鉱質コルチコイド受容体拮抗薬 (Mineralocorticoid receptor antagonist,MCRA[ 1] )または抗アルドステロン薬 (Aldosterone antagonist)は、鉱質コルチコイド受容体におけるアルドステロン の作用に拮抗する利尿薬 である。慢性心不全 の治療には、他の薬剤と併用して補助的に使用されることが多い。このクラスの最初の薬剤であるスピロノラクトン は、高アルドステロン症(コン症候群 を含む)および女性の多毛症 (抗アンドロゲン作用を併せ持つため)の管理にも使用される。スピロノラクトンを含む多くの鉱質コルチコイド拮抗薬は、ステロイド系スピロラクトン (英語版 ) である。フィネレノン (英語版 ) は非ステロイド系の鉱質コルチコイド拮抗薬である。
医療用途
鉱質コルチコイド拮抗薬は、主に腎臓に作用する利尿薬 である。ナトリウムの再吸収を減少させ、腎臓からの水の排泄を増加させる[ 2] 。水分排泄を調節することにより、鉱質コルチコイド拮抗薬は血圧 を低下させ、心臓周辺の水分を減少させるため、一部の心血管疾患 に非常に有効である[ 3] 。鉱質コルチコイド拮抗薬は、心血管系の多くの臨床症状に使用されている。原発性アルドステロン症 、原発性高血圧 、治療抵抗性高血圧、心不全 、慢性腎臓病 などの疾患に有効であることが証明されている[ 2] 。また、ACE阻害薬 やβ遮断薬 などの他の薬剤と併用されることが多い[ 4] 。
副作用
尿量の増加は、特に治療開始後の初期段階でよく報告されるが、ほとんどが一過性のもので、治療を継続することで減少する傾向にある。鉱質コルチコイド拮抗薬の一般的な副作用には、吐き気や嘔吐、胃痙攣、下痢などが挙げられる[ 4] 。臨床的に有意な高カリウム血症が起こる可能性があるため、定期的に血清カリウムのモニタリングを行う必要がある。高カリウム血症 の病態生理の要点は、鉱質コルチコイド拮抗薬がカリウム (K)の排泄 を減少させる点にある。
作用機序
鉱質コルチコイド拮抗薬の作用機序
アルドステロンは、副腎 で合成される鉱質コルチコイドの一種である[ 5] 。副腎から分泌されたアルドステロンは、腎尿細管 細胞の鉱質コルチコイド受容体(MR)に結合して複合体を形成する[ 6] 。この複合体は、核 内の特定のDNA セグメントの転写 を促進し、腎尿細管細胞の基底外側膜 (英語版 ) にあるNa+ /K+ ATPaseポンプと頂端膜 にあるENaC と呼ばれるNa+ チャネルという2つのタンパク質輸送体 の生成に繋がる[ 6] 。これらのタンパク質輸送体は、腎臓の遠位尿細管 と集合管 におけるナトリウム の再吸収とカリウム の排泄を増加させる。これにより、体内の容積状態と電解質バランス を正常に保つことができ、血圧 が低下する。
鉱質コルチコイド拮抗薬は、鉱質コルチコイド受容体に結合してアルドステロンを阻害することにより、アルドステロンの作用を低下させる。これにより、血清中のカリウム濃度が高くなり、ナトリウムの排泄量が増加するため、体液が減少し、血圧が低下する[ 5] 。
実例
鉱質コルチコイド拮抗薬は以下の2種に大別される。
スピロノラクトン
エプレレノン
カンレノン
カンレノ酸
フィネレノン
エサキセレノン
ステロイド系
非ステロイド系
フィネレノン — 非ステロイド系で、エプレレノンやスピロノラクトンよりも強力で選択性が高い。
エサキセレノン — 非ステロイド系で、選択性が非常に高い。
その他の薬剤の中にも、主な作用機序に加えて、抗鉱質コルチコイド作用を持つものがある。例えば、プロゲステロン 、ドロスピレノン 、ゲストデン (英語版 ) 、ベニジピン 等である[ 7] 。
構造活性相関
スピロノラクトン とエプレレノン は、アルドステロンの鉱質コルチコイド受容体への結合を競合的 に阻害し、ナトリウムイオンと塩化物イオンの再吸収を妨げる。ステロイド系鉱質コルチコイド拮抗薬の活性は、C-17位にY-ラクトン環が存在することに依存する。また、C-7位の置換基は、アルドステロンなどのC-7未置換の受容体作動薬 との相互作用を立体的に阻害するため、活性には重要である[ 8] 。
ステロイド系鉱質コルチコイド拮抗薬には、薬理作用上重要なy-ラクトン環が存在する。
エプレレノンは、副作用を抑えたスピロノラクトン類似薬として開発された医薬品である。エプレレノンは、y-ラクトン環とC-7の置換基に加えて、9α,11α-エポキシ基を有する。この基が、エプレレノンがスピロノラクトンに比べて鉱質コルチコイド受容体に対する親和性が20〜40倍低い理由と考えられている[ 8] 。
フィネレノン は非ステロイド性であるため、親油性や極性が異なるにもかかわらず、鉱質コルチコイド受容体に対するフィネレノンの親和性はスピロノラクトンと等しくエプレレノンの500倍であり、多くの鉱質コルチコイド拮抗薬のステロイド骨格は鉱質コルチコイド受容体への親和性に必須ではないことを示唆している[ 9] 。エサキセレノン の鉱質コルチコイド受容体親和性はスピロノラクトンの4倍である[ 10] [ 11] [ 12] 。
歴史
1950年代に起こった最初のアルドステロン拮抗薬の同定の主な目的は、アルドステロン活性の阻害物質を同定することであった。当時、アルドステロンの主な用途は、腎臓のナトリウムとカリウムの排泄をコントロールすることだと認識されていた[ 9] 。
1959年、ラットを用いた研究により、最初のアルドステロン拮抗薬の1つであるスピロノラクトンを使用することで、アルドステロンによる心臓の壊死からラットを守ることができることが発見された。同じ年にスピロノラクトンはカリウムを保持する利尿剤として発売された。数年後、アルドステロン拮抗薬が特定の受容体タンパク質を阻害することが明らかになった。このタンパク質は、アルドステロンだけでなく、ヒトではコルチゾール、マウスやラットではコルチコステロンにも高い親和性を持つ。このため、アルドステロン拮抗薬は鉱質コルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれた[ 9] 。
鉱質コルチコイド受容体拮抗薬の研究開発については、製薬業界に3つの大きな波があった。第1の波は、サール研究所で起こった。アルドステロンが精製された直ぐ後に、ステロイド骨格を持つスピロノラクトンを最初の鉱質コルチコイド拮抗薬として同定した。第2の波は、より特異的なステロイド系の鉱質コルチコイド拮抗薬を発見することにあった[ 9] 。
スピロノラクトンの発見から約50年後、幾つかの製薬会社が創薬プログラムを開始した。その目的は、非ステロイド系の鉱質コルチコイド拮抗薬を発見し、薬力学と薬物動態を明確にした上で、有効かつ安全な薬剤として使用することであった。そして、これらの候補物質を幅広い疾患に使用することを目指していた。これが実質的な第3の波であった。最初の鉱質コルチコイド拮抗薬は、全て動物実験によって発見・同定されたが、新規の非ステロイド系鉱質コルチコイド拮抗薬の同定は、さまざまな製薬会社で何百万もの化学物質を用いたハイスループットスクリーニング によって行われた[ 9] 。
関連項目
参考資料
^ The Krause/King-Lewis acronym, developed at Naval Medical Center San Diego Archived 2018-07-13 at the Wayback Machine ., of MCRA was developed during February 2017 to distinguish between MRA for a specific MRI which are both widely recognized medical acronyms as compared to the use of MRA for mineralocorticoid receptor antagonist type medications which is only used as a medical acronym in the cardiology and nephrology word.
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外部リンク