ミクロの決死圏
『ミクロの決死圏』(ミクロのけっしけん、原題: Fantastic Voyage)は、1966年公開のアメリカのSF映画。 概要冒険映画的な邦題に対し、原題の「幻想的航海」に則って人体の内部表現は写実的というよりは、ファンタジータッチである。斬新な発想とSFプロット、スパイアクション仕立ての導入部、潜航艇内で何者かによる妨害工作が続きチーム内に敵のスパイがいるのではないかと互いに疑心暗鬼になる密室劇的要素、次々と起こる不測の事態の克服といったサスペンス要素から、肉体派女優として一世を風靡したラクエル・ウェルチの体にぴったりと貼り付くウェットスーツを着せるといった演出まで、幅広い要素を散りばめた作品である。 一方で、映画の最後に字幕で記されているとおり、将来の医療・科学の進歩を予想して当時研究されていた技術やアイデアを作品内に取り入れており、例えばレーザーによる縫合など、映画に登場したものとは方向性が大きく違うにせよ、後年に実現、発展した例も見受けられる。また、言うまでも無い事だが、「軍事作戦」としての「Operation(作戦)」と、「外科手術」としての「Operation(手術)」を掛けてあり、階段教室ならぬ、オペレーション・ルームから、軍医たちによるモニターのもと、この「作戦(手術)」は進行される。この技術が確立されると、「数個師団をポケットに入れて持ち運べる」とか、「微細手術」を行なうプローブとなる潜航艇の、「縮小手続き」の丁寧な描写に、西洋近代科学技術のもつ「スケール感(観)」が、象徴的に言及されており、この映画の「科学教育効果」にも大変高いものがある。 本作は人体内部の造形や、その中を潜航艇で航行する特撮で、アカデミー美術賞および視覚効果賞を受賞した。その他、撮影賞・音響賞・編集賞にもノミネートされている。特殊潜航艇プロテウス号のデザインは、ハーパー・ゴフが担当している。 あらすじ物質をミクロ化する技術が研究されていたが、ミクロ化は1時間が限界でそれを越えると元に戻ってしまう。アメリカは、この限界を克服する技術を開発した東側の科学者ベネシュを亡命させる。情報員グラントの手引きにより、ベネシュを乗せた飛行機は無事にアメリカに到着したが、飛行場からの移送途中に敵側の自動車自爆攻撃を受けたベネシュは脳内出血を起こし意識不明となる。このままではベネシュは死亡し、ミクロ化の時間延長の技術は失われてしまう。ベネシュの命を救うには、医療チームを乗せた潜航艇をミクロ化して体内に送り込み、脳の内部から治療するしかない。 潜航艇「プロテウス号」は原子炉を動力源にしている。これに医療チームを乗せてミクロサイズに縮小し、血管を通って脳に達する方法がとられることになった。一行は、手術を担当するデュヴァル博士、その助手のコーラ、指揮をとるマイケルズ博士、通信担当のグラント、潜航艇の設計者で操縦士のオウェンス大佐の5人である。ベネシュの脳にある血腫は、レーザーで焼き切る。プロテウス号は第一段階で1インチ程度まで縮小された。第二段階では巨大な注射器に入れられ、注射器ごと縮小された。標準サイズになった注射器が手術室に横たわるベネシュの頸動脈に刺され、プロテウス号は血管に注入された。プロテウス号の位置は、原子炉から出る放射線を検知して追跡される。1時間のカウントダウンも開始された。一行は、血管内を流れる血球の神秘さに目を見張った。脳までは楽な航行と思えたが、その途中には検査で発見できなかった動脈と静脈の癒着部分が待っていた。交通事故のときにできたようだ。プロテウス号は静脈側に押し流され心臓に向かった。心臓に入れば、その拍動でプロテウス号は破壊されてしまう。 心臓を一時的に止め、その間に通過する計画が立てられた。プロテウス号の乗員には大砲を撃つような音が近づいてくる中、電気ショックで拍動が止められた。全速力で通過するプロテウス号。そして拍動が再び聞こえだした。プロテウス号は無事に肺動脈に入り、肺に向かった。途中でタンクが破損し酸素が漏れたので、補給しなければならない。オーウェンス大佐以外の4名がプロテウス号の外に出ることになったが、船外活動用の機材を取り出していたグラントが、コーラがベルトで固定していたはずのレーザー銃がなぜか外れていることに気づく。グラントはレーザー銃がしっかりと固定していたのかコーラに詰問するが、喫緊の問題である空気不足を解消すべく、艇外で作業を開始する。ゆっくりとしたベネシュの呼吸も、ミクロサイズの人間には大暴風に思えるなか、肺胞の外にホースを出して空気を補充することができた。船内に戻った一行がレーザー銃をチェックすると、内部の針金が切れていてトランジスターも壊れていたことが判る。部品があれば修理できるというデュヴァル博士に、グラントは無線機から取り外した部品を手渡した。これで無線機は文字通り「無線」となり、プロテウス号は外部と通信できなくなった。 プロテウス号が内耳に入ったとき、原子炉の冷却水取り入れ口や排水口に何かが詰まり、それを取り除かねばならなかった。乗員たちが艇外に出て作業を始める。手術室内では決して音をたてないように指示が出された。しかし看護師が誤って鋏を落としてしまい、内耳には金属の轟音が響きわたり、プロテウス号はリンパ液の流れに翻弄された。艇外で作業していたコーラは、これに流されて内耳組織にぶつかり傷つけてしまう。傷を修復するため集まってきた血小板に攻撃されて、身体を締め付けられ窒息寸前だ。艇内に運び込まれたコーラに付いている血小板を、皆で剥がして彼女は助かった。 脳の患部に到着した一行は、デュヴァル博士と助手コーラ、手伝いのグラントが艇外に出て手術を行った。レーザーが当たった血腫は次々に溶けてゆき、神経細胞の活動レベルが上がっていく。手術は成功だ。その頃、プロテウス号の内部ではマイケルズ博士が、ハッチに水漏れがあると言ってオーウェンス大佐を操縦席からおびき寄せ、降りてきたオーウェンス大佐の頭を殴り気絶させた。 無事作業を終えたデュヴァル博士たち。そこにマイケルズ博士に乗っ取られたプロテウス号が、全速でデュヴァル博士たちの方へ向かってきた。それに気づいたグラントは、レーザー銃をデュヴァル博士からもぎ取り、プロテウス号めがけて発射した。プロテウス号は方向を変えて、体内組織にぶつかった。すぐに白血球が集まり、プロテウス号に取り付いていく。グラントたちはオーウェンス大佐は救出できたが、マイケルズ博士は操縦席に挟まれていて動かすことができない。既に白血球たちはプロテウス号の半分を溶かしていた。残り時間もあと少しだ。白血球に捕まってしまったマイケルズ博士を除いた一行は、最短の脱出口である眼球を目指して泳いだ。艇の動きをモニターしていたチームも、脳内から動かないプロテウス号を不思議がっていた。そしてその像は、放射性物質の残りカスで、人間たちは別の場所にいるのではとカーター将軍は考えた。リード大佐が拡大鏡を持ってベネシュに近づき、瞼をめくってのぞいた。そこには涙の海に翻弄される人間たちの姿があった。スライドガラスに涙が載せられ、実験設備の中央に置かれた。少しずつ大きくなる4人の姿。時間切れ8秒前でミッションは完了した。 登場人物
キャスト
DVD・Blu-rayにはテレビ朝日新版を収録(正味約93分)。 小説後に、この映画の脚本を元にアイザック・アシモフが小説化している。映画では説明されなかった「縮小されていない空気分子をミクロ世界に取り込んでも役に立たない」「体内に残された潜航艇が復元すれば結局台無し」といった疑問点もアシモフらしく巧く処理されている。1987年にはオリジナルの続編『ミクロの決死圏 2 - 目的地は脳(Fantastic Voyage II: Destination Brain)』を著している。
関連作品単発作品
連続シリーズの1エピソード
毎回人体への突入を行う作品
その他
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