ヒュプネロトマキア・ポリフィリ![]() 『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』(ポリフィルス狂恋夢[1]、Hypnerotomachia Poliphili)は、1499年にヴェネツィアで出版されたイタリア・ルネサンスを代表する挿絵入りの本で、主人公ポリフィルスが夢の中で、不思議な動物や妖精などに出くわしながら、恋人ポーリアを探し求める物語である。『ポリフィロの夢』とも呼ばれる。「Hypnerotomachia」とはギリシャ語のhypnos(夢)+eros(恋)+mache(戦い)で、つまり、題名は「ポリフィーロの夢の中の恋の戦い」という意味になる。 印刷史初期の本としても有名だが、インキュナブラの中でもとくに名高い挿絵入りの本である。初期ルネサンス様式で描かれた緻密な木版画の挿絵を伴う、格調高いページ・レイアウトのデザインはグーテンベルク基準(Gutenberg canon)と較べられる。内容は、謎めいた不可思議なアレゴリーで、主人公ポリフィーロは夢のような景色の中でエロティックな幻想を追い求める。 作者『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』の初版は1499年12月に、アルドゥス・マヌティウスによってヴェネツィアで印刷された。作者は匿名だが、オリジナルの各章の最初にある、複雑に装飾された文字は折句になっていて、通して読むとイタリア語の「POLIAM FRATER FRANCISCVS COLVMNA PERAMAVIT(修道士フランチェスコ・コロンナは心からポーリアを愛する)」と読むことができ、そこから修道士のフランチェスコ・コロンナが作者だと解釈されている。しかし、研究者の中には、レオン・バッティスタ・アルベルティ、あるいはロレンツォ・デ・メディチを作者とする者もいる。ごく最近では、印刷者のアルドゥス・マヌティウス、あるいは同名異人のフランチェスコ・コロンナとする意見も現れた。挿絵画家についてはさらにはっきりせず、出版当時にはベネデット・ボルドンと考えられていた。1545年にはアルド印刷所から第二版が出版された[2]。 特徴『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』のテーマは、クアトロチェント(15世紀)の貴族たちに受けの良かった「宮廷の愛」、騎士道物語の伝統に沿ったものである。 ![]() 本文は奇怪なラテン語由来のイタリア語、ラテン語とギリシャ語を語源とする造語で書かれている。そこには何の説明もない。他にも、イタリア語が語源の語や、挿絵にはアラビア語やヘブライ語が使われている。作者は自分の使おうとした語が不正確な時にも新語を作った(古代エジプトの神聖文字をいくつか使っているが、それらは間違っている)。 物語の舞台は1467年で、主人公ポリフィーロ(ギリシャ語:Polú 「多くを」+Philos 「愛する者」)は恋人のポーリア(「多くのもの」という意味)を探して、牧歌的・古典的な夢の世界をさまよう。作者のスタイルは凝りに凝っている。 インキュナブラの中でもその美しさ、とくに、タイポグラフィの質と明瞭さは有名である。活字書体はフランチェスコ・グリッフォ(Francesco Griffo)の作で、1495年にアルドゥスがピエトロ・ベンボの『De Aetna』で最初に使ったことから、1928年にスタンリー・モリソンが復刻した時、「Bembo」という活字名になった。 テキストが熱を帯びて語るポリフィーロの冒険の場面、建築物を描いた168の美しい木版画の挿絵はこの本の見所である。殺風景であると同時に華麗であるライン・アート(Line art)の集大成と言えるものである。心理学者カール・グスタフ・ユングはこの本を賞賛したが、この本の夢のイメージはユングの「元型」理論を予言するものだと言われている。木版画挿絵のスタイルは、オーブリー・ビアズリー、ウォルター・クレイン、ロバート・アニング・ベル(Robert Anning Bell)といった19世紀後期のイングランドのイラストレーターたちに影響を与えた。 空想的でありながら、古代建築や錬金術、植物学といった幅広い教養を背景に描かれており、当時の人にとって、古代異世界に関する一種の百科事典的存在でもあった[3]。 あらすじポリフィーロは眠れない夜を過ごしていた。原因は、恋人のポーリアが避けていたからである。ポリフィーロは荒涼とした森に運ばれ、道に迷う。ドラゴン、狼、乙女たち、さまざまな巨大建造物と遭遇しては逃げ、眠りに落ちる。目覚めると第2の夢(夢の中の夢)の中にいる。ポリフィーロはニンフたちに女王のところに連れて行かれる。そこでポリフィーロは、ポーリアへの愛を告白するよう言われ、そうする。それから二人のニンフに3つの門のあるところに案内される。ポリフィーロは3番目の門を選び、門をくぐると、そこで恋人を見つける。二人は婚約するためにニンフたちに寺院に連れて行かれる。その途中、二人の結婚を祝福する5つの勝利の行列と出会う。その後、二人は水夫長のキューピッドと共にはしけに乗って、キティラ島に連れて行かれる。そこでも二人の結婚を祝福する別の行列を見る。 物語は続いてポーリアの視点から、ポリフィーロのエロトマキア(erotomachia, 恋の戦い)を描写する。 本の1/5後に再びポリフィーロの視点から物語は語られる。ポーリアはポリフィーロを拒絶するが、キューピッドが幻となってポーリアの前に現れ、ポーリアを無理矢理ポリフィーロのところに戻させ、キスさせる。ポリフィーロは恋人の足下で死んだように気絶する。意識が戻ると、ヴィーナスが二人の愛を祝福し、最後に二人は結ばれる。ポリフィーロがポーリアを腕に抱こうとした時、ポーリアが跡形もなく消失する。そこでポリフィーロは夢から覚める。 ギャラリー言及と引用
日本語訳
参考文献
脚注
外部リンク1449年のオリジナル版に関して
1592年の英訳版に関して
フランス版に関して
背景ならびに解釈に関して
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