日本十進分類法日本十進分類法(にほんじっしんぶんるいほう[1]、Nippon Decimal Classification[1]; NDC[1])は、日本の図書館で広く使われている図書分類法である。最新版は新訂10版(2014年12月発行)[2]。もり・きよし(森清)原編、日本図書館協会分類委員会改訂。 概要分類記号に「0」から「9」のアラビア数字のみを用い、大まかな分類から細かい分類へと順次10ずつの項目に細分していく「十進分類法」の一つ。たとえば、「文学」は「9xx」→「日本文学」は「91x」→「(日本文学の)小説・物語」は「913」、というように下の桁ほど下位の細かい分類を表現する。 森清(もり・きよし)がデューイ十進分類法 (DDC) の体系を元に作成したもので、1928年(昭和3年)に発表し、翌1929年(昭和4年)に間宮商店から刊行された。第1版から訂正増補第5版までは森の個人著作で、戦後の新訂6版以降は日本図書館協会内に設置された分類委員会が改訂を行っている。森もその委員の一人として改訂に携わっていたが、新訂9版の改訂作業の半ば1986年(昭和61年)に引退した。 日本の図書館における図書分類法のデファクトスタンダードであり、2008年の調査では公共図書館の99%、大学図書館の92%がこれを使用している(新規受入の和書の場合)[3]。検索や蔵書管理のための「書誌分類」や、また請求記号として資料を書架に並べる際の「書架分類」として利用される。また配架作業の効率化のため、本の背表紙などに分類記号を印字したラベルをはることが多い。 新たな改訂版が発行されても、各地の図書館に普及するには数十年という長い年月を要する。2008年の時点では、大半の図書館が新訂9版(1995年)または新訂8版(1978年)を使用しているが、まだ新訂7版(1961年)を主に使用している図書館も残っており、新訂6版(1951年)や訂正増補第5版(1942年)も僅かに利用されている[3]。そのような事情もあり、新版が出た後もしばらくは古い版の増刷が続けられる。2015年現在、冊子版では新訂10版(2014年)、新訂9版(1995年)、新訂8版(1978年)の3種が販売されている[4]。 分類
メルヴィル・デューイの考案したデューイ十進分類法 (DDC) の十進分類体系を用いながらも、第1次区分についてはチャールズ・エイミー・カッターの展開分類法 (EC) にならい[6]、それ以下の分類では、デューイ十進分類法 (DDC)、アメリカ議会図書館分類法 (LCC) など国内外の既存の分類を参考にし[5]、その上で日本に関連した項目(日本、日本語、日本文化など)を重視するなどしている[5]。 分類記号に「0」から「9」のアラビア数字のみを用い[5]、大から小に向かって順次10ずつの項目に分ける「十進分類法」である。もっとも大きな1次区分は「類」、その次の2次区分は「綱」、3次区分は「目」と呼ばれる(その下は順に「分目」「厘目」「毛目」)[7]。0類 から 9類 までの10種に区分した表を「類目表」、2次区分「綱」までの計100種に分類されたものを「綱目表」と呼ぶ[7]。綱目表のそれぞれを同様に10種ずつに区分した「要目表」[7] は、未定義のものや使われなくなったものなどもあり、950種にも満たない。以下も同様にそれぞれを10ずつ細分化していく(細目表)。 ただし、基本的に「1」から「9」までの「9区分」であり、「0」にはどれにも当てはまらないもの、総合的・包括的なものを割り当てる。ある分野が必ずしも9つに細分できるとは限らないが、9つより多い場合は適宜グループ化するか、「1」から「8」までに主なものを割り当てたうえで「9」を「その他」とする。9つより少ない場合は、関連性のある別分野を本来あるべき位置より一段階下げるか(不均衡記号)、あるいはさらに下位の分野を便宜上一段階上げる(縮約記号)。したがって、分類記号の上の分類構造と論理的な分類構造は一致しない。 たとえば、「自然科学」という分野について、日本十進分類法では本来「数学」「物理学」「化学」「天文学・宇宙科学」「地球科学・地学」「生物学」という6分野に細分している。しかしこれでは9区分とならないため、本来「自然科学」ではない「医学」をここに追加し、さらに「生物学」の中の一分野である「植物学」「動物学」を一段階上げる形にして、9区分としている。
分類記号は、3桁(3次区分)まで細分したものを基本とし、類や綱の段階でそれ以上区分できない場合は0や00を補って表し(例: 7 → 700)、4桁以上まで分類を行う場合はピリオドを3桁目の直後に置く(例: 913.6)。また、類や綱が0であっても、省略せずに記す(例:007)。いずれの場合も、分類記号は整数や小数といった「数値」ではなく、小数的に展開する[8]。したがって913.6の場合は「キュウイチサンテンロク」と読む[8]。「キュウヒャクジュウサンテンロク」などは誤りである[8]。 対象とする資料が複数の「主題」を扱っている場合、中心となる1主題があればそれを採用する[9]。それがなく、主題の数が2個から3個であれば最初のもの、4個以上の主題を扱っていればそれらの上位の主題から分類する[9]。主題間に関連性がある場合は、基本的に、影響を「受けた」側、因果関係の「結果」、上下関係にある概念のうち「上位」のもの、著者が重点を置いている(説明しようとしている)側、などを採用して分類する[10]。 日本十進分類法 (NDC) の新訂10版では、本表(類目表、綱目表、要目表、細目表)のほかに4種の一般補助表、10種の固有補助表、相関索引、用語解説、事項索引が用意されている。過去の版では「小図書館向」や「児童用」の分類表が収録されていた時期もあったが普及せず、現在は含まれていない。双方とも分類記号が2桁までを基本としていたが、前者が通常版の100区分表の抜粋に近かったのに対し、後者は児童用・学校図書館用に手が加えられていた。 補助表は、本表に記載されている分類記号の末尾に付加するための記号を扱ったもので、資料の主題・形式を的確に表現する分類記号が細目表にない場合に、それを付加することで分類記号を「作る」ことができる。一般補助表は第1版から新訂7版までは「助記表」という名前であった。日本十進分類法は、ある基準のもとで分類する際には必ず同じ記号を充てるよう設計されており、たとえば、地域ごとに分類する場合に「北アメリカ」を意味する記号は5であり(カナダが51、アメリカ合衆国が53)、言語ごとに分類する場合に「ドイツ語」を意味する記号は4である(フリジア語は491、オランダ語は493)。そのような分類をまとめたものが助記表であり、名前の通り「記憶を助ける」ものであった。 森清は、それまで日本で考案・制定されていた十進分類法について、第1版の「はしがき」において『記號ノ十進トイウ外貌ダケヲ模シ D. C. ノ眞隨タル ネモニックキャラクター ヲ顧ミテ居ナイ「似而非」十進法 』であると批判し、日本十進分類法では『出來得ル限リ D. C. ノ特色其儘ヲ應用シタツモリデアル 』と述べている(「ネモニックキャラクター」とは、上で述べた「助記的特徴」のこと)。 歴史明治時代前期には東京図書館の「八門分類表」が各地の図書館に普及したが[11]、目録分類でしかなく、排架法を考慮していない(分類記号ももたない)[11] ため、まもなく廃れた[11]。明治末期から大正時代にかけて各地の図書館で次々と独自の図書分類法が制定され[12]、1919年(大正8年)に全国府県立図書館協議会で日本初の標準分類表に定められた「山口県立図書館分類表」(100区分表までを採用)[13] も、区分の不適当なところや簡単すぎる点から、独自に改訂を行う図書館が増え、事実上の標準分類表とはならなかった[13]。 そのような中、森清(もり・きよし)が1928年(昭和3年)に青年図書館員連盟の機関誌『圕研究』(としょかんけんきゅう)第1巻第2号と同第3号[14] で「和洋図書共用十進分類法案」として発表[14][15]、翌年大阪の間宮商店から発行したものが、日本十進分類法 (NDC) である。青年図書館員連盟内に設立されたNDC研究会の協力の下[16]、森自身の手で戦前に訂正増補第5版まで改訂が行われた。 戦後、社団法人日本図書館協会 (JLA) が日本十進分類法を森清の個人著作から継承し[15]、1950年(昭和25年)発行の新訂6版から日本図書館協会分類委員会によって改訂が行われている。新訂9版まで、森も分類委員会のメンバーとして改訂に携わっていた。新訂10版は、2004年の時点では2008年8月の刊行を目指していたが[17]、改訂は大幅に遅れ、2015年1月下旬に発売されることとなった(発行日は2014年12月)[2]。2014年1月までに0類から9類および情報分野の試案が発表されている[18]。
改訂戦前の訂正増補第5版までは3年程度の間隔で改訂が行われていたが、新訂6版以降は十数年の間隔となっている。 基本的に、旧版の利用を考慮して第3次区分までの改訂は最小限に留められているが[25]、訂正増補第5版から新訂6版への改訂の際には、第3次区分(1000区分)までで400以上の変更がなされた[26]。新訂10版の改訂の際には、長らくの課題であった、情報関連分野の混乱の問題(後述)について、解消に向けた方向性(これも後述)が示された。 訂正増補第2版から訂正増補第5版について、新訂9版には「改正増補」とあるが[27] これは誤りで、現物の表記は「訂正增補」であり、新訂10版では訂正されている。
情報関連分野の混乱の問題背景近年世界的に発達の著しい情報関連分野であるが、いわゆる情報理論に代表される純粋数理から、現実の現代的コンピュータやその通信[注 1]には欠かせない電子工学まで、という科学と技術と工学(science, technology, engineering)の広い範囲にまたがり、さらにはそれが扱うのが現実社会のデータであるため社会科学まで[注 2]、幅広い分野を結ぶ、いわゆる「学際」的な面がある。また、次々と新たなサブジャンルが生まれては消滅するという変化の激しい分野でもある[28]。このため、NDCのような大分類から小分類に細分化するタイプの分類法と相性が悪い、という特徴がある。 そのため以前からのNDCでは、0「総記」(図書館情報学などが含まれる)の下の007「情報科学[注 3]」と、5「技術・工学」→54「電気工学」の下の547「電気通信」の全く離れた2箇所に、似たような文献が分かれて分類されてしまう、という問題が起きており、さらに新訂8版の548「情報工学」が加わり複雑なことになっていた。 もっぱら専門書を扱う大学図書館等、一部ではNDCにほぼ従って分類していてもなんとかなっていたものの、日本の市区町村立などの多くの図書館では、007に片寄せする、分量・需要も多く流動性が特に激しいコンピュータ関連書籍[注 4]は別扱いとする、007と547の棚を隣同士にする[28]など、対応に苦慮していたという現状があった。 新訂10版における議論と結論新訂10版では、この以前からの大きな課題の解消に向け、『大規模な分類変更・書架移動を伴う近年まれな改訂』が検討された。整理案としては、007と008(新設)に再編するA案と、547と548に再配分するB案が出されていた[29]。しかし、最終的には記号上の統合は見送りとし、観点からの区分の明確化を図ることが決められ、「別法」によって007または547と548へ集中させる方法が提供された[30]。 同様にロボット分野についても内容ごとに機械工学・情報工学・農業・哲学などに分類されているが、現状では現場レベルで対応している。 利用戦前はほとんど普及せず[31]、日本十進分類法を採用したのは青森県立、鳥取県立など県立図書館が数館、神戸市立、函館市立など市立図書館が数館、天理図書館、同志社大学図書館などの大学図書館[注 5]だけであった[32]。訂正増補第2版の「再版ニ於イテ」で『約25館』[33]、訂正増補第3版の「序文」には『100有餘館』[33] と記されている。現在の日本では最も使用されている図書分類法であり、公共図書館と学校図書館ではほぼ100%という普及率を誇るが[34]、これは、1949年(昭和24年)に文部省が『学校図書館の手引き』で紹介したこと[14]、国立国会図書館が和漢書の分類に採用したこと[14]、国立国会図書館が作成・配布していた目録カードに使用されていたこと[14] などによる。後に国立国会図書館は国立国会図書館分類表 (NDLC) へ移行しているが、日本十進分類法 (NDC) での分類も継続して行っている。1981年(昭和56年)の調査では公共図書館の99%、大学図書館の75%、専門図書館の66%がこれを採用している[35]。2008年4月の調査では、新規受入の一般図書のうち、和書に日本十進分類法を使用している図書館は、公共図書館で99%、大学図書館で92%であった(NDC以外との併用を含む。洋書では、それぞれ96%、87%と若干低くなる)[3]。 本表類目表(第1次区分表)以下に新訂10版の第1次区分表を示す。
新訂8版以降では、この第1次区分表を「類目表」という。第1版では「主綱表」、訂正増補第2版から新訂7版では「主類表」であった。 この(第1次区分の)レベルでは、第1版から新訂10版に至るまで本質的な変更はなされておらず、以下の表のような呼称の変更に留まる。ただし、『圕研究』掲載の原案の時点では8類と9類の位置が逆であった。
綱目表(第2次区分表)以下に新訂10版の第2次区分表を示す。
新訂8版以降では、この第2次区分表を「綱目表」という。第1版では「要目表」、訂正増補第2版から新訂7版では「主綱表」であった。 前述のように大規模な改訂はなるべく控えられているが、この(第2次区分の)レベルでは、訂正増補第5版から新訂6版への改訂の際には、NDCの歴史上では最も大規模な変更があった。「55 鉱山工学、金属工学」と「56 海事工学」の位置が入れ替わり「55 海事工学、造兵学」「56 採鉱冶金学」になったほか、「63 林業」と「65 蚕業」も入れ替わり「63 蚕糸業」「65 林業」となった。また、「09 随筆、雑書」は「09 郷土誌料、貴重書或は特別集書」に変更された(ただし綱目表では新訂8版まで空欄のままで、要目表・細目表の上でのみ指示があった)。 要目表(第3次区分表)以下に新訂10版の第3次区分表および、新訂8版・新訂9版・新訂10版での主な変更内容を示す。分類記号に角括弧のあるもの( [119] [226] など)は、新訂10版では使用されなくなったものであり、通常は矢印(→)で指示されたものを用いる。項目名全体に丸括弧のあるもの(546 電気鉄道、647 みつばち、昆虫)は、新訂10版で削除された項目である。 総記(0類)
哲学(1類)歴史(2類)伝記のうち、280 - 287には3人以上の伝記を、289(個人伝記)には1人または2人の伝記を収める。ただし、「特定主題の3人以上の伝記」や、哲学者・宗教家・芸術家・スポーツマン・諸芸に携わる者・文学者(すなわち1類・7類・9類。ただし文学研究者は除く)に該当する1人または2人の伝記は、それぞれの主題の下に収める。
社会科学(3類)自然科学(4類)技術(5類)
産業(6類)
芸術(7類)
言語(8類)主題とする言語(一般補助表の言語区分)によって区分したのち、固有補助表の言語共通区分で細分する。 文学(9類)原書が書かれた言語(一般補助表の言語区分)によって区分したのち、作品の形式(固有補助表の文学共通区分)で細分する。叢書、全集、選集 (908) には原書の言語も作品の形式も特定できないものを収める。作品集(918など)には(原書が特定の言語で書かれているが)作品の形式は特定できないものを収める。 補助表一般補助表一般補助表は、新訂10版では以下の4種。「全範囲」または「複数の類に跨る特定主題」で使用可能な補助表である。新訂9版では固有補助表の「言語共通区分」「文学共通区分」もこれに含まれていたため6種であった。
固有補助表固有補助表は、新訂10版では以下の10種。「一つの類」または「一つの類の一部分」でのみ使用可能な補助表である。「言語共通区分」「文学共通区分」は新訂9版では一般補助表とされていたもので、それぞれ8類・9類の全範囲で使用可能。 政治的な問題日本十進分類法では、十進分類法という制約から、必ずしも論理的に「正しい」ツリー構造を取っていない。たとえば地理区分では、記号上、アイルランドはイギリスに、ベネルクス三国はフランスに含まれるように見える形となっている。香港・台湾・モンゴル国・チベットなども「中国」の下位区分という位置づけだが、これに関して、2012年には図書館が台湾に関する本を中国の本のコーナーに置いていることが問題とされ、荒川区立図書館や埼玉県立図書館では地方議員の働きかけもあり書架の表示が見直されることとなった。 電子版 (MRDF)冊子体のほか、新訂9版の電子版(機械可読データファイル)の「NDC・MRDF9」も提供されている[37]。記録媒体は、当初はフロッピーディスクが使用され[38]、後に CD-ROM での提供となった[39]。2004年時点での電子版販売価格は図書館向けが42万円、企業等向けが100万円[39] と、冊子体の新訂9版が 6,292円であるのに比べ非常に高額である。 キャラクター化児童や若年層に対して、より図書館やその分類法に親しみを持ってもらうため、日本十進分類法の10区分を擬人化・キャラクター化した例がある。
脚注注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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