春暁『春暁』(しゅんぎょう)は、唐の詩人・孟浩然が詠んだ五言絶句。冒頭の「春眠 曉を覚えず」という句でつとに有名で[1]、孟浩然の代表作であるのみならず[2]、日本で最もよく知られた漢詩の一つである[3][4]。 本文
解釈春の朝にまどろむなか、聞こえてくる鳥のさえずりや庭に散り敷いた花といった明朗な風情を平易な表現で描き[1]、落花に春の終わりを惜しむ心情を詠んでいる[6][7]。 科挙に失敗したこともあり生涯の大半を襄陽での隠遁生活で過ごした孟浩然は[6]、この『春暁』で、早朝からの宮仕えに縛られず朝寝坊できる自由と[6]春の眠りの心地良さを謳歌したと一般に解されている[7]。しかし彼の諸作品は自らの不遇を愁嘆するものと超俗的な隠棲の心境を詠うものの二系統あり[8]、『春暁』も知識人でありながら官界に入れなかった鬱屈した心境や[3][9]居直りの心理[10]が底にあるとも解されている。
構成としては、起句と承句でうららかな春の朝の風情を詠んだあと、転句で昨晩の春の嵐へと時間的に暗転し、結句で今の戸外のむせるような落花の様子へと時間的・空間的に再転回するという[6]、典型的な起承転結の形となっている[13]。 制作制作された時期や場所は明確ではないが[3]、おそらくは襄陽の鹿門山に隠棲していた頃の作品であろう[7]。 評価『唐詩三百首』『唐詩選』に収められ[3]、かねてより古今の絶唱と称されている[17]。 睡眠を題材にした詩は、多くが眠れなさ(広義の不眠症)の愁いを扱うことが多く、『春暁』のように眠りの心地よさを愛でる作品は珍しい[3]。また春を題材にした唐詩は、例えば王維の『田園楽』(桃は紅にして復(ま)た宿雨を含み、柳は緑にして更に春煙を帯ぶ)のように色彩豊かな情景描写を用いるのが一種の定石であるが、『春暁』はそうした直接的な視覚描写を一切用いず、聴覚のみで暮春の情緒を描ききっている点も異色である[2]。 影響『春暁』以降、閑適の暮らしの描写に朝寝坊の情景を用いるのは一種の常套手法になった[13]。 日本では『春暁』は殆どの教科書に採られており[3]、誰知らぬ者はいないほどである[7]。春になるとコラムなどで決まって起句が引用され[4]、『枕草子』の「春はあけぼの」と共に春の時節の常套句となっている[14]。 古来有名な詩のため、日本でもいくつかの訳が試みられており[10]、例えば三好達治は次のように訳している[18]。
脚注
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