現代的なカップ式コーヒー自販機が設置されているルーヴェン 、ベルギー (2019年9月)
カップ式コーヒー自動販売機 (カップしきコーヒーじどうはんばいき)は、ホットコーヒー などの飲料をカップに注いで提供する形式の自動販売機である。カップ式コーヒー自販機 とも表記される。
古めのモデルでは、粉末状 もしくは濃縮液状のコーヒーを温水や熱湯に溶かし、クリーム や砂糖 を入れて提供していた。現代的なモデルではモカ やラテ といった様々なスタイルの飲料が用意され、ドリップ したコーヒーが用いられる。グラインダー が内蔵されていて注文のたびにコーヒー豆を挽くタイプもある。また、なかには抽出 したコーヒーをコーヒータンクに一定量溜め置いて、水出しコーヒー をカップに商品として提供するものもある[ 1] 。
1947年 にアメリカ合衆国 のラッド・メリキアン・カンパニーによって開発され、「クイックカフェ(蘭 : Kwik Kafe )」[ 注釈 1] として登場した。いくつかのアメリカの会社も1947年中に機械を製造し始め、1955年 には6万台以上が存在していた。今日では、世界 の様々な場所にコーヒー自販機が存在し、日本 においても一般的である。
概要
ルーマニア のカップ式コーヒー自販機(2016年5月)
カップ式コーヒー自販機は、コーヒーを販売する自販機 である。1947年当時に開発されたモデルなどでは粉 のインスタントコーヒー をお湯と混ぜ、クリームや砂糖などを入れて提供していた[ 2] 。いくつかの新しめのモデルでは、挽いたコーヒー豆を使ってその場で淹れたコーヒーを提供しており、コーヒーミル を組み込んだタイプもある[ 3] [ 4] 。近年の自販機では、紅茶 、エスプレッソ 、ラテ、カプチーノ 、モカ、そしてホット・チョコレート のようなコーヒー以外のホットドリンクも提供している[ 4] [ 5] [ 6] 。コーヒー自販機では缶コーヒー を販売しているものもあり、ホットコーヒーとアイスコーヒーの両方を販売している自販機もある[ 7] [ 8] 。
一般に消費者 として利用できるコーヒー自販機は有料で、コイン や紙幣 の通貨を入れて購入するものもあれば、交通系ICカード やスマートフォン 搭載の電子マネー アプリなどを使って対価を支払うことができるものもある[ 9] 。他方、会社 の従業員 がいる場所では福利厚生 の一環として設置されているものがよく見受けられ、これらは支払いを必要としない[ 10] ことから販売機でないため、コーヒー・ベンディング・マシン やコーヒー・マシン の名称で呼ばれる[ 11] [ 12] 。
日本ではホットコーヒーとアイスコーヒーをどちらでも提供する機種が普及していて[ 13] 、屋内に設置されているものによく見受けられる。イタリア では、18種類のコーヒーを提供している自動販売機もある[ 6] 。
日本においては、カップ式コーヒー自販機の設置にあたっては、喫茶店で提供されるのと同等の飲食物を提供している理由から、従来は、食品衛生法の喫茶店営業の許可が必要であったが[ 14] 、食品衛生法 の改正により2021年6月以降は、屋内に設置されるかぎりにおいて、許可制でなく新たに創設された食品営業の届出制度(保健所 への届出)の対象に変わった[ 15] 。(※ 屋外設置であれば従来の許可制度の対象[ 16] 。ただし、法改正の際に、旧の「喫茶店営業」区分は新たな「飲食店営業」区分に統合。)
歴史
カップ式コーヒー自販機は、1947年 にアメリカでペンシルベニア州 フィラデルフィア のラッド・メリキアン・カンパニーによって開発され、クイックカフェ[ 注釈 1] [ 18] と名付けられた。
クイックカフェの機械は、紙コップ をシュート(スライダー のようなもの)を通して台の上に落とし、インスタントコーヒーとお湯で作った熱いコーヒーをカップに入れるものとなっている[ 19] 。クイックカフェはコーヒー1杯を用意するのに5秒かかり[ 19] 、フランチャイズ 形態の過程を通してアメリカ各地に設置された[ 19] 。1948年 のフィラデルフィアのコンベンション で、ラッド・メリキアン・カンパニーの社長 であるロイド・K・ラッド(英 : Lloyd K. Rudd )は、クイックカフェによって提供されるコーヒーは日ごとに総計25万杯に上ると発言した[ 20] 。
1947年に、マニング ・アンド・ルイス・カンパニー、ナップウェイデバイス、バート・ミルズ・コーポレーションを含む、ラッド・メリキアン・カンパニーを追随する会社がアメリカでコーヒー自販機を製造していた[ 19] [ 21] 。これらの会社が生産した機種の一部はコーヒー濃縮液を熱湯で希釈して提供していた。ある機種は5セント の料金で1杯のコーヒーを提供し、クリームと砂糖を混ぜるために木製のスプーン を分配した[ 22] 。1955年までには、6万台を超えるコーヒー自販機がアメリカ全土に存在していた[ 19] 。
コンビニコーヒー は多くのコンビニ で見ることができる(2017年1月)。
日本では、全国清涼飲料連合会 の『戦後の清涼飲料史』によれば、1962年に(当時の新三菱重工業 [ 23] によって)国産初のカップ式インスタントコーヒー自販機が開発されている[ 24] [ 注釈 2] 。カップ式自販機の普及台数は、1970年代初頭で6千台程度[ 25] であったが、時間が若干経って1972年時点で17,312台[ 14] であったことからすると、製造業界に三洋自動販売機や富士電機家電などもすでに参入してきている中で[ 25] 、わずかの間に3倍近くになるほどに生産が進んでいたと考えられる。その後、2022年末時点でコーヒー・ココアなどのカップ式自販機は、128,000台(ただし前年比95.5%)[ 26] までに普及しているが、2018年末時点は154,000台(前年比98.5%)[ 27] であったのに比べて、近年は減少の傾向にある。
日本のカップ式コーヒー自販機開発の歴史の中で、レギュラーコーヒーのホット&コールドコーヒー自販機が登場した年は1974年にあたる[ 28] 。それは、安立電気(現・アンリツ )がオランダ のオルランド社から技術導入して開発したものであった[ 30] 。その後、津上、富士電機など他社も生産体制を整えて行き、温冷切替機を別としてこれによりオールシーズンで同じ機械からインスタントコーヒーが提供されることが可能となった。
日本コカ・コーラ株式会社 は、1975年にコーヒーをホットとコールドの2通りで組み合わせたカップ式自販機(“ホット&コールドコンビネーション機”)を開発して、翌年8月から市場に導入している[ 31] 。同じ年、当時の富士電機冷機(現在は富士電機 に統合)がそれまで温かい飲料のみを提供していたコーヒー自動販売機の中で、製氷機で作られた氷を加えてコールドコーヒーを提供できるカップ式ホット&コールドコーヒー自動販売機を開発し、世界的にも初めてのものであった[ 32] 。また、同社が1980年に製造開発したコンビネーションカップ式 ホット&コールド自動販売機は、その後のカップ式自販機のスタンダードとなった[ 33] 。なお、株式会社アペックス によれば、日本自動販売機オペレーター業界で初となるホット&コールド機(カップ式自販機)は同社(当時は日本自動販売株式会社)が1981年6月に発表したとされている[ 34] 。2020年代の今日では、AI カフェロボットが登場するに至っている[ 35] [ 36] 。
タッチスクリーン式のコーヒーマシーン
ベラ(伊 : Bella )、ボナマット (英語版 ) (英 : Bonamat )やラ・マルキーズ(仏 : La Marquise )のようなタッチスクリーン 式のコーヒーマシーンは、顧客が関与する部分を増やせることからポピュラーになりつつある[ 37] 。
2009年 にはダウ・エグバード (英語版 ) (蘭 : Douwe Egberts 、オランダ のコーヒーブランド)が、コンセプトマシン(未来志向モデル)として「ビー・ムーブド(英 : BeMoved )」と名付けられた、タッチスクリーン式のドラッグ・アンド・ドロップ が特徴で材料を選択でき、コーヒーが準備されるまでにニュース 、天気予報 そして株価 にアクセス 可能という魅力的なコーヒー自販機を導入した[ 38] 。また、「ビー・ムーブド」は利用者の画像 の撮影と個人プロファイル設定を通じて利用者のコーヒーの好みを覚えることのできる人感センサ ビデオカメラ を搭載している。また「シューテム・アップ(英 : Shoot-Em-Up )」というビデオゲーム 機能が内蔵されており、機械の正面でジャンプ するとカメラが感知してゲーム内の動きが連動する仕組みとなっている[ 38] 。
ギャラリー
関連項目
脚注
注釈
^ a b フィラデルフィアの2人の元軍人 、ロイド・ラッドとK・C・メリキアン(英 : K. Cyrus Melikian )はホットコーヒーのコーヒー自販機を開発したが、最初は販売産業界から彼らの発明は真面目に取り合われなかったが、大衆に歓迎されてホットコーヒー自販機はスタートを切った [ 17] 。
^ その背景として1961年にコーヒーの輸入自由化が全面実施され、コーヒーの消費量が急速に伸びたことがある(第一次コーヒーブーム)。日本のコーヒー文化 の項目も参照。
出典
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