『フィーバーは止まらない 』(フィーバーはとまらない、原題: A Fever You Can't Sweat Out )は、アメリカ合衆国のポップ・ロック・バンドであるパニック!アット・ザ・ディスコ のデビュー・スタジオ・アルバム。2005年9月27日にフュエルド・バイ・ラーメン およびディケイダンス・レコード から発売された[ 2] 。プロデュースはマット・スクワイア が手がけた。本作は結成メンバーの1人であるブレント・ウィルソンが在籍時に発売された唯一の作品であるが、2006年のウィルソンの解雇に際して「本作のレコーディングおよび楽曲制作におけるウィルソンの実際の貢献度」が論争の的となった。
発売後、Billboard 200 で初登場112位を記録し、翌年のチャートで最高位13位を記録した。アルバムからのシングル・カットされた「アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ〜いつわりのウェディング 」は50万枚を越える売上を記録した[ 3] 。アルバムの発売から10年後の2015年にアメリカレコード協会 からダブル・プラチナ認定を受けた[ 4] 。
日本盤は2007年1月17日に発売され、ボーナス・トラック として「アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ〜いつわりのウェディング」のデンバー 公演でのライブ音源、CD-EXTRA として「アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ〜いつわりのウェディング」「君がやってくれた方がいいのに 」「嘘は女の子が服を脱がずに楽しめる最上の方法 」のミュージック・ビデオ が追加収録された[ 5] 。
背景
ネバダ州 ラスベガス サマーリン で当時ビショップ・ゴーマン高校 の9年生だったライアン・ロス とスペンサー・スミス が一緒に演奏したことをきっかけに2004年にバンドを結成[ 6] [ 7] [ 8] 。その後、ベーシストが探しているなかでパロ・ヴェルデ高校 に通うブレント・ウィルソンをメンバーに誘い、ウィルソンがクラスメイトのブレンドン・ユーリー をギタリストとして誘い4人編成となる[ 9] [ 7] 。4人はまもなくしてスミスの祖母の家のリビングでリハーサルを行なう[ 10] 。この時バンドのリード・ボーカルはロスが務めていたが、リハーサルの初期段階でバッキング・ボーカルを務めていたユーリーの歌声を聞いたメンバーの判断により、ユーリーがリード・ボーカルを務めることとなった[ 11] 。4人はブリンク 182 のコピーバンド として活動を開始した[ 12] 。
その後、メンバーはライブを行わないまま、デモ音源の制作[ 注 1] を行ないPureVolume にアップロードし[ 9] [ 7] 、LiveJournal のアカウントを通じてフォール・アウト・ボーイ のベーシストであるピート・ウェンツ にデモ音源を送った[ 14] 。当時ウェンツは、フォール・アウト・ボーイ のメンバーとしてロサンゼルスでメジャー・デビュー・アルバム『フロム・アンダー・ザ・コーク・ツリー 』の制作を行っていて、4人に会うためにラスベガスに向かった[ 14] 。バンドの演奏を「2〜3曲」聴いたウェンツは感動し、バンドに対して自身が立ち上げたディケイダンス・レコード (当時はフュエルド・バイ・ラーメン の傘下レーベル)の第1弾アーティストとして売り出すために契約を求めた[ 14] 。2004年12月、バンドはレーベルと契約した[ 11] 。
レーベルと契約した段階でネバダ大学ラスベガス校 を中退したロスを除くメンバー3人は高校生だったことから、レコーディングは2005年6月に延期されることとなった[ 9] 。その後、アルバムのレコーディングまでの間にユーリーが高校を卒業し、ウィルソンとスミスの2人が通信教育課程を終了した[ 9] 。
制作
ユーリー、ウィルソン、スミスの高校卒業後、バンドはアルバムのレコーディングを行なうためにメリーランド州 に向かった[ 9] 。レコーディングはSOMD!スタジオで行なわれ[ 15] 、プロデュースはマット・スクワイア が手がけた[ 16] 。バンドは、スクワイアが手がけた作品を聴いて興味を持ち起用した[ 17] 。スクワイアは「彼らの事務所はちょうどパラモア の『オール・ウィ・ノウ・イズ・フォーリング 』を手がけたばかりのマイク・グリーンを起用したかったんじゃないかな。クラッシュ・マネジメント とフュエルド・バイ・ラーメンは『あいつは誰だ?』ってなったと思う」と語っている[ 17] 。
アルバム『フィーバーは止まらない』は、11,000ドルの予算でミキシング やマスタリング も含めて3週間半で制作が行なわれた[ 17] 。スタジオに入った段階で曲の半分が完成していて、残りはプリプロダクション で作り上げられた[ 11] 。スクワイアは、2015年の『ビルボード』誌のインタビューで全収録曲のコーラスおよび高音パートは1回のセッションで録音されたと回想している[ 17] 。アルバムの制作作業の終盤、バンドは休みが取れず疲労困憊していた。ロスは、アルバムの完成後は「家に帰って、バンドがどうあるべきかを考えるために2週間を使った」と語っている[ 9] 。
アルバム発売後の2006年5月18日、ウィルソンの脱退が発表される[ 18] 。その翌月にウィルソンの脱退は「責任感のなさ」や「バンド内での音楽的な進歩のなさ」を理由とした「解雇」であったことと、本作においてウィルソンがベースを演奏しておらず、楽曲のベースのパートがユーリーとロスによって作られ、ウィルソンの代わりにユーリーが演奏したことが明かされた[ 19] 。ウィルソンはバンド側の主張を否定し、毎日スタジオに顔を出し作曲作業に参加し、ユーリーにいくらかのセクションの演奏方法を教えたことを主張。その後、ウィルソンはバンドに対してアルバムの売上から得られる印税の25%の支払いを求めた[ 20] 。
構成
アルバム『フィーバーは止まらない』の音楽性は、ポップ・パンク [ 21] 、エモ [ 22] [ 23] [ 24] 、オルタナティヴ・ロック [ 25] 、エモ・ポップ [ 26] 、バロック・ポップ [ 23] 、エレクトロニカ [ 21] 、ダンス・パンク [ 12] 、ドゥーワップ [ 21] に分類される。楽器はギター 、ベース 、ドラム といった通常編成に加え、ドラムマシン やシンセサイザー 、トランペット 、トロンボーン 、ヴァイオリン 、アコーディオン が取り入れられた[ 27] [ 28] 。アルバム中では「不誠実な行為」「依存症」「壊れた人間関係」が描かれ、バーレスク やヴォードヴィル 、古いブロードウェイ・ミュージカル の様式が取り入れられた[ 29] 。
アルバムの収録曲についてユーリーは「俺達がデビュー・アルバムのために書いた曲はどれもうまくいった。たくさん曲を書いて、その中から良いものを選ぶということは考えていなかった。これまで書いた中で最高の曲をただ作らなければいけなかったんだ」と語っている[ 17] 。スクワイアは、新曲の作曲中にバンドが「アイデンティティ・クライシス」に陥っていたと回想している[ 17] 。バンドはロック調の楽曲を収録することを望んでいなかったが、ある日バンドをランチに連れ出したスクワイアが「アルバムのテーマとして創造的進化の話をしてみてはどうかな?」と伝え、バンドの同意を取り付けた[ 17] 。
ユーリーによれば、「アルバム全体における意欲的な性質」はバンドの「やりたいことをやりたい」という望みを表しているという[ 30] 。ユーリーは、アルバム全体に影響を与えたアーティストや楽曲についてビートルズ 、クイーン 、ザ・スミス 、ネーム・テイクン 、キーン の「エヴリバディーズ・チェンジング 」を挙げた[ 30] 。
作曲面ではチャック・パラニューク の作品から強く影響を受けており[ 31] 、「殉死と自殺の差は記事になるかならないか 」(原題: The Only Difference Between Martyrdom and Suicide Is Press Coverage )は1999年の小説『サバイバー 』からの引用で[ 32] 、「さあ踊ろう」(原題: Time to Dance )は同年の小説『インヴィジブル・モンスターズ 』が基になっている[ 33] 。本作の収録曲における長い曲名は、当時のポップ・パンク・シーンで長い曲名が採用されていることに気がついたバンドが、「さらに一歩踏み込んで、内輪のジョークとしてさらに長いタイトルを付けよう」と考えたことによるもの[ 17] 。また、「いつもエステバンを神に感謝」はバンドがユニークだと感じたエステバン・ギターズ社のインフォマーシャル への言及となっている[ 17] 。「神を創造し、僕達は話そう 」では、ブリッジでミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック 』のナンバー「私のお気に入り 」のパロディを行なっている[ 34] [ 35] [ 36] 。
評価
第三者による批評
『ビルボード 』誌は、発売から10年後の2015年に本作を「現代において最も世論を二分させているアルバムの1つ」と見なした[ 17] 。
『ピッチフォーク 』のコリー・D・バイロンは、アルバムにおける「誠実さ、創造性、独創性の欠如」を批判した[ 27] 。『オールミュージック 』のジョニー・ロフタスは「パニック!アット・ザ・ディスコはレコードを作ること(声明を出すこと)が好きなバンドのようだが、彼らのやり方にもおおげさに称賛された不愉快な作品の中にもユニークさは見受けられない」と批判した[ 37] 。
『ローリング・ストーン 』誌のローレン・ギットリンは3つ星半の評価を付け、「なぜパニック!アット・ザ・ディスコが他と違う(そして素晴らしい)のかといえば、アルバムの弱さを補うダンスフロア向けのシンセサイザーやドラムマシンを使用していることだ」と述べた[ 43] 。『CDJournal』は、エレクトロニカルでダンサブルな要素をフィーチャーしながらのポップ 、エモ・パンクは、懐かしくも新鮮、そして陰鬱なグラマラスさがまた刺激的に琴線をくすぐる と評した[ 35] 。音楽サイト『ギグワイズ 』も本作に対して肯定的に見ている[ 45] 。
各メディアが発表したリストでは、以下のようにランク付けされた。
年
雑誌
発行国
リスト
順位
注
2012
ロック・サウンド
イギリス
モダン・クラシックス101選 (101 Modern Classics )
16
[ 46]
2016
ケラング!
2000年代のベスト・ロック・アルバム50選 (The 50 Best Rock Albums of the 2000s )
35
[ 47]
ローリング・ストーン
アメリカ合衆国
史上最高のエモ・アルバム40選 (40 Greatest Emo Albums of All Time )
39
[ 48]
2023
Yardbarker
2000年代のベスト・ポップ・アルバム (The best pop albums of the 2000s )
15
[ 49]
受容とチャート成績
アルバム『フィーバーは止まらない』は、2005年10月15日付のBillboard 200 で初登場112位を記録し[ 50] 、以来88週にわたってチャートインし、2006年5月8日付のチャートで最高位13位を記録した[ 51] 。2015年9月時点でアメリカ国内での売上は200万枚を記録している[ 17] 。アメリカレコード協会 からは、2023年6月6日付でクワドラプル・プラチナ認定を受けた[ 52] 。
日本では2007年1月17日に発売され、オリコン 週間アルバムランキングで最高位20位を記録し、11週にわたってチャートインした[ 53] 。
再発売
本作の発売から1年後の2005年11月14日、アメリカ限定かつ25,000部限定のボックス・セット版が発売された[ 54] 。このボックス・セットには、7月22日にデンバーのフィルモア・シアター 公演でのライブ映像およびドキュメンタリーを収録したDVDのほか、仮面、新聞記事、ポスター、歌詞カード、ツアープログラムなどが付属した[ 54] 。
収録曲
CD
日本盤ボーナス・トラック # タイトル 作詞 作曲・編曲 時間 14. 「アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ〜いつわりのウェディング(ライヴ/デンヴァー・ヴァージョン)」(I Write Sins Not Tragedies (live in Denver)) 3:11 合計時間:
42:57
CD-EXTRA (日本盤)# タイトル 作詞 作曲・編曲 時間 1. 「アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ〜いつわりのウェディング」(ミュージック・ビデオ ) 3:06 2. 「君がやってくれた方がいいのに」(ミュージック・ビデオ) 3:36 3. 「嘘は女の子が服を脱がずに楽しめる最上の方法」(ミュージック・ビデオ) 3:16 合計時間:
9:58
LP
A面
開幕
殉死と自殺の差は記事になるかならないか
機械が書いたロンドンが招いたお金の歌
朝食には釘を、おやつには鋲を
夜間攻撃
さあ踊ろう
嘘は女の子が服を脱がずに楽しめる最上の方法
幕間
B面
君がやってくれた方がいいのに
アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ〜いつわりのウェディング
いつもエステバンを神に感謝
君が気づいていないだけでこのテーブルに番号があるのはいい意味がある
神を創造し、僕達は話そう
クレジット
※特記を除き、出典は『フィーバーは止まらない』のブックレット[ 1]
パニック!アット・ザ・ディスコ
外部ミュージシャン
ヘザー・ステッビンス – チェロ (M8, 10, 12, 13)
ウィリアム・ブラッサード – トランペット (M9, 12)
サマンサ・バインズ – ヴァイオリン (M10, 12)
制作
チャート
年間チャート
チャート (2006年)
順位
オーストラリア (ARIA)[ 73]
39
UK アルバムズ (OCC)[ 74]
88
US Billboard 200[ 75]
32
US Top Rock Albums (Billboard )[ 76]
4
認定
脚注
注釈
^ 2004年末頃に「さあ踊ろう」と「朝食には釘を、おやつには鋲を」の2曲が録音された[ 13] 。
^ ブックレットに記載のクレジットではパニック!アット・ザ・ディスコ 名義。
^ アルバムのブックレットに掲載されているクレジットでは、ベーシストとしてブレント・ウィルソンの名が表記されているが、スミスはウィルソンがレコーディングに不参加であったことと、ユーリーが代わりに演奏したことを明かしている[ 19] 。
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外部リンク
シングル プロモーション・シングル 楽曲 スタジオ・アルバム ライブ・アルバム コンピレーション・アルバム
Introducing... Panic at the Disco
Panic! at the Disco Video Catalog
関連人物 関連項目
カテゴリ