セルマサウルス
セルマサウルス(学名: Selmasaurus)は、モササウルス科に属する絶滅した海生爬虫類の属。アンゴラサウルスやプラテカルプスなどの属とともにプリオプラテカルプス亜科に分類される。S. russelli と S. johnsoni の2種が知られており、両者とも専らアメリカ合衆国のサントニアンの堆積層から産出している。 セルマサウルスはモササウルス科には珍しく頭骨の可動性が低く、顎を広げて大型の獲物を吸い込むことが不可能であり、この点で特異的である。大半のモササウルス科爬虫類の頭骨には方形骨が前後に動く機構と吻部の関節が存在し (coupled kinesis)、顎の一部が広く開いて大型の獲物を収められるようになっている。 記載セルマサウルスは全長3 - 5メートルの小型なモササウルス科の捕食動物であった。モササウルス科にしては歯の本数は比較的少なく、発見当初は最も歯の本数が少ない属であった[1]。プリオプラテカルプス亜科のモササウルス科として分類され、Polcyn and Everhart (2008) で提唱された以下に列挙する特徴によりプリオプラテカルプス亜科の他の属から区別される[2]。
発見の歴史セルマサウルスは地質学者サミュエル・ウェイン・シャノンの1975年に執筆した修士論文 "Selected Alabama Mosasaurs" で初めて記載され、長らく裸名とされていたが、1988年に共執筆者ライトにより公式に記載された[3]。タイプ標本はかつてアラバマ州地質調査所が所蔵し GSATC 221 としてカテゴライズされ、2005年にアラバマ州自然史博物館へ移された。本属のホロタイプは、非常に保存が良好であるが不完全で関節していない頭骨、環椎の左の神経弓、環椎の椎体、頚椎に由来する単一の神経弓からなる。保存された頭骨要素には前頭骨、頭頂骨、左の外翼状骨、左の頬骨、上側頭骨、基後頭骨と蝶形骨底部、および方形骨が含まれる。本種は古生物学者デイル・ラッセルのモササウルス科に関する業績にちなみ、彼の名誉を称えて命名された。S. russelli のホロタイプにして唯一知られている標本はアラバマ州西部から産出したが、具体的な産地は不明であった。数十年間は標本が発見された正確な層位は不明なままだったが、1998年に Caitlín R. Kiernan が頭蓋底の基部の溝からチョーク質の母岩を抽出し、炭酸カルシウムの微小プランクトンにより GSATC 221 がセルマ層群 Moorevile Chalk 累層に属する未命名の下部カンパニアンの部層に由来することが示唆されているとした。彼女によるアラバマ州のモササウルス科爬虫類生層位学研究では S. russelli はクリダステスの一種とされた。この標本は Acme ゾーンの動物相において最も希少な要素であったが、1つの標本で当バイオゾーンの群集の0.3%を占めた[4]。 保存状態が極めて良好でほぼ完全なセルマサウルスの頭骨と頭骨以降の骨格が、カンザス州西部ニオブララチョークのニオブララ累層のサントニアンあるいはカンパニアンにあたる海成層で、スティーブ・ジョンソンと彼の家族により1996年に発見された。2001年にカンザス州ヘイズのスタンバーグ自然史博物館に所蔵され、Polcyn と Everhart による10年を超える研究の末に2008年にセルマサウルスの新種と断定された[2]。発見後 S. johnsoni と命名されたこの頭骨は最も完全なモササウルス科の頭骨の1つであり、セルマサウルスの新たな解剖学的情報をもたらし、プリオプラテカルプス亜科のグループ内での関係性の理解を深めた。本属の地理的・時間的な生息範囲も拡大され、プリオプラテカルプス亜科の遥かな多様性が記載された。ホロタイプにして唯一知られている標本はスタンバーグ自然史博物館に所蔵され、FHSM-VP-13910 というカタログナンバーがつけられた。 分類ライトとシャノンはセルマサウルスをモササウルス科プリオプラテカルプス亜科に分類した。この分類群はプラテカルプスやプリオプラテカルプスおよびエクテノサウルスといった属を含み、頭蓋底を通る循環系の形態に大きく基づいている。本属はエクテノサウルスに最も近縁である可能性があるが、頭骨はエクテノサウルスよりも遥かに短く頑強だった。Selmasaurus russelli に関する理解を拡張するためには新たな標本の発見が望まれる。 以下のクラドグラムは2011年に小西卓哉と Michael W. Caldwell が行ったプリオプラテカルプス亜科の系統解析に従う[5]。
出典
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