脂肪族ポリケトン (あるいは単にポリケトン )は高強度、高耐熱、低吸水性が特徴[ 2] の熱可塑性ポリマー。ポリマーの主鎖にケトン 基を有するため、ポリマー鎖同士の結合力が強く、高融点となる。例えばケトン-エチレンコポリマー で255℃、ケトン-エチレン-プロピレンターポリマー で220℃である。また、耐溶剤性も高く、高強度である。他のエンジニアリングプラスチック と比べると、原料のモノマーが安価である。パラジウム (II) 触媒 を使い、エチレン と一酸化炭素 から作られる。融点を下げるために少量のプロピレン を混ぜることも多い。
ポリケトン系樹脂は、脂肪族ポリケトンの他、芳香族ポリエーテルケトン など、主鎖にケトン基を含むポリマー全般を指す。ただし単にポリケトンと言えば、脂肪族ポリケトンを意味する場合が多い。この記事でも、以下ではポリケトンを脂肪族ポリケトンの意味で説明する。
シェルケミカル は1996年、ポリケトンを世界で初めて商品化し、「カリロン」の名で販売を始めたが[ 3] 、2000年には販売中止し[ 4] 、SRIインターナショナル に製造権を譲っている[ 5] 。シェルの他、2013年に韓国のヒョースン 社が独自にポリケトン樹脂を開発している[ 6] 。
工業生産
エチレン と一酸化炭素 から作るのが最も一般的である。工業的には、メタノール中での懸濁重合 、あるいは固定化触媒 を使った気相重合 などで合成される[ 7] [ 8] 。
重合反応の進み方
この重合は、パラジウム(II) - フェナントロリン 触媒(下の図の[Pd])を使うことで、連鎖的に反応すると言われている。この説は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校 教授のモーリス・ブルックハート (英語版 ) [ 9] が唱えたものである。
この反応でできるポリケトンは、非常に欠陥(不規則性)が少ないことで知られる。つまり、エチレンとカルボニル基 が交互に付加する場合がほとんどであり、エチレン同士あるいはカルボニル基同士が繋がること(下図の赤い部分)はほとんどない。特に、カルボニル基同士が繋がることは活性化障壁 が高いため、まず起こらない[ 10] 。
また、ブルックハート教授の研究によれば、エチレン同士が繋がるために必要となる、アルキルエチレン-パラジウム複合体も、どの条件でもほとんど発生しない。その上、アルキル基に一酸化炭素が付加するギブスエネルギー は、アルキル基にエチレンが付加するギブスエネルギーよりも約 3 kcal/mol 低い。
結果として、ポリケトンの欠陥率は非常に低く、約1ppm (100万分の1)ほどである[ 9] 。[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン (英語版 ) ]パラジウム(II)触媒を使った場合についても研究例がある[ 11] 。
二座配位子の重要性
単座ホスフィン配位子 に配位されたパラジウム (II) プレ触媒 をメタノールに入れると、副生成物として比較的多量のプロピオン酸メチル が生成する。これと比較して、二座配位子であるジホスフィン を使えば、副生成物は生じない。
一方、二座ホスフィン配位子を使うと、錯体がシス-トランス異性体 の平衡 となり(下図参照)、この反応に適したトランス異性体を得ることができる。それに対して三座ホスフィン配位子を使うと、トランス体しかできず、転移挿入 (英語版 ) が起こらないために反応が進まない[ 10] 。
応用例
代表的な商品
Carilon: シェル 社
Karilon: ヒョースン 社
Akrotek: AKRO-PLASTIC GmbH
参考文献
^ 10 kN ニードルロードを使った場合の破壊温度 / A K van der Vegt; L E Govaert (2003). Polymeren : van keten tot kunststof . VSSD. ISBN 90-407-2388-5
^ 日笠茂樹ら. “ポリケトン/ポリアミド系ポリマーアロイの開発 ”. 2013年12月30日 閲覧。
^ Shell Chemical Company announces The U.S. commercial launch of CARILON Polymers
^ MatWeb-Shell Carilon® DP P1000 Polyketone (discontinued **)
^ Carilon Thermoplastic Polymer - Next-Generation Plastics from SRI International
^ “暁星、ナイロンを上回る新素材を世界で初めて開発” . 中央日報 . (2013年11月5日). https://japanese.joins.com/JArticle/177939 2014年1月13日 閲覧。
^ Drent, E.; Mul, W. P.; Smaardijk, A. A. (2001). "Polyketones". Encyclopedia Of Polymer Science and Technology . doi :10.1002/0471440264.pst273 。
^ Bianchini, C (2002). “Alternating copolymerization of carbon monoxide and olefins by single-site metal catalysis”. Coord. Chem. Rev. 225 : 35–66. doi :10.1016/S0010-8545(01)00405-2 .
^ a b Rix, Francis C.; Brookhart, Maurice; White, Peter S. (1996). “Mechanistic Studies of the Palladium(II)-Catalyzed Copolymerization of Ethylene with Carbon Monoxide”. J. Am. Chem. Soc. 118 (20): 4746–4764. doi :10.1021/ja953276t .
^ a b Drent, Eite; Budzelaar, Peter H. M. (1996). “Palladium-Catalyzed Alternating Copolymerization of Alkenes and Carbon Monoxide”. Chem. Rev. 96 (2): 663–682. doi :10.1021/cr940282j . PMID 11848769 .
^ Shultz, C. Scott; Ledford, John; Desimone, Joseph M.; Brookhart, Maurice (2000). “Kinetic Studies of Migratory Insertion Reactions at the (1,3-Bis(diphenylphosphino)propane)Pd(II) Center and Their Relationship to the Alternating Copolymerization of Ethylene and Carbon Monoxide”. J. Am. Chem. Soc. 122 (27): 6351–6356. doi :10.1021/ja994251n .
^ “合繊/半歩先より三歩先 次世代に向けた開発加速” . 繊維ニュース . (2005年4月21日). http://202.214.18.226/seninews/viewArticle.do?data.articleId=76623&data.newskey=5df66b8ef6be566661869b586ddd64ed 2014年1月13日 閲覧。
^ “ニュー・テクノロジー/旭化成せんい・福田康男ポリケトン事業推進室長に聞く” . 繊維ニュース . (2006年2月9日). http://202.214.18.226/seninews/viewArticle.do?data.articleId=86626&data.newskey=ea12a3e80125a8d493994353c374cce2 2014年1月13日 閲覧。
関連項目
外部リンク