中村 仁彦 (なかむら よしひこ、1954年 (昭和 29年) 9月22日 - )は、日本のロボット研究者 。京都大学 工学博士 、東京大学 名誉教授[ 40] 。マニピュレータ 、非ホロノミック系 、ヒューマノイド ロボットの運動学 と動力学 、制御、および知能の研究に従事。IFToMM (英語版 ) では会長を務めた。京都大学助手、カリフォルニア大学サンタバーバラ校 助教授 、準教授 [ 注 1] 、東京大学 助教授、教授、Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence (英語版 ) 教授を歴任[ 43] 。
優先度付き運動分解やSRインバースを提案し[ 44] 、ロボットや人体の運動学や動力学計算、シミュレーション、力学同定、モーションキャプチャーなどで実績を残した[ 38] 。脳型情報処理を提唱し、運動の言語理解にも取り組んだ[ 46] 。球体車輪による全方向移動や電気油圧駆動のヒューマノイドロボットも開発。愛・地球博 [ 47] やDARPAロボティクス・チャレンジ [ 28] [ 48] にも研究室で出展・出場した。ヒューマンデジタルツイン技術を扱う株式会社KINESCOPICを共同創業し、CEO を務めた[ 49] [ 50] 。
来歴・人物
生い立ち・学生時代
保育園 のときから漠然と科学者 に憧れていた。鉄人28号 の敷島博士の影響があったという。
京都大学工学部 精密工学 科に進学。専門科目が始まる前は今西錦司 や本多勝一 に影響を受けた。卒業研究から宇治キャンパスに配属され、オートメーション研究施設でロボット研究に取り組む。当初は建築学科 への学士入学を考えていたが、研究が面白くなり大学院に進学する。研究室は花房秀郎 教授、吉川恒夫 助教授 、浅田晴比古 助手 というスタッフ構成であった[ 54] 。
京都大学時代
博士課程途中の1982年 、中村は助手 に着任し、学位は1985年に論文博士 として取得した。ロボットの倣い制御に取り組み、ポテンシャル法を取り入れるなどしている。また、この途上で中村は7自由度ロボット「UJIBOT」を設計・製作する。中村は共著で設計としては失敗と述懐するが、このマニピュレータがTask priority control[ 58] やSR Inverseの研究につながった。また、動力学解析[ 注 2] やあやつりの力学(ロボットハンド)の研究[ 18] にも取り組む。
サンタバーバラ時代
1986年 には客員としてカリフォルニア大学サンタバーバラ校 に滞在。この時、金山裕や内山勝 とロボットコントローラの勉強会を設け、マニピュレータにはない移動ロボットの特殊性、すなわち非ホロノミック性 に着目するようになる。その後、1987年 9月より同大学の助教授に就任し、後に準教授[ 注 1] 。この間、駆動冗長性を持つ閉ループ機構 の動力学解析[ 64] や宇宙ロボットなど非ホロノミックシステムの研究に従事する。
東京大学時代
帰国した中村は1991年 4月に東京大学 機械情報工学科の助教授 に就任する[ 注 3] 。パラレルマニピュレータ や非ホロノミックマニピュレータ、ロボットハンドの研究に取り組んでいき、1997年 2月には教授に就任する。さらに外科手術ロボットやヒューマノイドロボットやヒューマンフィギュアの運動学・動力学演算においても成果を上げていく。なお、山根克とともに取り組んだヒューマンフィギュアの運動学計算ソフトウェアは、2002年 にSEGA が発表したアニマニウム に実装されている[ 69] [ 24] [ 25] 。
1998年 頃から中村は知能の問題に取り組むようになる。科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業 (CREST) では、「自律行動単位の力学的結合による脳型情報処理機械の開発」のテーマで研究を推進する[ 46] 。研究室のモーションキャプチャー 技術や高機能小型ヒューマノイドロボット 、動作の記号的理解などのシステムを統合し、2005年 の愛・地球博 には「アニマトロニックヒューマノイドロボット」を出展している[ 47] 。
山根と開発した解析手法や特許(特許第5061344号「リンクの質量パラメータの推定方法」[ 注 4] )を元に、株式会社ナックイメージテクノロジーが筋骨格モデル動作解析ソフトウェア「nMotion musculous」を販売している[ 73] 。また、一つのバスケットボールを車輪にした、全方向移動ロボットも開発し、基本特許を取得している[ 26] [ 27] 。教育面では2010年 に小型ヒューマノイドロボットNAO を導入している[ 74] [ 75] 。
2011年 の東日本大震災 にあたって中村は国内外の学会関係者と協力し、「対災害ロボティクス・タスクフォース」の活動で尽力する[ 76] 。また、2014年 からNEDO のプロジェクトに参画し[ 78] 、2015年 のDARPAロボティクス・チャレンジ (本選)に東京大学、千葉工業大学 、大阪大学 、などの混成チームで参加を決意。全身を油圧駆動するロボットは世界初と評されるが、準備期間が不十分だったこともあって棄権に終わっている[ 28] [ 48] 。なお、2018年にHydraは歩行に成功[ 79] 。外力を受けての反力吸収制御も実現している[ 80] 。
3次元モーションキャプチャーと筋電計 、床反力計 (英語版 ) に、筋骨格モデルによる緊張力推定を組み合わせたシステムは「Magic Mirror」と呼ばれ、リアルタイムで緊張力を推定できた。2016年には柔道 の羽賀龍之介 が内股 をかける動作を解析し、NHKスペシャル で紹介された[ 82] 。また、中村は2016年5月に設立された東京大学スポーツ先端科学研究拠点[ 83] [ 84] のメンバーとしても活動[ 83] [ 85] [ 注 5] 。
2018年 にはAIモーションキャプチャー「VMocap」を開発。ビデオモーションキャプチャーにディープラーニング を取り入れ、特殊なマーカーや専用の服装を用いることなく関節角度を推定できる。さらに中村研究室で開発してきた筋骨格解析や筋力推定と組み合わせ、リアルタイムで画像情報から筋骨格運動や筋力を推定することに成功した[ 87] [ 30] [ 31] 。さらに2020年1月にはNTTドコモ との共同開発として、VMpcapを応用した複数人ビデオモーションキャプチャシステムを発表。フットサル の試合を12台のカメラで捕らえ、選手個々人の筋張力を可視化した[ 88] [ 89] 。
東京大学定年退職後
2020年3月、定年退職[ 90] [ 注 6] 。同年6月、東京大学名誉教授[ 40] 。同年6月より同大学人工物工学研究センター上席研究員[ 38] (社会連携講座「ヒューマンモーション・データサイエンス」所属[ 91] )。2021年2月24日、株式会社Kinescopicを創業し、CEO を兼任[ 49] [ 50] 。2022年3月には東京大学において、人間の動作から4つのカメラで簡単に緊張力を推定・可視化し、さらにクラウド 経由でデータベース 化できるヒューマンデジタルツイン 作成システムを実現した[ 92] [ 91] 。
2022年度には東京大学スポーツ先端科学連携研究機構[ 93] で特任研究員を務める[ 43] 。2023年3月にFuture of Life Institute (英語版 ) が発表した巨大AI開発を一時停止すべきとの公開書簡 「Pause Giant AI Experiments」[ 94] [ 95] [ 96] には、中村の署名も掲載されている[ 97] [ 注 7] 。また、株式会社KINESCOPICはヒューマンデジタルツインサービスdigi2を開発[ 98] 。digi2は2024年2月に放送されたNHK総合 『あしたが変わるトリセツショー 』「”衰えない”筋肉」や同年6月にNHK BS で放送された「重力と踊る」において使用されており[ 99] 、同年7月には株式会社ナックイメージテクノロジーと共同でサービスを開始している[ 98] 。
2024年12月現在、Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence (英語版 ) 教授[ 43] [ 100] 。同大学はアラブ首長国連邦 が2019年に設立した「世界初の大学院レベルのAI専門大学」と呼ばれる大学で、アブダビ のマスダール・シティ にある[ 101] [ 102] 。
社会的活動
(そのほか)
「対災害ロボティクス・タスクフォース」アンカーマン
主な受賞歴
立石科学技術振興財団
2022年 - 第7回立石賞 功績賞「人間と機械の自然な相互作用の情報理論構築とその応用」[ 38] [ 39]
IEEE
Transactions on Robotics and Automation King-Sun Fu Memorial Best Paper Award
Robotics & Automation Society - 2007年 Most Active Distinguished Lecturer Award[ 37]
著作
学位論文
日本語題名『ロボットマニピュレータの軌道制御に関する運動学的研究』
著書
解説
(運動学・動力学)
(知能)
(指・把持・あやつり)
(非ホロノミック)
(その他)
講座
「非ホロノミックロボットシステム」 - 『日本ロボット学会誌』の連載
特許
主な出演歴
脚注
注釈
出典
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参考文献
(日本ロボット学会『日本のロボット研究の歩み』)
外部リンク
(東京大学関係)
(講演動画)