W が U の補空間ならば、上記の如く V の各元 v は v = u + w となる u ∈ U, w ∈ W が一意的にとれる。このとき、PW: V → V; v = u + w ↦ u は像im(PW) = U および核ker(PW) = W を持つ射影である。
逆に、im(P) = U となる射影 P: V → V に対し、核 ker(P) は U の補空間である。
これにより、U の補空間全体の成す集合と像が U であるような V 上の射影全体の成す集合との間に一対一対応があることがわかる。U を像に持つ射影全体の成す空間はベクトル空間 Hom(V/U, U) (⊂ Hom(V, V)) 上のアフィン空間を成す。
例
ベクトル空間 V ≔ ℝ2(デカルト平面)の部分空間として U ≔ {(0, y) | y ∈ ℝ}(y-軸)を考える(図を参照)。
任意の実数a に対して、Wa は原点を通る傾きa の直線とすれば、それら部分空間 Wa の各々すべてが V における U の補空間であり、対応する射影は行列表示すれば で与えられる(行列の第一行はすべて 0 だから、この像が U となることを直接確かめることは難しくない)。Pa の核が Wa となることは、Pa(x y) = (0 0) を解けばわかるが、実際 だから、核は y = ax を満たす (x y) の全体、すなわち原点を通る傾き a の直線である。
体K 上のベクトル空間V は対称または交代双線型形式もしくはエルミート半双線型系形式⟨,⟩ を持つものとする。V の部分空間 U に対し、部分空間 を U の V における直交補空間と呼ぶ。直交補空間 U⊥ は、一般には上で述べた意味での U の補空間とは限らないことに注意すべきである。双対性定理によれば、V が有限次元で形式 ⟨,⟩ が U 上でも V 上でも非退化ならば、V = U ⊕ U⊥ が成り立つ。例えば、実または複素ベクトル空間上の内積はこの性質を常に満足する。
ヒルベルト空間の場合
V がヒルベルト空間の場合、部分空間 U の直交補空間は、U の閉包 U の補空間になる。つまり、 が成り立つ(⊕ はヒルベルト空間の内部直和)。
この場合の直交補空間は必ず閉であり、 を満たす。
バナッハ空間における補空間
V は(有限または無限次元の)完備なノルム空間、すなわちバナッハ空間とし、U をその閉部分空間で補空間 W を持つものとする。すると V と U ⊕ W の代数的な意味での線型同型 U ⊕ W → V; (u, w) ↦ u + w を通じて、位相的な意味での線型同型(つまり、連続かつ逆写像も連続となるような線型同型)が定まる。
ベクトル空間 V 上の自己準同型写像f: V → V と V の f-不変部分空間U(すなわち、f(U) ⊂ U となるような部分空間)に対し、U は必ずしも f-不変な補空間を持つわけではない。自己準同型 f に対し、任意の f-不変部分空間がf-不変補空間を持つとき、f は半単純であると言う。この半単純性は、代数閉体上で対角化可能ということと同値である。