ワウフラッター

ワウフラッター英語:wow and flutter)とは、レコードターンテーブル)の回転むらや磁気テープテープレコーダー類)の走行むらによる音高のブレ(ムラ)のこと[1]

「ワウ(wow)」は周期の遅い場合のブレ、「フラッター(flutter)」は周期の速い場合のブレを指す。別の言い方をすると、「ワウ」のほうは変化がゆっくりに感じられるムラであり、「フラッター」のほうは変化の速いムラ、まるで「震え」のように聞こえるムラである[2]。2語を合わせた「ワウフラッター」は、レコードプレーヤーやテープレコーダーでは性能評価のための重要な用語である。

数値は%で表される。機器のメーカーや評価機関などがワウフラッターを測定する場合は、ワウフラッターメーターを使う。→#測定法

レトロな音響機器を使用する人はこの用語を、あなどったりせず、よく理解しておく必要がある。[注 1] またユネスコが「マグネティックテープ・アラート」、すなわち磁気テープに記録された文化的資料が近いうちに読み出すことができなくなってゆくので対策を打つべきだ、とする警告を発しており、磁気テープに記録された音声や映像をデジタル化する活動が博物館・資料館・大学などの教育機関・企業・一般家庭などで活発化しており、組織内や家庭内で"デジタル化"の任を負わされた人が、磁気テープの音響読み出しのためにテープレコーダー類を使わざるを得なくなり、このワウ・フラッターに直面することも増えている。特に長年使わず放置してあったテープレコーダー類を取り出して使用するとワウフラッターが強くなっていることは多い。

発生原因

橋本寛保の1971年の論文「テープ録音技術」(テレビジョン 25巻 (1971) 4号)では、主な原因は次のようなものだとしている。[3]

a.キャプスタンの偏心とガタ[3]
b.キャプスタン駆動機構の回転部分の偏心、不平衡[3]
c.磁気テープの、磁気ヘッド面での振動(特にテープの長い方向についての振動)[3]
d.供給リール側のテープ張力むら[3]

その他、次のようなことも原因となる。

レコードプレーヤーとテープレコーダー共通の原因
  • レコードプレーヤーやテープレコーダの駆動系のゴムベルトの不均一
レコードプレーヤーやテープレコーダー類を長期間使わずに放置すると、ゴムベルトの特定の位置だけ、細い金属軸に当たっている部分などだけが強く曲がった状態で固くなり、まるで形状を記憶したようになり、そうならなかった部分との性質の差が原因となってワウフラッターが生じる(プレーヤーを頻繁に使えば、ゴムベルトがシャフトに当たる位置がランダムに移動した状態で停止するので、このような現象は生じない)。ワウフラッターが発生してもかまわず数十分など再生しているうちにゴムの温度が上がったり揉まれているうちに"形状記憶"が消えて、ワウフラッターが改善することはよくある。それくらい再生しても改善しないようなら、ゴムベルトを新品に交換する。なお、ゴムベルトに"形状記憶"が起きてワウフラッターが生じることは、氷点下など気温が極端に低い環境だと比較的短時間でも起きることがある。その場合もしばらく再生していると直る。
また、厳密に言うとゴムベルトはどの位置でも完全に均一というわけではなく、工場で製造されたばかりの新品のベルトでも、厚みや幅が、ほんのわずかではあるが不均一であり、位置ごとにかすかに異なっている。これに関しては新品のプレーヤーを使っている場合は打てる手はあまりない。ゴムベルトを交換する際には、品質が高く均一性に優れていそうなものを選ぶと良い。
  • 駆動系ゴムベルトの使用にともなう伸びや劣化
ゴムベルトを新品に交換すると直る
商用電源に同期したシンクロナスモーターを使っている機器には発生する。商用電源の周波数にブレがあるためである。その後に販売されるようになったクォーツロック制御のモーターではこれに起因するワウフラッターはほぼ無い。ただし、小型のテープレコーダーやラジオカセットカーオーディオヘッドホンステレオ等のカセットプレーヤー、更に近年の普及価格帯の据置型のカセットデッキなどでは駆動用としてDCサーボモーターやDCモーターが使用されているため、モーター駆動用に周波数を作り直す回路が用いられ、温度などによりしばしば回転の不安定さを生じることがある。
レコードプレーヤー特有の原因
  • レコードの偏心
ここでいう偏心とは回転の中心からズレているということ。2つの原因で起きる。
ひとつめの原因はレコードをターンテーブルに置いた際のターンテーブルの中心からのズレである。ターンテーブルの中央には「スピンドル」と呼ばれる金属製の短い軸が立っているが、その直径に対して、レコードの円盤に空いている穴の直径が若干大きい[4]。スピンドル経は、JIS規格では7.05ミリ - 7.15ミリの範囲と定められているが、それに対してレコードの穴の経は7.24ミリ - 7.33ミリもある[4]。つまりスピンドルとレコードの穴の隙間が0.09から0.28ミリもあることが原因である[4]。偏心量はその半分と計算するので[4]、0.045から0.14ミリの偏心と計算される。
もうひとつの原因は、レコードの音溝の中心に穴が空いていないことである[4]。IEC規格の「98A」の定めで、「穴の偏心は音溝の中心から0.2ミリ以下」と規定されているからである[4]。この偏心はレコード製造工場の製造工程で発生し、レコード購入者には打つ手は無い。
そして上記の2つの偏心がたまたま最大値になり、しかも同じ方向に重なると最大で0.34ミリもの偏心が生じる[4]。こうなると音溝をトレースする針は、ターンテーブルが回転するたびに左右に振られるのでワウが生じてしまうのである[4]。つまりターンテーブルがいくら正確に一定の速さで回転していても、ワウフラッターが生じてしまうことがある[4]
テープレコーダー特有の原因
  • テープレコーダーの定期的な清掃を怠っている
ピンチローラーとキャプスタンは定期的に清掃しないと、いつのまにか汚れが付着し、ゴム製ローラーと磁気テープの間の摩擦が不規則に変化し、不規則に滑ってしまい、送り速度が安定せずワウフラッターが生じる。

余談

デジタル制御機器の場合

最初の定義でワウフラッターはレコードや磁気テープに関する用語と説明したので、そもそもそれ以外の機器について説明することはバカバカしい限りだが、一応、雑学も説明しておく。

コンパクトディスクのプレーヤーでは回転をデジタル制御しており、回転ムラがあっても再生機器の水晶発振器の精度と同程度まで小さくできている[5]

CD-DADAT等のデジタルオーディオでは読み出したデータを、一旦プレーヤー内蔵のキャッシュ用メモリー(音響データを一時的に保存するためのメモリー)に溜め込んでから、水晶発振器で一定速度で動作するようにコントロールされたデジタル回路が、データを規定の一定速度で音に変換しているので、ワウフラッターの大きさについて「測定限界以下」と表記することが一般的となった。

フラッシュメモリハードディスク)式のデジタルオーディオプレーヤーでは、ワウフラッターは無縁なので、表記しなくなった。

測定法

橋本寛保の1971年の論文「テープ録音技術」には測定法として次のように書かれている。3 キロヘルツ(kHz)の純音を録音、再生し、その出力をワウフラッターメーターによって測定し、周波数の変動量と録音信号周波数の比を百分率(%)で表示する。しかし、測定方法が国際的に統一されておらず、測定条件によって値が大きく異なってくる、と書かれていた[3]

脚注

  1. ^ 年配のオーディオユーザには古くから馴染みの用語であり、常識なので、いまさら説明は不要、と感じられる用語のはずであるが、2010年代から若者の間で「昭和レトロ」がブームになっており、今頃になってラジカセターンテーブルを初めて使う若者が増えてきているので、最近初めてレトロな機器を使用する若者は、レトロな音響機器にはデジタル音響機器の常識が全く通用しない、ということすら知らないので、虚心になってこの用語をしっかり理解する必要がある。
出典
  1. ^ ワウフラッター”. 2025年12月24日閲覧。
  2. ^ 用例でわかるカタカナ新語辞典. 学研辞典編集部. (2011). p. 776 
  3. ^ a b c d e f テープ録音技術. p. 319. https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej1954/25/4/25_4_316/_article/-char/ja/ 2025年1月26日閲覧。. 
  4. ^ a b c d e f g h i ステレオ時代 11号. ステレオ時代編集部. p. 101 
  5. ^ 『図解コンパクトディスク読本』(改訂3版)オーム社、1996年、58,162-163頁。ISBN 4274034720 

関連項目

 

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