マイノリティ・リポート

マイノリティ・リポート
Minority Report
監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 ジョン・コーエン英語版
スコット・フランク
原作 フィリップ・K・ディック
『マイノリティ・リポート』(旧題:『少数報告』)
製作 ボニー・カーティス
ジェラルド・R・モーレン
ヤン・デ・ボン
ウォルター・F・パークス
製作総指揮 ゲイリー・ゴールドマン
ロナルド・シャセット
出演者 トム・クルーズ
コリン・ファレル
サマンサ・モートン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
撮影 ヤヌス・カミンスキー
編集 マイケル・カーン
製作会社 ドリームワークス
20世紀フォックス映画
クルーズ/ワグナー・プロダクションズ
配給 20世紀フォックス映画
公開 アメリカ合衆国の旗 2002年6月17日
日本の旗 2002年12月7日
上映時間 145分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $102,000,000[1]
興行収入 世界の旗 $358,372,926[1]
アメリカ合衆国の旗カナダの旗 $132,072,926[1]
日本の旗 52.4億円[2]
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マイノリティ・リポート』(Minority Report)は、2002年に公開されたアメリカSFアクション映画[3]ドリームワークスによって製作され、20世紀フォックス映画によって配給された。フィリップ・K・ディックの1956年の短編小説『マイノリティ・リポート』(旧題:『少数報告』)を原作としてスティーヴン・スピルバーグが監督を務め、トム・クルーズが主演した。

2015年9月から、FOXチャンネルで映画に基づいた続編となるテレビドラマ作品が放送された(『マイノリティ・リポート (テレビドラマ)』)。

概要

サイバーパンク映画の舞台は2054年のワシントンで、専門の警察署が「プリコグ」と呼ばれる3人の超能力者から予知 を得て犯罪者を逮捕する。キャストは他に、コリン・ファレルサマンサ・モートンマックス・フォン・シドーら。この映画は、テック・ノワールミステリースリラー、SFの要素を組み合わせたものであると同時に、主人公が犯してもいない罪で告発されて逃亡者となることから、伝統的な追跡映画でもある。

ストーリー

「プリコグ」と呼ばれる3人の予知能力者たちを使った殺人予知システムが実用化された近未来。予知された殺人犯(未来犯罪者)を未然に逮捕、拘禁する犯罪予防局の設立から6年が経過した西暦2054年のワシントンD.C.の殺人発生率は0%になったと報告されていた。

ジョン・アンダートンは6年前、休暇中に息子のショーンを何者かに誘拐・殺害されたことがきっかけで予防局に入局し、犯罪予防活動にのめり込み、犯罪予防局の部隊長となった。妻のララとも離婚して疎遠になっていた。

ある日、プリコグの一人である女性のアガサが、湖畔の森の中で1人の初老女性が黒づくめの人間に襲われ、湖に沈められて溺死する予知映像をジョンに見せてきた。ジョンが調べてみると、アガサの予知映像は6年前の犯罪予防局発足時に発生した事件が該当した。しかし、予知されていた事件の記録映像を確認しようとすると他の2人のプリコグの映像はあるのに、何故かアガサのものだけが無かった。また、事件の被害者アン・ライブリーは事件が未然に防がれているにも関わらず、行方不明となっていた。ジョンは予防局長のラマー・バージェスに報告するが詳細は分からなかった。

翌日、新たに殺人事件が予知されたが、その予知には見ず知らずリオ・クロウという男を射殺するジョンの姿が映っていた。何者かの罠だと感じたジョンは逃亡する。殺人予知システムの考案者であるアイリス・ハイネマン博士から、システムが偶然の発見から生まれたものであること、時にブリコグ同士で予知が食い違うこともあり、少数の意見「マイノリティ・リポート」にあたる予知映像はシステムの完全性を疑われないために破棄され、プリコグ達の中でも特に能力の強いアガサの脳内にのみ保存されていることをジョンは知らされる。

自らの無実を証明すべく、ジョンはアガサを誘拐するが、アガサの脳内にはジョンのマイノリティ・リポートは存在しなかった。ジョンとアガサは予知された殺害現場であるリオ・クロウの部屋へと向かう。リオ・クロウから息子ショーンを誘拐して殺害した犯人であると聞かされたジョンは、予知通りに銃を突きつけてクロウを射殺しようとするが、アガサの説得に思いとどまる。ところがクロウは「知らない男から電話で頼まれて誘拐犯のふりをした。自分を殺してくれないと家族が金を得られない」と訴えて、無理矢理ジョンに発砲させ、予知を現実にする形で絶命した。

アガサを連れたジョンは元妻のララの家に向かうが、そこで駆けつけた予防局の部隊に逮捕される。しかし、ラマー局長がアン・ライブリー溺死事件についてジョンと犯人しか知り得ない情報を口にしたのを聞いたララは、ラマー局長こそが一連の事件の黒幕であることに気付くと、ジョンを脱獄させた。

殺人予知システムの全国導入を祝うパーティ会場に、緊急電話でジョンはラマーに突き止めた真実を語りかける。2人のプリコグに予知させたアン・ライブリー溺死事件を防止させ、その後に再びアン・ライブリーを溺死させる。後者がアガサの予知した映像であった。アン・ライブリーはアガサの母親であり、予防局に愛娘のアガサを返すよう迫っていたが、アガサ抜きでは予知システムが成り立たないため、ラマーが邪魔者であるアンの謀殺を実行したのであった。

パーティ会場で過去の犯行を映像で暴露され、さらにはプリコグ達にラマーがジョンを射殺するという予知までされた。ラマーは予知されていた殺害現場へと向かい、待っていたジョンに拳銃を向ける。しかしジョンから「自分の未来は自ら望む通りに変えられる。あんたにそのチャンスはまだ残っている」と諭されたことで、ラマーは自分自身の命を絶つという最期を遂げた。

犯罪予知システムは不完全と認められて廃止となり、収容所に投獄されていた未来犯罪者達にも特赦が与えられ全員が釈放された。ジョンとララは復縁し、プリコグの3人は予防局から解放された。

キャスト

役名 俳優 日本語吹替 説明
オフィシャル版 DVD
ジョン・アンダートン トム・クルーズ 堀内賢雄 須賀貴匡
ダニー・ウィットワー コリン・ファレル 楠大典 司法省調査官。殺人予知システムの全国規模での導入に先立ってシステムの完全性の視察を行いに犯罪予防局を訪れる。リオ・クロウ殺害現場の不自然さと、アン・ライブリー事件の予知映像の食い違いからいち早く真相に気付くも、ラマー・バージェスに射殺される。
アガサ サマンサ・モートン 根谷美智子 水樹奈々 「プリコグ」の1人。もっとも強力な力を持つ。
ラマー・バージェス局長 マックス・フォン・シドー 大木民夫
アイリス・ハイネマン博士 ロイス・スミス 久保田民絵 殺人予知システムの考案者。
エディ・ソロモン医師 ピーター・ストーメア 仲野裕 闇医者。ジョンに眼球移殖を行う(網膜走査から逃れるため)。
ギデオン ティム・ブレイク・ネルソン 牛山茂 未来犯罪者収容所の監視担当者。ララに脅されてジョンの脱獄に手を貸す。
ジャッド スティーヴ・ハリス 乃村健次 犯罪予防局の内勤局員。ララに依頼され、パーティ会場のスクリーンにラリー局長の殺人映像を映す[4]
ララ・クラーク キャスリン・モリス 日野由利加
ウォリー ダニエル・ロンドン英語版 土田大 犯罪予防局の職員。プリコグの世話をしている。ジョンが殺人犯として予知されたことを知った後も、ジョンに協力的[5]
フレッチャー ニール・マクドノー 荒川太郎 犯罪予防局の副チーフ。殺人犯として予知されたジョンの追跡を行う[6]
ノット パトリック・キルパトリック 谷昌樹 犯罪予防局の捜査官。フレッチャーと共に殺人犯として予知されたジョンの追跡を行う[7]
エヴァンナ ジェシカ・キャプショー  
ルーファス・T・ライリー ジェイソン・アントゥーン   殺人予知システムの操作系統設計者。アガサの脳内を探り、ジョンの「マイノリティ・リポート」を探す。
リオ・クロウ マイク・バインダー英語版  
アン・ライブリー ジェシカ・ハーパー 久保田民絵 アン・ライブリー事件の被害者。事件を防がれた後に行方不明となる。アガサの実母。

吹替はオフィシャル版が先に製作されたものの、日本の配給会社によって独自にDVD版が製作され、DVDにはこちらのみを収録する予定だった。だが、スピルバーグとクルーズの連名によるクレーム[8]があったことでオフィシャル版がメインの吹替として収録されることとなり、DVD版は特典扱いでの収録となった。これに伴い、プロモーションのため開催予定だった須賀による公開アフレコイベントは中止となっている[9]

スタッフ

日本語版制作スタッフ

テーマ

『マイノリティ・リポート』の主なテーマは、自由意志決定論という古典的な哲学的論争である。この映画で取り上げられている他のテーマには、強制的な拘禁、ハイテク社会[10]における政治・法制度の性質、メディアが支配する世界[11]におけるプライバシーの権利、自己認識[12]の性質[13]などがある。この映画はまた、崩壊した家族を描く[14]というスピルバーグの伝統を踏襲しており、彼によると、これは子供の頃の両親の離婚がきっかけだという[15]

音楽

作曲と指揮は、スピルバーグと定期的に仕事を共にしてきた[16]ジョン・ウィリアムズが担当した。ウィリアムズはバーナード・ハーマンの映画音楽に触発されており、SF要素に重点を置く代わり[17]に、いくつかのシーンで女性歌手を起用したり、感情的なテーマを取り入れるなどした。また、フランツ・シューベルトの交響曲第7番『未完成交響曲』、ハイドン弦楽四重奏曲作品64、第1番』[18]チャイコフスキー交響曲第6番『悲愴』など、いくつかの古典作品が取り入れられた。

サウンドトラック[19]は2002年6月18日にドリームワークス・レコードからリリース[20]された。

映画で描写されたガジェット

本作で描写された様々なガジェット、触れることができるホログラムであったり、網膜認証システムなどは、本作の公開後、実際にその技術が実現されるようにもなり、本作は「近未来の代名詞」として「『マイノリティ・リポート』の時代が近づいている」「リアル『マイノリティ・リポート』」といったような使われ方もされている[21]

スピルバーグは「最高のSFは事実や未来の事実に基づいている」と考えており、本作で劇中に描写される技術は、専門家や学者たちに検討されて生み出されており、「プリコグ(未来予知者)」以外の技術は、理論的に可能なものばかりとされる[21]

劇中では未来的なガジェットとして用いられている網膜や虹彩などの瞳を使った生体認証は、スマートフォンのロックシステムにも取り入れられるほどの一般的な存在になり、個人に向けて展開される広告というのもインターネットでは一般的になっている[21]。過去の犯罪履歴などのデータを基に危険人物を予測するソフトウェアをロンドン警視庁マイクロソフトが開発中との報道もある(2016年時点)[21]

その他

  • 劇中で2054年モデルのレクサスが登場する。これはレクサス・チャンネルを展開するトヨタ自動車の北米のデザイン拠点、CALTYがデザインしたものである。日本での劇場公開時、そのプロモーションの一環で東京・池袋にあるトヨタ自動車の展示ショールーム、アムラックスで劇中車のレクサスと作品に使われた小道具類が期間限定で特別展示された。なお、2002年当時は日本ではレクサスは展開前で、その事業発表もなされていなかった。
  • ジョン・アンダートンが地下鉄で逃亡したとき、新聞の速報を見てジョンを発見する男性乗客は、映画『バニラ・スカイ』のキャメロン・クロウ監督である。クルーズはクロウ監督作品の常連である。さらにその後ろには、目から上しか映っていないがキャメロン・ディアスカメオ出演している。
  • 本作は銀残しという手法を用いて現像処理され、コントラストが強く、彩度の低い映像となっている。監督のスピルバーグは「汚い映像にすることでリアリティを出したい」と意図してこれを用いている。場面によってはモノクロの映像のように見える特殊な表現であるため、当初トム・クルーズは反対の異を唱えていた。
  • トム・クルーズはなんでもスタントを自身でやりたがる俳優としても知られているが、スピルバーグは撮影前に「君がやるべきスタントは私が決める」と言って聞かせたという逸話がある。
  • エヴァンナ役で出演のジェシカ・キャプショーはスピルバーグ監督の義子である。
  • 本作は「ジョン・アシュクロフト司法長官により、9.11以降アメリカ政府が国民の情報を管理しようとしていること」に対しての政治的問いかけを含んでおり、政府が未来を予測できるようになればどうなるかを描いている[22]

関連項目

脚注

  1. ^ a b c Minority Report (2002)” (英語). Box Office Mojo. 2010年4月9日閲覧。
  2. ^ 日本映画産業統計 過去興行収入上位作品 (興収10億円以上番組) 2003年(1月~12月)”. 社団法人日本映画製作者連盟. 2010年4月9日閲覧。
  3. ^ Minority Report”. British Board of Film Classification. 2025年1月25日閲覧。
  4. ^ ジャッド(スティーヴ・ハリス)”. 映画スクエア. 2025年6月9日閲覧。
  5. ^ ウォリー(ダニエル・ロンドン)”. 映画スクエア. 2025年6月9日閲覧。
  6. ^ フレッチャー(ニール・マクドノー)”. 映画スクエア. 2025年6月9日閲覧。
  7. ^ ノット(パトリック・キルパトリック)”. 映画スクエア. 2025年6月9日閲覧。
  8. ^ イギリスで先行して発売されたDVDの特典に技術的な不備が発覚したことから、スピルバーグは全世界で発売予定のDVDをチェックしていた。
  9. ^ 「マイノリティ・リポート」アフレコ中止に| ZAKZAK at the Wayback Machine (archived 2003-04-08)
  10. ^ O'Hehir, Andrew (2002年6月21日). “Meet Steven Spielberg, hardboiled cynic”. Salon. 2010年11月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月25日閲覧。
  11. ^ Powers, John (2002年6月27日). “Majority Report”. LA Weekly. 2025年1月25日閲覧。
  12. ^ Ian Rothkerch. “Will the future really look like 'Minority Report'?”. Salon. オリジナルの2011年5月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110514220445/http://dir.salon.com/story/ent/movies/int/2002/07/10/underkoffler_belker/index.html 
  13. ^ Hall, Martin (2004). “Time and the Fragmented Subject in Minority Report”. Rhizomes (8). http://www.rhizomes.net/issue8/hall.htm 2025年1月25日閲覧。. 
  14. ^ Hoberman, J. (2002年6月25日). “Private Eyes”. The Village Voice. 2025年1月25日閲覧。
  15. ^ Tulich, Katherine (2002年6月22日). “Spielberg's future imperfect”. The New Zealand Herald. http://www.nzherald.co.nz/movies/news/article.cfm?c_id=200&objectid=2047783 2025年1月25日閲覧。 
  16. ^ Minority Report [Original Motion Picture Score]” (英語). 2025年1月25日閲覧。
  17. ^ Randy, Shulman (2002年6月27日). “Minority Rules”. Metro Weekly. オリジナルの2010年2月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100203042327/http://metroweekly.com/arts_entertainment/film.php?ak=14 2025年1月25日閲覧。 
  18. ^ Minority Report soundtrack review”. Filmtracks.net. 2025年1月25日閲覧。
  19. ^ Minority Report (Original Motion Picture Score)” (英語). 2025年1月25日閲覧。
  20. ^ Minority Report” (英語). 2025年1月25日閲覧。
  21. ^ a b c d e 井本早紀 (2016年6月7日). “マイノリティ・リポート』は何がすごかったのか…実は続きも!”. シネマトゥデイ. 2025年6月9日閲覧。
  22. ^ 「映像の魔術師 スピルバーグ自作を語る」

外部リンク

 

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