1884年アメリカ合衆国大統領選挙United States presidential election, 1884
州別獲得選挙人分布図 クリーブランド ブレイン 選挙人の出せない準州
1884年アメリカ合衆国大統領選挙 (1884ねんアメリカがっしゅうこくだいとうりょうせんきょ、英語 : United States presidential election, 1884 )は、1884年 11月4日 に行われたアメリカ合衆国大統領選挙 (第25回)。過剰な中傷と個人のとげとげしさに彩られた選挙となった。
1884年 11月4日 、ニューヨーク州知事 グロバー・クリーブランド が、メイン州 選出のアメリカ合衆国上院 議員ジェイムズ・G・ブレイン を僅差で破り、南北戦争 の前の1856年 以来の民主党 大統領 になった。この選挙ではニューヨーク州の投票者1,167,003のうち、わずか1,047票差でクリーブランドが36人の選挙人を獲得することになり、選挙の行方を決した。
候補者の指名
共和党の指名
共和党の指名候補者
共和党の旗印
共和党はシカゴで全国党大会を開催し、元下院議長のジェイムズ・G・ブレイン、現職大統領のチェスター・A・アーサーおよびバーモント州選出のアメリカ合衆国上院議員ジョージ・F・エドマンズが有力候補になった。第1回目の投票ではブレインが1位、アーサーが2位、エドマンズが3位だった。その後の投票でもこの順位は変わらず、ブレインが差を広げ、4回目の投票で過半数を獲得した。ブレインの指名後、イリノイ州選出のアメリカ合衆国上院議員ジョン・A・ローガンを副大統領候補に指名した。
有名な南北戦争の将軍、ウィリアム・テカムセ・シャーマン が共和党の有力候補とも考えられたが、シャーマンの誓約と呼ばれるもの、すなわち「もし招集されても私は出ない。もし指名されても受けない。もし選ばれても就任しない」という言葉で除外された。
民主党の指名
民主党の旗印
民主党の指名候補者
民主党の全国党大会もシカゴで開催され、ニューヨーク州知事のグロバー・クリーブランドを大統領候補に選んだ。他の指名候補、トマス・F・ベイアード、トマス・A・ヘンドリックス、アレン・G・サーマン、サミュエル・J・ランドール、ジョセフ・E・マクドナルドおよびジョン・G・カーライルは4年前の指名候補であり落選していたが、その彼らを破った。ヘンドリックスは副大統領候補の指名を受けた。
平等党の指名
女性参政権 運動に対する2大政党の男性達による抵抗に不満を抱いた女性の小集団が1884年にこの第3の政党結党を宣言した。ワシントンD.C. の検察官ベルバ・アン・ロックウッド (英語版 ) が、まだアメリカ合衆国の女性は投票権が無かったにも拘らず、その候補者指名に同意した。彼女は「私は投票できないが投票はしてもらえる」と言った。大統領職を求めた選挙戦を完全に戦った最初の女性となった(1872年のビクトリア・ウッドハル (英語版 ) は限られた選挙運動を実行した)。平等党は資金が無かったがロックウッドは運動の旅行費用を賄うために講義を行った。ロックウッドの獲得した票は5,000票に満たなかったが、女性は政治に興味があり、良い候補者になり得るという重要な市民としての教訓を国民に教えた。
グリーンバック党・反独占党の指名
グリーンバック労働党 はその党名から「労働」をはずし、南北戦争の将軍ベンジャミン・フランクリン・バトラー を大統領候補に、南軍 の将軍アブソロム・M・ウエストを副大統領候補に選んだ。相前後してバトラーは、反独占党からも候補者に指名され、両党の共同公認で本選挙を戦うこととなった。
禁酒党の指名
禁酒主義者は3回目の大統領選挙に、ジョン・セントジョンを大統領候補に、ウィリアム・ダニエルを副大統領候補に選んだ。分かりやすい単一命題の禁酒党の綱領はアルコール飲料の刑罰化を訴えた。
一般選挙
選挙運動
クリーブランドをワシントンやリンカーンと並べた選挙ポスター
クリーブランドの隠し子騒動を攻撃する選挙ポスター
個人の性格の問題がこの選挙運動を特徴付けた。元下院議長のブレインは「マリガンの手紙」という汚点のために、過去2回の大統領選挙で共和党の候補者指名を得られなかった。1876年、ジェイムズ・マリガンというボストンの簿記係が、ブレインが議会におけるその影響力を様々な事業に利用して儲けたことを示す幾つかの手紙を見つけた。そのような手紙の一つの最後の文句は「この手紙を燃やせ」となっており、そのことから民主党の選挙スローガンは「燃やせ、燃やせ、この手紙を燃やせ」になった。一つの取引で、リトルロック&フォートスミス鉄道から、数多ある中でも連邦政府の土地特許を確保した報酬としてブレインは110,150ドル(2005年の貨幣価値で150万ドル)を得ていた。民主党と反ブレイン共和党員はブレインの誠実さに対して際限の無い攻撃を掛けた。一方、ニューヨーク州知事のクリーブランドは、その個性としての高潔さで「善良なるグロバー」として知られていた。それ以前のバッファロー 市長 として、また州知事を務めた期間に、タマニーホール の収賄をかなりの量で浄化していた。
しかし、7月21日のバッファローの「イブニング・テレグラフ」紙は、クリーブランドが婚姻によらない1児 の父となり、その子供は孤児 になって、母親は保護施設に入ったと報じた時に大きな衝撃が走った。クリーブランドの選挙参謀は率直さがこのスキャンダルに対処する最良の方法と決めた。彼らはクリーブランドがその母親と「不義の関係」をなし、子供が産まれ、クリーブランドの姓を与えられたことを認めた。さらにクリーブランドが父親であるという証拠は無いとも述べ、その責任を取って子供に家を見つけることでその義務を果たしているだけだと主張した。最終的に母親は強制的に保護施設に入れられたのではなく、行方不明になっていることを示した。ブレインの支持者はクリーブランドを最も強い言葉で非難した。しかし、クリーブランドの選挙運動のやり方がうまく運び、選挙日まで接戦を続けた。実際に多くの共和党改革派はブレインのスキャンダルに嫌悪感を持ち、クリーブランド選出に動いた。これら改革派は「マグワンプス」と呼ばれた。
勝敗を決定的にしたのは、選挙期間の最終週だった。ブレインが出席した共和党の集会で、ニューヨーク州の牧師の一団がマグワンプを厳しく非難していたが、その中の一人で長老派教会 牧師だったサミュエル・バーチャード牧師がこう発言したのである。
「
我々は共和党員であり、その素性が厄介者でローマ・カトリック 教徒で反逆者である者を離党せよとは言わず、党員であるとは思わない。
」
バーチャードのあからさまなカトリックへの攻撃には、ブレインばかりか同席していた新聞記者すら気付かなかったが、集会に紛れ込んだ一人の民主党員がクリーブランド陣営に知らせ、忽ち攻撃の材料となってしまった。結果としてニューヨーク市のカトリック教徒のブレインに対する反感を買い、ニューヨーク州の一般投票では僅差でブレインが敗れることになった。
結果
州ごとの結果
出典: データは Walter Dean Burnham より引用, Presidential ballots, 1836-1892 (Johns Hopkins University Press, 1955) pp 247–57.[ 2]
グロバー・クリーブランド 民主党
ジェームズ・ブレイン 共和党
ジョン・セントジョン 禁酒党
ベンジャミン・バトラー グリーンバック党
票差
州の合計
州
選挙人数
#
%
選挙人数
#
%
選挙人数
#
%
選挙人数
#
%
選挙人数
#
%
#
アラバマ州
10
92,736
60.37
10
59,444
38.69
-
610
0.40
-
762
0.50
-
33,292
21.67
153,624
AL
アーカンソー州
7
72,734
57.83
7
51,198
40.70
-
-
-
-
1,847
1.47
-
21,536
17.12
125,779
AR
カルフォルニア州
8
89,288
45.33
-
102,369
51.97
8
2,965
1.51
-
2,037
1.03
-
-13,081
-6.64
196,988
CA
コロラド州
3
27,723
41.68
-
36,084
54.25
3
756
1.14
-
1,956
2.94
-
-8,361
-12.57
66,519
CO
コネチカット州
6
67,182
48.95
6
65,898
48.01
-
2,493
1.82
-
1,684
1.23
-
1,284
0.94
137,257
CT
デラウェア州
3
16,957
56.55
3
12,953
43.20
-
64
0.21
-
10
0.03
-
4,004
13.35
29,984
DE
フロリダ州
4
31,769
52.96
4
28,031
46.73
-
72
0.12
-
-
-
-
3,738
6.23
59,990
FL
ジョージア州
12
94,667
65.92
12
48,603
33.84
-
195
0.14
-
145
0.10
-
46,064
32.08
143,610
GA
イリノイ州
22
312,351
46.43
-
337,469
50.17
22
12,074
1.79
-
10,776
1.60
-
-25,118
-3.73
672,670
IL
インディアナ州
15
245,005
49.46
15
238,489
48.15
-
3,028
0.61
-
8,810
1.78
-
6,516
1.32
495,332
IN
アイオワ州
13
177,316
47.01
-
197,089
52.25
13
1,499
0.40
-
-
-
-
-19,773
-5.24
377,201
IA
カンザス州
9
90,132
33.90
-
154,406
58.08
9
4,495
1.69
-
16,346
6.15
-
-64,274
-24.18
265,848
KS
ケンタッキー州
13
152,961
55.32
13
118,690
42.93
-
3,139
1.14
-
1,691
0.61
-
34,271
12.40
276,481
KY
ルイジアナ州
8
62,594
57.22
8
46,347
42.37
-
338
0.31
-
120
0.11
-
16,247
14.85
109,399
LA
メイン州
6
52,153
39.97
-
72,217
55.34
6
2,160
1.66
-
3,955
3.03
-
-20,064
-15.38
130,491
ME
メリーランド州
8
96,866
52.07
8
85,748
46.10
-
2,827
1.52
-
578
0.31
-
11,118
5.98
186,019
MD
マサチューセッツ州
14
122,352
40.33
-
146,724
48.36
14
9,923
3.27
-
24,382
8.04
-
-24,372
-8.03
303,383
MA
ミシガン州
13
189,361
47.20
-
192,669
48.02
13
18,403
4.59
-
753
0.19
-
-3,308
-0.82
401,186
MI
ミネソタ州
7
70,065
36.87
-
111,685
58.78
7
4,684
2.47
-
3,583
1.89
-
-41,620
-21.90
190,017
MN
ミシシッピ州
9
77,653
64.34
9
43,035
35.66
-
-
-
-
-
-
-
34,618
28.68
120,688
MS
ミズーリ州
16
236,023
53.49
16
203,081
46.02
-
2,164
0.49
-
-
-
-
32,942
7.47
441,268
MO
ネブラスカ州
5
54,391
40.53
-
76,912
57.31
5
2,899
2.1600
-
-
-
-
-22,521
-16.78
134,202
NE
ネバダ州
3
5,578
43.59
-
7,193
56.21
3
-
-
-
26
0.20
-
-1,615
-12.62
12,797
NV
ニューハンプシャー州
4
39,198
46.34
-
43,254
51.14
4
1,580
1.87
-
554
0.65
-
-4,056
-4.80
84,586
NH
ニュージャージー州
9
127,798
48.98
9
123,440
47.31
-
6,159
2.36
-
3,496
1.34
-
4,358
1.67
260,921
NJ
ニューヨーク州
36
563,154
48.25
36
562,005
48.15
-
25,006
2.14
-
17,004
1.46
-
1,149
0.10
1,167,169
NY
ノースカロライナ州
11
142,905
53.25
11
125,021
46.59
-
430
0.16
-
-
-
-
17,884
6.66
268,356
NC
オハイオ州
23
368,280
46.94
-
400,082
50.99
23
11,069
1.41
-
5,179
0.66
-
-31,802
-4.05
784,610
OH
オレゴン州
3
24,604
46.70
-
26,860
50.99
3
492
0.93
-
726
1.38
-
-2,256
-4.28
52,682
OR
ペンシルベニア州
30
392,785
43.46
-
478,804
52.97
30
15,283
1.69
-
16,992
1.88
-
-86,019
-9.52
903,864
PA
ロードアイランド州
4
12,391
37.81
-
19,030
58.07
4
928
2.83
-
422
1.29
-
-6,639
-20.26
32,771
RI
サウスカロライナ州
9
69,845
75.25
9
21,730
23.41
-
-
-
-
-
-
-
48,115
51.84
92,812
SC
テネシー州
12
133,770
51.45
12
124,101
47.74
-
1,150
0.44
-
957
0.37
-
9,669
3.72
259,978
TN
テキサス州
13
225,309
69.26
13
93,141
28.63
-
3,534
1.09
-
3,321
1.02
-
132,168
40.63
325,305
TX
バーモント州
4
17,331
29.18
-
39,514
66.52
4
1,753
2.95
-
785
1.32
-
-22,183
-37.34
59,401
VT
バージニア州
12
145,491
51.05
12
139,356
48.90
-
130
0.05
-
-
-
-
6,135
2.15
284,977
VA
ウェストバージニア州
6
67,311
50.94
6
63,096
47.75
-
939
0.71
-
799
0.60
-
4,215
3.19
132,145
WV
ウィスコンシン州
11
146,453
45.79
-
161,135
50.38
11
7,649
2.39
-
4,598
1.44
-
-14,682
-4.59
319,835
WI
合計:
401
4,914,482
48.85
219
4,856,903
48.28
182
150,890
1.50
-
134,294
1.33
-
57,579
0.57
10,060,145
US
接戦だった州
青字は民主党、赤字は共和党が勝利したことを示す。数字は得票率の差。
得票率差5%未満 (選挙人172):
ニューヨーク州 , 0.10%
ミシガン州 , 0.82%
コネチカット州 , 0.94%
インディアナ州 , 1.32%
ニュージャージー州 , 1.67%
バージニア州 , 2.15%
ウェストバージニア州 , 3.19%
テネシー州 , 3.72%
イリノイ州 , 3.73%
オハイオ州 , 4.05%
オレゴン州 , 4.28%
ウィスコンシン州 , 4.59%
ニューハンプシャー州 , 4.80%
得票率差5%以上10%未満 (選挙人104):
アイオワ州 , 5.24%
メリーランド州 , 5.98%
フロリダ州 , 6.23%
カルフォルニア州 , 6.64%
ノースカロライナ州 , 6.66%
ミズーリ州 , 7.47%
マサチューセッツ州 , 8.03%
ペンシルベニア州 , 9.52%
参考文献
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Mark Wahlgren Summers. Rum, Romanism, and Rebellion: The Making of a President, 1884 (2000) online version
一次史料
脚注
外部リンク
本選 予備選
用語 関連項目 その他
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