラン属 Huperzia s.s.、ヨウラクヒバ属 Phlegmariurus およびフィログロッスム属 Phylloglossum の3属に分割することでこれを解決した[10]。 形態・生態染色体基本数は x = 22, 33?[3]。地上生または岩上生[10]。 胞子体分枝は同等二又分枝である[15][13][11]。茎は直立茎のみで匍匐茎を持たない[3]。葉(小葉)は螺旋状に配列する[13]。栄養葉は二形にならない[3]。 胞子嚢を付ける茎に無性芽(芽体、むかご[15])をつける[3]。無性芽は栄養生殖を担い、親植物から離れて新しい胞子体に成長する[15]。無性芽は親植物の葉のできる位置に生じ、芽と未分化の根からなる[15]。これはシュートの変形したもので、主シュートの不等分枝により生じた特殊な枝であると解釈されている[16]。 胞子葉は栄養葉に似ており、明瞭な胞子嚢穂を形成せず、「栄養域」と「生殖域」が交互に現れる[17]。胞子葉は茎に盾状につき、胞子嚢の開裂後も枯れずに残る[3]。胞子嚢は無柄で胞子葉に腋生し、胞子葉の長軸に対して縦または横方向に裂開する[3]。 ヒカゲノカズラ科の根はシュート頂付近の茎の内部で内生発生するが、特にコスギラン亜科では皮層を貫通して伸長し、植物体の基部で表皮を突き破り外に出る[9][16]。根は茎から出てくると二又分枝を行う[15]。コスギラン属およびヨウラクヒバ属の根の根端分裂組織は、表皮始原細胞と皮層始原細胞、根冠始原細胞が異なる細胞層に分かれる type II RAM となり、被子植物の閉鎖型根端分裂組織に類似している[18][19]。この type II RAM は、絶滅したドレパノフィクス科の化石小葉類アステロキシロン Asteroxylon mackiei が持つ地下器官 rooting axis の根冠を持たない頂端と、根冠以外の組織学的形態が類似しており、これが type II RAM の祖先型となる器官ではないかと考えられている[19]。 配偶体配偶体は菌従属栄養性で葉緑体を持たない[3]。棍棒状で、分枝することもある[13]。地中または樹幹のコケや腐植の中に埋もれている[13]。 下位分類日本産種海老原 (2016)に基づく。田川 (1959)では、コスギトウゲシバ、コスギラン、ヒメスギランの3種は形態的に類似しているため、1種にまとめて変種の関係に置くこともできるとしているが[20]、自身[21]もその後の文献(岩槻 1992、海老原 2016など)でも、学名をどう扱うかは異なるものの3種は独立種として扱っている。
全種リストHassler (2022) に基づく。上記の日本産リストと分類の基準が異なることに注意。
人間との関係利用トウゲシバ Huperzia serrata は中国では千層塔[27]として熱、風邪、腫れ、リウマチ、重症筋無力症に千年以上用いられてきた[28]。また、1986年に上海薬物研究所の Liu らにより中国産のトウゲシバから単離されたフペルジンA (Hup A) と呼ばれるリコポジウムアルカロイド(セスキテルペンアルカロイド)がサプリメントとして用いられている[29][28]。フペルジンAにはアセチルコリンエステラーゼ阻害作用が見いだされ、アルツハイマー病に対する治療効果や記憶力の増強が認められている[29][28]。フペルジンAはトウゲシバ以外でも、コスギランやヨウラクヒバなど、他のコスギラン亜科の植物からも見出されている[28]。 栽培コスギラン属の植物は全植物体ごと移植するか、不定根を残すように切って採集することで栽培することができる[8]。培地は細粒にした軽石と泥炭、砂質もしくは粘土質ロームを3:1:1の割合で混ぜる。シュートの下部と根を含んだ植物体の基部のみを培地に埋める[8]。 無性芽を付けている場合はそれを採集し、栽培することができる[8]。無性芽は通年でつけているものもあれば、H. lucidula のように通年ではないが毎年つけるものもあり、どちらも軽く触れることで採集できる[8]。はがれた無性芽は湿らせたペーパータオル上に置き、密閉容器中で20℃から22℃、12時間の光条件で置いておくと2週間以内で発根する[8]。その後シュート伸長と葉の形成が起こる[8]。 脚注注釈
出典
参考文献
外部リンク
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