統一教会信徒の拉致監禁問題
統一教会信徒の拉致監禁問題(とういつきょうかいしんとのらちかんきんもんだい)は、世界基督教統一神霊協会(統一教会、統一協会。2015年から世界平和統一家庭連合)の信徒に対して、家族が脱会説得工作の専門家の教唆に従い、強制的に隔離して脱会説得することを、統一教会が「拉致・監禁であり、信仰の自由を侵害されている」と主張している問題。 統一教会信徒側が刑事告発をしてもいずれも不起訴になっている。民事訴訟では、損害賠償を命じた確定判決(#脱会に至らなかった信者の証言参照)や「自由を大きく制約した」ことを認定した地裁判決[1]はあるが、原告が敗訴して拉致監禁されたとの主張が認められない事例が多数存在している[2]。 概要統一教会信徒の主張統一教会の信徒は、1970年前後から拉致・監禁、強制棄教の対象となっており、この60年近くで、約4300人が被害にあったとしているが根拠が不明である。多くは多額の献金により家庭崩壊に至った信者の親族が脱会業者や一部のキリスト教会指導者による示唆や教習を受け、成人である息子・娘を拉致し、棄教するまで監禁するシステムとなっている。これは、数か月、数年と継続し、最長では12年以上という例がある。この為、信者は、精神的・肉体的苦痛を経験し、後にPTSDを発症したり、自殺、脱出の際の転落や負傷、強制離婚、記憶喪失、性的嫌がらせ、強姦、家族の不和などの被害があったと報告されている。 これには、統一教会に反対する弁護士組織も加わっており、棄教した元信者に、統一教会を告訴する方向へと誘導し、一連の裁判を起こすことで、彼らの収入としてきた。このループが長年の間、システム化しており、業者は、講習料や会費として、親からの謝礼金などを受け取り、継続的収入を得ることでビジネス化していた。また、特定のキリスト教会指導者は、新しい教会員を増やすという利点も得ていた。 2015年の民事訴訟での最高裁判決から、拉致監禁は減少をしているが、その後も継続して発生している。また、「エホバの証人」などの信者にも被害者がいる。一方、拉致・監禁に至った背景として、信者による多額の献金により家庭崩壊などがあげられており、擁護する側では、これを「保護・説得」と主張したり、「統一教会を正当化するためと拉致監禁キャンペーン」という宣伝であるとされる。 経過1970、80年代先駆けて、米国では、職業的改宗者が行動していたが、日本では、1966年から被害が発生した。 1970,80年代には、教会員を拉致し、強制的に精神病院に入院させて、薬物を服用させる手段が用いられた[3]。これも、プロの業者によるもの、病院の関係者が協力するか、あるいは、積極的に加担していた。1980年には、裁判により、賠償金を支払う判決が出たことで、この手段は下火になった。
1990年代統一教会では、1992年に合同結婚式を挙行し、それがメディアで大きく取り上げられたことで、1992年には、最大数の375人、翌年には360人の拉致監禁が発生した。 2000年代2011年に、後藤徹が、12年5か月の監禁を民事訴訟で提訴をし、2015年には、最高裁判決が被告への賠償責任を認めた件以降、拉致・監禁事件は激減し、2016年には0件となった。 拉致監禁の工作マニュアル拉致監禁を保護説得として推進するマニュアル本は、多数発行されている。以下は、その要約である。 まず、親が、プロや牧師の教習を受け、理論や手段のマニュアルを学習し、監禁の場所などを準備した上で、時期を見計らって行動する[6]。親戚などの手も借りて、騙して教会員をおびき出したり、路上で待ち伏せをし、車両に多数で連れ込む。監禁場所は、逃走を避ける目的で、人里離れた場所であったり、住宅の高層階であったりする。所持品を取り上げる。多数による圧力や罵声をかけて、既に脱会した者も説得に参加し「脱会しなければ永遠に監禁させられる」という恐怖心を与える。監禁場所には、あらゆる場所に施錠をし、いつも誰かが監視している[7][8]。中には、手錠をかけられたり、鎖でつながれた例もあった[9]。 一旦、脱会の意思を表明すると、偽装脱会でないかを試す為の「踏み絵」とも言える行動を強制させられる。教団への献金返還訴訟に加担させられたり、メディアで教団を糾弾させる。他の信者やその親の住所等を聞き出させる。他の監禁者への監視に加担させられる[10]。女性の場合は、教義を捨てたかどうかの検査として、性的嫌がらせの対象となった例もある[11]。 拉致・監禁の例脱会に至らなかった信者の証言
脱会信者の証言
精神的後遺症
警察・司法関連警察の対応警察は、監禁事件に接しても、監禁犯を逮捕することはめったになく、拉致監禁の側から、「親子間の問題」と主張されると容易く信用し、その側に協力する事が多かった。また、実行マニュアルには、親や親族は、万一の警察による「職務質問」に備えて家族写真を携帯するとか、警察の事前に知らせてくというような指示があった[8]。 後藤徹裁判2015年9月、最高裁第3法定は、職業的改宗活動家らの上告を棄却し、東京高裁における2014年1月判決[22]を認める控訴審判決を下した。これにより、拉致監禁は、「家族といえども違法である」「共同不法行為責任を負うべき」として、総額2200万円で、宮村峻1100万円、松永堡智牧師440万円と他、監禁した家族が、原告に支払うよう命じた判決が確定した[23]。 広島夫婦拉致監禁裁判 2020年11月27日、広島高等裁判所が、拉致・監禁の不法行為を認定し、一審の判決を認め、控訴審判決を下した。これは、40代の夫婦で、小学生以下の子供2人がいたが、2014年7月、家族が、神戸真教会の高澤守牧師(捜査中の2015年自殺)と青谷福音ルーテル教会の執事の指導の下、別々に拉致監禁し、脱会強要を主導した件。6日後に、警察へ通報したことで解放された[24]。 対鈴木エイト訴訟 2023年10月4日、後藤徹は、東京地方裁判所に、鈴木エイトのX(旧Twitter)等での発信で、後藤徹の拉致監禁について、「ひきこもり」「どうでもいいです」等の発言をしたことで、名誉棄損の不法行為として、慰謝料1100万円の損害賠償を求め提訴した[25]。 国会における質疑応答、他2000年2000年(平成12年)4月20日、檜田仁衆議院議員が、 第147回国会 衆議院決算行政監視員会第三部会にて、人権侵害・信教の自由に関する質問を行った。その中で、「昨年のアメリカ国務省国際人権報告書1999年版に、警察が組織的に拉致、監禁、暴行等傷害事件を何ら救済をとらないばかりか、取り締まりをしないという報告がされて、日本のこの例が報告されて、日本の警察が国際社会からも信用を失墜しかねない、極めて重大な事態になっております。」「 拉致、監禁、暴行、傷害罪など刑事罰行為に触れる行為は、罪に問われないという例外がございますか。例えば、親子や夫婦なら問われないということがございますか。」 「拉致・監禁この問題は実は20年来、1年間約300人程度が組織的に、親の気持ちとは別に拉致監禁している集団があるからだ。この組織的拉致監禁集団は、一部の牧師などが組織的に全国でやっている。ある意味では、国家に対する、警察に対する重大な挑戦と思うが。」と問いかけた。 それに対し、警視庁、 田中節夫長官は、「全国の幾つかの県警察におきまして、統一教会の信者から被害申告あるいは相談がなされたということは承知をしております。」 「信教の自由及び法のもとの平等について、警察活動がこの憲法の規定を損なうようなことがあってはならないことも当然だ。」「拉致監禁、暴行傷害などの事件については、たとえ親子、親族間であったとしても、例外なく法の下で厳正に対処する。」と返答した[26]。 2024年2024年3月12日、浜田聡参議院議員が、参議院総務委員会にて質問をし、各機関代表が回答した。「もう一つの被害者を挙げたいと思います。 それは旧統一協会の信者を脱会させるために、強制的に拉致監禁などをして、強制的改宗をさせられた被害者の存在です。 」「 こういった拉致監禁は家庭連合の方によると4,300人とのことでありますが、政府の把握しているところを教えていただければと思います。」 これについては、小林万里子文化庁審議官は、返答「差し控える」とした。 続いて、「12年5ヶ月という長期間監禁された被害者の方の存在についての見解をお伺いしたいと思います 。」という質問に、本田顕子文部科学大臣政務官は、「個別の件については差し控える」とした。NHKに対しては、「NHKは脱会屋による拉致監禁を報道すべき重要事項であると考えるかどうか、伺いたい。 」との質問がなされた。日本放送協会山田勝美専務理事は、「回答を差し控える」と答えた[27]。 他、国会議員関連2010年12月3日、青山丘・元衆議院議員が『全国拉致監禁・強制改宗被害者の会』主催の決起集会に参加。民主党の吉田公一衆議院議員と国民新党の下地幹郎衆議院議員の公設秘書が請願書を受け取った[28]。吉田は陳情書を受け取った事を有田芳生がブログで非難した事について、”「信教の自由」は自由権的基本権の根幹であり、民主主義制度の骨格を貫く基本的な人権だと認識している。もちろん、いわゆる「霊感商法」に関しての有田議員のご主張は承知している。私も同じ立場である。”と述べている[29]。また有田が議員が陳情書を受け取るのは党規違反だと指摘した事については党国会対策委員会と幹事長室の了解を得ており、また党の方針として議員個人が請願を受けることに許可は不要と反論している[30]。また有田は、この陳情のために国際勝共連合幹部が自民党議員などに依頼していたと述べている[31]。 国外の機関による公表国連2014年、国連の自由権規約人権委員会(United Nations Human Rights Committee)は、日本を含む条約締結国すべての人権状況を審査するが、7月24日に公表された日本に関する報告では、拉致及び強制による改宗離脱について述べられており、外務省ホームページの「自由権規約人権委員会による日本審査の最終報告書」に掲載されている。 「21.委員会は,新興宗教への改宗者に対して,その家族の構成員が改宗離脱のために本人を拉致・監禁しているという報告について懸念を有する(2条,9条,18条,26条)。締約国は、すべての人に対し、自らの宗教若しくは信条を保持し、又はこれを選択する自由を強制的に侵害されない権利を保障するため、効果的な措置をとるべきである。[32]」 米国国務省毎年、米国国務省により、公表される世界各国の国際宗教自由報告書の中で、1999年より、同問題が度々言及されている。
ベルギー人権団体の勧告国際NGO団体を名乗るベルギーを拠点に活動する人権団体「国境なき人権」(en:Human_Rights_Without_Frontiers)は、2010年から日本における統一教会とエホバの証人に対する拉致監禁問題について独自の調査を行ない、2011年12月31日に「日本における棄教を目的とした拉致と拘束」と題したレポートを発表した[36]。その中で国境なき人権は「強制棄教を目的とする拉致の存在を確認できた」と報告し、「警察と司法当局は、成人を監禁下で強制棄教させようとする拉致行為に直接間接に関与した人々を起訴すべきであり、刑事事件化を差し控えるべきでない。」と勧告した。 フランスのパトリシア・デュバル弁護士が国連機関に提出した報告書「日本 統一教会を根絶するための魔女狩り」(要約・本文)(英語・日本語訳)が2024年9月22日 Bitter Winter などに掲載された。[2] 国内外における宗教的偏見や抑圧から人々を守る取り組みを行う有識者団体「国際宗教自由連合」(ICRF)日本委員会(代表=伊東正一・九州大学名誉教授)は2024年12月8日、巡回講演会「日本の信教の自由と民主主義の危機」を東京都内で開いた。同講演会ではトランプ次期米大統領の宗教顧問を務めるポーラ・ホワイト牧師がビデオメッセージを送り、「日本における信教の自由について、世界中で深刻な懸念を引き起こしている」と訴えた。[3] 報道・1980年ー毎日新聞3月5日ー青年が、徳島市から家族に拉致され、東京の精神病院に2か月以上監禁され、薬物を投与された事件で、「統一教会入信の息子を強制入院」「精神障害なし」「両親は釈放を」という見出しで、東京高等裁判所の判決を報道。 ・1984年ー朝日新聞は(昭和59年)5月14日の夕刊「ルポ'84」で「信仰切れず、鎖が切れた」と題した改宗拉致の記事を掲載。ある女性は東京都内の大学で勧誘され統一教会系の学生組織・原理研究会に加わり組織の合宿寮から通学。実家に帰らない女性を親が山荘に連れ出し足首を鎖で繋いでいたが、20日後に女性は爪切りで鎖を切断し逃走した。記事を執筆した高木正幸編集委員は統一教会について、家族との関係の変化から起こるトラブルの多さが社会的に問題視される一因とした上で、暴力などで入信したわけではない若者達を強制的に切り離すやり方には、教会を批判している宗教家や学者も否定的だとしている。
統一教会創設者の主張
「このように、当初からレバレンド・ムーンと統一運動は、宗教の領域だけでなく、政治、経済、文化、科学、技術、言論、教育の領域で、途方もない誤解と非難、迫害と試練に耐えてきました。私たちは一般大衆と為政者から社会全般にわたって、反対と迫害を受けてきました。 ある意味では、全世界のすべての人々に、直接、または間接的に統一運動の運命に対して責任があります。しかし、世界的な反対は、特に共産主義者たちによって利用されてきました。共産主義者たちの標的には、いかなるものにも、レバレンド・ムーンの名前がついています。 これまで、ほとんどの人たちが、統一運動について正しく理解することは非常に困難でした。人々が私たちに関して見聞きすることのほとんどは、反対者たちが数年間、吹聴してきたうそと扇動的な非難でした。統一運動とレバレンド・ムーンに関して、人々が信じやすいのは、ただ単に、昔、捏造された流言飛語の繰り返しにすぎない言葉でした。 「うそも百回繰り返せば真実となる」というレーニンの教えに従い、共産主義者たちは人々に確信を与えるために、同じ偽りのうわさを繰り返し続けてきました。例えば、過去十二年間、日本共産党は彼らの宣伝機関紙である「赤旗」と彼らの出版物に十六億枚の反統一運動の記事を印刷しました。それは日本の国民一人当たり十六枚に相当する悪意に満ちた宣伝でした。 これは私たちの運動を破壊しようとする共産主義者たちの陰謀の中の一つにすぎません。反統一運動の宣伝は、中国、北朝鮮、東ドイツ、ソ連、キューバ、ニカラグア、リビアとその他の国々からも絶えず流れ続けています。このような偽りの宣伝は、公務員、政府指導者、知識人、宗教指導者、言論媒体と一般大衆に浸透しています。そうして、人々が歪曲された内容を数えきれないほど聞くようになり、結局、それが事実であると信じるようになるのです。 しかし、最も下品で卑しい行為は、統一運動に参加している人に対して非人間的処置を行う、いわゆる「ディブログラミング(脱洗脳)」というものです。それは共産主義者が協力していることは明らかです。人権の擁護者である裁判官と裁判所は、しばしば基本的な宗教の自由の権利を侵害することに協力することがあります。皮肉なことに、その権利の侵害は、人権と宗教の自由を最も声高に叫ぶ国家で発生しているのです。 ディプログラミングに使われる方法は、共産主義の政治犯の収容所で施行される方法と同じです。ディプログラマーたちは、少数派宗教の信仰をもつ人を監禁するために、親や親戚を利用して精神病院に委託したりもしました。その他の典型的なディプログラミングの手段としては、拉致、不法監禁、暴力、精神的な脅迫、睡眠妨害、 アルコールと麻薬使用への誘引、性的誘惑と強姦などが含まれています。 このような脅迫と嫌がらせ、手練手管により、職業的ディプログラマーたちは信仰を捨てるように強要します。多くの人々が、このような犯罪行為によって、肉体的にも、精神的にも傷つくようになります。 私の愛する多くの人々が、その信仰と理想ゆえに苦痛に遭うのを見るときに感じる私の深い悲しみを、皆様は想像すらできないでしょう。信じられないことに、ディプログラマーたちは、自分たちの行っている方法を私たちが使っていると言って非難しています。皆様は、なぜ共産主義者たちがレバレンド・ムーンと統一運動に対して、そのように敵意と恐れを抱いており、なぜ彼らがそのように命懸けで私たちを破壊しようとするのか、不思議に思われるでしょう。 皆様も御存じのように、共産主義の究極的目的は、無神論的唯物論の旗のもとに、全世界を征服し、共産党独裁を実現することです。実際に、労働価値説、剰余価値説、弁証法的唯物論、史的唯物論のようなマルクス理論は、真理と正反対であり、暴力革命を正当化するために主張されたものです。今まで、共産主義の恐るべき実体を克服できるものが何一つとして存在しませんでした。 しかし、「統一思想」は共産主義の虚構を暴露しています。彼らはこのような事実を知っているので、統一主義を根源的に根絶しようとしているのです。共産主義者たちは、自分たちの正体を暴露するすべてのものに対して恐れを抱いています。」 保護説得とする側の主張監禁は、刑法220条違反であると同時に深刻な人権侵害であるが、保護説得とする側では、刑法37条の正当行為(法令又ハ正当ノ業務ニ因リ為(な)シタル行為ハ之(これ)ヲ罰セズ)として、その行為の違法性を阻却される、監禁は緊急避難という理由で、正当であると説明している。また、監禁マニュアルにも、親を納得させる根拠として、この文面が挙げられている[7][8]
その他の民事訴訟の認定事例拉致監禁を受けたとの主張が認められなかった事例
脚注
参考文献
関連項目外部リンク
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