デイヴィ・ジョーンズの監獄 ジャンル 航海民話 種類 海底 または溺死した船乗りが眠る場所に対する婉曲法
デイヴィ・ジョーンズ(1832年にジョージ・クルックシャンク が、トバイアス・スモレットの小説につけた挿絵)[ 1]
デイヴィ・ジョーンズの監獄 (Davy Jones' Locker )とは、海底 の呼び名の一つで、溺れた船乗りの死や船の沈没 を表す慣用句 。[ 2] 水死人や沈没船を婉曲的に表現したもので、船乗りや船が海の底にとどめられている、「デイヴィ・ジョーンズの監獄に送られた」と言い表す。[ 3]
デイヴィ・ジョーンズとは船乗りの間で信じられている悪魔 [ 2] のことで、19世紀の辞書には「ヨナ の亡霊」[ 4] と記述されていたようである(ヨナは旧約聖書 に出てくる預言者 。神 に逆らい、海に放り込まれて魚に飲まれた)。他にも過去に存在した不器用な船乗りや、船乗りを誘拐したパブの店主が由来だとする説もある。
歴史
デイヴィ・ジョーンズが出てくる作品の中で最も古いものはダニエル・デフォー の『Four Years Voyages of Capt. George Roberts 』(1726年)という作品である。
ルー商会からやってきた者たちは、もし立ち去るならばいくつか物をみつくろって渡してやろう、と言った。しかしラフェルは、そんなことはするな、そんなことをしたらそれらを全部デイヴィ・ジョーンズの監獄に放り込んでやる、と言った。
— ダニエル・デフォー[ 5]
トバイアス・スモレット が1752年に書いた『The Adventures of Peregrine Pickle 』[ 4] にもデイヴィ・ジョーンズの記述がある。
船乗りたちによると、このデイヴィ・ジョーンズというのは深海の悪霊を統べる魔神であり、様々な姿かたちを取って
ハリケーンの前夜に船の帆に座っている という。そして可哀想な船乗りたちに死と災難に呪われたことを、難破などのあらゆる災難に見舞われるだろうことを告げるのである。
— トバイアス・スモレット[ 4]
この小説ではデイヴィ・ジョーンズは皿のような眼と三列の歯を持ち、角としっぽが生え、鼻から青い煙を出すとされている。
推測される起源
「デイヴィ・ジョーンズ」の言い伝えがどこで生まれたのかははっきりしておらず、以下のように多くの推測[ 2] や言い伝え[ 6] がなされている。
『Dictionary of Phrase and Fable 』(1898年)という辞書では、デイヴィ・ジョーンズは西インド諸島 カリブ海 の「duppy(duffy)」や、旧約聖書に出てくるヨナに関連するとされている。
「彼はデイヴィ・ジョーンズの監獄に送られた」というのはすなわち、彼が死んだことを意味する。ジョーンズはヨナという呼び名が変化したもので、ヨナとは海に投げ込まれた預言者のことである。「監獄(locker)」は船乗りの間では私物置き場を指す。「duffy」とは、
西インド諸島 の
黒人 の間で信じられている
幽霊 や
魂魄 のことである。だから冒頭の文章を詳しく言うと、「彼は安らかなる場所に向かったのだ、かつて幽霊やヨナが向かった場所へ」となる。
— E・コブハム・ブルーワー (英語版 ) [ 4]
デイヴィ・ジョーンズという、1630年代にインド洋 で活動していたそれほど有名ではない実在の海賊から来ているという説がある。[ 7]
ダファー・ジョーンズ(duffer=うすのろ)という、しょっちゅう海に落っこちることで有名だった近眼の船乗りから来ているという説がある。[ 8]
イギリス のパブ の店主の名から来ているという説がある。彼は酔っぱらった船乗りをエール 倉庫に閉じ込め、通りかかる船に売り渡していたとされる。[ 6]
言語学者は、「デイヴィ」はウェールズ の船乗りたちが加護を祈る聖人デイヴィッド に由来し、「ジョーンズ」は聖人ヨナに由来すると考えている。[ 9]
評判
アメリカ海軍 の原子力潜水艦 トライトン で行われた赤道祭 。黄色いケープを羽織りラバーカップを笏がわりに持っているのがデイヴィ・ジョーンズ。(1960年)
全ての言い伝えがデイヴィ・ジョーンズを恐ろしいものだとしているわけではない。船乗りの間で行われる赤道祭 では、赤道を越えた経験のある者(ネプチューンの息子たちと呼ばれる)が儀式を執り行う。最年長の船乗りがネプチューン王を演じ、その第一の従者としてデイヴィ・ジョーンズが演じられる。[ 10]
メディアにおける使用
19世紀
ワシントン・アーヴィング は1824年に『Adventures of the Black Fisherman 』という作品でデイヴィ・ジョーンズに言及している。
彼は言った、彼は嵐の中から来たと、そして嵐の中へ去ると。夜にやってきて、夜に去ると。誰も知らない場所から来て、誰も知らない場所へ去ると。私は知っている、彼が海に沈む宝箱の元へ戻り、再び上陸して地球の裏側の誰かを脅かすだろうことを。彼は付け加えた。彼がデイヴィ・ジョーンズの元へ行ったことは悔やんでも悔やみきれないと。
— ワシントン・アーヴィング[ 11]
エドガー・アラン・ポー の『King Pest 』(1835年)という作品では、ターポーリン(古語で「船乗り」を指す)というアンチヒーローが軽蔑の口調でデイヴィ・ジョーンズについて語っている。ペスト王が「この世のものとは思えない、その王」「その者の名は、死だ」と話すのに対し、ターポーリンは「それはデイヴィ・ジョーンズのことだろう!」と答えるのである。[ 12]
ハーマン・メルヴィル は『白鯨 』(1851年)において以下のようにデイヴィ・ジョーンズについて言及している。
若きナット・スウェーンは、かつて
ナンタケット と
マーサズ・ヴィニヤード 両地域で敵うものがないほど勇敢な捕鯨船の船頭であった。彼は会合に加わったがそれは良い結果をもたらさなかった。自分の感情が厄介を引き起こすことを恐れ、彼は委縮し、捕鯨から遠ざかってしまった。上手く事が済んだと思ったらとんでもなくて、猪突猛進してしまい、デイヴィ・ジョーンズの元へ向かってしまうことを恐れたのである。
— ハーマン・メルヴィル[ 13]
チャールズ・ディケンズ の『荒涼館 』(1852年-1853年)では、バジャー夫人が前夫の仕事観を説明する際、デイヴィ・ジョーンズが恐るべき眼力を持つと表現している。
「スウォッサー船長の座右の銘でした」、とバジャー夫人は言った。「海軍仕込みの比喩の多いしゃべり方で言うのです。モップ掛けの際にデイヴィ・ジョーンズが後ろで見張ってると思って磨くのと同じように、松脂を温める時は(よく注意して)温め過ぎてはいけない、と。」
— チャールズ・ディケンズ[ 14]
ロバート・ルイス・スティーヴンソン の『宝島 』(1883年)では、「デイヴィ・ジョーンズの名にかけて」などのフレーズでその名が3回登場している。[ 15] [ 16]
20世紀
デイヴィ・ジョーンズに言及している、第二次世界大戦 時下のポスター。[ n 1] 「lubber」とは不器用で不注意な船乗りのこと。そういう船乗りはデイヴィ・ジョーンズと共に暮らすはめになる、と右下の絵で警告している。
ジェームス・マシュー・バリー の『ピーター・パン 』(1904年に戯曲、1911年に小説が発表された)では、フック船長 が以下の歌を歌う。
ヨー、ホー、ヨー、ホー、海賊暮らし
しゃれこうべと骨の旗
楽しく過ごして、絞首刑
(そうしたら)こんちは、デイヴィ・ジョーンズ
— ジェームス・マシュー・バリー[ 17]
現代にも伝わるアメリカ海軍 の『錨を上げて 』という歌では、1920年代に付け加えられた歌詞の中にデイヴィ・ジョーンズが出てくる。
立ち上がれ、海軍よ、海へと向かえ
雄たけびをあげて、戦いに挑め
決して、針路を変えることなく
邪悪なる敵さえ、どよめくだろう
爆薬を転がし、錨を上げよ
勝利へと漕ぎ出そう、奴らの骨を
デイヴィ・ジョーンズの元へ沈めよ、さあ!
錨を上げよ、仲間たちよ
錨を上げよ、さらば、異国の浜へ
日の出とともに、漕ぎ出そう
別れの前夜を、浜で過ごし
波立つ泡を眺め、飲み交わそう
もう一度、生きて会う日まで
お前の無事な、家路を祈ろう
— [ 18]
20世紀の音楽では、デイヴィ・ジョーンズはポール・マッカートニー の『Morse Moose and the Grey Goose 』(アルバム『ロンドン・タウン 』に収録)や、ビースティ・ボーイズ の『'Rhymin and Stealin'』という曲に登場する。
イギリス ・ロンドン ・コヴェントガーデン のタンタンショップ
漫画『タンタンの冒険 』では登場人物であるハドック船長がデイヴィ・ジョーンズの名を時おり口にする。『なぞのユニコーン号』という作品の17ページ目では、自分の先祖であるフランソワ・ド・アドック卿のことをタンタンに説明する際、海賊 が赤い旗を掲げた様子をこう語っている。「真っ赤な三角旗だ!… 慈悲など微塵もない!… 狙いを付けられたら、戦意など喪失してしまう。わかるかい? 砲撃されでもしたら一人残らずデイヴィ・ジョーンズの監獄行きだ!」
ジェネシス の『Dodo/Lurker 』(1981年のアルバム『アバカブ 』に収録)の6番にはこんな歌詞がある。「海ほどに深い愛の夢を見れば、彼はどこに行くのか? 一体何をするのか? デイヴィ・ジョーンズとセイレーンたちが彼を海の底までさらっていくのだろうか?」
アイアン・メイデン の『Run Silent Run Deep 』(潜水艦の交戦を描く)には以下の歌詞がある。「救命ボートは壊れ、船体はバラバラだ。燃料が燃えていて、嫌な焦げた臭いがする。デイヴィ・ジョーンズの元へ、沈んでいく。ひとりでに誰もが? たった一人きりで…」
バンドクラッチ (バンド) の『Big News I 』という曲は、逆再生すると「彼らの骨、骨、乾いた、乾ききった骨。デイヴィ・ジョーンズの監獄に沈んでくる」という歌詞が聞こえる。[ 19]
1960年代にアメリカで放映されたコメディードラマ『ザ・モンキーズ (テレビドラマ) 』の「海賊をやっつけろ」という回では、バンドモンキーズ のボーカルであるデイビー・ジョーンズ が船で誘拐されるデイヴィ・ジョーンズという名の役を演じ、「本物の」(海の底の死者の王である)デイヴィ・ジョーンズは自分の祖父だと言い張ることによって特別待遇を受けるシーンがあった。そうこうしているうちに彼のバンドメンバーたちも誘拐され、ドタバタ喜劇が続いていく。
『ページマスター 』(1994年)という映画では、パトリック・スチュワート 演じるアドベンチャーとマコーレー・カルキン 演じるリチャード・タイラーが船で遭難した際、リチャード・タイラーが他の登場人物の安否を尋ねると、アドベンチャーが悲しげに「残念だが彼らはデイヴィ・ジョーンズの元へ沈んでいった」というシーンがある。
ティアーズ・フォー・フィアーズ の『キングス・オブ・スペイン 』(1995年)というアルバムの「Don't Drink the Water 」という曲には、「君が泳ぐのを見ていた。墓場へと沈むのを。デイヴィ・ジョーンズの監獄へと。波の奥底へと…」という歌詞がある。
21世紀
ノルウェン・ルロワ
映画シリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン 』では、デイヴィ・ジョーンズはフライング・ダッチマン の伝承と融合して登場する。デイヴィ・ジョーンズの監獄は死者が課せられる苦行の一つとされ、デイヴィ・ジョーンズは水死人をあの世へ送り届ける任務を負った船長であり、恋人である海の女神カリュプソー に裏切られた怒りから任務を放棄した設定になっている。
ここに出てくるデイヴィ・ジョーンズとカリプソは、独立した中編小説『Davy Jones & the Heart of Darkness 』が元となっている。デイヴィ・ジョーンズは冥界 の河の渡し守であるカローン と共に地獄 で訓練をしているとされる。[ 20]
ゲーム『バンジョーとカズーイの大冒険2 』では、「ジョリーのリゾート」というステージの海の底にロッカー (鍵のかけられる戸棚)が散乱してるマップがあり、その中に「D・ジョーンズ」と書かれたロッカーを見つけることが出来る(Davy Jones' Locker のパロディ)。このロッカーの扉を壊すことでステージボスのマップへ行くことが出来る。
テレビアニメの『スポンジ・ボブ 』では、海の底に本物のロッカーがあり、前述のバンド「モンキーズ」のボーカルであるデイビー・ジョーンズが運動靴下を入れているという設定がある。[ 21]
GPSを利用した宝探しゲームであるジオキャッシング でも、デイヴィ・ジョーンズの監獄にちなんだ設定がある。[ 22]
マシュー・パール の『The Last Dickens 』という小説では、大西洋 横断定期船であるサマリア号の船長が、ヘルマン・ザ・パーシーという人物は「デイヴィ・ジョーンズの監獄で静かに眠っているだろう」、すなわち「既に溺死して海の底に沈んでいるに違いない」と考える。この小説ではディケンズ風の内容とともに、船乗りたちの使う専門用語が繰り返される。
フランスのシンガーソングライターであるノルウェン・ルロワ は2012年のアルバム『Ô Filles de l'Eau 』で、まさに「Davy Jones 」という曲を出している。「デイヴィ・ジョーンズ、あぁデイヴィ・ジョーンズ。どこに骨が眠るだろう。青い海の深い水底。青い海の深い水底…」という歌詞がある。
注
^ Caption: Oh learn a lesson from Joe Gotch - Without a lifebelt he stood watch - "Abandon ship" came over the phones - He now resides with Davey Jones
参考文献
^ However, presented here character is a fake, created by Pipes, Perry and Pickle to scare Mr. Trunnion; see: Smollett, Tobias (1751). The Adventures of Peregrine Pickle . London: D. Wilson. p. 66
^ a b c Farmer, John S; Henley, William Ernest (1927). A Dictionary of slang and Colloquial English . pp. 128–129. https://books.google.co.jp/books?id=lUYVAAAAIAAJ&pg=PA129&redir_esc=y&hl=ja
^ Farmer, John Stephen; Henley, W. E. (1891). Slang and its analogues past and present: A dictionary ... with synonyms in English, French ... etc. . Harrison & Sons. p. 258. https://books.google.co.jp/books?id=a6NBAAAAYAAJ&pg=PA258&redir_esc=y&hl=ja 16 January 2013 閲覧。
^ a b c d Brewer, E. Cobham (1898年1月1日). “Davy Jones’s Locker. ”. Dictionary of Phrase and Fable . 2006年4月30日 閲覧。
^ Defoe, Daniel (1726). The four years voyages of capt. George Roberts. Written by himself . p. 89. https://books.google.co.jp/books?id=OWsBAAAAQAAJ&pg=PA89&redir_esc=y&hl=ja
^ a b Michael Quinion (1999年). “World Wide Words ”. 15 January 2013 閲覧。
^ Rogoziński, Jan (1997-01-01). The Wordsworth Dictionary of Pirates . Hertfordshire. ISBN 1-85326-384-2
^ Shay, Frank. A Sailor's Treasury . Norton. ASIN B0007DNHZ0
^ “August 22, 2014 Word of the Day: Davy Jones's Locker ”. 23 August 2014 閲覧。
^ Connell, Royal W; Mack, William P (2004-08-01). Naval Ceremonies, Customs, and Traditions . pp. 76–79. ISBN 9781557503305 . https://books.google.pl/books?id=wvKiBiWKrzMC&lpg=PA79&dq=davy%20jones&pg=PA76#v=onepage&q=davy%20jones&f=false
^ Irving, Washington. “Adventure of the Black Fisherman ”. Free Online Library. 2010年3月17日 閲覧。
^ Poe, Edgar Allan (1835) "s:King Pest "
^ Melville, Herman (1851) s:Moby-Dick/Chapter 18
^ The Oxford Illustrated Dickens, page 229.
^ Stevenson, Robert Louis (1883) s:Treasure Island/Chapter 22
^ Stevenson, Robert Louis (1883) s:Treasure Island/Chapter 20
^ Barrie, J. M. (1904 and 1911) s:Peter and Wendy/Chapter 15
^ George Lottman (2007年). “The US Navy ”. The US Navy. 2008年2月28日 閲覧。
^ “Clutch Lyrics ”. 2 February 2013 閲覧。
^ Montalbano, Dave/ Galvin, Rachel (Illustrator) 2013, ©2013
English Book : Mixed form viii, 140 pages : illustrations ; 23 cm
ISBN: 9780989513401 (paperback) 0989513408 (paperback)
^ “Davy Jones' Locker ”. 2010年3月17日 閲覧。 [リンク切れ ]
^ “Geocaching: GC5DJ07 ”. 2014年10月1日 閲覧。