イシイルカ(Phocoenoides dalli) はクジラ目ハクジラ亜目ネズミイルカ科イシイルカ属に属する小型のイルカである。1970年に、サケを捕るためのトロール網[?流網]による混獲によって、毎年数千頭のイシイルカなどが被害に遭っていることが明らかにされ、本種は注目を集めた。[要出典]
呼称
種小名の「dalli」および英名の「Dall's Porpoise(ドールのネズミイルカ)」はアメリカ合衆国の動物学者のW. H. Dallに由来する[1]。
英語における別名として、「White-flanked porpoise(白い胴体のネズミイルカ)」も存在する[1]。
本種が「ポーポイジング」を行う際に生じる特徴的な形状の水しぶきは「Rooster tail(英語版)」と呼ばれる[1]。
分類
イシイルカ属に属するのはイシイルカのみである。
模様のパターンが主に異なる2つのタイプまたは亜種が存在し、「イシイルカ(Dall's porpoise, Phocoenoides dalli dalli)」[2]と「リクゼンイルカ(True's porpoise, Phocoenoides dalli truei)」に分類されている[3][4]。
形態
上記の通り、主に模様が異なるイシイルカ型(Dalli型、Dalli Type)とリクゼンイルカ型(Truei型、Truei Type)の2形態が存在することが知られている。
ネズミイルカ科の中では最も大きな種類であり、体長は240cm、体重は130kgから200kg程度まで成長する。子供の体長は1メートル、体重25kg前後である[1][5]。
特徴のある体型であるため、他のクジラ目の種との識別は容易である。頭部が小さいのに対して、胴はずんぐりしている。また胸びれも小さく、頭部に近接している。背びれはほぼ中央に位置し、基部が広い三角形で、大きい。尾びれは扇形で両端は頭部方向に湾曲しており、中央に切れ込みがある。これも特徴的な形状である。体色は幾分シャチに似ている。全体的には非常に濃い灰色から黒色であり、胸びれの後方から体側にかけて白色のパッチがある。体色の境界ははっきりしている。背びれの先端は白あるいは明るい灰色、尾びれの後縁も同じく白あるいは明るい灰色である[1][6]。
生態
イシイルカは非常に活発なイルカである[1]。波しぶきを立てながら、海面すれすれを高速に、時にはジグザグに泳ぐ。また、突然海面上に現れたり、逆に急に隠れたりする。泳ぐ速度は小型のクジラ目としては最も速い部類に属し、最高55km/h程度の速度で泳ぐことができる[1]。
人間の船に近付き、船首波を跳ぶことが多い。しかし船の速度が遅い場合には、興味を失って船から離れることも少なくない。
2頭ないし10頭程度の小さな群を成して行動することが多い。強く結束された群というよりも、単に良い餌場に集まっているだけかもしれない。
非常に稀ではあるが、千頭以上の巨大な群を成すこともある。
寿命は15年程度である。
主に魚類や頭足類を食べる。
ニシン、イワシ、サバの群が一般的な餌である。
異種間交配
Bairedらは、遺伝子解析により、ブリティッシュコロンビア州で見つかった胎児がイシイルカとネズミイルカの交雑によるものであることを明らかにした[BAIRED98]。
バンクーバー島の沖において、ネズミイルカに似ており、普通とは異なる体色のイシイルカが見られるが、その起源はイシイルカとネズミイルカとの交雑であるという説[要出典]もある。
分布
本種の主な生息域は北太平洋の寒帯や温帯の海域である[1]。
イシイルカ型の生息域は広く、南カリフォルニア州から南日本にかけての広汎な北太平洋一帯(日本海、ベーリング海も含む)に棲息する[1]。
リクゼンイルカ型の生息域は狭く、日本列島の北や東の太平洋の北西海域のみに棲息する[1]。
他の多くのネズミイルカ科のイルカとは異なり、水深の深い海域を好む海洋性である[1]。
沿岸に近付くこともあるが、それでも多くの場合には水深の深い海域に留まる。
生息数
正確な生息数は不明であるが、生息域においては珍しくはないと考えられている。
イシイルカは人間の船に接近してくるために、生息数を正確に調査することが困難になっている。
全生息数は数十万頭であり、おそらくオホーツク海に棲息する個体数が最大であろうと考えられている。
人間との関り
毎年、多くのイシイルカが漁網による混獲の被害に遭っている。
しかしながら、多くの生息域においては、生息数に致命的な影響を与えるほどの被害ではないだろうと考えられている。
より深刻な影響は日本などで行われている捕鯨による。1980年代中頃からの大型鯨類の捕鯨禁止(モラトリアム)の影響で、イシイルカなどの小型鯨類の捕獲数が激増した。1988年は4万頭が捕獲された。東日本大震災の影響により2011年以降は捕獲量が激減している。
日本における捕鯨状況
食料として見た場合、イシイルカの体内に含まれる微量の水銀に注意する必要がある。
厚生労働省は、イシイルカを妊婦が摂食量を注意すべき魚介類の一つとして挙げており、2005年11月2日の発表では、1回に食べる量を約80gとした場合、イシイルカの摂食は週に2回まで(1週間当たり160g程度)を目安としている[7]。
水産研究・教育機構によるデータ(ストランディングや混獲を含まず)[8]。
年 |
イシイルカ型(頭) |
リクゼンイルカ型(頭) |
型不明(頭) |
合計(頭)
|
1979 |
- |
- |
6,872 |
6,872
|
1980 |
- |
- |
6,718 |
6,718
|
1981 |
- |
- |
10 |
10
|
1982 |
- |
- |
12,833 |
12,833
|
1983 |
- |
- |
12,776 |
12,776
|
1984 |
- |
- |
9,764 |
9,764
|
1985 |
- |
- |
10,378 |
10,378
|
1986 |
- |
- |
16,515 |
16,515
|
1987 |
- |
- |
25,600 |
25,600
|
1988 |
- |
- |
40,367 |
40,367
|
1989 |
18,953 |
13,095 |
- |
32,048
|
1990 |
9,360 |
12,442 |
- |
21,802
|
1991 |
4,671 |
6,457 |
6,506 |
17,634
|
1992 |
3,394 |
8,009 |
- |
11,403
|
1993 |
5,731 |
8,587 |
- |
14,318
|
1994 |
8,093 |
7,854 |
- |
15,947
|
1995 |
7,002 |
5,394 |
- |
12,396
|
1996 |
8,038 |
8,062 |
- |
16,100
|
1997 |
8,533 |
10,007 |
- |
18,540
|
1998 |
5,303 |
6,082 |
- |
11,385
|
1999 |
6,379 |
8,428 |
- |
14,807
|
2000 |
7,513 |
8,658 |
- |
16,171
|
2001 |
8,430 |
8,422 |
- |
16,852
|
2002 |
7,614 |
8,335 |
- |
15,949
|
2003 |
8,308 |
7,412 |
- |
15,720
|
2004 |
4,614 |
9,175 |
- |
13,789
|
2005 |
6,880 |
7,784 |
- |
14,664
|
2006 |
4,212 |
7,802 |
- |
12,014
|
2007 |
4,070 |
7,287 |
- |
11,357
|
2008 |
2,594 |
4,632 |
- |
7,226
|
2009 |
1,773 |
7,767 |
- |
9,540
|
2010 |
1,256 |
3,663 |
- |
4,919
|
2011 |
89 |
1,863 |
- |
1,952
|
2012 |
29 |
376 |
- |
405
|
2013 |
95 |
1,198 |
- |
1,293
|
2014 |
16 |
1,620 |
- |
1,636
|
2015 |
15 |
1,577 |
- |
1,592
|
2016 |
1 |
1,058 |
- |
1,059
|
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k “Dall’s porpoise”. WDC(英語版). 2024年6月28日閲覧。
- ^ 海棲哺乳類データベース, 海棲哺乳類図鑑, イシイルカ(イシイルカ型), 国立科学博物館
- ^ Jefferson, TA; Braulik, G (2018). “Phocoenoides dalli”. IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T17032A50370912. https://www.iucnredlist.org/species/17032/50370912.
- ^ 海棲哺乳類データベース, 海棲哺乳類図鑑, イシイルカ(リクゼンイルカ型), 国立科学博物館
- ^ 海棲哺乳類データベース, 海棲哺乳類図鑑, イシイルカ, 国立科学博物館
- ^ * マーク・カーワディーン, マーティン・カム『完璧版 クジラとイルカの図鑑』日本ヴォーグ社〈自然環境ハンドブック〉、1996年、248- 249頁。ISBN 4-529-02692-2。
- ^ 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課 (2003年6月3日). “妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて(Q&A)(平成17年11月2日)”. 魚介類に含まれる水銀について. 厚生労働省. 2013年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月15日閲覧。
- ^ 国立研究開発法人 水産研究・教育機構 国際漁業資源の現況 -平成29年度現況- 48 イシイルカ 太平洋・日本海・オホーツク海 付表1
参考文献・外部リンク
- ITIS Report Phocoenoides dalli[リンク切れ] (2006年3月18日アクセス)
- Thomas A. Jefferson, Dall's Porpoise in the Encyclopedia of Marine Mammals (1998). ISBN 0125513402
- Reeves et al, National Audubon Society Guide to Marine Mammals of the World (2002). ISBN 0375411410.
- Carwardine, Whales, Dolphins and Porpoises (1995). ISBN 0751327816
- Baird et al., An intergenetic breed in the family Phocoenoidae, Canadian Journal of Zoology, Vol. 76, pp. 198-204 (1998).
- Dall's Porpoise[リンク切れ] phocoena.org
- 水産庁国際資源班、「平成14年度 国際漁業資源の現況 『イシイルカ』」 [1] (PDF) [リンク切れ] (1979年から2001年の捕獲頭数に関する資料)
- 岩崎他、「日本の小型鯨類調査・研究についての進捗報告 2000年5月から2001年5月まで」[2] (PDF) [リンク切れ] (2000年の捕獲頭数に関する資料)
- 岩崎、「日本の小型鯨類調査・研究についての進捗報告 2001年6月から2002年4月まで」[3] (PDF) [リンク切れ] (2001年の捕獲頭数に関する資料)
- 岩崎、「日本の小型鯨類調査・研究についての進捗報告 2002年5月から2003年3月まで」[4] (PDF) [リンク切れ] (2002年の捕獲頭数に関する資料)
- 水産総合研究センター遠洋水産研究所、「日本の小型鯨類調査・研究についての進捗報告 2003年4月から2004年4月まで」[5] (PDF) [リンク切れ] (2003年の捕獲頭数に関する資料)
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