名古屋少年匕首殺害事件
名古屋少年匕首殺害事件(なごやしょうねんあいくちさつがいじけん)とは、1945年(昭和20年)8月30日に愛知県名古屋市北区で発生した恐喝・殺人・殺人未遂事件[1]。 犯人2人が逮捕・起訴されたが、うち殺人罪などに問われた男X(在日韓国人:2001年時点で76歳)は起訴後に名古屋拘置所から脱獄[2]。旧刑事訴訟法(公判が開かれないと公訴時効が停止しない)の規定により、名古屋地裁は14年以内に1回ずつ、被告人Xの公判期日を指定し続けていたが[2]、Xは逃走後、韓国へ密出国[4]。名古屋地裁は事件発生から56年後の2001年(平成13年)、「今後、Xが日本に再入国する可能性は低い」と判断し、Xを免訴する判決を言い渡した[2]。 事件の概要予審請求書[注 1]によれば[4]、韓国人の男X[2](2001年時点で76歳・朝鮮半島出身)[注 2]は[4]、男1人 (Y) と共謀し、他人を脅迫して金品を脅し取ることを企て、1945年8月30日21時過ぎごろに名古屋市北区杉栄町四丁目付近の路上で[1]、少年3人[2]を呼び止め、同区生駒町七丁目に連行した[1]。この時、XとYはそれぞれ被害者のうち2人(AおよびB)を脅し、現金計115円[注 3]を奪った[1]。しかし、Aたちは恐喝されたことに憤慨し、AがX・Yに拳で殴りかかったため、入り乱れて組み討ちになり、Xは匕首で[1]少年C(当時18歳)[4]を斬り殺したほか[注 4]、少年B[1](当時16歳)[4]にも右腕を切る全治2週間の怪我を負わせた[注 5][1]。 その後の顛末加害者Xはその後、恐喝罪および(被害者Bへの)殺人未遂罪・(被害者Cへの)殺人罪で逮捕され[6]、名古屋地方裁判所検事局(現:名古屋地方検察庁)により[4]、同年9月20日に名古屋地裁へ[1]予審請求[注 1][注 6](起訴)された[4]。しかし、同月27日に勾留先の名古屋拘置所から脱獄し[注 7][1]、行方をくらましたため、同年11月16日にXに対する予審手続は中止された[1]。なお、共犯者Yは恐喝罪に問われ[6]、1946年(昭和21年)1月28日に判決を言い渡されている[1]。 戦後制定された刑事訴訟法では、起訴によって公訴時効が停止される[4]一方、それ以前の旧刑事訴訟法第284条では、「(公訴)時効は犯罪行為の終わったときから進行する」と規定されている一方、第285条で「時効は公訴の提起、公判若しくは予審の処分などにより中断する」と規定されているが、第286条では「時効は中断の事由の終了した時よりさらに進行する」と規定されている[10]。一方、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律[1947年(昭和22年)5月3日施行]によって、旧刑事訴訟法で規定されていた予審制度は廃止され[注 6]、本事件は起訴後の合議事件として扱われることとなり[1]、予審手続中止の効力は失われた[注 8][6]。 その後、名古屋地裁は時効を中断させるため、14年以内に1回ずつ公判期日を指定し続けてきた[9]。公判期日指定は、1957年(昭和32年)5月11日を始めとして、1986年(昭和61年)7月3日まで計7回にわたって行われた[1]。なお、共犯者Yが起訴された恐喝罪については、予審手続の効力が失われた後、Xに対する第1回目の公判期日指定がされるまでの間、同法で規定された公訴時効の中断・停止事由がないまま、時効期間(7年)が経過したことにより、公訴時効が成立した[注 9][6]。 免訴判決その後、事件から56年目となる2001年(平成13年)より数年前になって、被告人Xは韓国へ密出国していたことが判明[4]。これを受け、名古屋地裁が名古屋地方検察庁と協議したところ、事件から56年が経過し、Xが日本に再入国する可能性も低いことなどから、名古屋地検は公判維持を断念[4]。名古屋地裁も新たに公判期日を指定しないことを決めた[9]ため、殺人罪および殺人未遂罪については[1]、前回期日から15年目となる[4]2001年7月3日をもって公訴時効(15年)[注 10]が成立した[9][11]。 旧刑事訴訟法第363条では、「確定判決を経た時」「犯罪後の法令により、刑が廃止された時」「大赦がなされた時」「時効が完成した時」に、免訴の判決を言い渡すことが規定されている[12]。このため、名古屋地裁刑事第4部(片山俊雄裁判長)は、2001年8月14日に被告人を免訴する判決を言い渡した[3]。 類似事例同じく旧刑事訴訟法適用事件で、被告人が逃亡して所在不明になり、長期間にわたり審理ができない状態が続いたため、公訴時効の完成を理由に免訴判決が言い渡された事例として、大阪地裁[1980年(昭和55年)12月24日]・大阪地裁[1981年(昭和56年)7月14日]・東京地裁[1998年(平成10年)1月30日]などがある[1]。 脚注注釈
出典
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