数学 において、射影加群 (しゃえいかぐん、英 : projective module )とは、
表現可能関手 Hom(P , –) が完全 となるような加群 P のことである。 自由加群 の一般化に相当する。
ホモロジー代数学 における基本的な概念のひとつであり、Cartan & Eilenberg (1956) で導入された。
動機
一般の加群 P に対して表現可能関手 Hom(P , –) は左完全 である。
つまり任意の短完全列
0
→
N
→
M
→
K
→
0
{\displaystyle 0\to N\to M\to K\to 0}
に対して
0
→
Hom
(
P
,
N
)
→
Hom
(
P
,
M
)
→
Hom
(
P
,
K
)
{\displaystyle 0\to \operatorname {Hom} (P,N)\to \operatorname {Hom} (P,M)\to \operatorname {Hom} (P,K)}
は完全である。
この関手 Hom(P , –) が完全となる、つまり
0
→
Hom
(
P
,
N
)
→
Hom
(
P
,
M
)
→
Hom
(
P
,
K
)
→
0
{\displaystyle 0\to \operatorname {Hom} (P,N)\to \operatorname {Hom} (P,M)\to \operatorname {Hom} (P,K)\to 0}
が完全となる加群 P のことを射影加群と呼ぶ。
定義
R を単位元 をもつ環 とし、以下では加群はすべて左 R 加群、射はすべて左 R 加群の準同型を指すことにする。
加群 P が射影加群 である、あるいは射影的 とは次の同値な条件のいずれかが成り立つことをいう[ 2] 。
関手 Hom(P , –) が完全 である、つまり任意の短完全列 0 → N → M → K → 0 に対して 0 → Hom(P , N ) → Hom(P , M ) → Hom(P , K ) → 0 も短完全列である
P はある自由加群 の直和 因子と同型 である
任意の全射 N → M に対して Hom(P , N ) → Hom(P , M ) も全射である
任意の加群 M に対して Ext(P , M ) = 0
任意の加群 M と正の整数 n に対して Extn (P , M ) = 0
任意の全射 f : N → M と射 g : P → M に対して f ・ h = g となる射 h : P → N が存在する
より一般にアーベル圏
A
{\displaystyle {\mathcal {A}}}
の対象 P は関手
Hom
A
(
P
,
−
)
{\displaystyle \operatorname {Hom} _{\mathcal {A}}(P,-)}
が完全なときに、射影的という。
例
環 Ri の直和 R = R 1 ⊕ R 2 に対して、Pi = Ri ⊕ 0 は射影的な R 加群であるが、自由加群ではない。
性質
射影分解と射影次元
加群 M に対し、各 Pi が射影加群であるような次の完全列
⋯
→
P
n
+
1
→
d
n
+
1
P
n
→
⋯
→
P
1
→
d
1
P
0
→
d
0
M
→
0
{\displaystyle \cdots \to P_{n+1}{\overset {d_{n+1}}{\to }}P_{n}\to \cdots \to P_{1}{\overset {d_{1}}{\to }}P_{0}{\overset {d_{0}}{\to }}M\to 0}
を M の射影分解 という。特にすべての i ≥ 0 に対して Pi → Im di が射影被覆 となるときは極小射影分解 という。任意の加群には自由分解(上記で射影加群を自由加群に置き換えたもの)が存在し、したがって射影分解も存在する。すべての i > n に対し Pi = 0 であるような射影分解を長さ n の射影分解という。そのような n が存在する場合その最小値を M の射影次元 といい、存在しない場合は射影次元は ∞ という。ただし、{0} の射影次元は −1 とする。射影次元は pd(M ) と書かれる。これは M の極小射影分解の長さに等しい。R -加群 M と整数 n ≥ 0 に対して以下は同値。
pd(M ) ≤ n .
任意の R -加群 X に対して、
Ext
R
n
+
1
(
M
,
X
)
=
{
0
}
.
{\displaystyle \operatorname {Ext} _{R}^{n+1}(M,X)=\{0\}.}
任意の i ≥ n + 1 と任意の R -加群 X に対して、
Ext
R
i
(
M
,
X
)
=
{
0
}
.
{\displaystyle \operatorname {Ext} _{R}^{i}(M,X)=\{0\}.}
関連項目
脚注
参考文献
Anderson, Frank W.; Fuller, Kent R. (1992). Rings and Categories of Modules . Graduate texts in mathematics. 13 (Second ed.). Springer-Verlag. ISBN 0-387-97845-3 . MR 1245487 . Zbl 0765.16001 . http://www.springer.com/mathematics/algebra/book/978-0-387-97845-1
Cartan, H. ; Eilenberg, S. (1956). Homological Algebra . Princeton University Press. ISBN 0-444-82375-1 . MR 0077480 . Zbl 0075.24305 . https://books.google.co.jp/books?id=Sd0DDAAAQBAJ (Review by S. MacLane )
Weibel, Charles A. (1994). An Introduction to Homological Algebra . Cambridge University Press. ISBN 0-521-55987-1 . MR 1269324 . Zbl 0797.18001 . https://books.google.co.jp/books?id=flm-dBXfZ_gC&pg=PA33
Weibel, Charles A. (1999), “History of homological algebra” , in James, I. M., History of Topology , pp. 797–836, doi :10.1016/B978-044482375-5/50029-8 , MR 1721123 , Zbl 0966.55002 , https://books.google.co.jp/books?id=7iRijkz0rrUC&pg=PA797
岩永, 恭雄、佐藤, 眞久『環と加群のホモロジー代数的理論 』(第1版)日本評論社、2002年。ISBN 4-535-78367-5 。http://www.nippyo.co.jp/book/1984.html 。 数学 sugaku1947.58.413