Digitalian is eating breakfast
『Digitalian is eating breakfast』(デジタリアン・イズ・イーティング・ブレックファスト)は、小室哲哉が1989年12月9日にリリースしたアルバムCD。または同じタイトルで小室が行ったソロ・ライブツアー(「Tetsuya Komuro Tour '89〜'90 Digitalian is eating breakfast」)。 小室唯一の(一部インスト除く)全曲自身ボーカルアルバム。 背景1989年3月、TM NETWORKのコンサートツアー「TM NETWORK TOUR '88〜'89 CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜」の最中に宇都宮隆が怪我をした事によりその後の予定がキャンセルされたため1週間程休暇が出来、誰に提供する訳でもないユーロビートの楽曲を5曲程作った(そのとき出来た楽曲の中には「DIVE INTO YOUR BODY」がある)。それが切っ掛けとなり、エピックのスタッフと相談していく内にソロアルバムの制作を勧められた。シンクラヴィアの置いてあるスタジオに行き試運転とプログラムの組み直しを繰り返した小室は、6月頃から当時使用していたスタジオをシンクラヴィアに完全対応させた状態で本格的にスタートさせた[2][3]。 録音小室はこのアルバムで本格的にシンクラヴィアを使用し、TM NETWORKを含めて初めてギター以外のドラム、ベースなどは全て打ち込みで構成されたアルバムとなっている。 アルバムタイトルの「digitalian」は「デジタル」と「ベジタリアン」を組み合わせた造語。しかし、「digitalian」という言葉だけだとテーマが堅くなってしまうため、柔らかくするためにその後に「eating breakfast」という言葉を付け足してシャレっぽくした。反面、アルバムタイトルにそこまで深い意味は込めておらず、「digitalian」以降は特に必要性は無かった。「開き直って『hamburger』でも良かった(笑)」と語っている[4]。 ソロ活動をすることには特別な理由はなく、制作初期におおまかな全体像も思い描かず、プロデュースしている感覚も全くなかった状態で制作していたため、スケジュールの最後の1週間の追い込みでアルバムのタイトル・コンセプト・曲順・宣伝戦略を考えていった[2]。「敢えてコンセプトをあげるなら、『バックトラックから浮かんできた豊富なメロディと時速が何kmかがわかる物理的なスピード感を体感できる音楽』」と称している[4]。1989年の同時期に角川映画『天と地と』(1990年)のサウンドトラックの依頼が来ていたため、『Digitalian-』はボーカル入りのアルバムを、『天と地と』はインストゥルメンタルのアルバムにしたという。アルバム『天と地と』には本収録の「NEVER CRY FOR ME」のインストゥルメンタルがタイトルを変え、収録されている。 ギリギリまで実験的なアイディアを試していたため、納入は締め切り前日の午後5時だった[3]。 「楽器隊のリズムに対するシビアさをボーカルに反映させたらどうなるか」を常に考え、少なくとも「思いを込めることができたからOKテイク」にはせず、楽器隊と常に同列になる様に聴いて気持ち良くなるまで、何回もボーカルの位置をシンクラヴィアでずらした。この作業は「Vocals Treated」というクレジットになった[4]。 ミキシングの際に「音を正確に聞かせる人」「面白く感じる音はこちら側で沢山入れたから、それに忠実にミックスしてほしい」という意向で「CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜」にレコーディング・エンジニアとして参加したスティーブ・ジャクソンをメインとして起用した[4]。 本作の制作中にゲイリー・ライトと初対面する。その際「どうしてこのアルバムに参加させてくれないんだ?絶対に最高の音を作るからやらせてくれ」と言われたが、当時は絞ったコンセプトに集中しなければならなかったために、断らざるを得なかった。その後TMの「Love Train/We love the EARTH」より小室との共同作業が始まった[5]。 音楽性小室曰く「TM NETWORKのプロトタイプのようなもの」とのこと。TM NETWORKのレコーディングの前に作っていたデモテープでは「小室が一人でオケを作り、一人で仮歌を歌っているけど、それをアレンジを細かく煮詰めずにそのまま出してしまおう」というのがこのアルバムのコンセプトである。そのためTM NETWORKと同じ流れを汲んでおり、「グループ内で自分の音楽性を出せないので、出したアルバム」とは本質的に異なり、「自分の作品の元となる素材がそのまま素直に出ている」と振り返っている[6]。 音楽制作に集中し、歌詞もある程度曲ができた所で、車の中や家で聴いて音色に合うシチュエーション・イメージ・ストーリーをその場で閃いてはそのまま「自分が失った恋」「今まで色んな人との別れがあったけど、振られたのより自分のわがままで別れた方が、自分にとっては痛手となって残っている」等「自分の過去の恋愛に対する心情」を主軸のテーマにしつつ[7]、言葉として当てはめた。音に合う言葉でよかった為に、今まで憂鬱な気持ちで作詞に取り組んでいたのが嘘のように急に楽しくなり、「時間があればもっと書きたかった」と語っている。小室みつ子への発注の仕方も効果音の入る部分等を細かく念入りに説明した[2][4]。 英詩のみの楽曲を1曲制作したが、韻の踏み方が難しかったため、保留にした[2]。 共同プロデューサーとして日向大介が参加したのは当時既にシンクラヴィアを用いたレコーディングシステムを確立していた日向の「シンクラヴィアの細かい使用に対するノウハウ・システムの構築方法・実験上出来ることと出来ないこと」等の情報・アドバイスが欲しかったためであり、別の作業に忙しい小室の「スーパーバイザーになって欲しい」という依頼から始まっている。スタッフからは「現地のプロデューサーを付けてDRESSのノリでやったらいいんじゃないか」という意見もあったが、小室は「今まで聴いたことのないオリジナルの音色を出すためには、自分の音色がパブリックイメージに発表されている有名な人じゃない方がいい」とスタッフを説得し、日向を推薦した[3]。 このアルバムに収録されている「OPERA NIGHT」はTM NETWORKデビューアルバム『RAINBOW RAINBOW』作成時のデモテープの中の1曲の「OPEN YOUR HEART」(後に1994年リリースの『TMN RED』に収録)という楽曲の作り替えであり、「CHRISTMAS CHORUS」は『CHILDHOOD'S END』作成時に収録されなかった曲である。その他の曲は1989年3月以降から作った曲だが、「RUNNING TO HORIZON」はTM NETWORKのシングル「DIVE INTO YOUR BODY」と同時に作った曲であり、多数決で「DIVE INTO YOUR BODY」はTM NETWORKの曲になった。 小室は「ボーカルとバックの響きを上手く調整できた。今までではありがちだった『バックと歌メロが別物』みたいな作りではない」[2]「ようやく自分自身の体験を歌詞に反映することができた」[7]と振り返っている。 リリース1989年12月9日にEPIC/SONY RECORDSよりリリースされた。 2013年7月17日にリマスター音源・Blu-spec CD2規格でGT musicレーベルより再リリースされた。 2021年2月24日に完全生産限定BOXで「Digitalian is eating breakfast Special Edition」がリリースされた[8]。 ツアー概要アルバムリリース直後の12月16日の名古屋市総合体育館 レインボーホールから、1990年1月28日の横浜アリーナまで9都市全16公演で「Tetsuya Komuro Tour '89〜'90 Digitalian is eating breakfast」と題したソロライブツアーが行われた[9]。 ライブツアーのコンセプトとして小室は「TMではアンコールはやらないし、MCも必要最低限だけど、今回はアンコールに応えて、MCも日本語でやって、TMとは違うコミュニケーションをみよう」「コンサートの骨組みとなる音源であるベース・パーカッションの一部・コーラス等は事前にコンピューターで既に打ち込まれているけど、ライブではその上にどれだけ生身の人間がジャズの様な即興演奏を乗せられるか」を志した[10]。 マイケル・ジャクソンの「バッド・ワールド・ツアー」と同じシステムが導入され、同ツアーに関わったスタッフが来日してサポートした[2]。 日向大介が自身のプライベートスタジオである「Studio AVR」で開発したシステム「カレント・バッファー・ドライブ」を採用した。シールドケーブルを1kmつないでも、制作現場と変わらない音がライブ会場で鳴らされ、音の立ち上がりも早くなるというシステムである。ダイレクト・ボックスを使うとどうしても音がスローダウンするし、周波数特性も悪くなるため、ダイレクト・ボックスが電圧を上げるのに対し、このシステムでは電流を上げる様に設計された[11]。 フルキットの3台のシンクラヴィアを使用した。日本の全国ツアーでのシンクラヴィアの使用は本ツアーが初めてだった[4]。シンクラヴィア本体はステージ裏に用意された専用ブースに置き、ゴミやステージ上の照明から保護した。更に電波等照明のモニターの干渉を防ぐために、銅膜でシールド加工を施した[11]。 セットリスト
公演日程
サポートメンバー
批評
収録曲
Special Edition 収録曲※Disc 1は上記にボーナストラックを加えた全13曲編成(今回全て新たにリマスタリングが施されている)。Disc 2はソロライヴ「Tetsuya Komuro Tour '89〜'90 Digitalian is eating breakfast」(既発売されているVHS・DVD版にリマスタリングが施された)とボーナストラックとしてテレビ番組「eZ」で放送された5曲を追加収録したBlu-Ray。Disc 3 - Disc 5は先行シングル3作をアナログ7inchレコードに「Edit ver.」と同曲のインスト版を新規に収録。 ※太字は今回新規収録曲
楽曲解説1.DIGITALIAN
2.SHOUT
3.OPERA NIGHT
4.I WANT YOU BACK
6.HURRAY FOR WORKING LOVERS
7.NEVER CRY FOR ME
8.WINTER DANCE
11.RUNNING TO HORIZON(SHEP PETTIBONE SPECIAL REMIX)
12.GRAVITY OF LOVE(SHEP PETTIBONE SPECIAL REMIX)
13.CHRISTMAS CHORUS(EXTENDED VERSION)
14.RUNNING TO HORIZON(Edit ver.)
15.GRAVITY OF LOVE(Edit ver.)
16.CHRISTMAS CHORUS(Edit ver.)
スタッフ・クレジットレコーディングスタッフ全曲
スタッフ
「Digitalian is eating breakfast Special Edition」スタッフCD
Blu-ray
7inch Vinyl
リリース日一覧
参考文献
脚注
外部リンク |