腹足類の分類(ブシェ&ロクロワ2005年) (ふくそくるいのぶんるい~)は、パリ自然史博物館 のフィリップ・ブシェ(Phillipe Bouchet)とジャン=ピエール・ロクロワ(Jean-Pierre Rocroi)によって2005年に公表された、軟体動物 のうちの腹足類 の分類体系である。
21世紀初頭前後に急速に進展した腹足類の系統分研究の結果を踏まえたもので、「Classification and Nomenclator of Gastropoda Families」の表題で軟体動物研究の専門雑誌『Malacologia』47巻1-2号の合併号として出版された。真の系統関係の反映に近づくための新たな一歩で、これ以降の修正・変更などは電子出版のかたちでアップデートするとしている。
なお実際の分類体系の著者はブシェと他の5人の専門家らであり、ロクロワ自身は入っていないが、彼は文献調査と編集とをブシェとともに行った。
背景
軟体動物の系統分類は、20世紀末から21世紀初頭にかけて急速に進展した。なかでも腹足類のそれは古典的な分類体系がほとんど使用不可な状況にまでなった。これは、殻や歯舌など一部の形態のみに重点を置いてなされていた旧来の分類に対し、20世紀末ごろからの系統分類では、より詳細な軟体の形態研究が進んだことに加え、DNAやRNAの塩基配列 などの分子形質を用いた系統解析の手法が用いられるようになったことと、分類法自体が分岐分類 へ大きくシフトしたことなどによる。その結果、毎年あるいはより短期間のうちにも新たな系統関係の部分修正案が出されるようになり、現在もそれが進行中である。このような状況のなかで、それらを一旦整理すべく、膨大な過去の論文その他に基づいてまとめられたのがこの分類体系である。
概要
全部で397頁からなるが、パート1とパート2に分かれており、分類体系自体はパート2として提示されている。
パート1(Part 1. Nomenclator of Gastropod Family-Group Names:p.5-239.)
リンネ以降に提唱された化石も含む腹足類の科階級群(上科・科・亜科・族・亜族)の名称をアルファベット順に並べ、それぞれに記載者、記載文献、出版日付が明記されており、国際動物命名規約 に照らした適格性、有効性も明記している。これによれば全部で2396個の名称が確認され、そのうち適格名は2060、うち有効名は1947、実際に分類上で使用されるのは611個となっている。また科階級群より上の分類階級の名称も別項で同様に配列・解説している。著者はP. Bouchet & J.P. Rocroi(ともにパリ自然史博物館 )。
パート2(Part. 2 Working Classification of the Gastropoda:p.240-284.)
パート1を踏まえ、その時点で最適と考えられた分類体系を最小単位で亜族(Subtribe)のランク(すなわち属より上のランク)まで提示し、出典とシノニム も示している。上科より上の分類群はランクにかかわらず単にクレード(Clade:単系統群 )と呼び、亜綱や目、亜目、下目などの分類階級名は用いずにインデントでランクを示している。これは分岐分類を厳密に適用すれば、一枝ごとに分類群名を付けることになり、複数の枝分かれに対して均整のとれた一様で共通の階級名を与えるのが困難だからである。また、単系統群であることが確認されていない、もしくは側系統群や多系統群であることがほぼ明らかでありながら、新たな分類法が提出されていない群は「group(群)」や「informal group(非公式群)」として提示されている。
パート2の著者はP. Bouchet(パリ自然史博物館 ), Jiri Frýda(チェコ地質調査局 ), Bernhard Hausdorf(ハンブルク大学 ), Winston Ponder(オーストラリア博物館 ), Angel Valdes(ロサンゼルス郡自然史博物館 ), Anders Warén(スウェーデン自然史博物館 )の6人。
※この分類体系も暫定的なものであり、これが公表された時点でも多くの異論が存在することや、その後も新たな分類案が出されていることに注意しなければならない。
上位クレード
科より上のクレードと非公式群の概要は以下のとおりである。「†」は化石のみで知られる群。
上記をインデント で示すと下記のようになる。
科までの分類
以下は科までの分類を示したもので、一部を除き亜科と族は省略してある(亜科以下は外部リンク参照のこと)。またクレード はインデントせずに示してあるため、各クレードの階層は上記の「上位クレード」の節を参照のこと。「†」は化石のみで知 られる群。 分類群名や科名はブシェ&ロクロワの分類を基本に用いている「干潟の絶滅危惧動物図鑑」(日本ベントス学会、2012)を主に参照した。
Clade Patellogastropoda 笠型腹足類クレード
ツタノハガイ科 セイヨウカサガイ (ウェールズ ・ペンブルックシャー )
ヨメガカサ科 ヨメガカサ (長崎市 )
スカシガイ科 Diodora italica (キプロス ・化石)
ミミガイ科 ミミガイ
エビスガイ科 ユビワエビス (カリフォルニア・モントレー )
リュウテン科 ニチリンサザエ (ニュージーランド )
ゴマオカタニシ科 ベニゴマオカタニシ (豊橋市 )
アマオブネガイ科 イシマキガイ (浜松市 )
所属上科不明の古生代 の2科、およびCyrtoneritimorpha と Cycloneritimorpha の2クレードを含む。
所属上科が不明の3科とinformal group Architaenioglossa (原始紐舌類)、および Sorbeoconcha (吸腔類)と Hypsogastropoda (高腹足類)の2クレードを含む。
オニノツノガイ科 オニノツノガイ
ミミズガイ科 カラミミミズ (フィリピン)
所属上科不明の4科および Littorinimorpha 、 Neogastropoda 、およびinformal group Ptenoglossa を含む。 .
タマキビ科 ヨーロッパタマキビ (ドイツ)
タマガイ科 ツメタガイ (千葉県 )
ハダカゾウクラゲ科 ハダカゾウクラゲ科の一種
イトカケガイ科 オオイトカケ
エゾバイ科 サカマキボラ (フロリダ )
ショクコウラ科 ショクコウラ (スラウェシ島 )
ガクフボラ科 サラサメロン (豪州NSW )
ホタルガイ科 エヒメボタル (カリフォルニア )
Lower Heterobranchia (原始的異鰓類)、Opisthobranchia 後鰓類 、および Pulmonata 有肺類 の3 個のinformal groupを含む。
ベニシボリガイ科 ベニシボリガイ (豪州NSW )
ミズシタダミ科 Valvata sibirica (露国タイミル )
Cephalaspidea , Thecosomata , Gymnosomata , Aplysiomorpha , Sacoglossa , Umbraculida , Nudipleura の7クレード、および Acochlidiacea と Cylindrobullida の2グループを含 む。
ハダカカメガイ科 ハダカカメガイ
Group Acochlidiacea スナウミウシ類(グループ)
チドリミドリガイ科 Thuridilla hopei (バニュルス=シュル=メール )
Contains the clades Euctinidiacea and Dexiarchia
Unassigned to superfamily
Gnathodoridacea と Doridacea の2個のサブクレードを含む。
イボウミウシ科 ババイボウミウシ (東ティモール )
フジタウミウシ科 Nembrotha aurea (ケニア )
Pseudoeuctenidiacea と Cladobranchia の2クレードを含む。
Euarminida 、Dendronotida および Aeolidida の3クレードを含む。
ヨツスジミノウミウシ科 ムカデミノウミウシ
informal group Basommatophora 基眼類と clade Eupulmonata 真正有肺類を含む。
カラマツガイ科 キクノハナガイ
Amphiboloidea と Siphonarioidea の2個の上科、および Hygrophila の1クレードを含む。
Systellomatophora 収眼類と Stylommatophora 柄眼類の2クレードを含む。
アシヒダナメクジ科 アシヒダナメクジ
オカモノアラガイ科 Succinea putris (フランス・リール )
Elasmognatha 板顎類と Orthurethra 直輸尿管類の2個のサブクレード、および informal group Sigmurethra 曲輸尿管類を含む。
ポリネシアマイマイ科 Partula radiolata (グアム島 )
キセルモドキ科 ヤマキセルモドキ (バイエルン州 ・標高900m)
キセルガイ科 オオギセル (浜松市 )
オカクチキレガイ科 Subulina striatella (レユニオン )
Megomphicidae科 Glyptostoma gabrielense (カリフォルニア州 モンロビア)
"Limacoid clade"
オオコハクガイ科 コハクガイ
コウラナメクジ科 マダラコウラナメクジ
オナジマイマイ科 スウィンホウマイマイ (台湾 )
参考資料
外部リンク